若き狂言師三兄弟が同世代に向けて企画する新たな狂言会、いざ発進! 狂言は敷居が高い? そんな気持ちをフラットにして、ふらっと立ち寄り楽しみたい

若き狂言師三兄弟が同世代に向けて企画する新たな狂言会、いざ発進! 狂言は敷居が高い? そんな気持ちをフラットにして、ふらっと立ち寄り楽しみたい

 野村万之丞、拳之介、眞之介はこれからの狂言界を背負って立つ存在として大いに注目されている三兄弟。長男の万之丞は徐々に大きな舞台も任されるようになり、狂言界の実力派若手狂言師としてますますの活躍を見せるが弟2人もその背中を追って成長している。そんな3人がこの度新たな狂言会を企画する。題して「ふらっと狂言会」。祖父・萬や父・万蔵による萬狂言公演の午前中に開催する新たな企画に燃える3人に話を聞く。


―――――新企画『ふらっと狂言会』がいよいよスタートです。企画したきっかけなどを教えてください。

野村万之丞(以下、万之丞)「“萬狂言”は野村万蔵家の狂言師による団体名で、西暦2000年に始まりました。東京の自主公演は年間に4回催していますが、これまではその午前中に『ファミリー狂言会』というお子さんや家族向けの企画を行っていました。それがちょっと前に父(九世野村万蔵)からその枠で新しいことを考えるよう言いつかりました。同世代の友人を呼ぶと考えたときに、結構珍しい曲や難しいものを演じる場合もある午後の公演も、子供向けに感じられる午前の公演もちょっとあわない。つまりは同世代向けのものがなかったんです。そこで『ファミリー狂言会』と半々に分け『ふらっと狂言会』を始めることとしました」

―――――どんな番組(プログラム)になりますか。

万之丞「今回は狂言2番に小舞1番という組み合わせです。萬狂言には我々以外に若手が3名居りますので、その6人でお客さんにもわかりやすく、自分たちも成長できる曲をやっていこうと思っています。また我々三兄弟は舞台に上がる機会も多いですが、他の若手は機会が限られることもあるので、それを少しでも増やそうとも思っています」

―――――万之丞さんが企画したこの企画。お2人はどう思われますか。

野村拳之介(以下、拳之介)「若手が中心の会はあまり無かったので、有り難いことだと思います。今回は小舞という狂言の舞を担当しますが、普段お客さまに小舞をお見せする機会は滅多にないので、この会だからできる企画です。いい研鑽の場になります」

野村眞之介(以下、眞之介)「大体のことは兄2人が話してくれました(笑)。僕は2人とは少し年も離れていますので、出来る事を精一杯務めます。公演の最後には3人揃って登場するトークコーナーもあるのですが、兄弟だからできるコーナーにしたいですね」

万之丞「最近は父から番組について任されることも増えてきましたが、この企画については父と相談しつつも全部自分で決めました。拳之介の小舞も最初はなかったのですが、父の助言もありまして入れることとしました。皆さんに狂言には謡や舞もある。そんな発見につながるかと思い、アクセントとしていれてみました。それほど時間も長くないですから」

―――――番組についてもう少し詳しく教えてください。

万之丞「『ファミリー狂言会』よりは少し大人向けの演目を選びました。まず私の解説から入ります。同世代向けに言葉を選び、雰囲気を作ります。そして眞之介の『昆布売』。これは僕も拳之介も眞之介と同じ頃に演じたもので初めての方にも分かり易い演目です。そのまま拳之介の小舞『貝尽し』。休憩にはいる前に、これは眞之介の助言もあり、最後のトークコーナー向けにパンフレットのQRコードから匿名で質問できるようにしたものをご案内します。後半は私の『咲嘩』です。これは分かり易い『口真似』という演目に前段の20分くらいを加えたような演目で、太郎冠者が主人から言いつかったことを間違えることから始まる物語。見応えとわかりやすさのいいとこ取りの演目で、最後はドタバタ劇的に終わります。ここではお笑いコンビの“やるせなす”で活躍された石井康太も出演します。彼も若手狂言師の1人です」

―――――そして最後にトークコーナーですね。

万之丞「三兄弟揃ってのコーナーです。能狂言はカーテンコールがないですし、お客さんから質問を貰う機会もありません。でも会場で挙手いただいてご質問を募っても皆さん気後れするでしょう。そこで匿名で気楽に質問をというわけです。答える方も普段の雰囲気というか和気あいあいとした感じで出来ればと思います」

眞之介「『ファミリー狂言会』では最後に『狂言たいそう』というものをしていましたが、それとは違う目玉企画を考えたとき、狂言師に質問ができたらどうだと思いました。私はまだ学生でして、普段学校でスマホを使って質問を投げる機会があり、それをヒントにしたんです」

