港町へ向かう列車の中で、接点のなかったはずの5人の思いが絡み合う オーストラリア戯曲に挑む演出家、和田憲明が創り上げる、重厚な劇的空間

港町へ向かう列車の中で、接点のなかったはずの5人の思いが絡み合う オーストラリア戯曲に挑む演出家、和田憲明が創り上げる、重厚な劇的空間

 演出家・和田憲明が手がける作品を上演するウォーキング・スタッフ プロデュースが今回採り上げるのは、オーストラリアの俳優・劇作家のレジ・クリッブによる「リターン(THE RETURN)」。2001年にシドニーで初演されたこの作品はオーストラリア演劇界で高く評価され、後に映画化もされている。
 出演者は5人だけ。オーストラリアの南西に位置する港町、フリーマントルへと向かう列車、その車両の中で繰り広げられる物語だ。どこにも逃げ場のない空間。否が応でも密度が上がる空間でのドラマを、常にリアリティを追い求める和田がどのように描いていくのだろう。列車に最初から乗っているふたりの前科者、スティーブとトレヴを演じる石田佳央と長村航希。そこに後から乗り合わせる主婦役の星野園美。そして演出の和田に話を訊いた。

―――まず和田さんがこの作品に取り組むことになったきっかけを伺います。

和田「以前上演された日本人キャスト版を観た若杉宏二さんが、お薦めしたい芝居があると言われまして。確か『三億円事件』の稽古の時だったかな。煙草吸っているときに「前から和田さんにやってほしかった」といわれました。最初に脚本を読んだときには難しそうだと思っていたんですが、今回ひとつ挑戦してみようかなと」

―――難しい作品、ということは?

和田「やはり翻訳モノということですか。どんな芝居も嘘を感じない会話が大事だと思っているのですが、翻訳モノは日本語に日常会話感を出すのが簡単ではないんです。あと電車の中で展開する芝居なんで、セットをどうするか考え込みました」

―――これまでのインタビューでも、度々役者選びの難しさを口にされていますが、ここに集まったメンバーは既に和田さんの舞台を経験した俳優さんばかりですね。

和田「一度一緒して良かった人はもちろんですし、一緒にやってもっと何か同じところを目指して取り組める人は僕にとって常に候補です。一番の条件と言えば役や考え方を理解して取り組んでくれることですね。いつも新たに一緒に取り組める人が出てこないかな、と思っています。今回は色々なバランスを考えて選んだメンバーになりました」

―――長村さんは『さよなら西湖クン』に出演されて、2度目の登板になりますね。あの舞台での印象と今回の抱負を訊かせてください。

長村「あの舞台、僕はずっと楽しかったですね。でも和田さんからは伝えきれなかったとも言われましたし、自分自身もまだまだ心残りな部分が稽古から本番を通じてありました。だからこそ今回は頑張っていきたいと思ってます」

―――石田さんはこれまで『三億円事件』など3作品で和田さんの舞台に参加されています。

石田「僕は正直に言うと、1本目で和田さんとものすごくぶつかった記憶があって。それは和田さんが一貫して言う役者に求める芝居のやり方が、僕はやっているつもりでも和田さんにしてみればそれは違う。僕自身そこが理解できない時期があったんです。だからその時は楽しくなかったですね。次の作品で声を掛けてもらったとき一度お断わりしたぐらいですから(笑)。
 でも脚本だけでも読んでくれと言われて読んでみるとこれが凄く面白くて。“ぜひやらせてください!”とお受けしたら今度は褒めてもらえて、自分の中でも理解できた感じがありました。そしてその感覚でやってみると面白いし、他の現場でもいかされました。これを突き詰めたらもっと自由になれるんじゃないかと思っています。演じること……いや、演じないことかな。それを今回も自分の中で追求したいです」

星野「私は和田さんがウォーキング・スタッフプロデュースを始めた初期にお世話になっています。だからいまやれること以上のことをともかく頑張ろうと思っていて。作品は毎回拝見してお話ししてもいるんですが、一緒に作品に取り組むのは久々なんです」

