
ピュアーマリー主宰、こうとうミステリー劇場vol.4アガサ・クリスティー『そして誰もいなくなった』が、10月9日(金)東京・亀有文化センター・カメリアホールを皮切りに全国11都市で上演される。
本作は完成した小説をクリスティー自ら2年の歳月をかけて戯曲化した「そして誰もいなくなった」を保坂磨理子の翻訳、鈴木孝宏の演出で立ち上げるもので、2024年の初演からリブートする。
物語は、孤島の邸に集まった10人が一人ずつ謎の死を遂げるミステリー。“極限の疑心暗鬼”に、ベテラン俳優たちはどう挑むのだろう。佳境の稽古場をレポートする。
稽古は客人たちが邸を訪れるシーンから始まった。演出の鈴木氏は、キャラクターの性格を印象付ける初登場シーンの動きを細かく追及する。休暇の人、仕事で来た人、友人に会いにきた人、落ち着きのない人…等々、まだぎこちない人間関係を小道具使いと共に段どっていく。


邸の持ち主に秘書として雇われたヴェラ役の紫城るいは、持ち前の凛とした佇まいでテキパキと客人を迎える敏腕秘書役が似合っている。常時気を配っているのか、「皆さんの会話は全部聞いていますよ」と背中が語っているようでゾクリとした。

小野了が演じる元判事ウォーグレイブは、杖を突いてやってきた。「素晴らしい経歴の人、堂々とね」というリクエストに加え、まるで検分するかのようにあたりを見回す。紳士だがギラリとした視線は近寄りがたさが一層増す。ドラマでは板挟みになったり愛嬌のある役柄が印象深いが、ドラマとはひと味違うキャラに期待したい。

そして謹厳実直な夫人・エミリー役は、前回から続投の夏樹陽子が担う。エミリーは編み物をするなどヴァカンスとしてやってきた様子だ。余計なことは発言しないが、その静けさがかえって不審度をアップさせている。上品さの中に人間味を感じさせる演技で、作品に深みを与えていた。
続けて元陸軍大尉、元将軍、医者ほか、招待客がやってくるが、みなが不審者であやしく見えてくる。これぞクリスティーの醍醐味だろう。



そうして物語は最初の山場、“罪の暴露”シーンが始まった。
いっこうに現れない主宰者から突然メッセージが流れる。墓場まで持って行こうと秘めていたそれぞれの罪をさらされ動揺する面々。このシーンでは全員の動揺が見えづらかったのか「大げさにやってみよう」と声がかかり、“あわてる芝居”を重ねていた。公開された稽古はここまで。ここから一人ひとり消えて行く訳だが、舞台作品としてどう展開されるのか、ステージの隅々まで見逃さないように意識しなければ、と感じさせる稽古だった。

世界中の推理作家を触発し、現在でもドラマや映画、アニメでもオマージュされているミステリーの原点。小説とも映画とも違う舞台ならではの演出を、2026年版として劇場で確認して欲しい。

稽古の合間に紫城るい、夏樹陽子、小野了に話を聞くことができたので紹介する。
――稽古の手応えや感想をお聞かせください。
紫城「私自身ストレートプレイの経験が少なくて、まず本読みの期間があり、この本の厚みとセリフの量に、ワワ~となりましたが(笑)何が起こっていたのか、本読みがあってこそ見えてくる世界があったので、新劇の皆さんからも刺激を受けて本読みの大切さを改めて痛感しました。ミステリーならではのト書きの大事さもたくさんあって、そこで感じたことを立ち稽古でうまく表現していけたらと思っております」

夏樹「私も本読みをして改めて面白いなって思いました。声だけしか聞こえないけれど、声だけで感情がすごくよく見える。ひとつひとつのセリフがいかに大事か、改めて感じました。私は2回目の出演ですけれども、役も同じで助かりましたね(笑)
ちょっと気持ちのゆとりはあるので落ち着いてやれています。でもセリフは相変わらず難しいですし、前回苦戦したところは、やっぱり今回も苦戦中です。本番までにしっかりと進めていきたいです。面白いものができそうです」

