東京マハロが描く初のラブコメディ 奉仕に生きる女性に突如訪れた恋。果たしてその思いは報われるのか!?

東京マハロが描く初のラブコメディ 奉仕に生きる女性に突如訪れた恋。果たしてその思いは報われるのか!?

 身近な社会問題にも大胆に斬り込み、繊細な人間ドラマを個性豊かなキャストが彩る劇団 東京マハロ。2023年ラストを飾る作品は、東京マハロ初のラブコメディだ。
 介護職に就き、誰に対しても笑顔と親切心を欠かさない阿部まどかの、見る専用だったインスタグラムの初めての投稿に“いいね!”が付いた。相手はスポーツが趣味の好青年。相手への小さな興味がいつしか、阿部の心の奥に押し込めていた恋心を揺さぶり始める。果たして、その思いは報われるのか!?
 主演の阿部役に、東京マハロ8年ぶりの出演となる今藤洋子。そして相手役に松村龍之介を迎え、劇団員の福田ユミらが作品を彩っていく。主宰・演出の矢島弘一と共に本作への意気込みを語ってもらった。

―――作品の概要についてお聞かせください。

矢島「東京マハロでは初めてとなるラブコメになります。主演は今藤洋子さんで、生きにくい時代を一生懸命に生きている介護職員・阿部まどかを演じてもらいます。男運も家族運もないけども、すごく親切な女性で、色んな職を経て介護職に就いたまどかが、SNSを通して久しぶりの大恋愛にはまるというストーリーです」

―――なぜ介護職を舞台にラブコメディを描こうと思われたのでしょうか?

矢島「主人公には恋愛をする上で乗り越える壁を高くしたかったので、普通のOLではなく介護職員という設定にしました。人の痛みも分かるし、奉仕の気持ちを持っているけども、それが必ずしも報われなかったりする。1番、ラブコメとは遠い職種だからこそマッチする部分もありました。また、阿部の職歴にも意味を持たせました。なぜ彼女が常に人材難で、労働環境の底辺と呼ばれる介護職に就かねばいけなかったのかも描こうと思います。
 我々はこれまで社会派の作品が多かったのですが、クリスマスという時期にあえて社会派作品を出すことにも抵抗がありました。元々はラブコメをやろうとしていた自分がいたので、原点に帰るという言い方もできると思います。
 今の時代、お互いが与え、受け合う“ギブ&テイクの精神”よりも、与えるだけの人とひたすら人の好意を受け取るだけの人に二極化してると思うのです。その真ん中がないというか。奉仕の精神を持って日々を頑張っている人が恋愛をしたらどうなるかなという視点がありました。それでもその親切や愛情は最後には報われるという終わり方にしたいです。そういう意味では社会派の要素も入っているかもしれません。“いいね!” 1つだけで繋がって、互いの素性が分からないSNSというツールが持つ危うさに不安はもちつつも、つい連絡を取ってしまう女性の心理にも寄り添いたいと思いました。
 主演の今藤さんは僕が信頼する俳優さんの1人です。是非もう一度ご一緒したいとお願いしました。これまでの成長過程も含めて、今の僕が書いた本と演出で演じてもらったらどうなるかなという思いも強いです。
 あとは今までにない本の書き方というか、初めてチャレンジする要素も入れてあるので、それを試したいということもあります」

―――今藤さんは、本作の主人公の阿部まどかを演じられます。

今藤「お話を頂いた時はすごく嬉しかったです。東京マハロさんの2015年の作品『女は過去でできている』で初めて矢島さんとご一緒させて頂いて以来、その後の作品も観劇させて頂き、矢島さんや劇団員の福田ユミさんとも他団体さんでもご一緒する機会もありました。私もこの7年間で色んな変化もありましたし、皆さんそれぞれの変化が、今回の作品でどう化学反応を見せるかが今から楽しみです。
 矢島さんからもギブ&テイクの話が出ましたが、常にギブできている方がいいと頭で分かっていても、それが果たして自分で出来ているんだろうかと考えさせられましたね。演じる阿部と自分が似ている部分、見習いたい部分、もっとお前頑張れよという部分など、役だけでなく自分とも向き合う作業が他の作品よりも強くなるのではと感じました」

―――どのような役作りを目指していますか?

