大賞受賞作『立石ロッキー』を一般公募キャストで上演! 葛飾に生きる人々のふれあいを描く「かつしか文学賞」舞台化企画第4弾

大賞受賞作『立石ロッキー』を一般公募キャストで上演! 葛飾に生きる人々のふれあいを描く「かつしか文学賞」舞台化企画第4弾

 葛飾区が「文化芸術創造のまちかつしか推進事業」の一環として実施している文化芸術創造事業「かつしか文学賞」。葛飾をテーマに作品を公募し、大賞作品を脚本・舞台化。平成24年の第1回開催から3年に一度上演を繰り返し、好評を博してきた。
 第4回開催を迎える今回の大賞受賞作は、立石育ちのボクサーを描いた『立石ロッキー』。監修・佐藤B作、演出・永井寛孝、脚本・シライケイタのもと、一般公募によりオーディションでキャストを選出し、半年間にわたる稽古を経てこの秋上演を迎える。


――― 「かつしか文学賞」舞台化第4弾となる今回、オーディションには100名以上の応募があったそうですね。

永井「一般の方はもちろん、なかにはプロダクションに入っている人もいたりと、本当に様々な方が応募してくださいました。審査の内容は演技と歌で、みんなが知っている曲ということで『ドレミの歌』を課題曲にしています。演技と歌の審査を一人ひとりしていったのでかなり時間がかかり、朝10時から始めて終わったのは夜の8時近くになってしまいました(笑)」

シライ「審査で僕たち3人の意見が割れることはほとんどなくて、“この人いいね”という方はだいたい一致しましたよね」

佐藤「僕がオーディションで見るのは上手い下手よりもまず人間性。オーディションの最中は、審査中の方よりも、むしろ後ろで待機している方を注意して見ています。“面倒見の良さそうな人だな、みんなと力を合わせることに前向きな人だな”とか、瞬時に人柄が見える時があって、そういうことが感じられると僕はいいなと思ってしまう。芝居の上手下手は時間をかければある程度なんとかなるけど、ひとつの物を作るにはみんなで力を合わせる必要がありますから」

シライ「こういう市民劇って大事なのはまず人柄で、いい人が集まってくれないと現場が混乱してしまう。僕も以前別の作品で“あの人は個性があって面白い”と採用したら現場が大変になったことがあって、そこで人柄が大切なんだと学びました(笑)。みんなで助け合い、お互い思いやりをもってやりたいですよね」

永井「最終的に採用したのは約30名。上は70代から下は16歳の高校生までと幅広い層になっています。いい方に集まっていただいたなと思いますし、実際稽古場の空気もいいですね」

――― 原作は大賞受賞作『立石ロッキー』。シライさんが脚本を手がけていますが、その際こだわったこと、苦労されたことはありますか?

シライ「原作を読んで最初に感じたのが、いろいろなエピソードを盛り込みつつ、その一つひとつがしっかり丁寧に描かれているなということでした。ただ芝居にするには台詞で喋って2時間内に収めなければいけないので、脚本に入れられる情報量は1/10くらいになってしまう。原作者の書かれた熱い想いを大切にしながら、どこを抽出するか取捨選択していくのがやはり苦労したところです。原作の魅力を最大限に汲み取ったつもりですが、原作者の方に喜んでいただけるかどうか凄くドキドキしています」

永井「原作を読むとどの人物にも愛が込められていて、バックボーンが一人ひとり詳しく書かれてる。あれを舞台にするのは大変だったと思います。加えて随所に歌が散りばめられていて、いい台本になっていましたよね」

シライ「歌も苦労させられたところです。1曲3分でも10曲あると30分になるので、芝居の部分がさらに減ってしまう。歌で場面転換するなど、いろいろ工夫しつつ盛り込んでいきました。ただ作詞は楽しかったですね。歌も見所ということで、ぜひ注目していただけたらと思います」

佐藤「みなさんが楽しく取り組めるよう、歌と踊りのシーンをなるべく多く入れてもらいましたが、実際みんな歌と踊りになるとはしゃぐんですよね(笑)。ただ今回は芝居のシーンもかなりあるので、また一つ新しい挑戦なのかなという気がします」

――― それぞれ配役はどのようにして決めたのでしょう。

永井「あれは失敗したなぁと自分でも思うけど、キャスティングをする前に『演じてみたい役があったら希望を伝えてください』とみなさんに言っちゃったんですよね……」

シライ「『希望を聞き出すと大変ですよ、絶対にやめた方がいいですよ』って僕も止めたんですけど……」

佐藤「僕は自分の劇団では絶対に役者の意見は聞きませんよ。希望を聞き出したら大変ですから(笑)」

シライ「この役にはこの人が最適と思っても、本人が違う役をやりたいと希望するようなこともあるだろうし、調整しだすときりがない。これは大変なことになるぞと思ったけれど、やはりそこは永井さんの優しさですね」

