女の子たちの青春と大人たちの苦悩を丁寧に描き出したい 少年少女も、かつて少年少女だった大人たちも共感できるパワーを持つ名作

女の子たちの青春と大人たちの苦悩を丁寧に描き出したい 少年少女も、かつて少年少女だった大人たちも共感できるパワーを持つ名作

 1997年、永井愛(二兎社)が青年座に書き下ろした『見よ、飛行機の高く飛べるを』。明治時代を生きる少女たちが“新しい女性の生き方”を模索し、自分たちの生き方を切り拓こうとした青春群像劇は、色褪せない名作として多くの劇団で上演されており、ことのはboxでも4回目の上演となる。
 演出の酒井菜月、優等生・光島延ぶ役の清水麻璃亜、杉坂初江役の石森咲妃に、本作の魅力や楽しみなことを伺った。

―――本作は、ことのはboxさんでは4回目の上演となります。今回のキャスティングについて、酒井さんにお伺いしたいです

酒井「今回はオファーとオーディションでキャストを決めています。この作品で描きたいのは、女の子のキラキラした感じや刹那的な青春の輝き。それらを表現してくれそうな方を選んでいます。これまでの公演で足りない部分があったから埋められる人を、というわけではなく、毎公演“キラキラした強い女の子”に合致しそうな方を集めていますね」

―――清水さんと石森さんはオファーを受けてどう感じましたか?

清水「ことのはboxさんとご一緒させていただくのは初めてなので、まずは知ってくださっていたことが嬉しかったです。身が引き締まるというか、女優としてスタートしていく気持ちを新たにしました。作品紹介で自分の名前が1番上になるのも背筋が伸びます。
 台本を読んで、青春時代の女の子が強く生きていく作品だと感じました。私自身女子校出身ですし、10年間のアイドル活動もしていて、女の子の中で生きてきた時間がすごく長い。お芝居でまた新しい青春が送れたらいいなとワクワクしています」

石森「私は以前、この作品に1年生役で出演したことがあります。今回は物語を引っ張っていく立場の役をいただいたのがプレッシャーでもあり楽しみでもあって、”絶対やりたい”と思いました。改めて台本を読んでみると『こうしようかな』、『こう演じてみようかな』と想像する部分がたくさんあって、気合が入っています」

―――2015年、2018年、2019年に続く上演です。初演から今まで、お客さんの反応などで変化した部分などはありますか?

酒井「いつ・どの演目に関しても、女の子たちの強さやキラキラがありますが、実はそれは閉鎖された空間の中で起きていることで、世の情勢はそうじゃない。ある種カゴの中の鳥の話で、外の世界を知っている人たちから『お前達は何もわかっていないんじゃないか』と言われることもあるお話です。
 それでも前を向いていく力強さや、青春といったものが観ている方に刺さるのは、普遍性があるからだと感じます。今までの3回の上演で、お客様の反応やおそらく心に残ってくださるものは変わらない。それはこの戯曲の強さ・素晴らしさだと感じます。
 でも、毎回同じことを繰り返しているわけではありません。物語が終わった後の延ぶと初江の関係性みたいな部分は変わっていて、それは多分、私個人の変化だと思います。私が初めてこの作品を演出したのは20代後半の頃で、『仲良くあってほしいのに別れてしまった、それでも2人はお互いの幸せを願っている』ことに対するセンチメンタルを感じました。歳を重ねるにつれて、2人の関係性や思いを尊いと感じる力が強くなっているんです。
 今回に関しては私が子供を出産し、今1歳になります。それによって2人の分かれ道に対する思いがまた変わるんじゃないかと思います。あとは、再演しなかった5年間で、子供達のキラキラももちろん見せたいけど、大人の苦悩みたいなところにも力を入れたいという思いが強くなりました」

―――演じる役について、おふたりはどう感じましたか?

