演出家・川村毅によるポストドラマ 唯一無二の俳優たちが、作家 ヘルマン・ヘッセの小説と人生を描き出す

演出家・川村毅によるポストドラマ 唯一無二の俳優たちが、作家 ヘルマン・ヘッセの小説と人生を描き出す

 魂の本当の居場所を探し続けた、20世紀前半のドイツの作家 ヘルマン・ヘッセ。彼の小説と人生を多角的に捉え、その世界観を川村毅が多層的に舞台化する。
 晩年のヘルマン・ヘッセを演じるのは絶大な存在感を誇る麿赤兒。ヘルマンの青年時代を横井翔二郎が演じる。麿と横井に公演への思いを聞いた。

―――今回の出演が決まった時の率直なお気持ちを教えてください。

横井「僕は今回のお話を聞くまで、ヘルマン・ヘッセを全く知らなかったので、まずはどういう人物なんだろうと調べました。ヘルマン・ヘッセは昔のロックスターのように、本人が図らずも商業ベースに乗っていながら結果、破滅に向かっているように感じて、とても魅力的に思いました。
 それに今回、川村さんが演出で、麿さんと共演できるということでしたので、これは絶対に出るべきだと10年後の僕に言われたように思いました(笑)。僕は、わからないものや、やったことがないことに挑戦するのが好きなので、ぜひ飛び込ませていただこうと思いました」

―――すでにヘルマンについてかなり調べているんですか?

横井「まだ調べ始めたばかりではあります。ただ、知識で固めて演じると自由に動けなくなる瞬間があると思うので、あまりインプットしすぎず、バランスを大事にしたいと思っています」

―――麿さんは、本作のオファーを受けてどんなお気持ちでしたか?

麿「あの時代の小説は、青年の悩みを描いているものが多いように思い、僕自身はヘルマン・ヘッセはあまり読んでいなかったんですよ。もちろん、代表作は読んでいますが。それで、今回、この舞台の話を聞いて、なんでヘルマン・ヘッセなんだろうということを考えました。
 彼の本を読み返してみると、今になって彼はとんでもないやつだったんだなと気づきました。道を外したり、阻害された人なんですよね。振れ幅もすごい。そんなことを思いました。ただ今回は、横井くんが生きているヘルマンを演じて、僕は歳をとった時代を演じるので、もう抜け殻のような、中身がなくなった状態になっているんだろうなと。なので、ちょっと安心しています(笑)」

―――お二人で老齢の時期のヘルマンと若い時期のヘルマンを演じ分けるそうですが、それについてはどんな思いがありますか?

麿「僕はボケた老人で、自分が描いた小説も自分の過去も今の自分自身も、全てがごちゃごちゃになってしまっている。それを(演出の)川村さんが魔術師のように分解して、描いているのがこの作品です」

―――なるほど。

麿「なので、川村さんの演出に全てお任せしてます。楽しみですね。ただ、2人でヘルマン・ヘッセを演じるというわけでもないんですよ。たくさんの分身のような存在が登場するので、1人の中に何人もの人格がいるような感じです。
 人間は誰しも多面性がありますが、それを彼は小説で統合していた。そこがヘルマン・ヘッセのすごいところで、それをこの作品では見せていきます」

横井「僕は、あまり答えを限定的にしたくないので、観た人がどう感じるかが全てだと思います。
 正直なところ、台本を初めて読んだ時、自分の役でも分からないセリフがたくさんありました。難しい台本だなと思います」

麿「それをどう描いていくのかが、川村さんの手腕ですから」

横井「そうですね。まだ稽古が始まっていないので僕も分からないところばかりですが、共演者の方々と世界を作っていく中で、再発見して輪郭が見えてくるのかなと思います。そして最後には、麿さんがバチっとかっこよく締めてくださる。
 今回は、初共演の方ばかりですし、その中で1人の人間として生きるのはとても大変なことだと思いますが、ぜひヘルマン・ヘッセを知らない方にも彼がどんな人物なのか、どんな歴史を歩んできたのかを伝えていきたいと思います。一生残るメッセージを作品に込めて演じていきたいと思います」

麿「ある意味、現代的な側面もあると思います。無邪気な少年時代から、青年になって、そして歳をとっていく。そうして歩んでいく途中には、分かれ道がたくさんあった。それを描いている作品だと思うので、ギリシャ時代から人間の行動は変わらないということだったり、今も同じような悩みがあるということを感じていただけると思います」

―――お二人は、ヘルマンという人物や、その彼の生き方について、共感を覚えるところはありましたか?

麿「僕くらいの年寄りになると、理解はできますよ。昔のことを思い出して、当時の文学と自分の記憶が合併して増幅されてしまうと、自分はどんな人生を送ってきたのかなと考えてしまいますね。そういう想いが出てくるのは楽しい」

横井「それが分かるというのは、やっぱり麿さんはすごい」

麿「理解はできるけれども、あれほど自殺未遂をしたり、死にたいと思ったり……ということに共感できるわけではないです(苦笑)。
 ただ、そうしたことは昔から人間の原型として変わらずにあるものです。ヘルマンは、それを醸造させたり、発酵させた方法が、独特なんだと思います」

―――川村さんがオフィシャルコメントの中で、ヘルマンのことを「正真正銘のアウトサイダーだ」と評していましたが、横井さんは理解できたり、共感できるところはありますか?