永井「自分で自分の首を絞めてます(笑)。でも言っちゃったからには聞かない訳にはいかない。希望の役を書いて提出してもらいましたが、結局何の役でもいいと書いた人は3人くらい。人気のある役は7人くらい希望者がいて、反対に全く希望者のない役もいくつかありました。一番人気はやっぱり主役ですね。実際主役に配役したのは元会社経営者の男性で、一旦社長業から離れたのを機に前々からやりたいと思っていた芝居に挑戦されたということです」

シライ「なかなか芝居上手ですよね」

佐藤「シャドーボクシングもサマになってたし」

永井「経験者らしいですよ。ボクサーの話なのでやはり形にならないと難しいので、それもあってキャスティングしています。ほかに格闘技の経験者もいましたが、そちらは本格的すぎて(笑)、今回はごめんなさいということにさせていただきました」

――― これまで3回上演を繰り返してきたなかで、特に想い出深いエピソードはありますか?

佐藤「第1回公演の主人公はもともと男性の設定でしたが、オーディションで“この人すごくいいね!”という女性がいて、結局女性を主役に変えてしまったことがありました。バイタリティのある女性で、彼女は本当に頑張り屋でしたね」

永井「適当にボケてるし、現場の空気も良くしてくれて(笑)」

佐藤「稽古が終わると近づいてきて『相談があります』と言う。『何?』って聞くと『飲みに行きませんか』と誘われる。これが毎回(笑)」

永井「どれだけ飲みに通ったことか(笑)」

佐藤「彼女とは付き合いが深くなって、結婚式に呼ばれてスピーチもさせてもらいました(笑)。今はお子さんがいて、しょっちゅうメールで近況報告してくれます。彼女に限らずキャストのみなさんと飲みに行くことは多かったし、打ち上げは毎回必ずやっていましたね」

シライ「僕も前回打ち上げに参加しましたが、まだコロナの前だったので大盛り上がりで、みんなとすごく仲良くなって。その後僕の芝居を観に来てくれた人もいて、あれは本当に嬉しかったです 」

佐藤「打ち上げの席は毎回大変で『なんで私はあの役だったんですか?』『ダメ出しをしてください』『私のお芝居どうでしたか?』とか一人ひとり言ってくる。昔は『お前なんかダメだ、辞めちまえ』って鼓舞する時代もあったけど、今そんなこと言ったらみんな本当に辞めてしまう。プロの役者でもそう。だから僕は褒めちぎりますよ。そこに自分の才能が出ますから。それも相手が納得いくことを言えるような人間にならないと(笑)」

シライ「役者の『私どうでしたか?』は“褒めてください”ですから。そこで本気のダメ出しはしちゃいけない(笑)」

佐藤「ただ高校生の男の子から『弟子にしてください』と言われたことがあって、その時はさすがに『いやいやそれはまずいよ君、人生は長いんだよ』と諭しましたけど(笑)」

永井「だけど年代の違う人達と飲んで話すと楽しいですよね。そこで見えてくる部分もあるし。今回は飲み会や打ち上げができないのが残念だけど」

シライ「同じ業界だとどうしても仕事の立場とかいろいろしがらみが出てしまう。だからこういう風に純粋に人間同士で付き合える場はすごくいいですよね」

佐藤「みなさんいろんな生き方をしてきてるから、話をすると本当に勉強になる。それにこういう風に楽しく芝居に取り組んでる人たちを見ると、やっぱり考えさせられますよ。なんで自分は稽古が嫌いなんだろう、とかね(笑)」

――― アマチュアの方を指導する上で、苦労することはないですか?

永井「例えばいい思い出作りのために一度芝居をしてみたかったという方もいたりと、この公演は一人一人目的が違う。全員がプロなら目指すものがはっきりしているけれど、様々な人が集まっているので、いかに同じ方向を向いてまとまっていけるかという空気作りが難しいですね。僕の一番の課題は、みなさんが楽しんで稽古に参加できるようにすること。稽古を休まれるとショックなので(笑)、行きたくなる稽古、休みたくなくなる稽古を目指しています」

佐藤「芝居経験がほとんどない人たちを相手に稽古して、観せられる芝居にするというのが最も大変なところ。彼等と一番対峙するという意味でも、一番苦労しているのは永井君ですよね」

永井「もちろん思うようにいかないこともあるけれど、そういう時は自分のせいだと考えます。全員がプロフェッショナルなら『自分で考えてくるんだよ、いちいち答えを要求してはダメだよ』と言えるけど、この集まりで『何でできないんだよ』と言ってしまったらおしまいですから。なかには年上の方もいますし、この人にはどう言ったらいいだろう、どう伝えたらいいだろう、というのは常に考えます」

