【稽古場レポート】役者たちの細やかな演技で際立つ『想像の犠牲』 京都で話題を呼んだ舞台が東京でついに上演

2021年の設立以来、演劇、小説、川柳など、ジャンルを横断して言葉の表現を追求する劇団、Dr. Holiday Laboratory。ロームシアター京都×京都芸術センター U35創造支援プログラム“KIPPU”に選出され、話題を呼んだ舞台『想像の犠牲』が、5月3日(土)から、東京・吉祥寺シアターで上演される。開幕を直前に控え、熱のこもった稽古場の様子をレポートする。


本作は、演劇をやめて久しい土井が、かつて出演した演劇作品の「演出家」の弟を名乗る人物から、演劇の上演を依頼されたことから始まる物語。戯曲とは何か。役を演じるとは何か。そして戦争を演劇として表現するとは、何を意味するのか。演劇と歴史の関係をラディカルに問う、「フェイク・読書会演劇」だ。

作・演出は山本ジャスティン伊等。西川を石川朝日、土井を油井文寧、ロベールをロビン・マナバット(以上、Dr.Holiday Laboratory)、高木を田崎小春(青年団/melomys)、加藤を佐藤駿が演じる。

石川朝日

油井文寧

稽古場を訪れたこの日は、物語冒頭のシーン稽古が行われた。今回は再演ということもあり、それぞれのシーンを抜き出し、役者たちが実際に動き、その上で話し合いながら進めていく形が取られているという。

田崎小春(青年団/melomys)

佐藤駿

この作品は非常に入り込んだ構成となっている。まず、「演出家」によって書かれた戯曲「想像の犠牲」がある。今回上演されるこの作品の登場人物たちは、アメリカで人工透析をしている「演出家」に代わり、かつてこの「想像の犠牲」を上演した。ところが、ある事情から、その上演は一度のみ行った後に中止になる。そこで、その経緯について注釈やコメントを入れた「想像の犠牲」のアーカイブ版が出版された。今回上演されるのは、そのアーカイブ版をもとに上演されている舞台、という設定だ。

その設定自体、飲み込むのに時間がかかるものだが、さらに複雑なことに、それぞれの登場人物のセリフの中に「演出家」の弟からの手紙を読むシーンがあったり、別の登場人物になりきって話しているセリフが入り混じっている。そうした構図ゆえか、役者たちがことさらゆっくり、丁寧に、まるで言葉を置いていくようにセリフを話し、伝えることを大切にしていると感じた。

公開された冒頭のシーンは、「想像の犠牲」を上演する予定の舞台上に、ト書きになかった椅子が置いてあることを土井が西川に問い詰めるシーンから始まる。それぞれが芝居に合わせ、ステージ上を動き回り、芝居を進めていく。3場の始めまで芝居を進めたところで、一度、山本が芝居を止める。そして、「全体を見ると動きすぎかもしれない」「他の段を使ってもいいのかもしれない」など、ミザンス(立ち位置)についてディスカッションを重ね、細かな調整を行った。

稽古場にはセットが組まれていないが、実際の舞台は階段状になっており、階段の一番下のフラット部分に薄く水が張られ、小さなシングルベッドが置かれる。また、上手の前方と階段をのぼった下手後方には折りたたみの長机とパイプ椅子が置かれている。そうした舞台セットを想像してみると、どの場にどの役者がいるのかによって印象は大きく変わる。

役者たちからも山本に積極的に質問が挙がる。土井と西川の関係性についてや具体性を尋ねる声も聞かれた。先に書いたように、とても複雑な構造の作品だけに、観念的な演出も多く、ニュアンスや役者の意識一つで変わる芝居になっているのだ。自由に演じていながらも、綿密な思惑と計算の上で成り立っているのだと感じられた。

また、稽古中、山本からは「空間」についての演出も多々聞かれた。山本は「この作品は『空間の演劇』。今回、大きく分けて、『劇場という場所としての空間』『俳優の身体やテーブルといった三次元の物質的空間』『身振りをするための俳優の周りの空白の空間』があり、どの空間を使えば台本に書かれた抽象的な言葉を観客に想像させられるのかを意識してほしい」と役者たちに提示する。役者とセリフの空間がどのくらいあるのか。そうしたことに意識を向けて観ると、この作品を深く理解する一助になるのではないだろうか。そして、公式サイトやチラシに掲載されている「『演出家』からの手紙について」の文章は一読してから観劇することでより理解が進み、この作品で描かれる「想像」「創造」「犠牲」を感じ取りやすくなるのではないかと思う。ぜひ、感覚をフル動員し、思考を巡らせながら、本作を楽しんでいただきたい。

取材・文 嶋田真己

公演概要

Dr. Holiday Laboratory『想像の犠牲』
公演期間:2025年5月3日(土)~5日(月・祝)
会場:吉祥寺シアター(東京都 武蔵野市 吉祥寺本町 1丁目33番22号)

■出演者
石川朝日 佐藤駿 田崎小春 油井文寧 ロビン・マナバット

■スタッフ
作・演出:山本ジャスティン伊等

台詞引用:映画『サクリファイス』(1986年・監督:アンドレイ・タルコフスキー/字幕:清水俊二)より

■チケット料金
一般:4,000円
学生:3,000円
戯曲セットチケット:5,000円
ペアチケット:6,000円
応援チケット:5,000円

※ペアチケットは前売りのみ
※当日券は500円増
※学生チケットは、公演当日に受付にて学生証をご提示ください。
※応援チケットはDr. Holiday Laboratory の活動を支援していただけるチケットです。収益は公演運営及び今後の活動に充当いたします。
※予約後のキャンセル不可。チケット譲渡可。

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