清水「ずっと出ているなとびっくりして、しっかり読んでみたら、やっぱりずっと出ていました」

一同「(笑)」

清水「普段は使わない・聞かない言葉遣いが新鮮に感じたのと、時代背景や感覚が今と全然違うので、時代や当時の女性についてしっかり勉強して挑まないといけないと思いました。服装も袴で所作なども今とは違うので、勉強することは多いですが、逆に当時の女の子になれる気がしてワクワクしています」

石森「改めて台本を読んで、初江は登場人物の中で1番自分の言いたいことや信じているものがはっきりしている子だと思いました。”強さ”という印象が1番強いけど、周りはいいところのお嬢さんが多い中、初江は農民の出で、見たくないことも周りの子より見てきていると思うんです。その中で『女として自立するべきだ』という信念を持った彼女のバックグラウンドや感情が見えるようになり、愛おしいなと感じています」

―――ちなみに、役とご自身に共通点や共感できる点はありますか?

清水「ないです!」

一同「(笑)」

清水「優等生じゃなかったので、そこに共感はできないけど、優等生になれるのはすごく嬉しいです(笑)。女の子の中で生きてきたという点は共感しますね。延ぶは自分の意思を周りに発信して周りを巻き込んでいける子。私はその強さをまだ持てていないので、尊敬するというか羨ましく思っています。作中でみんなが優等生の延ぶに憧れてついていくような気持ちがありますが、私も今、延ぶに対してそういう気持ちを抱いています。共感というよりは憧れですね」

石森「清水さんへの共感ですが、私も女子校出身です」

酒井「私も!」

石森「だから女の子特有の空気感はすごくわかると思いました。
 ただ初江はその輪から外れて1人で新聞を読んで笑っているような子。自分の好きなことに突き進める強さはカッコいいし憧れを感じます。でも、初江が延ぶと出会って『私たち親友ね』と言われて『あなたみたいな人にそんなこと言ってもらえるなんて……』となるシーンは共感します。私もこの世界に飛び込んで、今まで見ていたすごい役者さんたちと共演する機会があると『私なんかと話していただいて……』みたいな気持ちになるので」

酒井「すごくピンポイント(笑)」

―――カンパニーのチーム感、雰囲気作りのためにどんなことをしようと考えていますか?

清水・石森「どうしましょう?」

酒井「そうだよね、Wリーダーだから」

清水「私、最近ボウリングにハマっているんです。一緒にやりませんか?」

石森「私めちゃくちゃ下手なので教えてください」

清水「私も下手です(笑)。でも先日、1回だけ奇跡的なハイスコアを出せたんですよ。それで調子に乗って別の日に行ったらそんなスコアは出なかった」

酒井「じゃあみんなでボウリングに行きますか(笑)」

清水「決まりました!」

酒井「多分そういうことじゃなかったと思うけど、清水さんが面白いことに私はすごくワクワクしています(笑)」

―――酒井さんから見たおふたりの印象はいかがでしょう。

酒井「清水さんの経歴を見て優等生タイプだと思っていたんです。でも本人がそうじゃないと言うし、ビジュアル撮影の時に色々お喋りしたら意外と独特な感性やちょっと抜けた普通さもある。すごく愛らしくて、もっとお話ししたいと思いました。もうちょっとつついたらもっと変な部分が出てくるんじゃないかと楽しみにしています。
 石森さんとの話をすると長くなりますが、彼女が大学在学中にこの作品の下級生役をしてもらって。北川操というすごく引っ込み思案でおとなしいけど最後に強さを見せる役でした。その子が初江を演じるというのも尊いなと思います。そこから何度も、ことのはboxの作品に出演していただいて今回が6作目。一緒にいて気持ちがいいしお芝居に真面目で、すごく好きな役者さんです」

―――学生たちも大人も個性豊かですが、特にお気に入りのキャラクターはいますか?

石森「私は安達先生がすごく好きです。初めてこの作品に出演した時の印象が強いんですが、安達先生を演じていた新田(えみ)さんがすごくカッコよくて。起承転結の“転”のシーンの迫力に、舞台上でヒリヒリするってこういうことなんだと感じました」

酒井「大丈夫? 今回演じる篠田(美沙子)さんにプレッシャーかけてる(笑)」

清水「そうですよね(笑)」

石森「そんなつもりでは! あんまり使わないでください(笑)。安達先生がカッコいいってことを伝えたかったんです」

酒井「この作品は芸術系の大学や研修科の卒業公演で上演されることがすごく多いんです。オーディションを受けにきてくれた方達も『当時は女の子たちに憧れたけど、大人になって読み返すと先生たちに感情移入した』と言っていました。女の子はみんな安達先生が好きですね」

