勢いのある若手舞踊家、演奏家による斬新な舞台 日本舞踊や三味線音楽をもっと身近なものに。そんな想いを込めて

勢いのある若手舞踊家、演奏家による斬新な舞台 日本舞踊や三味線音楽をもっと身近なものに。そんな想いを込めて

 日本人であれば誰しも、日本舞踊や長唄などといった三味線と唄の音楽があることはご存知だと思う。ところが舞台を観に行った経験やその知識となると、最早お手上げという方が多いのではなかろうか。日本の伝統芸能界を支える邦楽演奏家や日本舞踊家を輩出してきた東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業の若手が集まって結成した“蒼天”は、伝統芸能から距離があきがちな現代人にも、その楽しさと魅力を伝えようという気持ちから結成されたグループだ。メンバーの中から日本舞踊家の藤間直三、長唄三味線方の松永忠三郎のお2人に、結成のいきさつや舞踊、長唄の魅力について話を伺った。


―――コロナ感染症が広まって、あらゆるジャンルの公演や演奏会が中止や延期となりました。日本舞踊や伝統音楽で活躍される皆さんにも影響はありましたよね。

藤間直三「そうですね。公演や演奏会がなくなるということは、演奏家や舞踊家も活動できる場所もなくなってしまうということですから、もちろん影響はありました。特に20代から30代は、本来たくさんの経験を積むべき時期なのですが、そういった場もなくなってしまったのです。そんな状況の中でしばらくコロナ禍をすごし、ただ機会を待っていていいのだろうか、機会がないなら自分たちでつくり出すしかないのではないか、そう考えはじめたのです。先が見えず暗くなりがちな時期でもあったので、皆さんに伝統芸能の力で少しでも元気になっていただきたいとも思いました。それがきっかけで、1回目の緊急事態宣言下で仲間と立ち上げたのが“蒼天”です。第1回目の公演は無観客の配信だけで行い、2021年の3月には同じ志を持った方に新たに加入していただき第2回公演に挑みました。忠三郎さんもその時に参加していただいたんです」

松永忠三郎「直三さんとは東京藝術大学音楽学部邦楽科の同窓で、僕の方が1学年上でした。藝大は前後1年くらいの先輩後輩の付き合いが盛んなので、行事や飲み会(笑)などでよく一緒になっていた仲間です。配信公演をした話は聞いていましたが、2回目に声をかけてもらい、やはりコロナ禍という状況で、受け身ではなく自分たちで発信して仕事をつくり出していくべきだと思って参加しました」

―――正直なところお2人と同世代、またはそれより若い世代には舞踊や三味線音楽などの伝統芸能はちょっと遠い存在かと思います。どういった魅力があるか教えてください。

直三「日本舞踊はもともと歌舞伎から派生しており、歌舞伎の舞台と密接な関係にあります。まずは踊りの美しさ、歌詞が表現する物語、きらびやかな衣裳や鬘(かつら)などの華やかさは魅力でしょうね。それから、現代人は日常の生活でも着物離れといいますか、着物に親しむ機会が少なくなってきています。でも、日本舞踊の場合は着物での表現がほとんど。その様式美といいますか、日本文化ならではの魅力に触れられるのも醍醐味です。そういった魅力を、わかりやすく多くの人に発信したいですね。また、西洋のダンスとは身体の使い方、リズムの取り方などまったく違っていて、そこも面白いと思います」

忠三郎「三味線音楽はいくつかありますが、昨今だと津軽三味線が一番知られているでしょうね。でも私たちの長唄三味線は、細棹という三味線を使う繊細な表現が魅力です。パワーでこそ津軽(こちらは太棹)に負けますけれど、繊細な中にも若い人が反応しそうな格好良いフレーズがあったりもします。また江戸時代から当時の流行を取り入れて、変化しつつ育ってきた芸能でもあるんです」

