【公演レポート】不器用だからこそ愛おしい。一筋縄ではいかない人生が交錯する大人の学校。劇団狼少年「晩カラ学校」

2月19日から23日まで、本多劇場で劇団狼少年の「晩カラ学校」が上演された。本作は、劇団狼少年のオリジナル作品で、今回はこの東京公演を皮切りに、大阪、仙台と3都市で上演され、さらに映画化が決定している。劇団にとって初となる本多劇場での上演となった東京公演は、連日多くの観客に迎えられ、満席回が続出。大盛況のうちに幕を閉じた。今後の地方公演も期待されている。

筆者は前日の18日に行われたゲネプロを観た。事前に「ぜひ開演の10分前にお越しください」とのメールをもらっていた。実際に上演時間の10分前になると、舞台右上にラジオブースが現れた。パーソナリティーは、今作の楽曲制作を担当する田中直樹沼井雅之の二人だ。実際にエフエム世田谷で番組を持っていて、その公開生放送が行われているという体だ。

演劇での楽曲制作について気をつけていることなどを中心に、軽快なトークが続く。リスナーからのリクエスト曲は「アカシアの雨が止むとき」だった。
60数年前の悲しくも美しい曲が流れるなか、静かに物語は始まった。

舞台上の左端には、おでん屋台のセットが組まれ、おでん屋の大将(實川阿季)とガラの悪そうなパンチパーマの男性客、角田玄太(奥津裕也)が話している。昼間からおでん屋台でぶらぶらしている角田には職がないようだ。

ラジオではリスナーからの手紙が読まれた。「私は夜間中学に通う施設出身の42歳の女性です。ひとり娘がいますが26歳のときに夫と別れ、それ以来会っていません。ずっと会いたいと思っていますが彼女の気持ちを考えると会いに行けません。ですが去年、私に癌が見つかり余命一年と宣告されました」とのこと。
この言葉を聞いて角田は「もう死ぬとわかってるのになぜ勉強するんだ?」と問う。おでん屋の大将は「もう死ぬから勉強するんだろ」と返す。
この女性からの手紙と、二人のやりとりを覚えておいて欲しい。のちにこの言葉が重要な意味を帯びてくる。

ここでバンドの生演奏が始まる。エレキギターとサックスの音に「狼少年ラジオ」のジングルが鳴り響き、学校のセットにスポットライトが当たると、夜間中学で学ぶ生徒たちが踊り出す。

とにかくおしゃべりな年配女性、庄司スミはたむらもとこ、金髪スカジャンで口が悪い元ヤン風の女性「みっちゃん」こと林美津子は宮後マミ/祐真キキ、おとなしそうなオタク風の青年、手嶋敏夫は松本実、身長180cmで体重150kgはありそうな巨漢ながら子どものような言動の男性、大里郁弥は米本学仁、そして少し陰のある中年女性、早川成美を及川奈央が演じている。登場する生徒は、この5人。年齢も育った環境もバラバラだ。

そんな生徒たちに寄り添う山田こと泉知束(ゴツプロ!)と、立花(林田麻里)の教師2人だが、ベテラン教師の塩田(山本亨)のみ冷めた目線を持っていた。

どうも世間は夜間中学に良いイメージを持っていないようだ。学校は、そんな社会の偏見を払拭しようと週刊誌の取材を受けることにする。そして大里は学内のスピーチコンテストに出場することを決意する。

そこに冒頭に登場したガラの悪い角田が加わる。
この夜間中学に集まる6人、筆者にとってはどこか懐かしさを覚える人たちだった。20数年前、主に警備員や建設現場の日雇い仕事や、夜の街で出会った人たち。口が悪く直情的なため、人とトラブルと起こしがちだけれども人情に熱い人、中国残留孤児2世など戦争の影を引きずる人、自分を表現することが不得意で人と関係を築けない人、前科のある人など、生きることに不器用な人たちだった。

劇中では、そんなバックグラウンドを語らずとも会話劇でキャラクター像を浮かび上がらせている。特に、宮後マミ/祐真キキ演じるみっちゃんのような女性、そして奥津裕也演じる角田玄太のような男性には何度も出会った。なんでも言葉通りに受け取り、おためごかしの効かない性格や、会話のテンポもそのままで、リアリティのある演技に引き込まれる。笑えるシーンも多くて、学校生活自体がコメディのようだ。大人の青春が微笑ましい。

彼らのぶつかってばかりの不器用な生き方で得た人生訓は、教科書で書かれている言葉よりもずっと真実味を帯びていて胸に迫る。大里の語る「自由って、時々不自由に感じることない?」など。ぜひ彼らの何気ない言葉に注目して欲しい。

生徒たちは取材のためやってきた女性記者、市川(黒須杏樹/竹中友紀子)とも、持ち前の人懐っこさですぐに親しくなる。市川が林美津子や教師の立花と共におでん屋台で酒を酌み交わすシーンは、通常の学校では見られない光景で印象的だ。

市川もまた独特な感性を持つ女性だった。そんな彼女も上司の長田(長尾卓磨)に「人間のどす黒い部分を書け、耳目を集めるゴシップ記事を書け」とパワハラまがいの説教をされていた。

市川が取材に訪れなくなってからしばらくして、週刊誌に暴露的な記事が載った。それは生徒の過去に関することだった。衝撃的な事実だが、今そこにいる人間そのものを信じようとする生徒たち。彼女もまた抗えない運命を抱えている人物だった。

そんな彼女のために人知れず奔走する角田、そしてどんな結末を迎えるのかは、ぜひ劇場で見届けて欲しい。

そして及川奈央の時折母性も感じる演技や奥行きのある表情にも注目して欲しい。現実味のあるほろ苦い結末でも、後味は温かい。上演時間約2時間。


(取材・文・写真/新井鏡子)

公演概要

劇団狼少年第十五回公演『晩カラ学校』

脚本:狼少年
演出:奥津裕也

【東京公演】※公演終了
公演期間:2026年2月19日(木) ~ 2月23日(月・祝)
会場:本多劇場
チケット:一般席 6,800円、VIP席 11,000円、学生割 3,800円、世田谷区民割 5,800円、当日券 7,300円

【大阪公演】
公演期間:2026年4月2日 (木) 〜 4月5日 (日)
会場:in→dependent theatre 2nd
チケット:一般席 6,000円、​VIP席 10,000円

【仙台公演】
公演期間:2026年4月15日 (水) 〜 4月17日 (金)
会場:パトナシアター(宮城野区文化センター)
チケット:一般席 5,500円、​VIP席 10,000円

※高校生以下無料
※未就学児童の入場はお断りしております

<出演>
奥津裕也、及川奈央、たむらもとこ、米本学仁
宮後マミ ●/祐真キキ ○、松本実、黒須杏樹 ●/竹中友紀子 ○
實川阿季、玉置康二、文ノ綾、髙見美儀●/伊藤ナツキ◯、長尾卓磨、泉知束(ゴツプロ!)、林田麻里、山本亨
※ダブルキャストの出演日時はスケジュール欄でご確認ください

※車椅子でご来場のお客様はチケット購入前に劇団へお問合せください
■車椅子・公演に関するお問合せ
劇団狼少年制作:bankara_sendai@ravencom.jp

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