昭和庶民伝3部作の第2弾として1987年に初演を迎えた悲喜劇 松下洸平と浅利陽介が挑む『闇に咲く花』

昭和庶民伝3部作の第2弾として1987年に初演を迎えた悲喜劇 松下洸平と浅利陽介が挑む『闇に咲く花』

 『闇に咲く花』の舞台は1947年、空襲で焼け落ち、廃屋になりつつある愛敬稲荷神社。戦後復興のままならない頃、庶民から見た日本、戦争責任、そして記憶をめぐって展開する悲喜劇だ。本作は昭和庶民伝3部作の第2弾として1987年に初演を迎え、89年、99年、01年、08年、12年と再演を重ねてきた。今回挑むのは、初演された1987年生まれの松下洸平と浅利陽介。


松下「演出の栗山民也さんが、井上ひさしさんの本の中で一番好きな本だとお話しされていました。大切にされている作品に呼んでいただけることが何より嬉しいです。僕は井上さんの書かれた本を演じるのは初めてなのですが、過去に出演した『木の上の軍隊』や『母と暮せば』を通じて、井上さんが訴えたいことの多くは、戦争に対する怒りなのではと感じています。この作品は庶民の物語で、登場する人物たちはごく普通の人たち。普通に生活している人々にとっての戦争の悲惨さを伝えていかなければいけない。戦争を知らない僕らにとってそこが一番難しいところですが、想像して、頑張りたいと思います」

浅利「出演を決めたのは、第一に本がとても面白かったからです。僕は落語をやるんですが、落語に似たような空気感や匂いを感じました。今僕たちが生きている時代にはない、朗らかさというか、大きさというか、強さというか、そういうのがいいなと思ったんですよね。それにこの作品の世界観を伝える上で、劇場は大切な要素だと思うんですが、お客様との距離が近いサザンシアターというのもいいなと。今年の僕のテーマである『ダイレクトに伝えること』ができる気がします。丁寧に作っていきたいですね」

―――松下と浅利は意外にも舞台初共演。同年代の俳優があまり周りにいないらしく、互いに親近感を感じるという。

松下「一度同じドラマに出演していたことがあるんですが、役柄で絡みはなくて。浅利さんが出演されているドラマや映画を拝見していて、放たれるエネルギーは唯一無二で、一本筋の通った方だなと感じていました。稽古では、きっと、助けていただくことが多いと思います」

浅利「同じ1987年生まれで、同じ俳優という仕事をしているというだけで親近感が湧きます。俳優のみならず、バラエティ番組に出演したり、歌を歌ったり、幅広い活動をしていますよね。すげぇな、羨ましいな、俺もやってみたいなと刺激をもらっています」

―――最後に観客へのメッセージを尋ねると。

浅利「普段あまり演劇を観ない若い方もいると思うんです。でもドラマなどで僕を知ってくれている方だったり、洸平くんのファンだったりが『テレビで観ている人が生で観られるらしいよ』と劇場に来て、作品を観終わった後に『昭和ってこんな時代だったんだ…..』と思ってくれて、インパクトを残せたらいいですよね。今も世界の至るところで戦争が起こっていますけど、想像つかないこともたくさんある。『日本にも(こういう)時代があったんだ』とか『自分たちもこうなるかもしれないね』とか何か考えるタイミングになったらいいな。一方で、笑えるシーンはしっかり笑ってもらえるように作りたいと思うので、ぜひ劇場で楽しんでもらえればいいなと思っています」

松下「本当、可笑しいんですよ、みんなのセリフが。さすが井上ひさしさんだなと思います。台本を読んでいるだけでも『これを山にい(※山西惇さん)が言うのか……』と想像して笑ってしまうんですけど、その笑いの中に悲しみを抱えている人たちがたくさんいて。その悲しみを決して悲しいだけではもちろん終わらせないし、難しい話もたくさん出てきますけど、演劇というものの面白さを感じてもらえると思うんです。観ている間はたくさん笑っていただける作品になると思うし、そうしたいなと思う。これを機に『お芝居面白いな、他も観に行ってみようかな』と思ってくれる人が1人でも増えればいいな。どうぞ笑いに劇場に来てほしいです」

(取材・文:五月女菜穂 撮影:岩田えり)

母の日・父の日とありますが、両親問わず、家族に感謝したいことはありますか?

松下洸平さん
「どんな好奇心にも、最後には受け入れて『やってみたら?』と言ってくれた家族に感謝しています。これまで美術や音楽、芝居と色々なものになりたがった僕を支えてくれたのは紛れもなく家族でしたし、その分心配もかけてきました。支えてもらった分の恩返しが出来たらと思っています」

浅利陽介さん
「子は鎹と言いますが、お陰で夫婦に限らず家族が円満になっていると感じます。先日、衣裳合わせの時間が早かったので初めて子供を伴って仕事に行きました。朝は車酔いするのをすっかり忘れており、車内で……。着くなりマネージャーに手伝ってもらい何とか間に合いました。帰宅し家事をしていたとき子供の泣く声がしたので様子を見に行くと、大きなスライムが髪の毛に絡まってへばり付いて……焦って髪の毛を切って対処しましたが、シャンプーとお湯で落ちると知り罪悪感を覚えました。子育てをしていると日々事件に遭遇しますが、その度に自分の子供時代と親のことを考えて尊敬と感謝を覚えました。両親に子供の話をすると『あなたの時はね~』と家族団欒の時間を過ごしています」

プロフィール

松下洸平(まつした・こうへい)
1987年3月6日生まれ、東京都出身。2008年、CD デビュー。2009年に俳優として活動を開始。2018年、舞台『母と暮せば』、『スリル・ミー』の演技で、第26回読売演劇大賞 杉村春子賞・優秀男優賞受賞、第73回文化庁芸術祭 演劇部門 新人賞受賞。最近の主な出演作は、映画『燃えよ剣』、『アイ・アム まきもと』、ドラマ『最愛』、『やんごとなき一族』、『アトムの童』など。4月期『合理的にあり得ない』(カンテレ・フジテレビ系)出演中。

浅利陽介(あさり・ようすけ)
1987年8月14日生まれ、東京都出身。4歳でCMデビュー。幼少より、舞台・ドラマ・映画等で活躍。シリアスからコミカル、硬派な役まで幅広い役柄をこなす実力派俳優として多くの作品に出演。2001年、『キッズ・ウォー3 〜ざけんなよ〜』で不良少年の一平役で出演し注目される。以後、『新選組!』、『ROOKIES』、『コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-』シリーズ、『相棒』シリーズなど、人気ドラマに多数出演。近年の舞台出演作は、『冬のライオン』、音楽劇『歌妖曲〜中川大志之丞変化〜』など。

公演情報

こまつ座 第147回公演『闇に咲く花』

日:2023年8月4日(金)~30日(水) ※他、地方公演あり
場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
料:10,000円 学生割引7,000円 ※こまつ座のみ取扱(全席指定・税込)
HP:http://www.komatsuza.co.jp/
問:こまつ座 tel.03-3862-5941

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