―――特に舞踊というと女性の習い事のイメージも強いですね。

直三「そうかもしれませんね。先ほどお話しした歌舞伎は、基本的に男性しか舞台に立てない中、日本舞踊は女性も舞台に立つことができるのが魅力のひとつでもあり、習い事としても大変普及しました。昔は、街中で三味線音楽が聞こえてくるのが普通だったそうです。また、女流の舞踊家ならではの作品やその感性には、歌舞伎の女方とはまた違った魅力もあります。
 現在は、親しむチャンスが少なくなってしまいましたが、こういった魅力のある芸能を将来的にあらためて日常的なものにしたいです。そのためにも僕たちの世代が頑張らないといけないと思います。知ってもらうには楽しんでもらえるもの、さらに自分たちが楽しめるものを提供しないといけなとも感じています」

忠三郎「三味線もじっくり聴いてみると面白いし、格好良い曲や場面もあるんですが、なかなか長唄への興味が高まらない。長唄や歌舞伎を定期的に楽しむ方はなかなか増えないですね。だからこそ、その楽しさを広めていきたい気持ちがありますし、自分で演奏するときはどんなお客さんがいらっしゃっているかを凄く意識して、客層で演奏もいろいろ変えるなど工夫を凝らします。小中学校での学校公演に伺う機会も多いのですが、難しくなく、単純に格好良いと思ってもらえるように心がけています。それが未来につながると思いますから」

直三「お客さまを育てるというよりは、我々の芸能への橋渡し役だと思っています。だからエンターテインメント性も考えて、受け手のことを考えるようにしたいと常日頃から思っています」

―――演目も日本舞踊や長唄などについての解説となる「ワークショップ」。名曲をメドレーで楽しめる「吹寄せ」。新しい試みに挑む「新作二題」。そして新作舞踊と、なかなか盛りだくさんですね。

直三「新作舞踊の『蠍と蛙』は現代人でも理解しやすいように歌詞にも現代語を採り入れて創りました。さらにコロナ禍での私たちの想いものせています」

―――皆さんの熱意通り、日本舞踊や三味線音楽に触れる絶好の機会になるかと思います。

直三「そもそも僕たちは魅了されてこの世界にいますから、日本舞踊も、その音楽も大好きなんです。だから、この世界をどのようにお客さまに理解してもらえるか、そして共有できるか……いつも頭を悩ませています。とにかく単純に楽しんでいただきたいですね」

忠三郎「初めて邦楽を聞かれる方がたくさん来ていただけると、より嬉しいですね。もちろんお好きな方にもおいでいただいての話ですが(笑)。初めてのご来場でもきっと魅了される部分があるはずです。こういったかたちの公演はなかなかないので、ちょっとでも『どうしようかな』と悩まれたら、是非お運びください」

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

松永忠三郎(まつなが・ちゅうざぶろう)
東京都出身。幼少の頃より長唄三味線を父・八代目松永忠五郎に手ほどきを受け、同時期に長唄を故・今藤綾子に師事。現在は三味線を松永忠一郎、八代目杵屋勝三郎に師事する。2012年3月東京藝術音楽学部邦楽科を卒業し、2013年からは「キッズ伝統芸能体験」の講師に就任する。2017年9月、四代目松永忠三郎を襲名する。現在、歌舞伎や舞踊会の地方、演奏会、テレビ、ラジオ等にて活動中。

藤間直三(ふじま・なおぞう)
1992年東京都出身。故藤間秀三に師事。現在、藤間秀之助に師事。2014年、東京藝術大学音楽学部邦楽科日本舞踊専攻卒業。東京新聞全国舞踊コンクール邦舞第一部一位、文部科学大臣賞受賞。 公益社団法人日本舞踊協会主催の新春舞踊大会で大会賞、会長賞など受賞。その他、多数舞台、TV出演、振付・演出にもたずさわる。2022年に上演予定の日本舞踊未来座=才(SAI)=の日本舞踊『銀河鉄道999』で主役の星野鉄郎役に抜擢。

公演情報

蒼天『第三回蒼天公演』

日:2021年12月26日(日)
場:日本橋社会教育会館 8階ホール
料:3,000円(全席自由・税込)
HP:https://www.facebook.com/%E8%92%BC%E5%A4%A9-104267737973902/?_fsi=Diwndeq4
問:蒼天
  mail:souten.souten8@gmail.com

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