榊原郁恵&渡辺裕太親子による、渡辺徹追悼企画を上演! 渡辺徹から受け継いだバトンを2人でどう繋ぎ、お客様に渡すか

榊原郁恵&渡辺裕太親子による、渡辺徹追悼企画を上演! 渡辺徹から受け継いだバトンを2人でどう繋ぎ、お客様に渡すか

 2021年に渡辺徹の還暦とデビュー40周年を記念して行われた朗読公演『家庭内文通』。妻の榊原郁恵と俳優であり息子の渡辺裕太、親子3人で初共演を果たした。今秋、その続編が『続・家庭内文通』として上演される。


榊原「ことばを表現するための朗読劇ということで、岡田惠和さんに脚本を書いていただきました。岡田さんの作品は物語やセリフのやりとりが自然に進んでいくので、スッと引き込まれてしまうんです。渡辺徹と『ぜひ台本が見てみたいね!』と話し、岡田さんにお願いしました。それをありきたりな形で表現させないのが、演出の鵜山仁さん!」

渡辺「岡田さんの作品には日常の何気ない会話を切り取り、その延長線上で膨らませる面白さがあります。鵜山さんはその魅力を理解したうえで、ファンタジーな演出をつける(笑)。改めて考えると、とても贅沢な組み合わせだなと思います」

―――2人に、前回の舞台の稽古にまつわる思い出を聞かせてもらった。

渡辺「初めて家族と舞台を作るということで、鵜山さんやスタッフさんと一緒にやる前に、家族だけで読み合わせをやってみようかという話になり、久しぶりに実家に集まったんです。3人で食事をし、家族団欒の時間がわりと長くなり、誰が『稽古やろう!』と言い出すのかな?という時間が流れました(笑)。結局、夜もかなり遅い時間になってから、父親が意を決してか『そろそろやるか!』と言い出してくれて、3人でリビングで読み合わせをしたのが、ちょっと気恥ずかしくてこそばゆい感じでしたね」

榊原「見事な記憶力! 私、今の話をまったく覚えていなくて……、いつ頃のこと?」

渡辺「えぇ!? 稽古が始まる前だよ」

榊原「そういうこともあったんですねぇ(笑)。この舞台は渡辺徹の『やりたい!』という想いからのスタートでしたから、稽古場の空気作りは彼に任せっきり、私は後ろからくっついていくという感覚で。『どんなものが出来上がるか分からないけれど、渡辺徹さんの世界だから、きっと面白いものができるだろう』と思っていました。また3人が稽古場で顔を合わせるのが初めてだったので、私はウキウキはしゃいだ気持ちでいました」

渡辺「稽古場での父親に関して言えば、とてもアイデア豊富だなと感じました。60歳前後の父と鵜山さんが『そう来たか!』『それ、できる!?』と誰よりもはしゃいでアイデアを出し合い作品作りをしていた姿が印象に残っています。母親は明るく呑気そうに見えて、実は誰よりも作品についてたくさん考え、悩み、手を抜かない。その姿勢を目にすることができました」

榊原「私は演出家からの注文や要望に対し、即座に『こうですか?』と返せるタイプではないので、稽古ではいつも苦労するんです。しかも鵜山さんは突拍子もない発想で演出をつけられるので、私はいつも出遅れがち(笑)。でも渡辺徹はそういう鵜山さんの演出をよく理解していて、すぐに応えていました。裕太とは初めて一緒の舞台に上がるので、芝居とどんな向き合い方をするのかなと思っていたのですが、生番組での中継を長くやっていることもあり、鵜山さんの注文に対し軽快に自分なりの答えを返していく様子に感心しました」

渡辺「鵜山さんとご一緒するのは初めてだったのですが、今までに受けたことのないタイプの演出で、刺激的でした。たとえば『このシーンは、息子がお母さんのお腹の中に戻った気持ちでやってください』と言われるなど、思いもよらないところに自分を置いてもらえるんです。その演出の正解は、たぶん鵜山さんご自身も探っているところで、こちらがどう出てくるかを楽しみにされているんだろうなと感じました。正解がないからこそ『こうしてみよう』『ああしてみよう』とクリエイティブな気持ちを掻き立てられ、とても楽しかったです」

榊原「楽しいけど、怖い現場よね(笑)。稽古期間は短かったですが、家族だからこそ甘えるところは甘え、ぶつかり合い、芝居を詰めていけた気がします。私は稽古場で言われたことを自分の中に落とし込むのに時間がかかり、腑に落ちる瞬間が食事後だったり、寝る前だったりするんですが、『あれって、こういうことよね?』と確認できる相手が目の前にいるのは、とてもありがたかったです。仕事を家に持ち込みたくないタイプの渡辺は嫌がっていましたけど……(笑)。でも本当にどんなタイミングであろうと、話を聞いてくれていました。そういう姿勢ひとつとっても、彼はやっぱり芝居が大好きだったのだと思います」