今藤「介護職員のイメージはホスピタリティ溢れるというか、人の為に献身できる人というイメージが浮かびました。でもその一方で、常に人手不足や昼夜を問わない肉体労働という側面や、その仕事を選ばざるを得ない人達が収入手段として働いている部分もあるのかなと想像します。
 そういう環境に身を置く阿部は、ずっと見る専用だったインスタグラムに初めて投稿した時についた“いいね!”に、自分を見てもらえているという嬉しさを感じたのかもしれません。初めて感じる承認欲求と言いましょうか。そういう揺れ動く気持ちにも注目してもらえたらと思います」

―――松村さんは阿部が恋に落ちる好青年のライトを、福田さんは地元の同級生の貴子をそれぞれ演じられます。役どころをどのように捉えてお芝居に生かしたいですか?

松村「好青年のライトは彼女が初めて投稿したインスタグラムに“いいね!”を押したことで恋愛が始まるわけですが、SNSだからこそできるコミュニケーションやワクワク、そして実際逢おうとなった場合の反応などに是非注目して欲しいです。僕自身、ラブコメというものをあまりやったことがなかったので、それを東京マハロの皆さんと今藤さんと出来ることがすごく楽しみです。
 一方で、このキービジュアルの僕の恰好が気になりますね。なぜ海パン一丁なのかという(笑)」

一同「(笑)」

松村「愛情は生きていく上でも大切な要素であり、本作でも色んな角度からの視点によって愛情の持ち方や受け取り方があると予感してます。特に年上の方の愛情からはその方の歴史を感じますね。沢山の方を愛してきたんだろうなとか、1人の人をずっと愛してきたんだろうなとか。愛し方を通して伝わる気がします。お芝居ですがそういうところも楽しみたいですね」

福田「貴子は生まれた環境や性格など、阿部とは正反対の華やかな人生を送っていて、高校以降はあまり接点もなかったのですが、親の介護で地元に戻った時に阿部と再会して仲良くなって、父の経営する介護施設で阿部と共に働くことになります。一言で言うと阿部の上司ですね。
 学生の頃は互いに交わらない世界にいたけども、年齢を経て貴子も様々な苦労を抱えていた時に阿部と再会して、そこで一見、打ち解けたように見えるのだけど、同じ職場で働くようになって、やっぱり阿部とは違う世界に生きていたんだと貴子が気が付く過程などは、切ないなと。ラブコメと言ってもやっぱり東京マハロなんだなと感じました。
 マハロでラブコメは初ですし、矢島さんが新しいチャレンジをされると聞いたので今から楽しみですし、尊敬する素敵な先輩の今藤さんとも7年ぶりにご一緒できるので、しっかりついていっていい作品にしたいです」

―――読者にメッセージをお願いします。

矢島「初めて描くラブコメですし、来年も舞台を観たいなと思ってもらえる作品にしたいです。東京マハロならではのラブコメにします。是非多くの方に観て頂きたいです」

今藤「阿部は自分に親切にするのが下手な女性だと思いました。多かれ少なかれ、そういう感覚を持っている人もいるのかなと思うので、クリスマスも近い年の瀬に一緒に共感してもらえたら嬉しいです。皆様のご来場をお待ちしております」

松村「俳優はファンの方や劇場にいらして下さる方に多くをギブ(与える)する立場であって、自分にはあまりギブはないと思っていましたが、色んな役の人生を生きて、共感して沢山の方と交わることで実は多くを与えてもらっているんじゃないかと思うようになりました。皆さんと一緒に沢山のギブをもらえるような素敵な年の瀬にできたらと思います」

福田「12月20日から24日の公演なので、ほとんどの方にとって2023年最後の舞台作品になるのではと思います。劇場に来て良かった、心が温かくなったと思ってもらえるように全力で創り上げていきますので是非、皆さんに観に来て頂きたいです。2023年の締めくくりを是非、東京マハロで!」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

