「たくさん思いが詰まって重い方がきっと引力がある」 ENGの新作舞台は「パルクール」に挑戦!! コロナ禍で中止になった舞台が再始動

「たくさん思いが詰まって重い方がきっと引力がある」 ENGの新作舞台は「パルクール」に挑戦!! コロナ禍で中止になった舞台が再始動

 佐藤修幸によるプロデュースユニットENGが贈る第14回公演は、作・演出の福地慎太郎を招いた新作。月の影響で重力が軽い町・月代町(つきしろちょう)を舞台に展開されるヒューマンドラマで、走る・跳ぶ・登るを基本とするスポーツ「パルクール」の要素も取り入れるという。
 実は2022年3月に上演を予定していたが、コロナ禍で公演中止になっていた。今回、一部キャストを入れ替えてのリスタートとなる。主演の鵜飼主水、エリザベス・マリー、松藤拓也、そして作・演出の福地慎太郎に意気込みや構想を語ってもらった。

―――今回はリスタートという位置付けだと思いますが、前作から何か変更を予定されていますか?

福地「正直まだ分からないところもありますが、今のところ半分ぐらい変わる気がしています。前回は、もともと僕が若い頃にやった作品の骨組みを持ってきて、ENGさんでエンタメ寄りに書き直すところからのチャレンジだったんですが、公演が中止になって、同じタイミングで近しいところで悲しいことがあって……。
 それでも演劇を作る意味みたいなのを考える時間があったんですよね。自分が若いときの青さや拙さ、恥ずかしさ……そういう感覚としっかり向き合いつつ、どうしたらお客さんにポジティブに届くかなと考えてきたので、前回とはまた違った作品になる気がしています」

―――なるほど。主人公の成田修吾の描き方が変わっていくのでしょうか……?

鵜飼「それはぜひお伺いしたいところです(笑)!」

福地「そうですよね(笑)。前回はアクションもあって勢いがつけられた分、そこを見せることに少し寄りすぎたかなと思っていて、今回はもう少し“僕らしく”、お客さんに伝わるようにしたいと思ってます。
 主水くんの役も、僕が描く作品らしく『ちょっとウジウジするけど、力強く前に進んでいく』みたいな過程がね、描ければいいなと思っています。
 リズちゃん(※エリザベス ・マリーの愛称)の役だけ前回とは結構書き換えて……まっつん(※松藤拓也の愛称)もだいぶ役割が変わっちゃう。すでに3行以上の長台詞が何個もある!」

松藤「マジですか!」

福地「前回のキャラクターを元にしながらも、関係性を組み替えようと思っていて、まだ試しながら書いている段階なので決まっていない部分もあるんですけど、そんな方向になりつつあるかな。
 脚本として、各キャラクターのエピソードの連なりが薄く感じるときがあったんです。みんなの勢いや演出で流れは作っていたけども、脚本の構造をもう少し直そうかなと思っているところです」

エリザベス「私のキャラクターも結構変わるんですか?」

福地「そうだね。大きな変更で言うと、2役ではなく、1役にします。前回は『過去の人物』と『今の人物』の2役を同じ役者に演じてもらっていたんですけど、今回は『過去を生きた人』として、現代でもどうにかずっと存在し続ける何かを考えています」

エリザベス「それはもう全然違うことになりそうですね……!」

―――ちなみに前回見どころとして語られていた「パルクール」自体はやられるのですか?

福地「はい、やります」

―――ではそれらを踏まえて、前回の稽古や脚本を読まれた感想、役について思うことを教えてください。

松藤「前回は一言で言うと、楽しかったです! やっぱり舞台セットがすごかったんですよね。普通の舞台では組まないような機構がいっぱいあって。子ども心をくすぐられて、遊びたくなっちゃうセットだったんですよね」

鵜飼「稽古場でずっと飛んでいたもんね(笑)」

松藤「それにみんなでパルクールをやっていて『意外にこんなことできるんだ!』という発見もあって、やっていても見ていても楽しい時間でしたね」

―――実際、パルクール自体はいかがでしたか?

松藤「難しかったですけど、パルクール指導の方が丁寧に指導してくださって、僕らもパルクールの技をできるようになっていって……。作品全体が華やかに見えた気がします」

―――体の使い方は普段のダンスなどとは違う気がするのですが、やはり皆さん器用にできたのですね?

松藤「いや、本当に器用ですよね(笑)! でも『倒れるのではないかというぐらいの激しい運動量がある作品を3つ述べよ』と言われたら、この作品は確実に入っています。それぐらい激しい運動量でした」

―――では鵜飼さんはいかがですか?

鵜飼「前回は揃っているメンバーが本当によくて! 『もうこの人たちがいたら勝手に面白くなるな!』という安心感があったんです。
 そこで僕は座長というポジションでしたけど、できることなんて、差し入れを買うことぐらい(笑)。本当に頼もしい座組みだったなと思うんです。方々で活躍して自力をつけた面々がパルクールなど新しいことに挑戦して、それを見事に消化して、板の上で物語がどんどん膨らんでいく。本当に楽しかったですよ。
 だからもう現段階で既に安心しているんです。何があっても絶対このメンバーだったら、面白いことができるという自信があるから。……なので、本の完成をお待ちしています(笑)!」

福地「頑張ります(笑)!!」

鵜飼「あとは前回の公演が中止になったときに、1番最初にのぶさん(※プロデューサーの佐藤修幸のこと)が『またやる』と言ってくださったことが力になりました。あの時期は中止になる作品がたくさんあったけれど、こうやって成田修吾という人を生き抜くチャンスを再びいただけたことがすごく幸せだなと思って。恩を返したいと思います」

―――エリザベスさんは今回が初参加ですが、いかがですか?