和田「今現在の星野がどんな状況なのかわからない状況だったんですが、様子を聞くとモーリーン役に良いかなと思って」

―――劇場は小劇場B1ですが、これも作品との親和性があって決めたのでしょうか。

和田「特に強い拘りが会ったわけではないですが、この芝居を考えたらなんとなく、劇場と言うよりも空間、スペース的な小劇場B1が合っているかと思って」

―――これまでの上演時間も1時間半くらいとのことで、非常に密度の高い作品になりそうですね

和田「僕が創ると不思議に長くなったりすることもありますけれど(笑)」

―――そんな作品に取り組む皆さんの今の気持ちや抱負を訊かせてください

長村「どうも一度も暗転がないようなんです。そんな芝居は観たことないですし、一度出てくると最後まではけないというので、凄くスリルを感じています」

石田「一度もはけないというのはねえ……僕はお腹が弱いのでトイレにだけは気をつけようと(笑)。本当に劇場に足を運ぶのもパワーが要る昨今ですが、それでも来てくれるお客さまには良いものを届けられるようにと常に思っていますので みんなで一丸となってやれれば良いなと思います」

星野「私も出たら出っぱなしという作品が初めてで、翻訳モノが凄く苦手でもあり、さらに和田憲明さんの舞台ということで、頑張らなくてはいけないハードルが沢山在ります。その中でどこまで頑張れるかと思います。でもお客さんにはそんな頑張る姿を見て欲しい、とかではなく、純粋に作品として楽しんで頂ければと思います」

和田「まだコロナ禍の影響でお客さんを入れられる数の制限などがあって、それは確かに寂しいことですが、余り気にしていません。状況がどうあれやるべきことは決まっていますから。やりにくいのは稽古くらいですか。マスクをつけての稽古は最初抵抗がありましたけれど、慣れてしまうモノですね。マスクをつけていてもいい芝居をすればいい気持ちだし、悪い芝居ならむかつきますから(笑)。あんまり関係ないみたいですね(笑)ともあれ自分が作って良かったと思えることを目指してやっていきたいですね」

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

和田憲明(わだ・けんめい)
大阪府出身。1984年に劇団ウォーキング・スタッフを結成し劇作と演出を手がける。並行してTHEATER/TOPSのスタッフとして数多くの劇団を同劇場に招致する。1999年からはプロデュース公演に移行し、同年に発表した『SOLID』で第7回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞。その後も演劇界で注目される蓬莱竜太、田村孝裕、野木萌葱、牧田明宏、池内風などの作品や海外戯曲の演出の舞台を手がける。
 またリーディング公演などの新たな試みにも積極的に挑戦し、2015年には、ベストセラー『嫌われる勇気』を戯曲化・演出し、好評を博した。読売演劇大賞では『SOLID』以降も、2014年『304』(蓬莱竜太作)で優秀演出家賞。2016年『三億円事件』(野木萌葱作)で優秀作品賞。2017年『怪人21面相』(野木萌葱作)で優秀作品賞・優秀演出家賞を両部門においてダブル受賞した。また『三億円事件』再演(2019)では、令和元年度(第74回)文化庁芸術祭賞 演劇部門優秀賞も受賞している。

石田佳央(いしだ・よしひさ)
千葉県出身。モデル事務所にスカウトされたことをきっかけに、活動をスタート。数々のCM・雑誌・ショーで活躍。03年につかこうへい劇団の11期生として、役者の道へ。06年からは演出家・蜷川幸雄のもとで、数多くの舞台に立つ。これまでにウォーキング・スタッフ プロデュース作品には『三億円事件』を始め3作品に出演している。

長村航希(おさむら・こうき)
愛知県出身。子役として劇団四季のミュージカル『ライオンキング』にてヤングシンバ役で出演。その後はテレビドラマ・映画に多数出演、代表作に『ゆとりですがなにか』『詐欺の子』などがある。和田憲明の演出作品には『さよなら西湖クン』に続いて2作目の出演。

星野園美(ほしの・そのみ)
埼玉県出身。劇団フロントホックを経て、星屑の会、などに参加。その後舞台、映像に活躍の場を広げている。主な映画に『渇き。』『朝が来る』などがある。『SOLID』(第7回読売演劇大賞優秀作品賞)、『祝いの月/アリゲーターダンス3』などウォーキング・スタッフ プロデュース初期作品への出演も多く、これまでに6本の和田憲明演出作品に参加している。

公演情報

ウォーキング・スタッフ プロデュース『リターン THE RETURN』

日:2022年5月14日(土)~22日(日)
場:下北沢 小劇場 B1
料:一般 前売4,000円 当日4,500円
  U25[25歳以下]2,500円
  ※要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://www.walking-staff.com/
問:ウォーキング・スタッフ  
  tel.03-5797-5502(平日13:00~18:00)

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