2017年の旗揚げ以来、精力的な活動を続けている劇団バルスキッチンの第40回公演『どぎまぎメモリアル2025』が、板橋のバルスタジオで上演中だ。(2025年4月29日(火・祝)まで)
『どぎまぎメモリアル』は劇団バルスキッチンの代表作。初演以来8年間毎年再演を繰り返してきたが、劇団主宰で脚本・演出の前野祥希が、一度ここでその再演を区切ると決断。多くの役柄をteam A team BのWキャストで組むひとつの集大成であり、新たな出発でもある賑やかで、ちょっと切ない舞台が展開されている。
【STORY】
映画監督を目指す野原拓郎(中島拓人)はある出来事をきっかけに部分的に記憶を失ってしまい、家族や友人たちに見守られ続ける毎日に苛立ちを感じていた。
そんな時、旧友の大道寺信宏(早川維織【A】/安部瞬【B】)から届けられたのが、自身の想像力を基に様々な恋愛が発展していく、バーチャルリアリティのシミュレーションゲーム「どぎまぎメモリアル」だった。
勧められるままにあんなことやこんなこともできるゲーム世界に入っていった拓郎は、ある違和感を覚える。
「俺…これ知ってる。」
奇想天外に感じられるゲーム展開は、拓郎がなくした記憶の欠片につながっていて……
上手に拓郎のベッドが置かれているシンプルなセットの中で進んでいく舞台は、拓郎や友人たちがバーチャル世界に入っていく場面も、記憶の断片がインサートされていく回想シーンも基本的にはセットチェンジがない。だが、決して舞台がわかりにくくならないのは、人の出し入れにひっかかりがない前野の演出力はもちろん、和田優也の照明の力が大きく、破天荒な笑いや勢いに満ちた物語世界にごく自然についていける。しかも、あまりにも賑やかに突き進んでいると思われた舞台から、拓郎の記憶が戻っていくのと同時に立ち上る切ないものにハッとさせられる展開に、いつしか胸を突かれている。それはまさに作品のタイトル『どぎまぎメモリアル』そのものだし、ラストシーンが鮮やかに決まった頃には、登場人物たちそれぞれをとても愛おしく感じられるのが不思議なほどだ。なるほどこれは再演を重ねて愛され続けた作品なはずだと納得させられるし、その財産を一時(だと思いたい)宝箱に閉まっておこうという決断をした「劇団バルスキッチン」の、前向きなチャレンジが頼もしく感じられた。
そんな、現時点での集大成となる公演のteam Aバージョンを観たが、両teamを通じて主人公野原拓郎を演じる中島拓人の、細かい説明がなされる前から、どこかに鬱屈を抱えていることがきちんと伝わってくる人物造形がとてもリアルだ。そんな拓郎が何故記憶の一部をなくしているのか、ゲームを通して少しずつ蘇る記憶の断片から変化していく過程、好きなことを仕事につなげる難しさと、だからこその懊悩を繊細に演じて惹きつけた。
こちらも両team出演のヒロイン藤原楓を演じる井坂仁美は、立ち姿が抜群に美しいプロポーションと、ひたむきさがにじみでる瞳の強さがなんとも魅力的。ある種男性が描いた理想の女性だな、と感じさせもする言動に、嫌味のない真っ直ぐさと真摯さを込められる藤原の存在が作品を大きく支えている。
拓郎の友人、斉藤康介の坂口実成夢は、スーツ姿がピッタリとキマるからこそ、カリカチュアの効いた動きの可笑しみが増すし、やはり友人の高橋陸の山田洋介の、どこかほんわりした温かさとの対比がよく出ていて、それぞれが拓郎にとって大切な親友であることが十二分に伝わってきた。
バーチャルゲーム「どぎまぎメモリアル」の開発者・大道寺信宏の助手・一ノ瀬廉の市川愛大は、一見ゲーム開発よりも農園で働いていると言われた方がしっくりくる雰囲気を醸し出しながらの猪突猛進が、笑いにもなり柔軟な発想が不可欠な仕事の現実味を感じさせる。
そのバーチャル世界には、更に多彩な人物が多数登場するなか、藤浪詩織の飯塚シオンの制服姿で繰り出す良い意味のあざとさもある演技が、あぁ、こういう女の子ゲーム世界にいるいる!と思わせるし、どうやったらこんな役名を思いつくの!?と役名から爆笑ものの案内誘の成田道行が、現実とバーチャルを行き来する舞台を見事に案内してくれている。またこちらも役名から飛ばしている藍堂瑠衣の西田有愛は、バーチャルアイドルの衣裳がピッタリと似合い、まるでゲームから飛び出てきたよう。同じバーチャルアイドルだが、役柄に必要な毒気も漂わせる藍堂瑠奈の愛恵との衣裳だけではないカラーの違いが面白い。一転、御鑑美羅の金子まりかが、振り切った演技でありつつダークになり過ぎないのがこの作品によく合ったし、虹谷沙希の藤本麻依が、ゲーム世界の住人のなかでは「普通の人」の難しさがあるだろうなかで、きちんとチャーミングに役柄を見せていたのに感心した。