横井「アウトサイダーすぎるので(笑)、こうありたいと思ってもなかなかなれない存在だと思います。僕は、スーパー天の邪鬼なのですが、ヘルマンはそんなレベルじゃないですよね。世界に対して天の邪鬼ですから(笑)。
 先ほども言いましたが、僕は、ヘルマンはロックンローラーだと思っています。世の中に反抗していますが、それはこの人がただ真っ直ぐに生きた結果、そうなっているだけ。素晴らしい生き方だなと思いますが、今、この時代に同じことをするとなると想像もできません。なので、今回のお芝居を通して彼を知りたいと思います」

麿「横井くんが演じるのは、そういた想いの渦中にいるヘルマンだから、そのままでいいんじゃないかな」

横井「よし、そのままでいます(笑)」

―――お二人は今回、初共演だそうですが、お互いの印象を教えてください。

麿「やっぱり二枚目だなと。そういう意味でコンプレックスは感じました(笑)」

横井「僕は顔合わせの時にすぐにお声をかけていただいたので、本当に安心しました。麿さんの第一声は『ヘルマンに顔が似てるな。』だったんですが、その一言で緊張がほぐれて、コミュニケーションも取れたので、よかったなと思います。稽古が始まる前にそうした空気を作ってくださったので、ありがたかったです」

麿「きっと川村さんも(2人が)ヘルマン・ヘッセに似ているところがあると思って、僕たちを選んだんだと思いますよ」

―――演出の川村さんの印象もお伺いしたいのですが、麿さんは『荒野のリア』以来、10年ぶりの川村さんとのタッグだと聞いています。当時、川村さんの演出を受けてどんなことを感じていましたか?

麿「あれはキツかったですが、同時に、来るべきものが来た!と(笑)。でも、演出という意味では彼は何も言わないタイプ」

横井「いうまでもなく素晴らしかったんですよ」

麿「よく分からないけど。でも、楽しかったですよ。体力的にはしんどかったけど」

―――横井さんは川村さんの演出は初めてですか?

横井「初めてです。今回、出演が決まって、川村さんが講師をしている大学の学生たちによる、川村さん作・演出の実習公演を拝見したのですが、それが本当に素晴らしかったんですよ。ずっと日本に対する思いを言い続けている作品でしたが、僕は大好きで、とてつもなく感動しました。出演者の方たちが皆さん、川村さんをまっすぐ信じているから、その気持ちがバンバン飛んでくる。今回、どんな作品になるのかは分かりませんが、早く稽古したいです」

―――最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。

麿「とにかく面白い作品になると思います。皆さんに楽しんでもらえるように頑張ります。老体に鞭打って(笑)、皆さんにお届けしたいと思います」

横井「今回、僕は楽しみ尽くすしかないと思っています。ヘルマン・ヘッセという、おそらくこの仕事をしていなければ出会えなかった人間とその人が残したものとの出会いに感謝して、カンパニーみんなで彼がどういう人間だったのかを描き出していけたらと思います」

(取材・文&撮影:嶋田真己)

プロフィール

麿 赤兒(まろ・あかじ)
1943年生まれ、奈良県出身。俳優・舞踏家・演出家。山本安英主宰「ぶどうの会」を経て、1964年より舞踏家・土方巽に師事。その間、唐十郎との運命的な出会いにより「状況劇場」設立に参加。1972年に舞踏集団「大駱駝艦」を旗揚げ。舞踏に大仕掛けを用いた圧倒的スペクタクル性の強い様式を導入。“天賦典式”(てんぷてんしき)と名付けたその様式は日本はもちろん、1982年のフランス・アメリカ公演で大きな話題となり、「Butoh」の名が世界を席巻する。唯一無二なる俳優として、映画・TVドラマにも多数出演。

横井翔二郎(よこい・しょうじろう)
1991年生まれ、鹿児島県出身。青年座映画放送に所属。2度のスカウトをきっかけに芸能界入りを決意し、2012年に俳優としてデビュー。2.5次元ミュージカルの人気作品に出演しながら、シェイクスピアなど果敢に様々な舞台にも取り組む、真っ直ぐな演劇青年。出演作に、ミュージカル『ピオフィオーレの晩鐘』、舞台『ブルーロック』シリーズ、『あんさんぶるスターズ!THE STAGE』シリーズ、劇団トローチ 第6回公演『熱く、沼る』、DisGOONie Presents Vol.11 舞台『Little Fandango』など。

公演情報

ティーファクトリー『ヘルマン』

日:2024年1月18日(木)~28日(日)
場:吉祥寺シアター
料:5,500円
  シルバーペア[60歳以上と同伴者2枚1組]10,000円
  U30[30歳以下・平日公演のみ]4,000円
  高校生以下2,000円
  ※U30・高校生以下は枚数限定・
   要身分証明書提示/各種割引は団体のみ取扱
  (全席指定・税込)
HP:http://www.tfactory.jp
問:ティーファクトリー mail:info@tfactory.jp

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