清水「安達先生はカッコいいし、ついて行きたくなる人ですよね。どんなお芝居になるかすごくワクワクしています。あと、台本を読んですごく気になるのは、ちかちゃん。可愛くていじりがいがありそうでワクワクしています」

酒井「ちかちゃん役の春木愛真さんはオーディション組ですが、お芝居を始めた瞬間に『この子をちかにしたい』と思いました。突き進んでから回って転けて、でも笑っているみたいな。ある種バカにされてもいるけど、それをプラスに変えて周りも巻き込んでいく愛くるしさがあるキャラクターにピッタリだと感じて早い段階で決めました」

清水「台本を読んでいる段階で、すごく愛おしいので楽しみです」

酒井「私も顔合わせが楽しみ。好きなキャラクターについては、演出をしているのでどの役も可愛い。ただ、18歳の時に初江を演じたのがずっと残っていて、それがセンチメンタルさにも関わっていると思います。だから初江は一生私の中で特別な役なのかなと感じていますね」

清水「プレッシャーかけられてる(笑)」

石森「(笑)」

酒井「あとは、女の子たちがキラキラした青春をお客さんに伝える中で、先生たちのコミカルさやビシッと締めるところがすごく効いてくると思う。そういう意味では、先生たちや用務員さんたちも含めてみんな必要な役ですよね」

―――最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。

清水「女の子たちの強さやキラキラをお見せしたいです。その様子や若い力に私自身も刺激をもらって背中を押されると思いますし、観に来てくれた方の背中も押せるような作品にできたら。あとは、女子校出身者が多いので、当時に戻った気持ちで楽しめたらいいなと思っています」

石森「今現在、女の子たちと同じ年代の学生さんに共感してもらえる作品だと思います。そして、かつて少年少女だった方もパワーをもらえる作品だと思うので、幅広い年代の方に見てほしいです。女子高生のキラキラした部分や女の子の強さをお届けできるように頑張りたいです」

酒井「永井愛さんが書かれてから何度も上演されている、それだけ評価されている素晴らしい作品です。女の子たちや先生のエネルギー、それぞれが守ろうとしたもの、矜持といったもののビリビリした感覚を、ぜひ劇場で体感してほしいと思います。2人も言ったように、『私にもこういう時代があったな』という気持ちになってほしいし、周りの環境と女の子たちの差異によるヒリヒリを感じてほしいです。
 私が作品を作るときに思っているのが、『観終わったお客さんが劇場を出た時、空の色がちょっとでも明るくなっていたらいいな』ということ。毎回そういった台本を選んでいるので、今回も感じていただけると嬉しいです」

(取材・文&撮影:吉田沙奈)

プロフィール

酒井菜月(さかい・なつき)
1987年10月4日生まれ、愛知県出身。「良質な戯曲を取り上げ、上質な舞台創作を目指す」をコンセプトに活動する劇団・ことのはboxの主宰。演出作品に『見よ、飛行機の高く飛べるを』、『楽屋 ―流れ去るものはやがてなつかしき―』、『歌姫』など。

清水麻璃亜(しみず・まりあ)
1997年9月29日生まれ、群馬県出身。2014年4月、AKB48に加入。グループ在籍中から多くの舞台に出演する。2023年8月にAKB48を卒業し、現在は女優として活躍中。主な出演作に、ドラマ『帰らないおじさん』、『スーパーのカゴの中身が気になる私』、舞台 山田ジャパン『とのまわり』など。

石森咲妃(いしもり・さき)
1997年4月12日生まれ、東京都出身。2020年、文学座に入所。主な出演作に『見よ、飛行機の高く飛べるを』、『わが町』、『三人姉妹』、『ふるあめりかに袖はぬらさじ』など。

公演情報

ことのはbox 第21回公演
『見よ、飛行機の高く飛べるを

日:2024年3月28日(木)~31日(日)
場:東京芸術劇場 シアターウエスト
料:【劇場】一般5,500円
  ※他、各種割引あり。詳細は団体HPにて
  (全席指定・税込)
  【配信】3,500円 ※Confetti Streaming Theaterにて3/31より配信(税込)
HP:https://www.kotonoha-box.com
問:LOGOTyPE mail:info@logotype.tokyo

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