一般社団法人日本芸術文化戦略機構(JACSO)の第2回公演は、聖徳太子の1400年紀として、太子所縁の演目づくし。JACSO 理事長で宝生流の能楽師、辰巳満次郎氏に話を聞いた。
「聖徳太子は日本に仏教を広め、憲法や官位を定めるなどさまざまな功績で知られています。〝和を以て貴しとなす〞と平和国家を目指した彼は、日本の芸能の祖とも言えると考えており、彼が打ったと言われる能面が伝わっていたり、側近の秦河勝に命じて雅楽や能を作らせたという話が残っていたりします。このように日本の伝統芸能文化の礎を作った聖徳太子の没後1400年を祈念し、特別な公演をやりたいと企画したのです」
本公演では能のみならず、狂言や舞楽といった多彩な演目が、一流の演者たちによって披露される。
「狂言は、唯一聖徳太子に所縁のある『太子手鉾(たいしのてぼこ)』。上演される機会が少ない作品を、野村萬斎が演じます。舞楽(雅楽に舞が付いたもの)については、聖徳太子が建立した四天王寺で日本の雅楽を1400 年にわたり継承してきた天王寺楽所雅亮会(がくそがりょうかい)をお招きし、聖徳太子が登場する舞楽『蘇莫者(そまくしゃ)』を能舞台で演奏していただきます。これも宝生能楽堂では初めての試みです。能は四天王寺での俊徳丸伝説を題材にした『弱法師(よろぼうし)』。落語や講談にもなっているのですが、これを観世銕之丞(てつのじょう)氏のシテと私共の地謡という、観世流と宝生流の異流共演でお届けします。過去にこの曲を観世流と宝生流で上演したという記録が残っており、個人的にも『いつかやってみたい』と思っていた内容ですので、実現は嬉しいですね。
また小品の新作能舞として、私が『太子の心』を初演します。平和を以て国を治めること、また芸術文化を以て人の心を豊かにすることを目指した聖徳太子の心は、現代の我々に生き方を改めて問うているように感じます。彼の想いに立ち返って私なりに咀嚼し、物語仕立てで語るような作品にしたいと考えています」
厳しい現状で、芸術の役割を一層認識するようになったと語る辰巳氏。
「かつて芸術文化は、〝祈り〞の手段でした。優れた作品を観て、笑ったり泣いたり感動したりできるのは人間だけ。それはとても素晴らしい特性ですし、私は芸術文化が人間に与えるパワーを信じています。自分たちの存在意義を懸けてやりたい」
(取材・文:木下千寿 撮影:平賀正明)
プロフィール
辰巳満次郎(たつみ・まんじろう)
1959年生まれ、東京都在住。シテ方宝生流能楽師。
4歳より父・辰巳孝に師事。また、18代宗家宝生英雄にも師事。東海道を中心に、国内外で公演や実技指導など、多様な普及活動を精力的に行っている。重要無形文化財総合指定保持。文化庁文化交流使。公益社団法人宝生会理事。一般社団法人JACSO 理事長。
公演情報
JACSO特別公演 聖徳太子1400年紀 神仏の心
日:2021年10月9日(土)14:00開演(13:15開場)
場:宝生能楽堂
料:SS指定席12,000円 S指定席10,000円 A指定席9,000円
B自由席8,000円 学生自由席[26歳以下]2,500円(税込)
HP:http://www.jacso.jp/
問:JACSO(一般社団法人 日本芸術文化戦略機構) mail:support@jacso.jp