あのアイドル大好きオタクたちが帰ってくる!『帰ってこい! 伊賀の花嫁  その六 そうだ! We’re Alive編』 稽古場レポート

あのアイドル大好きオタクたちが帰ってくる!『帰ってこい! 伊賀の花嫁  その六 そうだ! We’re Alive編』 稽古場レポート

 伊賀忍者の末裔の青年が一族の血脈を守るべく秋葉原に花嫁探しにやってきたはずが、アイドル沼にハマってしまう顛末を描いた、方南ぐみが贈る新年初笑い名物企画『伊賀の花嫁』。

 とにかくなにも考えずに笑える、と大人気を博したシリーズは、2021年『伊賀の花嫁 THE FINAL ここにいるぜぇ編』で惜しまれつつ幕を閉じた……はずだった。

 けれども、世界も日本も誰かが、どこかで「人類よ気づけ、立ち止まれ」と警告を発しているのではないか、とさえ思えるほどに暗い方へ、暗い方へと向かっていっていると思えるこの時代。それらを考え続け、見つめ続けることがどれほど大切なのかを感じ、十分に知った上で、もうひとつとても大切なのが、頭をからっぽにして大笑いできる時間ではないだろうか。なぜなら笑うことは自分だけでなく、人にも優しくなれる力の源なのだから。

 と、方南ぐみが、作・演出家の樫田正剛がきっと考えてくれたに違いない!と信じられる絶妙のタイミングで、あの『伊賀の花嫁』が帰ってくる。その名も『帰ってこい! 伊賀の花嫁  その六 そうだ! We’re Alive編』この「帰ってこい!」というタイトルにまず強い意志を感じるではないか!と見学前から妙にテンションがあがったままの年末の午後、稽古場を訪ねた。

この日の稽古は、伊賀忍者の末裔の三四郎(町田慎吾)が秋葉原を去って2年。アキバのトップヲタのTO(ティーオー)ことランラン(水谷あつし)が、「三四郎くんともう一度、コールをしたいな……」と三重県伊賀へと向かったところからはじまる、大騒ぎのドラマの後半、クライマックスへと向かうシーンの本読みからはじまった。

と言っても整然と机が並べられているのではなく、銘々が椅子を稽古場の真ん中に寄せて、なんとなく車座になっているような、いないような、壁のところから動かないままの人もいるという、極めてラフな感じからいきなりフルスロットルの台詞の応酬が展開されるのにびっくりさせられる。

確かに本読みで、みんな台本を持っているし、「あれ?次のページがない?どこ?」といった“はじめて感”も残っているにも関わらず、全員大丈夫なのかと思うほどの大音量で、話し、叫び、時には立ち上がって交わされる台詞から、まるで場面が見えてくるかのようだ。何しろこの本読みはラストシーンまで続いたので、さすがに詳細に書くのは憚られるのだが、水谷演じるランランの長台詞には、何かにハマったことのある人なら大笑いしながら刺さりまくるだろう、という笑い泣き必至の魅力があふれているし、没入型の演技スタイルが如何なく発揮される三四郎役の町田、いつもながらの本気度に圧倒される。そう「帰ってきた三四郎くん、さらにパワーアップしてスゴいです!!」とだけは声を大にして言っておきたい。

その上、2023年の大晦日、元キャンディーズの伊藤蘭が出演したNKK「紅白歌合戦」で、現代のアイドル大好き人間たちを驚かせた、70年代アイドルの応援団「親衛隊」が、奇しくも作品のなかに登場しているのも非常にタイムリー。ランランが大先輩だと崇めるなか、70年代アイドルを切々と語る「米米クラブ」のジェームス小野田の熱演も必見だ。

この熱気あふれる本読みは一気にラストシーンまで駆け抜けて、この日の稽古には残念ながら欠席だったHideboH山本涼介らの台詞を、演出の樫田が代読、戯曲の作者でもあるのだから当然なのかもしれないが、その台詞術の上手さに聞きほれることもしばしば。ここで10分間の休憩が入るが、誰もがいまの本読みのやりとりの反芻に余念がなく、「TRITOPS*」のユジュンが台詞のイントネーションを熱心に確認しているのに、高柳明音や、近くにいた役者たちが誠実に応えているのも和やかだ。

