愛するがゆえに死を選ぶ2人に、中村梅枝・萬太郎が挑む 両側に花道がある特別な舞台ゆえに、上演機会が少ない人気作品!

愛するがゆえに死を選ぶ2人に、中村梅枝・萬太郎が挑む 両側に花道がある特別な舞台ゆえに、上演機会が少ない人気作品!

 いよいよ最後の2ヶ月となった国立劇場の歌舞伎公演。最後を飾る演目は『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』。人気作ながら規模の大きさからなかなか上演されない作品だ。特に9月公演の「吉野川」は、通常下手側にある1 本の花道を、上手側にも設ける“両花道”で上演されることもあり、前回の2016年の歌舞伎座から7年振りの上演というわけだ。

 それぞれ敵対する2つの家に生まれながら、互いに愛し合う2人、雛鳥と久我之助。愛を貫くが故に命を落とすというストーリーが、シェイクスピアの悲劇『ロミオとジュリエット』のようだと観劇した米国人に評判となったといい、この役はその時期の人気俳優が勤めてきた。今回は雛鳥を中村梅枝、久我之助を中村萬太郎の兄弟が勤める。

梅枝「雛鳥とその母親である定高。そして久我之助と父親の大判事。この四役は確かにトップが勤めるのは事実です。でもそれに我々が合っているかどうかはわかりませんが(笑)」

萬太郎「作品自体も壮大で大がかりですから。これほどの役ですから身が引き締まると同時に胃も痛いなあと(笑)」

梅枝「そもそもこの芝居はなかなか上演されません。前回の時は定高の側に何人か出てくる腰元役で、僕と弟は出演していましたが、それ以前に生の舞台で観たことがありませんから。でもいつかは雛鳥をやってみたいとは思っていました」

萬太郎「僕も前回出演したときは、次回自分が関われるとは想像もできませんでした」

梅枝「父(中村時蔵。今回の定高役)との共演は度々ありましたが、兄弟でこうした大きな役をいただくのは初めてです」

 もちろん2人はそれぞれに国立劇場の想い出を心に秘めて舞台に上がる。今の気持ちを聞いてみた。

梅枝「国立劇場でしか上演できない演目も沢山ありますから、その意味で意義ある場所ですね。毎年初春公演での復活狂言では、一から歌舞伎を創る勉強
をさせていただきました」

萬太郎「僕も国立で梅王丸とか髪結新三の勝奴など大きな役を沢山させていただいたので、鍛えて貰った道場のようなイメージですね。その恩返しの意味も込めて。そして作品がさらに続いていくよう、精一杯勤めたいと思います」

梅枝「ご恩があるこの劇場で、「吉野川」とそこにつながる場面「小松原」、「花渡し」も上演しま
す。長い芝居ではありますが、舞台美術も衣裳も豪華絢爛。本当に次の上演はいつになるかわかりませんから、是非国立劇場においでください」

(取材・文:渡部晋也 撮影:間野真由美)

これだけは捨てられない!手放せない理由とあわせて教えてください。

中村梅枝さん
「捨てられない物は扇です。我々歌舞伎役者にとって一番身近な小道具が扇ですが、稽古の時には刀、煙管、笠など様々な小道具の代わりに扇を用います。また舞踊でも使用するので紙が破れたり骨が折れたりすることもありますが、そのまま捨てるのもしのびなく、使えなくなっても家に置いてあります」

中村萬太郎さん
「ルイヴィトンのキーケース
これは私が20歳になったときに、中村時蝶さんという、(中村)時蔵家を長く支えて下さったお弟子さんがプレゼントしてくれたものです。シンプルで洗練されたデザインと、使えば使うほど手に馴染んでくる品で、一度金具が壊れてしまったときに、銀座のルイヴィトンさんに持っていったら、快く対応していただいたのも気に入っている点です。私が普段身につけているもので、一番長く愛用している、これだけは捨てられないものです」

プロフィール

中村梅枝(なかむら・ばいし)
1987年生まれ。中村時蔵の長男。慶應義塾幼稚舎から普通部、慶應高校、慶應義塾大学文学部に進学するが、舞台の生活に重点を置くため中退。1991年6月、歌舞伎座『人情裏長屋』の鶴之助で初お目見得。1994年6月、歌舞伎座〈四代目中村時蔵三十三回忌追善〉の『幡随長兵衛』の倅(せがれ)長松と『道行旅路の嫁入』の旅の若者で四代目中村梅枝を襲名し初舞台を踏む。現在は若手女方の筆頭格として活躍している。趣味は学生時代に打ち込んだゴルフ。

中村萬太郎(なかむら・まんたろう)
1989年生まれ。中村時蔵の次男。慶應義塾幼稚舎から普通部、慶應高校と進学し、高校卒業後芝居に専念。高校時代は茶道部部長を勤め、卒業後も茶道を続けている。1994年6月、歌舞伎座〈四代目中村時蔵三十三回忌追善〉の『道行旅路の嫁入』の旅の若者にて初代中村萬太郎を名のり初舞台。歌舞伎座や国立劇場の舞台のほか、音楽劇『銀河鉄道の夜』のジョヴァンニ役やNHK 大河ドラマ『青天を衝け』への出演など、幅広く活躍している。

公演情報

初代国立劇場さよなら特別公演 令和5年9月歌舞伎公演 通し狂言『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん) 』<第一部>

日:2023年9月2日(土)~26日(火)
  ※9月11日(月)・19日(火)は休演
場:国立劇場 大劇場
料:1等席14,000円 2等席10,000円 3等席4,000円
  学生 1等席9,800円 2等席7,000円 3等席2,800円(全席指定・税込)
HP:https://www.ntj.jac.go.jp/kokuritsu
問:国立劇場チケットセンター 
  tel.0570-07-9900(10:00~18:00)

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