佐藤「永井君が素晴らしいのは偉そうにしないところ。本当にフランクにみんなと付き合える。懐が広いというか、すごいなっていつも思いますね」

――― 稽古の様子はいかがですか? 現場の手応えと、本番への期待をお聞かせください。

永井「みなさん前向きでありがたいですね。キャスティングを発表したときはすごく心配して、役がつかなかった人たちがやる気をなくすかもしれないということも覚悟していましたから。ただその人たちが歌や踊りで活躍してくれるからこそ、役がついてる人も頑張らなきゃって思える。だからみなさん一人一人大切な存在です。
 今回稽古をしていて“この人大丈夫かな?”という方は全く見当たらないので、そういう意味ではちょっと期待できるのではと思っています。同時にレベルアップするには自分自身も頑張らないといけないなと責任を感じています」

佐藤「今の雰囲気のまま、明るく前向きで、お互い助け合っていけたらと。そして最後に“参加して良かったな”と思える芝居になったらいいなと思います。みんなご自分の家族や知り合いが観に来るでしょうから、『ちょっと俺いいだろ?』って自慢できる舞台にしたいですよね」

シライ「歌もみんな上手だし、振り付けも面白い。脚本を書いた時のイメージをより膨らましてくれていて、すごく感動しています。人が集まって物を作る現場ってやっぱりいいですよね。本番は僕も家族で観に来るつもり。元気になれる芝居だと思うし、ひたすら楽しみにしています」

佐藤「毎回お客様の反応も良く、本当に感動したと言われます。僕なんかも自分で作っておきながらいつも感動させられてます(笑)」

永井「毎回うるっとしていますよね(笑)」

佐藤「みんなが力を合わせて頑張ってる姿、あれはたまりませんね。演劇というのはもともとそういう要素があるものだけど、特にプロでもない方々が仕事や家庭の時間を割いて演劇に取り組もうという姿勢に打たれてしまう。今回もみなさんのそんな姿を見せてもらえたら本当に嬉しいですね」

(取材・文:小野寺悦子 撮影:佐藤雄哉)


プロフィール

佐藤B作(さとう・びーさく)
 劇団東京ヴォードヴィルショー主宰。 1973年の結成以来、誰にでもわかる喜劇を追究し続けている。その活動は舞台のみに留まらず、ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』、『八重の桜』や、映画等映像作品にも数多く出演。
 2004年第1回日本喜劇人協会特別賞受賞。12年『アパッチ砦の攻防』で第19回広島市民劇場賞男優賞、岡山市民劇場賞男優賞受賞。14年『その場しのぎの男たち』で岡山市民劇場賞男優賞受賞。劇団として『パパのデモクラシー』、『その場しのぎの男たち』で第48回紀伊國屋演劇賞団体賞受賞。

永井寛孝(ながい・かんこう)
 俳優・脚本家・演出家。1978年劇団テアトル・エコー演技部入団。88年退団後、俳優・田中真弓、音楽家・竹田えりとオリジナル歌芝居集団『おっ、ぺれった』を旗揚げ。99年テアトル・エコー文芸演出部に再入団。
 劇団テアトル・エコー、WAKU、劇団俳協、劇団風の子、劇団道化、劇団東京ヴォードヴィルショー、コメディオンザボード(旧マルセカンパニー)他プロデュース公演などをはじめ、Eテレ『あつまれ!ワンワンわんだーらんど』(~2015)、『おかあさんといっしょファミリーコンサート』(2015)の演出等でも活躍。

シライケイタ(しらい・けいた)
 演出家・劇作家。劇団温泉ドラゴン代表。桐朋学園芸術短期大学演劇専攻在学中に、蜷川幸雄演出『ロミオとジュリエット』パリス役で俳優デビュー。2011年より劇作と演出を開始。温泉ドラゴンの座付き作家・演出家として数々の作品を発表。生と死を見つめた骨太な作品作りが特徴。
 「若手演出家コンクール2013」において、優秀賞と観客賞。2015年、『BIRTH』で韓国・密陽演劇祭において戯曲賞、第25回読売演劇大賞にて杉村春子賞受賞。2019年度読売演劇大賞においても上半期の演出家ベスト5に選出されている。2018年度より、セゾン文化財団シニアフェローに選出。日本演出者協会常務理事・日韓演劇交流センター理事を務める。日本劇作家協会会員。


公演情報

第4回かつしか文学賞『立石ロッキー』

日:2021年9月19日(日)・20日(月・祝)
場:かめありリリオホール
料:一般1,500円 
  高校生以下1,000円(全席指定・税込)
HP:https://www.k-mil.gr.jp/bunka-souzou/
問:かめありリリオホール チケットセンター tel. 03-5680-3333

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