
2015年の旗揚げ以降、一貫して小説を舞台化してきたMido Labo。宮部みゆきの作家生活30周年記念作品を舞台化する、Mido Labo vol.20『この世の春』が2025年12月24日(水)からテアトルBONBONで上演される。今回、カンフェティでは稽古場を訪れ、作品が形になっていく過程を見学した。その様子をレポートする。

本作は、江戸時代を舞台に、宮部らしいスピーディーな進行と張り巡らされる伏線、魅力的なキャラクターが登場する時代小説。物語は架空の藩である「下野北見(しもつけきたみ)藩」のお家騒動からスタートする。六代藩主・北見重興がある日、突然家臣たちによって押込、いわゆる強制隠居させられるという大事件が起こった。重興は優秀な藩主だったが、精神に変調をきたしたのだ。一方、その動きとは全く遠いところで、離婚した各務多紀は隠居した父と田舎で平穏に暮らしていた。ところがある理由から多紀は重興が幽閉されている館に呼び寄せられ…。


この日の稽古は、シーンを区切って動きの細部やそれぞれの心情を確認する返し稽古が行われた。取材に訪れたときには、物語が大きく動き出す第三章が行われていた。この場面は、岩牢に閉じ込められていた新九郎と多紀が対面し、自分の出自や事件の背景を知らされるシーン、そして多紀が初めて幽閉されている重興と会い、その異変に気付くという重要なシーンだ。キャストたちは和服に身を包み、和服での動き方を体に馴染ませていく。

原作となる小説は文庫本で上中下巻あるかなりの長編のため、その物語を3時間の舞台に収めるとなるとかなりスピーディーな展開にならざるを得ない。しかし、Mido Laboでは、地の文を読む“語り部”を配することで、物語を漏らさず伝えることができている。
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物語を進める、というよりは、人物たちの状況や心情を補足する役割を担っていると思われる“語り部”は、ステージ上を移動しながら、登場人物たちに寄り添い、注釈に当たる部分や登場人物たちの心のうちを代弁する。これによって観客の物語への理解をより深め、原作未読であっても物語にしっかり入り込むことができる。Mido Laboの作る舞台は、それぞれの作家の魅力をどうやったら一番に感じられるのかを演出の根本に、お芝居を観ているかのような、読書をしているかのような不思議な時間を届けることを目指しているが、まさに物語がスッと入り込んでくる感覚を味わえた。
稽古では、シーンごとに脚本・演出の菊池敏弘から細かな演出があり、それぞれのシーンの精度を高めていく。「座っていると違和感があったから、側に移動した方がいいと思うけれども、どうかな?」という具合に、キャストたちの意見を尊重し、ともに作り上げている様子が窺えた。印象的だったのは、あるシーンの演出の仕方について、菊池がキャストたちみんなに意見を求めて、自由にディスカッションを行っていたことだ。そのシーンには出演しないキャストたちが稽古を観てどう感じたのかを話し、菊池が耳を傾ける。結局、その場ではどのような演出にするかという決定はなされなかったが、全員で作っているという一体感を感じた。また、そうしたディスカッションの中でもとても和やかに、笑いも交えながらの意見交換をする姿から、非常に良いコミュニケーションがなされていることが感じられた。返し稽古の中で、キャストが自ら動き、新たな芝居にチャレンジする場面も多々見られ、そうした挑戦ができるのも稽古場に良い空気が流れているからなのだろう。



その後、稽古は小休憩を挟みつつ、第一章、そして第五章の稽古へと続いた。第五章はこの日、初めて立ち稽古を行ったそうで、菊池が動きを丁寧に説明しながら、場面を作り上げていく。特に印象に残ったのは、多紀とお鈴が川の中に落ちるシーンだ。「水」もキャストたちが身体で表現するため、それぞれの動きが複雑になる。巳之助役の佐野陽一を中心に、キャスト同士がどう動けばうまく表現できるのかを自主的に話し合い、トライする様子が見られた。



この日の稽古で “語り部”を務める松井みどりと並んで、ステージ上に出ずっぱりだった各務多岐役の紀那きりこは、この作品の要となる一人だ。どの場面でもしっかりとセリフを伝えようと、丁寧に話す姿が印象的だった。決して奇抜な役ではないが、紀那は存在感を持ってその場に生きており、穏やかで優しさに溢れていながらも、芯の強さを感じさせる多紀を作り上げ、物語を彩っている。また、松井、北見重興役の高山陽平、石野織部役の青山伊津美、琴音役の森下ひさえを始め、キャストたちはみんな安定感のある芝居で、観るものを物語の世界に引き込んでいた。ぜひ、その演技力に酔いしれながら、宮部みゆきワールドを堪能してもらいたい。
(文・撮影 嶋田 真己)
公演概要

Mido Labo vol.20『この世の春』
公演期間:2025年12月24日(水)~28日(日)
会場:テアトルBONBON(東京都 中野区 中野3丁目22-8)
■出演者
紀那きりこ(ヒロキナ企画)/高山陽平(MENSOUL PROJECT)/青山伊津美(演劇集団円)/児島功一 /入澤建/山下直哉(流山児★事務所)/堀江あや子/百鳥花笑/森下ひさえ(theatre PEOPLE PURPLE)/小林桂太(演劇実験室◉万有引力)/阿部みゆき/一戸康太朗/本多照長/丹羽隆博(希望の星)/佐野陽一(サスペンデッズ)/浦田有/米千晴(TAIYO MAGIC FILM)/中西南央/杉田友里/土橋建太/松井みどり(Mido Labo)
■スタッフ
原作:宮部みゆき
脚本・演出:菊池敏弘
舞台監督:清水義幸(カフンタ)
美術:江連亜花里
照明:赤田智弘(ALOP)
音響:小町香織
衣裳:松本しゃこ(垢抜け屋)
宣伝美術:山本祐也
制作:神崎ゆい(ゆめいろちょうちょ)
■チケット料金
通常 5500円
ペア割 5300円(2人でご来場)
グループ割 5000円(3人以上でご来場)
U25 3000円(当日要確認)
夜割 4800円(12/26、27の夜公演)
公開ゲネ 3000円(12/24のみ)
配信 3500円
●全席自由
●受付は開演の45分前。開場は開演の30分前
●チケット販売開始:2025年9月25日(木)
●ネットでのご予約は公演日の午前0時まで
●ペア割はおふたり、グループ割は何人でも、複数名でご来場いただいたお客さまに適用されます
●割引条件が複数となる場合は、そのグループ全体で一番安くご覧いただける割引ひとつを適応いたします(例)大人が1人とU25が1人の場合、一番割引率の高いU25割ひとつが適応されます
●配信期間:2026年1月18日(日)〜25日(日)
●本公演の配信は生配信ではなく、公演を収録した映像を公演終了後に編集し、完全版としてご覧いただくものです
●配信の詳細はお申込みいただいた方にメールでご案内いたします
●配信チケットは2026年1月25日(日)20時までご購入いただけます
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