拓郎の家族では、両team出演の父・野原俊之のズドンが喜怒哀楽大きく笑わせてくれるなかに情があるし、同じく両team出演の母・野原恵子の紙野千鶴は、おっとりと優しい雰囲気と、笑い上戸設定の役柄のギャップを面白く見せている。妹の野原亜紀team Aの優莉奈は、過度にベタベタしない兄妹らしさのなかに、兄を思っている心をにじませる演技が貴重だった。
そして、「どぎまぎメモリアル」を作った大道寺信宏の早川維織は、拓郎をライバル視していて一見クールな台詞も吐きつつ、拓郎への友情や心根もしっかりと表現していて緩急自在。そもそもこの作品を動かしていくキーマンの役割りを十二分に果たしていた。
ここにWキャストのteam Bがどんな造形で各役を演じるのか、扮装写真を見ただけでも、この役だよね?と確認したくなるほどそれぞれが個性的で、斉藤康介の三遊亭萬丸、高橋陸 の緑川青真、一ノ瀬廉の松良仲彌、藤浪詩織の絃ユリナ、案内誘の尾上恭平、野原亜紀の平瀬美里、藍堂瑠衣の大内真佑花、藍堂瑠奈の椿明来、御鑑美羅の佐伯澪、虹谷沙希の紫賀ぼたん、大道寺信宏の安部瞬が揃った舞台は、また全く違う色彩を放つことだろう。そんな2teamの上演にも期待が高まると共に、この『どぎまぎメモリアル2025』を終えたあとに、劇団バルスキッチンがどんなフェーズに入っていくのかにも注目していきたい。だからこそいましかないこの文字通りメモリアルな舞台を、是非多くの人に体感して欲しいと願っている。
取材・文・撮影(team A)/橘涼香
劇団バルスキッチン第40回公演『どぎまぎメモリアル』
■脚本/演出
前野祥希(バルスキッチン)
■キャスト
・野原拓郎 役
中島拓人
・藤原楓 役
井坂仁美(仮面ライダーGIRLS)
・斉藤康介 役
坂口実成夢【A】/三遊亭萬丸【B】
・高橋陸 役
山田洋介(D≠LIGHT)【A】/緑川青真【B】
・一ノ瀬廉 役
市川愛大【A】/松良仲彌【B】
・藤浪詩織 役
飯塚シオン【A】/絃ユリナ【B】
・案内誘 役
成田道行【A】/尾上恭平(バルスキッチン)【B】
・野原俊之 役
ズドン(バルスキッチン)
・野原恵子 役
紙野千鶴
・野原亜紀 役
優莉奈【A】/平瀬美里【B】
・藍堂瑠衣 役
西田有愛【A】/大内真佑花(バルスキッチン)【B】
・藍堂瑠奈 役
愛恵(バルスキッチン)【A】/椿明来【B】
・御鑑美羅 役
金子まりか【A】/佐伯澪【B】
・虹谷沙希 役
藤本麻依【A】/紫賀ぼたん【B】
・大道寺信宏 役
早川維織【A】/安部瞬【B】
■日時
2025年4月23日(水)~4月29日(火•祝)
23日(水)14:00【A】/19:00【B】
24日(木)14:00【B】/19:00【A】
25日(金)14:00【A】/19:00【B】
26日(土)13:00【B】/18:00【A】
27日(日)13:00【A】/18:00【B】
28日(月)13:00【B】/18:00【A】
29日(火•祝)12:00【A】/17:00【B】
■劇場
バルスタジオ
(175-0082 東京都板橋区高島平8-15-10パレット高島平B2)
■チケット料金
・S席 8,000円《最前列 各回 限定10席)
《S席 特典ブロマイド 1枚付(全5種)》
※特典は応援キャストの物を受付にてお渡し致します
※5枚目以降は同じ物をお渡しする事になります、ご了承ください
・一般席《2列目以降》
《平日》 5,500円(当日 6,000円)
《土・日・祝日》 6,500円(当日 7,000円)
・非売品ブロマイド付き応援チケット3,000円(各キャスト全 5 種)
■スタッフ
プロデューサー:神品信市(MIRAI)
アソシエイトプロデューサー:麻生直希
脚本/演出:前野祥希
舞台監督/美術:対馬武(LDA)
音響:臼井俱里
照明:和田優也
撮影:山崎大介
制作ディレクター:西村克也(MIRAI)
制作:若林沙織(バルスキッチン/MNOP)/尾上恭平
制作協力:MIRAI PICTURES JAPAN
衣装:愛恵
小道具:上田雄太郎
グッズデザイン:臼井俱里
スチール撮影:橋本顕(gekichap)/長橋有沙(gekichap)
スチールレタッチ:臼井俱里
■企画/制作
劇団バルスキッチン