出口無き“孤立”の末に待つものは何か。そして何故迷い込むのか 綿密な取材に基づいて紡ぎ上げた、ニッポンのリアルがここに

出口無き“孤立”の末に待つものは何か。そして何故迷い込むのか 綿密な取材に基づいて紡ぎ上げた、ニッポンのリアルがここに

実際にあった出来事や事件をきっかけに、血縁や家族といった関係性の中で紡がれる物語を、決して派手ではないが実力のある俳優とともに送り出してきたTOKYOハンバーグ。俳優として活躍していた大西弘記が、自らの作品を上演するために旗揚げしてから15年。コロナ騒動を越えて新作を上演する。人が時折直面する孤立・孤独に向かうという今作について、劇作・演出の大西と、宮越麻里杏、堂下勝気、そして劇団員の吉本穂果に話を聞いた。


―――今回の作品は新作になりますか?

大西「新作ではありますが、実は昨年4月に公演中止にした作品です。その間にだいぶ手も入れています。この作品では人が感じる孤独や孤立に向き合いますが、“孤独死”もモチーフとして出てきます。元女優の劇作家が主人公で、その役を宮越さんにお願いしています」

宮越「ええ、主人公であり凄い葛藤を抱えた元女優の劇作家です。主人公がある出来事をきっかけに向き合う“孤独死”は現代の問題のひとつですし、自殺も含めて現在のコロナ禍で浮かび上がってきた問題だと思います。こういった作品を、大西さんはしっかり取材されて書くんです。
 今回もその特殊清掃の現場に行かれて。凄まじいところを見てきていますし。それでいてただ社会問題を押しつけることもしない。そして何より大西作品って面白いんです。それでいて意識を高く持っているんですね」

―――公演中止を受けて1年ほどの時間ができたわけですが、キャスティングには変更がありましたか?

大西「変更はしています。そもそも中止した時点では吉本はまだ劇団員ではなかったですから。やはり劇団員となると積極的にキャスティングしていきたいですから。そして時間が空くと同じメンバーでは難しい部分もあります。宮越さんは今回入っていただきましたが、堂下さんはそのまま同じ役でお願いしました」

堂下「僕は宮越さんが演じる作家の先輩に当たる役者、という役柄ですが、どうも大西さんがいらっしゃった伊藤正次演劇研究所の伊藤先生にイメージが重なるところがあるようです。というのも、ある観念的なセリフが気恥ずかしいと大西さんに言ったら『伊藤先生はそういう言葉を使っていた』と言うんです」

大西「少しですけど意識はしています。きっと研究所の仲間は堂下さんのこのセリフで伊藤先生を思い出すだろうと思います」

堂下「実は僕、先日身体を壊しまして、1ヶ月ほど入院していたんです。その時に自分のこれまでを……70年安保の頃に養成所に入って、その後青年座、そして蜷川幸雄さんとの出会いがあって、そこから石橋蓮司さん、緑魔子さんの第七病棟に参加して20年くらい活動して……とまあ自分史を見つめ直して病室で悶々としていました。役者として何を残したんだろうかとか。
 その入院のことは誰にも連絡しなかったのに、手術2日後くらいの夜、大西さんから電話が入ったんです。そこで大西さんに思いを延々と話すと、僕の話を延々と聞いている彼の姿が電話の向こうに見えた気がしました。他者に寄り添う、その寄り添うとはどういうことかを実体験した気がしました」

大西「公演を中止してまだ先が見えなくなりましたが、僕は割と未来に予定を作るのが好きなもので、再開のことを考えていました。その中で堂下さんの役は彼しか考えられないと思っていましたから」

