女性ホームレス殺害事件。被害者と今を生きる人々の境界線とは――。実際の事件をモチーフに描く、女性の生活の不確かさ

女性ホームレス殺害事件。被害者と今を生きる人々の境界線とは――。実際の事件をモチーフに描く、女性の生活の不確かさ

 コロナ禍で演劇の灯を消さないためにと2020年に発足した演劇企画「グッドディスタンス」。第6弾『月と座る』は大岩真理の書き下ろしで、主役の主婦・アキコを旺なつきが演じる。

旺「すごく深い台本で、ボディブローのように後から効いてくる。私自身そうでしたし、観た方がもう一度人生を振り返るきっかけになればという思いでいます」

大岩「旺さん演じるアキコは良いお宅の奥様という役どころ。旺さんの華やかなイメージとのギャップがどう芝居の中で見えてくるか化学反応が楽しみです」

 2020年、都内バス停でホームレスの高齢女性が殺害された――。実際の事件をモチーフにしたという本作。ただし舞台は事件そのものではなく、バス停を行き交う5人の物語を描く。

大岩「色々なニュースが流れる中であの事件は何故か忘れられずにいた。私だけでなく周りの女性たちも反応していて、他人事ではないと感じた人が多いと知った。そこからの着想でした」

旺「アキコはひきこもりの息子がいて、万策尽き果てたとき行き着いたのがバス停だった。バス停にはいろいろな事情を持つ5人が集まり、人生が交錯していく。5人を演じる役者も個性的な方ばかりで、キャラクターが浮かび上がってくるのを感じます」

 そこに立ち顕れるのは女性の生活の不確かさ。今の日々が当たり前ではないという現実だ。

旺「事件は高齢のホームレスと報じられたけど、あの女性もちゃんと生きてた人だった。コロナ禍で失職し、それでも誰にも助けを求めず自力で立ち上がろうとしてた。特殊な人の話ではないし、今仕事を持つ女性も彼女との境界線はないんですよね」

大岩「被害者の方もそうですが、主婦が離婚した途端に貧困に陥る潜在的貧困は多いそうです。もし専業主婦が家庭に絶望してしまったらどうなるのか――。でも絶望して見えない人も多くいるはずで、アキコもその1人。ただ私としては、彼女を通して社会的な問題提起をしたい訳ではなくて。舞台を観た方に『この5人をどう見ましたか』と投げかけられたらと思っています」

旺「何かを演じて見せるのではなく、淡々とこの人生を生きていけばいい、そう自分に言い聞かせています。5人で粛々と進め、最後にどんなものが立ち上がってくるか、答えは観た方の中にあると思っていて。後はどうぞお考えくださいと。そこが私のゴールだと考えています」

(取材・文:小野寺悦子 撮影:安藤史紘)

「そろそろ桜の開花が気になる季節。あなたが考える“最高のお花見プラン”を教えてください」

旺なつきさん
「私的に最高の花見は、自宅近くの公園で近所の野良猫逹と過ごす“深夜の一人花見‼”ワインボトル、グラス、おつまみを詰めたタッパーを手に、ベンチに座り、彼等と見上げる夜桜の美しさはもう格別です。(ここに月でも出ていれば、まさに『月と座る』)
しっかりと、逞しく生き抜いている猫逹に、まずは挨拶、一定の距離を保ちながら、時々晩酌の相手をしてもらったり、話し相手になってもらったり――(笑)。不思議と全てをリセット出来る感覚になります。これ、私のお勧めの花見の楽しみ方ですが、若い女性は“一人で……”は止めた方がいいかな? 因みに、私は若い頃からやってますけどね(笑)
“日本人の花見=地ベタに座る”この考え方を大きく覆されたのが、外人のカップルが昼間の公園でベンチに座り、折り畳みのテーブルで食事をしながら花見をしているのを見た時! これだ‼と衝撃を受けましたねぇ」

大岩真理さん
「一人で夜桜。実家の前の小さな公園にある、一本だけの桜に会いに行く。あの桜が咲くと、老いて愚痴ばかりの母も俄かに浮かれ、犬の散歩が難しくなった父も、桜に誘われ犬を連れ出していた。父と犬はこの世を去った。母はもう随分長いことベッドの上だ。夫婦の夢のマイホームがあった場所には、今は見知らぬ家が建つ。私にはもう帰る実家はないけれど、夜中にそっとあの桜に会いに行き、見上げてお礼を言おう。春をありがとうございました、と」

プロフィール

旺なつき(おう・なつき)
6月19日生まれ、岡山県出身。1977年、宝塚歌劇団に入団、月組男役として活躍。1985 年の退団後は舞台を中心に活動。1993年、舞台『コレットコラージュ』第48回文化庁芸術祭賞受賞。2014 年、舞台『マレーネ』第49回紀伊國屋演劇賞 個人賞受賞。主な出演作品に、舞台『ジュディ・ガーラント』、『鬼平犯科帳』、『女系家族』、『桜の園』、『奴婢訓』、『夏の夜の夢』、『ジェーン・エア』、Musical『O.G』などがある。

大岩真理(おおいわ・まり)
桐朋学園芸術短期大学演劇専攻卒業。舞台・映画など俳優活動を経て、劇作を開始。『ほどける双子』で第6回劇作家協会新人戯曲賞 佳作受賞。「劇」小劇場杮落とし公演として『蜜の味』、『二等辺三角形』が2本立てで上演される。2001年より本多真弓主宰の演劇ユニット「クレネリ♡ZERO FACTORY」の作家として全公演の脚本を執筆。2020年、コロナ禍で本多真弓が立ち上げた企画「グッドディスタンス」に参加。

公演情報

グッドディスタンス 風がつなげた物語

日:2022年3月31日(木)~4月6日(水) 場:新宿シアタートップス
料:5,500円 2作品セット券10,000円 ※団体のみ取扱(3/15迄受付) (全席指定・税込)
HP:https://www.gooddistance.net/
問:グッドディスタンス
mail:gooddistance@gmail.com

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