今藤洋子(こんどう・ようこ)
1975年生まれ、長野県出身。東京学芸大学 演劇研究部OG。佐藤二朗主宰の演劇ユニット「ちからわざ」や、坂上忍作・演出の作品等、幅広いジャンルの舞台に多数出演。満たされない女、感情に振り回される女、罵倒する女から、人情味溢れる女、仕事ができる女、仕事ができない女、浅はかでゲンキンでずる賢い中国女まで、幅広く演じる実力派。どんな役でもどこか愛おしさを感じさせる魅力を持つ。主な出演作に、【ドラマ】TBS『フェルマーの料理』桜井聖恵役、ABCテレビ『18歳、新妻、不倫します。』三条雅美役、【映画】『マリッジカウンセラー』前田郁子役、【舞台】オフィスコットーネプロデュース 大竹野正典没後10年記念公演 第4弾『さなぎの教室』などがある。

松村龍之介(まつむら・りゅうのすけ)
1993年生まれ、岩手県出身。2013年、舞台『巴御前』でデビュー。以降、『戦国BASARA』シリーズ、『弱虫ペダル』インターハイ篇 The WINNER、『BLOOD-C』などのゲーム・アニメ作品の実写版舞台に多く出演。2016年には、アニメ『残響のテロル』の舞台化作品にて初主演を務めた。舞台以外にもテレビや映画と幅広く活躍。近年の主な出演作品に、【映画】『秘密の花園』藤掛真行役、『TOKYO,I LOVE YOU』シモン役、【舞台】ワーキング・ステージ『ビジネスライクプレイ2』夏目結城役、『刀剣乱舞』綺伝 いくさ世の徒花 伊東マンショ役、『ハンサム落語』シリーズ、『東京カラーソニック!!』the Stage Vol.2 田所雪也役、【テレビ】大河ドラマ『青天を衝け』三島通庸役などがある。

福田ユミ(ふくだ・ゆみ)
1982年生まれ、奈良県出身。2006年より、オヒョイさんこと藤村俊二の元で芝居を学び女優活動を開始。以降、舞台・映像作品を中心に活動中。2014年『エリカな人々』にて、東京マハロ初出演。以降すべての作品に出演をし、2018年に劇団員となる。また、プロデュース公演として、2021年『萩本の女』、2022年『ウェスティン』―西へ帰る―、2023年『朝、私は寝るよ』の3本を上演。その他、主な出演作品に【ドラマ】TBS『王様に捧ぐ薬指』土屋明日香役、NHK『優しい猫』竹山裕子役、【映画】『グッバイ・クルエル・ワールド』植村ゆうか役、『ぜんぶ、ボクのせい』久能奈々役、【舞台】水野美紀×矢島弘一『2つの「ヒ」キゲキ』などがある。

矢島弘一(やじま・こういち)
1975年生まれ、東京都出身。2006年11月、劇団 東京マハロを旗揚げ。10周年を迎えた2016年には、5月に2作同時上演を決行し、7月には北九州芸術劇場でも公演を成功させた。2016年に放送され好評を博したTBSテッペン!水ドラ!『毒島ゆり子のせきらら日記』で全話の脚本を務め、第35回向田邦子賞を受賞。関係者から“女性の気持ちを描ける男性劇作家”として注目を集めている。これまで劇団公演にて描いてきた作品には、不妊治療や震災直後の被災地、いじめ問題に性同一性障害など現代社会が目を背けてはならないテーマが多く、さらにはコメディ作品にもチャレンジして脚本の幅を広げている。テレビ初作品となったNHK Eテレ「ふるカフェ系 ハルさんの休日」は現在も脚本を手掛けているほか、NTV『残酷な観客たち』では、第1・2話の監督も務めた。同年秋にはTBS金曜ドラマ『コウノドリ』の脚本も担当。

公演情報

東京マハロ 第27回公演『貴子はそれを愛と呼ぶ』

日:2023年12月20日(水)~24日(日)
場:赤坂RED/THEATER
料:前売6,800円 当日7,500円(全席指定・税込)
HP:https://tokyomahalo.com
問:東京マハロ制作部
  mail:mahalo.staff@gmail.com

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