そこから再開した稽古はいま本読みをした場面の荒通しから。伊賀の里の人間関係も多種様々で、それぞれに思いも思惑もあり、キャラクターが極めて多いなか、本読みの高いテンションがそのまま引き継がれた芝居が続いていく。鈴木健介の突進力や、谷水力の台詞術、溌剌とした動きが目を引く武田知大HAYATEのおおらかな存在感などなどが色彩強く、それぞれに対して深い芝居をしていく町田とのやりとりも白熱していく。

なかでも、極めつけのダンディーだったり、笑顔の向こうでゾッとするほど怖い人も楽々と演じる水谷が、ランランで弾けまくっているからこそ、やはりくっきりとした芝居を見せる松本旭平の役どころがイラついたあまりにもらした「オタごとき」という台詞にピクリと顔色を変える様に、ゾクゾクする。ここからの展開は本読み同様抱腹絶倒で、その果てにちょっとほろっともさせる流れが絶妙だ。

一方そのランランと共に旅をする役柄の横尾瑠尉の豊かな表情変化も楽しいし、ひと際長身が際立つ稲垣成弥は、ある場面で今日は稽古を早抜けするのかな?と錯覚したほど、バックパックを背負って歩いていく自然な動きのまま、スーッと芝居のなかに入っていったナチュラルさにハッとさせられた。

そんな場面が続いたあと、樫田から立ち位置の調整をはじめとしたさまざまな演出がついていく。「ちょっと頑張りすぎかな」という、稽古のテンションが高いからこそ、俯瞰している側にしか感じられないサジェッションがあったり、まだなにより台本を持っている段階だし、会話のテンポが非常に良いからこそ「はい次、はい次」と連なっていく会話の応酬が、ともすると自分の台詞を勢いよく発しているだけになりかねない。相手の台詞を聞いて反応したから自分の台詞が出る「それは芝居の一丁目一番地だからね」という趣旨の言葉が耳に残る。これは常々俳優の方たちから「一番の基本なのだけれども、繰り返していくうちに新鮮にそこに立ち戻るのがとても難しいことでもある」と、インタビューの機会で聞くことが極めて多いことでもあったからだ。おそらく台詞を覚えることと、覚えた台詞からある意味離れることが、芝居の難しさであり、だからこその面白さなのだろうな、と感じさせられた。

他にも、大人数が動いている舞台面で自分の立ち位置をちゃんと計ることや、芝居の流れのなかで、観客だけは知っていて如何にもうさんくさいと思っているけれども、登場人物たちは真相を知らない、という展開での演じ方など、示唆に富む話が多く、俳優たちも熱心に聞き入っている。特に三四郎とランランの再会はひとつの山場だけに「舞台面のいい場所を探して」という、俳優自身で場面に相応しい場所を獲得していくように促す演出が、こうした歌あり、踊りあり、の大騒ぎが賑やかに繰り広げられる舞台の芯を獲得していく力になっていくのだろうと感じた。

「じゃあここまでを整理しましょう」とのことで、銘々がいま見つけた課題をそれぞれに話し合いながら深めていく時間が設けられた稽古場をあとにした。ここからきっと本番に向けて、舞台はより賑やかに、勢いを増していくに違いない。

思わぬ天災や悲しい出来事が続いた2024年の幕開けを、「何も考えずに大笑いできるエンターティメント」がきっと力づけてくれる。そんな舞台の完成が待たれる時間だった。

(取材・文・撮影/橘涼香)

方南ぐみ企画公演 「帰ってこい! 伊賀の花嫁 その六」 そうだ! We’re Alive 編

■公演日:2024年1月17日(水)〜21日(日)
■会場: 俳優座劇場(〒106-0032 東京都港区六本木4-9-2)

■脚本・演出:樫田正剛
■出演:町田慎吾 水谷あつし 高柳明音 稲垣成弥 山本涼介 松本旭平 谷水 力
    ユジュン(TRITOPS*)武田知大 横尾瑠尉 HAYATE 鈴木健介
    / HideboH / ジェームス小野田(米米クラブ)
    アンサンブル 諏訪部声良 万莉 菅原沙衣
■企画・製作・主催:方南ぐみ

■チケット 前売り・当日:7500円(全席指定・税込)
※未就学児入場不可

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