能や狂言をモチーフにした、チェロとバレエで織りなす“美”の世界 「会場を、それぞれが磨き上げてきた表現を捧げる空間にする」

能や狂言をモチーフにした、チェロとバレエで織りなす“美”の世界 「会場を、それぞれが磨き上げてきた表現を捧げる空間にする」

 チェリスト 笹沼樹と気鋭の振付家とダンサーたちが、能と能舞台からインスピレーションを得て美の世界を構築するという意欲的な舞台が上演される。

笹沼「昨夏に初めてバレエとのコラボレーションを経験し、お互いに様々な形で密接に対話し、関係し合えるということに気づけたのは収穫でした」

 前回の振付・構成・演出を務めた石原一樹もこう振り返る。

石原「回を重ねるごとに、笹沼さんとダンサーたちが刺激し合い、舞台がよりエキサイティングになり、作品が深まっていったのが印象に残っています」

 今回のテーマは『捧げし者』。西洋楽器のチェロと西洋の踊りであるバレエが、日本の伝統文化や精神と出会ったとき、どのような変化が起こるのだろう。

笹沼「黛敏郎先生の『BUNRAKU文楽』は、この舞台に欠かせない楽曲。後に続くのも無伴奏チェロの楽曲ですが、各作曲家が生きた時代や国はまったく異なります。これらの楽曲が能や狂言といった題材と融合したときに、何か新しいものが作り出せるはず。それが非常に楽しみです」

 前回はダンサーとして出演、今回はダンスのほか振付も担当するのが、渡部義紀。

渡部「前作は近い距離に笹沼さんがいて、その息遣いと生音に背中を押され、一樹さんの振付に導かれて踊っていました。“僕であって僕ではない”感覚で踊れた、新鮮で楽しい経験でした」

 そして今回、初参加となるダンサーの1人が近藤悠歩だ。

近藤「普段はほぼクラシックバレエしかやっていないので、お声がけいただき驚きました。リハーサルではやったことのない動きがたくさん出てきて、身体に対する気づきや踊りについての発見があり、刺激的です」

 公演に向け目指すところは?

笹沼「意見を出し合って創り、舞台上でそれが昇華される瞬間に“僕であって僕ではない”境地にいることが、目指すべきところじゃないかと思います。義紀くんの言葉を借りました(笑)」

石原「出演者とスタッフ全員がひたむきに作品に取り組むことから生まれる美しさで、空間を満たしていきたいです」

渡部「肉体という器にモチーフの作品を落とし込む作業を、意識的にやっていきたいです。振付に関しては五感を研ぎすませて感じることを大切に、ダンサーを導いていけたらと思います」

近藤「振付される側は受け身になりがちですが、周りに負けないようしっかりエネルギーを出して取り組んでいきたいです」

(取材・文:木下千寿 撮影:友澤綾乃(渡部義紀・近藤悠歩))

春は出会いの季節。最近、新たに出会ったものorひとは?

笹沼 樹さん
「今年の春は、フランスとベルギーでヨーロッパの春をゆっくり過ごしました。パリのサルコルトーでのリサイタルや、新しい友人との出会いがあり、充実した時間になりました」

石原一樹さん
「アンドレイ・タルコフスキー作品は、以前からこの監督の作品は観た方がいいと尊敬するプロデューサーがお勧めくださったのですが、上演機会が限られておりなかなか観られずにいました。ようやくこの春にル・シネマ渋谷宮下で上演されていた『ノスタルジア』を観ることができ、スクリーンに映し出される映像や音の美しさに圧倒されました。重層的に組まれた表現の数々からは、何を物語るかだけでなく”いかに”描写するかの重要性が感じられます。今後は他のタルコフスキー作品もシアターで観ていきたいですし、『ノスタルジア』も繰り返し観ることで、見え方や自分自身の感じ方の変化を楽しみたいです」

渡部義紀さん
「今年に入ってからバレエのワークショップを始めました。最近ではレッスンを受講してくださる方が増え、沢山の“出会い”の経験をしています。出演する公演にも観に来てくださったり、様々なシーンで応援をしてくださり、僕の糧になっています。“どんどん新しい事に挑戦してもいいよ!”と背中を押してもらえている感覚なんです。素敵な出会いに感謝し、これからも応援して頂けるように精進していきたいと思います」

近藤悠歩さん
「去年の暮れに引っ越しをしまして、それに伴ってダイニングテーブルを買いました。前の家ではローテーブルで過ごしていたので、テーブルの前で椅子に座って過ごす時間が少し新鮮に感じられます。なんてことはない正方形で木製のテーブルなのですが、居心地がいいんです。おやつをほおばりながら読書をしたり、パソコンを置いてNetflixを見たり。家にいる時間がまた少し楽しくなりました」

プロフィール

笹沼 樹(ささぬま・たつき)
1994年生まれ、東京都出身。桐朋学園大学ソリスト・ディプロマ・コース修了、並びに学習院大学文学部卒業。桐朋学園大学大学院修了。現在、エコールノルマル音楽院に特待生として在籍中。堤剛、アンリ・ドゥマルケットに師事。

石原一樹(いしはら・かずき)
東京都出身。4歳からクラシックバレエを始め、東京バレエ学校にて首藤康之に師事。学習院大学経済学部卒業後、コンテンポラリーダンスを中心に、著名な振付家の作品に出演。2018年より振付家として創作活動を始め、多様な作品を生み出している。

渡部義紀(わたべ・よしき)
東京都出身。13歳よりバレエを始める。日本ジュニアバレヱを経てA.M.ステューデンツ28期生として入所。海外留学を経て、2015年に新国立劇場バレエ団に入団。2023年6月に退団後は、ダンサーおよび振付家として活躍中。

近藤悠歩(こんどう・ゆうほ)
東京都出身。7歳よりクラシックバレエを始め、東京バレエ学校にて学ぶ。東京藝術大学先端芸術表現科卒業。2017年、牧阿佐美バレヱ団に入団。『ドン・キホーテ』、『眠れる森の美女』、『飛鳥』、『白鳥の湖』など多数の作品に出演。

公演情報

笹沼 樹 チェロ 舞踊と紡ぐ美の世界 『捧げし者』

日:2024年5月9日(木)
  14:00/19:00開演(13:30/18:30開場)
場:横浜みなとみらいホール 小ホール
料:5,000円(全席指定・税込)
  ※未就学児入場不可
HP:https://yokohama-minatomiraihall.jp/concert/archive/recommend/2024/05/3281.html
問:CCJ(一般社団法人コレオグラフィックセンター) tel.03-4572-0600(平日10:00~18:00)

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