旅情を誘うボヘミアンの旋律が聖堂に響く ボヘミアンが生み出す奇跡のコンチェルト

旅情を誘うボヘミアンの旋律が聖堂に響く ボヘミアンが生み出す奇跡のコンチェルト

 ヴァイオリニスト兼作曲家として活動するBohemianist MasahiRo(ボヘミアニスト マサヒロ)。その音楽は東欧の流浪の民「ボヘミアン(ジプシー)」の民族音楽に色濃く影響を受け、確かな技術と相まって自由と孤高が同居した唯一無二の音世界を生み出す。
 東京シティフィルハーモニック管弦楽団をはじめ多数のオーケストラと共演してきたピアニスト・斎藤真理恵とデュオを組んだ『Private Note Live』は2018年夏の初演以降自主公演のみならず、コンサートホールのこけら落としや、記念公演など約50公演をおこない、多くの観客を魅了してきた。
 2021年9月。2人が挑むのは音の教会としても名高い「ルーテル市ヶ谷ホール」でのステージ。副題にもなっている「~祈りのコンチェルト~」はコロナ禍に苦しむ私達に音楽で一筋の光をもたらしてくれるに違いない。


サグラダファミリア教会のイメージで
――――2018年に始まったPrivate Note Liveが~祈りのコンチェルト~という副題で9月に上演されます。本公演の内容とこれまでの公演との違いはありますか?

MasahiRo「これまではコンサートホールでの開催が中心でしたが、今回は初めて教会で開催します。教会の雰囲気に合わせて曲目もバロック音楽のテイストを入れつつ、民族音楽とのフュージョンを醸し出せたらと思っています。格式のあるクラシックと自由な民族音楽は対照的な存在ですが、初めての試みとして両者の良いところを組み合わせることができればと思っています。また、一日も早いコロナ禍の収束への思いも副題の~祈りのコンチェルト~に込めました。斬新な挑戦だけでなく、ヴィヴァルディやバッハといった多くの方が知っている曲も入れつつ、スペイン音楽のテイストも取り込みながら、バルセロナのサグラダファミリア教会のイメージを作っていけたらなと思っています。また、今回は次作の祈りのコンチェルトを初演いたします」

斎藤「1年半以上続くコロナ禍で多くの方が疲弊しきっていて、その重い空気はますます広がっていると感じます。私達音楽家も同じく苦しい時間を余儀なくされていますが、それでも何か出来ることはないかと考えて、演奏を通じて少しでも皆様に元気や勇気をお届け出来ればという思いを強く持って今回のステージに挑もうと思います」

疎外や孤高がテーマ
――――4歳からクラシックヴァイオリンを始められたMasahiRoさんですが、「Bohemianist」という肩書はご自身の人生とも深くかかわっているそうですね。

MasahiRo「『ボヘミアン』と『ヴァイオリニスト』を組み合わせた造語です。『ジプシー』や『ロマ』という言葉はあまり日本人にはピンとこない。そこでエキゾチックで自由奔放なという意味を持つ『ボヘミアン』がいいかなと漠然と決めました。民族音楽との出会いは浪人時代に母の仕事のカバン持ちとして地方への出張によくついていっていたのですが、普通に半日近く駅で待たされることもありました。家が医者の家系で医大受験に失敗したことで、『あいつはダメだ』みたいなレッテルを貼られて、一体俺は何をやっているんだろうという疎外感を感じていたときに、CDプレーヤーに入れていた『ツィゴイネルワイゼン』がすっと心に入ってきたんですね。僕自身が自由になりたいという願望と自由を謳歌する曲調が不思議と合ったのだと思います。そこからヴァイオリンの演奏を本格化させていったのですが、『せめて大学だけは出て欲しい』と親から説得されて、大学入学の約束は果たしました。音楽性という意味でも浪人時代の心情は色濃く反映されていて、それが自分の音楽のテーマとして、『疎外』や『孤高』といった言葉がテーマになっています」

