【稽古場レポート】君を笑顔にしよう。たとえ世界に禁じられても――山尾企画『ワールド』が描く愛しい世界。

毎週火曜・水曜に、実際のレストランでご飯を食べながら芝居を楽しめる「演劇レストラン」を実施したり、軽トラックを使ったデリバリー芝居を各地で上演するなど、劇場以外の場所でもアクティブな活動を展開している、大阪の劇団「山尾企画」。芸術活動が制限された世界で、それぞれの人たちが理想を貫こうとする姿を描き出した、2015年の長編作品『ワールド』を、11年の時を経て再演する。その通し稽古の現場を見学した。


『ワールド』の舞台となるのは「芸術文化保護法」という法律が制定され、すべての表現活動に国の許可が必要となった日本。オープニングに出てきたサーカス団の団長は、審査には落ちたけど公演を強行することを、芝居の前説の形で観客に語りかける。しかし団長は逮捕され、テントも撤去されたその中に、たった1人の新米ピエロが取り残される――。

この主役のピエロをみずから演じる、劇団主宰で作・演出の山尾匠は、11年前に本作を書いたきっかけが、当時の世相と自分の心境の両方にあったと語る。「橋下徹さんがトップになって、大阪の文化施設が次々になくなって、大阪の文化関係者が悲観的になっていた頃でした。それでも逆境に負けず、やりたいことをする話を書きたいと思った時に、免許がないと表現ができない世界の中で、無免許でも人を笑わせたいと願う人の話が浮かびました」。

「それと同時に『自分が楽しいからやる』という気持ちも取り戻したかったんです。人に見せるからには、ちゃんと面白いと評価されるものにしなければと、ハードルを上げることにとらわれしまっていたんですね。それも大事なことですけど、ただ楽しくて芝居を始めた、あの頃の気持ちに立ち返ろうという思いも、今考えるとあったのかもしれません」。

サーカス団の解散で行き場を失ったピエロは、毎日稽古をする公園で、暗い顔をしてスケッチをする少女と出会う。国の免許を持たない彼は、本来なら他人に芸を見せることは許されないけど、彼女の笑顔を見たい一心で芸を披露する。少女はそれを見て笑うどころか、厳しいダメ出しをする始末。ピエロは彼女を笑わせることを目標にするが、少女が笑わないのは「芸術文化保護法」にまつわる、ある重大な理由があった……。

法律違反で捕まる恐れがあることを知りながらも、なぜピエロは少女を笑わせようとするのか? ボディガードやメイドや家庭教師まで付いた恵まれた環境にあり、ピエロの芸の欠点を的確に指摘するほど芸術に精通した少女は、なぜそれを楽しもうとしないのか? この2人の関係と並行して、「芸術文化保護法」によって表現を楽しむ場を失い、廃案を求める人たちの暗躍も描かれていく。

今回再演するに辺り「ピエロと少女以外の登場人物たちにも、膨らみを持たせました。誰もがそれぞれの正義に基づいて動いていて、この世界(ワールド)を生きるみんなが主人公だという話にしたかった」と山尾は語る。その言葉通り、少女を過保護なほど守ろうとする人たちや、法律を廃案に追い込むためなら手段を問わない人たち、そんな彼らをそれぞれの思惑で助けようとする人たちの姿が、バランス良く描かれている印象だ。中でも「便利屋」と称して少女の前に現れる二人組・エル&アールの漫才としか思えないやり取りは、稽古場の俳優たちから本気の笑いをしばしば引き出していた。

そしてもう1つキーとなるのは、犬になりたがる猫・タマの存在。どう考えても生物学的に不可能な望みなのに、タマは「なりたい」という100%ピュアな気持ちで犬たちとぶつかり、ピエロや少女を助ける大きな存在となる。誰もが法律に縛られて、身動きが取れない人間世界の対比として「なりたいものになればいいし、がんばればなれるかもしれないよ!」という希望を体現しているのが、このタマのエピソードなのだろう。

周囲の人間の思惑や過去のトラウマで、胸の奥にある夢や望みを見失いそうになるピエロと少女。しかし「芸術文化保護法」を守ろうとする人・潰そうとする人の本音がどんどん明かされていくにつれ、ピエロと少女も「自分が本当にやりたかったこと」「楽しいと思えるもの」を再発見していく。この世界にはまだまだ障害が残っているけど、2人は自分の夢に向かってまっすぐ進んでいくのだろう……と感じさせる、爽やかなラストが印象に残った。

「僕の世代(30代半ば)は、いろんな理由で演劇活動をあきらめようとする人が出てくる頃。その中で『いいものを作ることだけが全てじゃない。楽しんでやっていいんだよ』ということを伝えられたら。でも楽しいシーンも多いので、難しいことは考えずに楽しめる舞台じゃないかと思います」と語る山尾。最後に、今回はスタンダードな劇場空間だからこそ、どんな「山尾企画」が観られるのか? と聞いてみた。

「劇場は、今本当に自分がやりたいと思う表現を詰め込める場所。特に今は現実の世界がきな臭くて、この物語のような世界が来ないとも限らないから、その前に言いたいことを全部詰め込みました。ロビーに踏み込んだ段階から、物語の世界に入り込めるような工夫も凝らしているので、初めて劇場に来る人はもちろん、通い慣れた人たちも、ワクワクを胸に来てもらえたらと思います」。

(撮影・文 吉永美和子)

公演概要

山尾企画第十二次公演『ワールド』

公演期間:2026年3月13日 (金) 〜 2026年3月15日 (日)
2026年3月
13日 19:00~
14日 15:00~/ 19:00~
15日 11:00~/15:00~
※開場は、開演の45分前
※上演時間:約110分を予定

会場:インディペンデントシアター2nd(大阪府 大阪市浪速区 日本橋 4-9-5)

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