世界中どこにでも、ほぼもれなく“踊り”の文化が存在する。それは人種や民族の伝統文化や風習、衣装、さらには生活の知恵までも反映したとても豊かなものだ。そして日本の“踊り”の文化も他所にひけを取らず、それどころか更なる豊かさを持っているのだが、明治以降の西洋文化の到来や、戦後の高度成長期以降の急速な流行の変化により、その豊かさを実感する機会が減っていると言わざるを得ない。

そんな現状に一石を投じているのが、2014年に設立された一般社団法人日本のおどり文化協会だ。日本の伝統文化を守りつつ、その裾野を拡げていく活動を“おどり”を通して続けている団体で、子どもたちを対象に全国規模の「日本のおどり 子ども体験教室」を、文化庁の伝統文化親子教室事業のひとつとして実施している団体だ。
この体験教室は小中学生を対象に、各地の公民館などで半年間の講習を行うものだが、そこで興味を持ち続ける意思がある場合には、サークル、そしてアカデミー、そして子ども舞踊団へとステップアップし、おどりを極めていくことになる。
そんな子どもたちによって構成されるのが、7月に浅草公会堂で開催される「第4回 若者たちの舞踊会」。公演を二ヶ月後に控えたとある日曜日、稽古場に伺った。


訪れたのは都内某区の公民館。稽古はここの集会室で行われている。中に入ってみるとセンスを手にした数十人の踊り手たちが音楽に合わせて踊っている。既に振付指導は終わり、音楽に合わせて通している段階なのだろう。しなやかで柔らかな動きがピッタリと揃っていて、とても美しい。みんな小学生〜中学生のはずだが、堂々としたその姿に驚かされる。


ちょうど第二部の「『四季に舞う』〜民謡選集〜」から「津軽じょんがら節」「南部俵積み唄」の二曲を交互に繰り返して稽古をしていた。古典の舞踊に比べて動きも速く複雑な部分もある曲だが、大きく乱れることも無く踊りこなしている。ここに居るメンバーは舞踊団の一員として選ばれているだけあって、誇りを持って舞台に立とうとしていることがよくわかる。


別の部屋では男の子二人が稽古の準備をしている。着物に袴を着けて紅白の長い毛をつけ始めた所を見ると「石橋」の稽古だろう。能楽の演目としてよく演じられる「石橋」を元にした舞踊版で、紅白二体の獅子によって演じられる。装束を着けて踊り出した瞬間、小さいはずの身体が大きく見えた気がした。二人が集中して取り組んでいる様子が伝わってくる。


休憩時間に少し話を伺ってみた。公演を前にしての抱負を聞くと「舞踊団に入団して1年になりますが、その間に身につけたものを精一杯活かしたいです」「憧れの舞踊団に入って初めての舞台なので緊張はするけれど、楽しく踊りたいです」などの声が帰ってきた。今回の舞台は古典、民謡に加えて新たに演歌をバックに踊る創作舞踊も用意されている事から、それについて話してくれるメンバーもいた。
「初めての演歌の踊りですが、やはり日本舞踊とは違うので、新たな挑戦ですね。曲は皆さんが知っているものばかりだからこそ、より頑張りたいです」
さらにおどりを習うことで身についたものや他人から褒められた経験を聞いた。
「所作が綺麗になったと言われることがあります。正座も長く持つようになりましたよ」「日頃から「おすべり」という稽古をしているのですが、その成果体幹が良くなったと思います」「姿勢も良くなりましたしね」「学校の授業でお手本を頼まれたり、地域の盆踊りで目立ったりすることもありますね」


先ほど獅子を踊っていた男の子が始めたきっかけはなんだろう。
「僕は日本の歴史、中でも安土桃山時代に興味があって、そこから踊りにも興味を持ちました」「僕は姉が先に習っていて、それで始めました。学校の友だちで習っている人はいませんが、恥ずかしさはないですね。堂々とやってます」
獅子の毛をつけた感想を聞いてみると。
「なかなか大変です。あの毛が結構重いんですよ」とのことだった。


そして誰もが口を揃えて言うのは、ともかく楽しくて仕方が無いということだった。さらにこの体験をきっかけに他の伝統芸能や文化への興味も高まっているというメンバーも多数いた。日本に根ざしたこうした文化芸能を受け継ぎ、そして伝えていくためにも、より一層の精進を望みたいが、それを支える側としても是非劇場に足を運んでみたい。



公演概要


第4回 若者たちの舞踊会 ~古都歳時記 四季に舞う~
公演日:2025年7月29日 (火) 14:30
※開場は開演の30分前
※17時終演予定
会場:浅草公会堂(東京都 台東区 浅草 1-38-6)
出演:日本のおどりアカデミー
日本のおどり子ども舞踊団
日本のおどり文化協会認定講師
指定席:2,000円(税込)
自由席:1,000円(税込)
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