気が付けばステージに上げられていた
――――その後はロマ音楽の本場、ハンガリーでもコンサートを開かれています。

MasahiRo「クラシックヴァイオリンは音大の先生に師事をしていたのですが、民族音楽はCDを聴いて独学で勉強していました。すでに音楽活動はしていましたが、一度本場の東欧を体験してみようとハンガリーへのツアー旅行に参加したんですね。ツアー中の休憩所で添乗員さんと『何をされている方ですか?』という世間話になった時に、学生ですが音楽活動をしていますという会話になったら、『次に行くハンガリーで地元の楽団のコンサートがあるので良かったら参加してみませんか?』と言われて。まぁ冗談だろうと思っていたのですが、現地の夕食会場でいきなり『ではお願いします』みたいな流れになってステージに上げられたのは驚きましたね。もうやるしかないなと(笑)。
 即興だったのでとりあえずハンガリー舞曲を弾いたら、楽団が自然とついてきてくれて結果的にかなり盛り上がりました。そうしたら翌日にさらに格式のある楽団を紹介されて『ギャラを払うからもっと演奏してくれないか』と頼まれて、いつの間にか“僕と行く東欧コンサートツアー”に趣旨が変わってしまっていましたね(笑)。帰国後も『次のツアーでも是非!』なんて有難い依頼もあったのですが、演奏に没頭するがあまり、本来の勉強が疎かになってしまっていたので、暫くは学業に専念しました」

真っ先にこの人だ!
――――お二人の出会いはオーディションだったとか?

斎藤「横浜市の関内ホールの依頼で新人発掘を目的としたプロジェクトのプロデュースを任されました。私の中でコンクールでの実績よりも、埋もれている中でも何か1つでも人より秀でているという情熱のある人を発掘したいという思いがあって、その時にMasahiRoさんが応募されてきました。
1次はテープ審査だったのですが、聴くやいなや驚きましたね。真っ先にこの人だ!と。
 他にも優秀な方も沢山いらしたのですが、合格者による披露演奏の際にもMasahiRoさんは飛びぬけていて、会場が総立ちで喝采を贈るほどでした」

MasahiRo「いや、お客さんが良かったんですよ! 会場付近で独自でチラシを配って、ゲリラ演奏会を開いた意味がありました(笑)」

斎藤「またまた謙遜を。MasahiRoさんは私の音楽生活の中でも初めて見るタイプの方です。最初の出会いはそれで一度終わったのですが、その10か月後ぐらいに初めてCDをリリースされて私に送ってきてくださったんです。その時にたまたま違う企画を抱えて出演者を探していたタイミングだったので、ダメもとでいかがですか?とお誘いしたら快諾してくださって。私も気軽な感じでお誘いしたのですが、有難いことにチケット発売から2週間で完売。会場も満席という反響を頂いて最後はスタンディングオベーションの嵐でした。それから2人で試験的に始めたのが現在に至る『Private Note Live』になります。毎回楽しみにしてくださるお客様のサポートもあって、コロナ禍で延期や縮小を余儀なくされた去年でも主催だけで12回も実施出来た事は有難いことです。
 彼の音楽の魅力はとにかく情熱が溢れているところでしょうか。クラシックという枠にとらわれずに、持てる全ての技術を駆使して自分を表現するその自由性も魅力ですね。情熱と哀愁漂う世界は不思議な癒しの効果もあるようで、公演を観たお客様の中には『腰痛を抱えていたけれども、音楽を聴いて体調が良くなった』という方もいらっしゃいました(笑)」

MasahiRo「そうそう! そう言えば最近、年齢層高めのお客様が増えたような気が……。アンケート欄にも『音楽は良く分からないけど、体調が良くなったよ』みたいな声もあって。神社みたいにご利益でもあるんでしょうか? 嬉しいけども何かフクザツだな(笑)」

斎藤「確かにそうですね。でも数年いらして頂いている方は表情がすごく明るくなった気がします。MasahiRoさんの音楽は間違いなく元気や癒しを与える力があるんでしょうね」

――――2019年には日本・ハンガリー外交関係開設150周年認定事業での公演で多くのメディアに取り上げられました。

MasahiRo「日本・ハンガリー外交開設150周年という節目にコンサートホールのラウンジでのステージだったのですが、非常に好評を頂くことができました。その後も度々、ハンガリー大使館後援によるイベントや公演を開催し、私達としても少しでも多くの方にハンガリー音楽を知ってもらえる社会貢献になればという思いは常に持っています」

ミスすら味わいにする
――――『Private Note Live』ならではの見どころはありますか?