――小野さんは舞台出演が少ないイメージです。
小野「そうですね、これ(初演)に出演したのが10年ぶりくらいの舞台で、今回も手応えは感じています」
――その中でこの作品に出演されるには色々な想いがあるのでは?
小野「はい。演出家の鈴木さんとは大学の同級生で、声をかけていただいて断るわけにはいきません(一同笑)。前回から今回は役も変わって、前回とは全然違う視点でここにいますが、物語はやはり緻密で面白く、皆さんとの稽古が楽しいってことは、手応えを感じているんだと思っています」

――小説、映画、舞台とは違いがあります。この作品の魅力とは?
紫城「私は古い映画バージョンと小説しか知りませんが、重たい空気の中にも、映画だったらクスって笑う場面があるので、この作品の中でもウィットに富んだ感じのところを出せていけたら」

小野「ミステリーを舞台でやるのは、なかなか難しい。映像みたいにいろんなところへ行ったりできなくて、ですができないところが逆に魅力。
緻密に考えて、こういうことが本当は裏で起こってるんだということを、いかにお客様の前でみせるか。作品のストーリーを知っている方も、ここでしか行われない『そして誰もいなくなった』がちゃんとあるので、そういうところを楽しみに複数回観ていただくといいと思います」
夏樹「舞台ならではのキャラクターが魅力ですね。エミリーは最初から最後まで嫌な女性です。でもところどころ人を想いやった一言がぽこっと出たりする。正統派できちんとしてないと嫌な人。生真面目なところがあってモラルに反することが嫌い。そういう部分はちょっと私にもあるので共感しますね。
長いことサスペンスの2時間ドラマをやってきましたので、観ている皆さんをいい意味で、裏切りたい!と(笑)あとは、演じている側は見えないんですけども、人形が1つずつ無くなるんです。これを私も見たくて!(笑)誰が犯人か推理を楽しみながら観ていただけたら」

――最後にメッセージをお願いいたします。
紫城「ヴェラは男性を見ると敵意を持ってしまうような過去に辛いことがあった女性。そんな彼女が徐々に変わっていきます。その変化も見届けてください」
小野「この素敵なメンバーで、今回の上演ならではの作品になると確信しています。決して後悔させることはなく、楽しんでいただけると思います」
夏樹「必ずどこかで何かが起きていまして、それを見逃さないように観ていただきたいと思います」

(取材:谷中理音)
公演概要
有限会社ピュアーマリー こうとうミステリー劇場vol.4
そして誰もいなくなった
2026年10月9日 (金) 〜 2026年10月11日 (日)
会場:亀戸文化センター(カメリアホール)
出演:
紫城るい/吉田道広(Wキャスト)/岩田翼(wキャスト)/小野了/川原洋一郎/田口守/石田博英/永井誠/吉良達也/坂上麻優/ 夏樹陽子
全席指定:7,500円
ミステリーの女王、アガサ・クリスティーの最高傑作とも言われる長編小説『そして誰もいなくなった』。本作はクリスティ自ら2年の歳月をかけて戯曲版を完成させ舞台化した名作。1943年に上演がスタートするや、第二次世界大戦下にも拘わらず大ヒット、後にブロードウェイでも好評を博し、英米を股にかけるロングランヒットとなった作品。
<ストーリー>
イギリス、デヴォン州沖の孤島、ソルジャー島にあるオーウェン夫妻邸に8人の客人たちが招かれる。邸では、使用人のロジャーズとその妻で料理人のロジャーズ夫人が客人たちを迎え入れる準備に勤しんでいる。最初の船で到着したのは、オーウェン夫妻に秘書として雇われたヴェラと元陸軍大尉ロンバード。次の船で、青年マーストン、元刑事のブロア、マッケンジー将軍、老婦人ミス・ブレント、元判事のウォーグレイブ、アームストロング医師が到着。その夜、一同が会し晩餐が始まると、突然、不穏な声が聞こえ、この10人の過去の罪状が読み上げられる。やがて、古くから伝わる童謡の歌詞通りにひとりづつ死んでいく――ひとりいなくなる度に恐怖に慄き疑心暗鬼に陥る人々。折しもマントルピースの上に飾られた兵士の人形が1体ずつ消えていき――