エリザベス「私は前回の脚本しか読んでいないので、これをどう舞台化したのか、すごく興味があります。本を読んだだけでは全く想像がつかなくて……! そんなワクワク感を持ちながら、今回新しく座組みの一員になれることが楽しみです。
 先ほどモンちゃん(※鵜飼の愛称)も言っていたけど、安心できる人たちが多い座組みですよね。新しいキャストであっても飛び込んでいって受け入れてくれてる人たちが多い気がする。なので、今はワクワク感と安心感が入り混じっています!」

―――前回は1人の役者が2役を演じるという描き方でしたが、そこが変更になる点については?

エリザベス「うーん、確かに2役の面白さもあるけど、1役として芯を貫く感というか、役として生き続けるワクワク感もあると思うんですよね。1つの役を生きて、その他の役との関係性を作る楽しみがあります」

福地「……ちなみに前回の脚本より強い役になってきていて、なんとパルクールがあります」

エリザベス「ええ!? パルクールあるんだ! 前回はなかったですよね? 初耳ですが、めちゃくちゃやりたい!」

―――経験者からぜひパルクールのコツを……!

松藤「なんかヒュッとやって、パッとやればいけますよ(笑)。でも身体能力だけではなくて、結構頭も使わないといけないかなぁ」

エリザベス「ボルダリングなんかと近いのかな?」

鵜飼「そうね、そんなイメージかもしれない!」

エリザベス「じゃあいけるわ(笑)!」

―――では前回はコロナ禍で中止になってしまった本作ですが、改めて開幕を楽しみにされているお客様にメッセージをお願いします

福地「前回は開幕直前で中止になってしまって、それから各々1年ぐらいは過ごしてきました。その間に考えたことやそれぞれ生きてきたことが反映するようになるといいなと思っています。
 僕もまだ悩みながら書いていて、進みは遅いんですけど……でも前回よりお客さんに届けたい気持ちが強いし、ポジティブな影響を与えたいという気持ちも感じます。ぜひそのポジティブなものを受け取りに来てください!」

松藤「みんなで稽古して、準備して、それが一度中止になって……悔しい思いもありますが、多分それぞれがよりブラッシュアップすることができた期間でもあったと思うんです。だから次はもっとすごいことになるんじゃないかな。僕自身、すごく期待しています」

エリザベス「どうしよう、今『パルクール頑張ります!』しか出てこない(笑)。
 ……今まで見たことない私が見られる気がします。最近同じような役どころのオファーが増えていたんですけど、今回の役は新しい予感がします。私は、みんなが熟成してきた作品の中に飛び込むわけですが、新しいスパイスになれたら嬉しいな。ぜひその化学反応を見ていただけたらと思います」

鵜飼「ご覧になってくださった皆さま、ありがとうございます。僕の個人的な話をすると、去年の年始に3本連続で公演中止を経験して、その3本目が『ヨリソウ重力』でした。単独主演をやらせていただく機会が何年かぶりだったので、とても大切に思っていたし、とても楽しみにしてた公演でした。だからこそ中止の余波は大きかった。
 でも当時はキツかったことも、1年半経ってみれば『そんなこともあったね』ぐらいの軽い気持ちになっているし、時間をたくさん重ねてきた分、あのときよりできることが必ず増えていると思うんです。あのとき見られなかった景色が見られると思うんです。なので、ぜひそこは楽しみにしていただきたいですね。
 これは重力の話なので、たくさん思いが詰まって重い方がきっと引っ張る力(引力)があると思うんです。ぜひ皆さん、僕らの重力を感じに来てください!」

(取材・文&撮影:五月女菜穂)

プロフィール

鵜飼主水(うかい・もんど)
1987年10月5日生まれ、東京都出身。18歳から小劇場でフリーで活動。現在、俳優・殺陣振付師・歌手・殺陣ワークショップ講師・演出・ナレーションなどの仕事を幅広くこなす。俳優・アーティストによるクリエイター集団 gekchap所属。年に数回、写真展やカメラワークショップを開催。

エリザベス・マリー
1988年11月26日生まれ、神奈川県出身。ダンスカンパニーCHAiroiPLIN(チャイロイプリン)メンバー。現在は舞台女優から振付師まで、多岐にわたる活動をしている。

松藤拓也(まつふじ・たくや)
1990年6月23日生まれ、東京都出身。舞台を中心に俳優活動を続ける。アクション・アクロバットが得意。

福地慎太郎(ふくち・しんたろう)
1980年11月18日生まれ、栃木県出身。ツツシニウム、FLIPLIP主宰。2003年にDMFに入団。作・演出作品は、ツツシニウム #6『ツバメの幸福』、ENG第11回公演『ニンギョヒメ』、第13回公演『missinng ~強がり彼氏と食べちゃう彼女』など多数。映像・舞台を問わず役者としても活躍。

公演情報

ENG第14回公演『ヨリソウ重力』(ENG改訂版)

日:2023年8月16日(水)~20日(日)
場:吉祥寺シアター
料:S席[前方3列まで]8,000円 A席6,500円
  B席[後方2列]4,500円(全席指定・税込)
HP:https://eng-age.site/yorijyu/
問:ENG mail:dear.eng.info@gmail.com

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