MasahiRo「演目は会場の空気やその時の気分によって変わることがあります。最初はきっちりプログラムを作っていたのですが、公演ではあまりにも変わるので最近は準備するのをやめました。回によっては民族音楽が全くない公演もあります。根本には自由や哀愁、旅情といった感情があり、どのジャンルの音楽でも表現できるようにしています。ジャズ・クラシックもその手法の1つですね。だから2公演やると1回目と2回目では違いがあって、同じ曲目でも全く違う人が弾いているのを聴く感覚だそうです。気分が乗っていくと、ちょっとした弾き違いがあってもそれが味わいに聞こえるようですね。そこは単なるミスではなくて、ミスでも味わいになるように意図しています。その場の状況であの曲がどんな風に変化するのかも見どころの1つとも言えます。
 とは言え、ベースとなる演目はあってそれは当日決まる事が多いので、どんなラインナップになるかを予想しながら楽しみにして頂ければと思います。お客様もそれに慣れてきたのか、苦情はありませんけども(笑)」

斎藤「ほぼ毎回演奏する『ツィゴイネルワイゼン』も一度たりとも同じだったことはないです。言い方を変えればその時に一番合った曲調を楽しめると言えます。まずは演奏者の気分が乗らなければお客様も楽しませることができないし、来て下さったお客様の雰囲気も公演ごとに違います。そういった空気を感じながら舵を取っていくので、完全な気分だけでやっているわけではありません。私がピアノを演奏する上で、心掛けているのは彼の良さを消さないようにすること。MasahiRoさんはすごく音に敏感に反応してくれて、共演者の音に合わせるのがすごく上手です」

MasahiRo「確かに一見好き勝手にやっているように見えますが、僕の中では相手に合わせる事を考えています。斎藤さんの音楽も型にはまらないクラシックなので、割とやりやすいです」

クラシックですらボヘミアンに
――――最後に読者にメッセージをお願いします。

MasahiRo「不思議と僕らの公演に来て下さるお客様は構えて『さあ! 今から音楽を聴くぞ』というよりも何か1つの出し物を肩ひじ張らずに楽しみに来るといった方が多いような気がします。むしろライブハウスに来る感覚が近いかもしれません。1人で来られる方も多いですよ。チラシだけを見るとクラシックのイメージが強いかもしれませんが、僕としてはお堅いクラシックの曲ですらいかにボヘミアンにするかという1つの挑戦でもあります。最終目標は来て下さったお客様に少しでも元気になって帰ってもらうことであり、演奏はその手段の1つにしかすぎません。フィナーレでお客様の笑顔が見られたら、この公演の成功を意味します。会場でお会いしましょう!」

斎藤「そこが私と彼との共通目標であり、一致している所だと改めて感じました。だからジャンルが違っても何度も一緒にステージに立てる理由でもあります。音楽を楽しむのも1つですが、その場の雰囲気を楽しんで頂けると嬉しいです。今は配信も盛んですが、やっぱり生のライブに叶うものはありません。今回は教会ならではの反響や空気感など今までにない公演になると思いますので、皆様のご来場を心よりお待ちしております」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

Bohemianist MasahiRo(ボヘミアニスト マサヒロ)
1989年カナダ生まれ、4歳からヴァイオリンを習い始める。2009年東京オペラシティにてコンサートデビュー以来、自身の作曲・編曲作品を中心に精力的に演奏活動を行っている。ハンガリーにてロマ音楽家たちと共演した経験から、オリジナル曲の中にはロマ音楽から影響を受けた作品も多く、アルバムリリース(レーベル:Private Note Live)や楽譜(制作:カワイ出版)としても出版されている。特にリリースした自身の初作曲作品 “無伴奏ヴァイオリンのためのバラード” は、Apple Music(日本)の “インストゥルメンタル トップミュージックビデオ” でトップ10にチャートインした。また日本・ハンガリー外交関係開設150周年を迎えた2019年にYahoo!JAPANニュースをはじめ様々なメディアにも取り上げられ注目を集めた。2021年秋サントリーホールにて無伴奏リサイタルを予定。

斎藤真理恵(さいとう・まりえ)
フェリス女学院短期大学音楽科及び、同大学専攻科、研究科を首席で卒業。在学中、東京シティフィルハーモニック管弦楽団をはじめ多数のオーケストラと共演。卒業後、ボストン音楽院に留学しマスタークラスや米メリーランド大学ピアノフェスティバルにて演奏。これまでに浜離宮朝日ホール、王子ホール、東京オペラシテイなど著名なコンサートホールをはじめ新国立美術館や東京丸ビルなどでも演奏。2022年王子ホールにてソロ・リサイタル予定。

公演情報

Private Note Live ~ 祈りのコンチェルト~

日:2021年9月19日(日)15:00開演(14:30開場)
場:ルーテル市ヶ谷ホール
料:一般5,000円(全席自由・税込)
HP:https://privatenoteconcert.wixsite.com/officialwebsite/home-jp
問:Private Note Artists事務局 tel.090-4845-3348

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