――――さて、吉本さんはTOKYOハンバーグに加入されてまだ数作目ですよね。

吉本「TOKYOハンバーグの作品は3作目になります。まだ関わって日は浅いのですが、大西さんの作品は人間の暖かさを感じる、安心できる作品だと思っています。
 今回、私の役どころは、孤独死の現場などを担当する特殊清掃をする会社の社長の娘です。もともとは自分の好きな職についていたのが、コロナ禍でそれができなくなり、父親の仕事を手伝うようになるという役柄ですね。徐々に仕事の経験も増えていくなかで、色々なものと静かに闘っている女の子なんです。リアルにもこういった体験をしている人は多いのではと思うので、観て共感してくださった方が考えるきっかけになればいいなと思います」

―――他にも堂下さんを初めとするベテラン勢が参加しています。さらに矢内文章さんのように劇作や演出もされる役者さんも起用されています。結構骨太な座組という印象ですが。

大西「毎回即席のチームですが、僕自身も劇団を15年続け、さらに外部での仕事をしていると色々な俳優さんに出逢いますし、書いている脚本も幅広い年代の登場人物が出てくるので、実年齢でいい俳優さんでまとめるようにしています。俳優が戯曲をよくしてくれますから、キャスティングは最初の演出作業だと思います。今回も素敵なキャスティングができていると思います。

―――話を聞いていて浮かんできましたが、物語も骨太な内容になりそうですね。

大西「実はこの作品は知人にセルフネグレクトになってしまった方がいまして、それを知ったことをきっかけに書きたくなってしまったんですね。劇作家として何を見て、怒りを覚え、哀しんでいるのかを書いていきたいんです」

―――現代社会を切り取って舞台に乗せる。そんな大西さんの作品に期待しています。ありがとうございました。

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

大西弘記(おおにし・ひろき)
三重県出身。1999年に伊藤正次演劇研究所に入所し演劇を始め、岸田國士、菊池寛、ブレヒトなどの作品に出演する。さらに外部出演などで俳優として活動し、2006年に自らの手による作品を上演する母体としてTOKYOハンバーグを立ち上げる。以降、全作品の脚本・演出を担当する。さらに外部への書下ろし、演出も数多く手がけている。2015年『最後に歩く道』(サンモールスタジオ選定賞最優秀演出賞を受賞)。2018年『へたくそな字たち』(第24回劇作家協会新人戯曲賞最終候補)。2019年『宮城1973 ~のぞまれずさずかれずあるもの~』(第25回劇作家協会新人戯曲賞最終候補)。2020年『東京2012 ~のぞまれずさずかれずあるもの~』(第32回テアトロ新人戯曲賞受賞)。2020年『風の奪うとき』(第7回せんだい短編戯曲賞最終候補)

宮越麻里杏(みやこし・まりあ)
京都府出身、JACROW所属。
伊藤正次演劇研究所を経て、仲間と劇団を結成。その後一時活動を止めるものの、2018年より演劇の世界へ戻った自称、「出戻り駆け出し俳優」。後輩の紹介でJACROW代表中村ノブアキ氏と出会い、2019年よりメンバーになる。

堂下勝気(どのした・かつき)
北海道出身。養成所を経て青年座に所属。その後、蜷川幸雄演出による『泣かないのか、泣かないのか一九七三年のために』に出演。石橋蓮司と緑魔子による劇団第七病棟に参加し、20年活動を共にする。舞台だけでなく映画、テレビドラマ、さらに声優としても活動を展開している。

吉本穂果(よしもと・ほのか)
福岡県出身。2009年に郷里である福岡の市民劇にて演劇と出会う。その後、桐朋学園芸術短期大学芸術科演劇専攻に進み、卒業後、TOKYOハンバーグが開催したワークショップオーディション受講を経て入団した。

公演情報

TOKYOハンバーグ Produce Vol.31
『朧な処で、徐に。』

日:2021年9月10日 (金) ~20日 (月・祝) 
場:サンモールスタジオ
料:一般4,200円
  学生割[高校生以下]2,500円 ※要証明書提示
 (全席指定・税込)
HP:http://tokyohamburg.com/
問:TOKYOハンバーグ 
  mail:info@tokyohamburg.com

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