 今回は、前回の舞台映像の上演と共に、岡田が新たに書き下ろす“残された家族”の物語をお届けする。

榊原「『家庭内文通』は東京で一日限りの公演でしたが、もっと色々なところに持っていけたらと会場を調整し、23年に数か所で上演できる段取りが付いたところで、渡辺徹が他界してしまいました。『さて、どうしましょう?』と考えたときに、過去の映像をただお見せするだけでは、私たち的に物足りないと感じたんです。フィクションを通じてではありますが、渡辺徹が亡き後の私たちの姿もお届けすることで、この作品がひとつの完結を迎えられるのではないか。そういうことで、また岡田さんに相談にのっていただきました」

渡辺「前回の3人でのかたちがあり、今回は2人で受け継いでいきます。観に来てくださる方も、渡辺徹が他界したことをご存知の状況ですから、“父親という存在がいなくなり、残された家族は今、どうしているのか”という土台は踏まえるという方向性で、今、作っているところです」

榊原「岡田さんがお忙しい合間を縫って、私たちからの無理なお願いをどう消化しようか、いちばん苦労されていると思います(笑)」

渡辺「だから今回がどういう落としどころになるのか、僕たちにもまだ分かっていません。楽しみです!」

榊原「そうやって完成した台本の世界を、また鵜山さんが引っ搔き回すんですよ!」

渡辺「引っ搔き回すつもりはないと思うよ(笑)。ただ、アイデアがたくさん出てくる方だからね」

榊原「そうなのよね。やはり舞台をよくご存じの方だから、わざわざ舞台に足を運んでくださる方に対して、ありきたりのものをお届けするなら、アフタートークだけで十分。“舞台”としてお見せするからには、それに応じた見せ方が必要だと考えておられるのだと思います。渡辺徹は無理難題を投げかけられるほどに喜ぶ人でしたから、今回の舞台に対しても『俺は俺で、好きなようにやらせてもらった。じゃあ、お前たちは次、どうしようと思っているんだ?』とバトンを渡されたのだと思うので、知恵を存分に出し合い、また切磋琢磨しながら作り上げていけたらと思います」

―――2人は朗読劇というスタイルに、どのような魅力を感じているのだろうか。

渡辺「僕は、朗読劇には無限の可能性があると思っています。たとえば座ったまま読むのか、立って読むのか、動きながら読むのか。それだけでも印象はだいぶ変わりますよね。また目に入ってくる情報が限られるぶん、演じ手や観客の想像力に働きかける力が、より強いのではないかとも感じます。“朗読”という形を採るからこそ、逆に自由度が増すのかなと思うんです」

榊原「朗読劇は言葉をしっかり読みますから、そこに込められた感情もより表現しやすくなるように感じます。とくに家族での共演だと、単に感情のぶつかり合いとなると妙な照れが出てしまう部分もあったりすると思うのですが、そういう点で言葉にフォーカスした表現に集中できるのはいいなと思います。さらに鵜山さんが色々な表現をプラスされますから、『これって、朗読劇よね?』と思う瞬間があったりもして(笑)」

渡辺「“朗読劇”という手綱をしっかり持っておかないと、鵜山さんのアイデアでどんどん膨らんでいっちゃうんですよ。前回の稽古では、僕も父親も何度か鵜山さんに『これ、朗読劇ですよ』と言っていた気がします(笑)」

―――最後に、今回の上演に向けて楽しみにしていることを聞いた。

渡辺「まずは、母親が父親に時を問わず質問や確認をしていたように、夜遅く、僕に電話がかかってこないことを願います(笑)」

榊原「SNSでの相談だったら、本人の都合のいいときに見られるわよね?(笑)」

渡辺「ははは! 残された家族のひとつの形を、岡田さんと鵜山さん、そして実際の家族で表現するのが楽しみです。岡田さんの描く日常、そして鵜山さんの思い描くファンタジーの世界で、自分をどんどん出していけたら。また色々な地域に行かせていただけるのも嬉しいです!」

榊原「色々な土地の舞台に立ち、渡辺裕太と2人で作品をお届けできるのは、一番の楽しみです。渡辺徹ありきでスタートした企画なので、『お父さんだったら、このときどうするかな』といつも探ってしまうのですが、今回は自らの発想力をふんだんに刺激し、自分の中でどれだけ色々生み出していけるかが私の大きな課題となりそうです。家族には本当に色々なことが起きますが、絆の深さや再び前に進む力強さ、観てくださる皆さんの明るい明日に繋がるようなひとときをお届けできればと思います」

(取材・文:木下千寿 撮影:平賀正明)

プロフィール

榊原郁恵(さかきばら・いくえ)
1959年5月8日生まれ、神奈川県出身。1977年1月1日にデビュー。1981年~1987年にかけて、ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』初代ピーターパンを務める。テレビドラマ、舞台のみならずバラエティー番組でも広く活躍。

渡辺裕太(わたなべ・ゆうた)
1989年3月28日生まれ、東京都出身。2012年より劇団ポップンマッシュルームチキン野郎に所属し、映画やドラマ、舞台に出演している。現在、「news every.」、「所さんの目がテン!」、「5きげんテレビ」にレギュラー出演中。

公演情報

渡辺徹 追悼公演 朗読劇『続・家庭内文通』

日:2023年11月4日(土) ※他、地方公演あり
場:I’M A SHOW
料:5,500円(全席指定・税込)
HP:https://imashow.jp/schedule/607/
問:サンライズプロモーション東京 
  tel.0570-00-3337(平日12:00~15:00)

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