万之丞「眞之介はオンライン授業世代なので、そういった手法がぱっと頭に浮かぶんですね」

―――――ところで三兄弟であることのメリット、利点を感じたことはありますか。

万之丞「狂言は2、3人で演じるものが多いので、3人は丁度いい人数でもあります。先日3人で演じた『三本柱』など、シテの他に太郎冠者、次郎冠者、三郎冠者と家来が3人でてくるんです。こうしたトライアングルの関係は狂言だけでなく、日常生活でも大切かと思います」

―――――ところで皆さんのお友達の世代にとって、狂言とは距離がある方が多いかと思いますが。

眞之介「確かに能狂言のお客さまはお年を召した方が中心なのは実感しています。でもファミリー狂言会でアンケートを採ると『子供の頃に学校で観たけれど、久々に観ると面白かった。また来ます』とか『意外と面白ですね』というお声が結構あります。つまり面白いものは面白いのだと思います。ですから若いうちに何かしらのきっかけを持ってもらえば、歳を重ねると自然に狂言を観るようになってくださることもあるでしょう。だからこそ若い世代への発信は重要だし、その意味でこの会は大切です」

拳之介「危機感のようなものは持っています。そこで子供向けに数多く学校公演やワークショップを行い狂言の面白さを伝える努力もしています。今回の企画により自分たちの世代に少しでも興味を持ってもらえれば良いですね。一歩前進、チャレンジ精神の表れです」

万之丞「僕は弟(東京藝大)とは違って一般の大学に通ったので、周囲は伝統芸能に遠い人がほとんどでした。そんな若い世代をどうやったら呼び込めるかは考えました。やはり敷居が高い、難しそうと尻込みをする方も多いと思うので、休日のランチ前の時間を1時間半いただいて狂言でもいかがですか、という気持ちです。気楽に「ふらっと」ご覧頂きたい。そして敷居も低く「フラット」にすることにも掛けています。料金も20代が払いやすい金額を考えて設定し、全席自由であることもポイントです。あまり気負わず気軽に入って好きな席で楽しめる。そしてトークコーナーなどの企画ですね」

―――――だいぶ敷居は下がりました(笑)

万之丞「あとSNS向けに、能楽堂で映える写真でも撮ってもらえればいいですね。もちろん上演中はご遠慮いただきますが、終演後とかトークコーナーとか。どうか拡散していただければと思います。また有り難いことに、チラシに人気漫画家の東村アキコさんにイラストを描いていただけることになりました。できたらロビーにそのイラストを飾らせていただいてフォトスペースにしたり、ゆくゆくはグッズ企画などもできると楽しみが広がりますね。同世代の我々が作る狂言会。今まで機会が無かった皆さんもぜひお運びいただきたいです」

―――――ところで午後には萬狂言の春公演が同じ会場で予定されています。万之丞さん、拳之介さんはこちらにもご出演ですね。

万之丞「こちらに私は父とともに『秀句傘』に出演しますが、拳之介は『猿聟』で主役を演じます。演者が全員猿の面をつけまして、春の嵐山で行われる猿達の婚礼の話になります。これも面白いですよ。そして祖父であり93歳になります野村萬の『八句連歌』。ともかく元気ですね。能楽界最高齢の貴重な芸をご覧頂けると思います」

―――――こちらも興味深いです。楽しみにしています。

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

野村万之丞(のむら・まんのじょう)
九世野村万蔵の長男。幼稚園から大学まで学習院で学び、高校までは野球部に所属。学習院大学文学部を卒業。2000年『靱猿』にて初舞台。2002年『伊呂波』の初シテ。2017年に『三番叟』を披き野村万蔵家の名跡・野村万之丞を六世として襲名。2020年『釣狐』、2021年『金岡』を披く。2018年のNHK大河ドラマ『西郷どん』に明治天皇役で出演した。また、YouTubeにて『萬狂言チャンネル』の開設など精力的に新世代の狂言を模索している。

野村拳之介(のむら・けんのすけ)
九世野村万蔵の次男。東京藝術大学音楽学部邦楽科能楽専攻卒業。2003年、『靱猿』にて初舞台。2004年『伊呂波』にて初シテ。2016年に『千歳』。2017年『奈須与市語』。2020年『三番叟』を披く。

野村眞之介(のむら・しんのすけ)
九世野村万蔵の三男。学習院大学文学部に在学中。2007年『靭猿』にて初舞台。2008年『伊呂波』にて初シテ。2017年に『千歳』。2020年『奈須与市語』を披く。狂言の他にもYouTubeにて『萬狂言チャンネル』の編集も行う。

公演情報

ふらっと狂言会
料:一般3,000円
  29歳以下2,000円(全席自由・税込)

萬狂言 春公演
料:松席8,500円 竹席5,500円 梅席3,500円
  ※他、各種割引あり。詳細は団体HPにて(全席指定・税込)

日:2023年4月16日(日)
場:国立能楽堂
HP:http://yorozukyogen.jp/
問:萬狂言 tel.03-6914-0322

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