【稽古場レポート】難病の母をめぐる家族の物語。teamキーチェーンが心の揺れを描く『ゆらりゆられ』

【稽古場レポート】難病の母をめぐる家族の物語。teamキーチェーンが心の揺れを描く『ゆらりゆられ』

teamキーチェーンの舞台『ゆらりゆられ』が、11月8日(水)から吉祥寺シアターで開幕する。それに先駆け10月中旬に行われた稽古の様子をレポート。

 teamキーチェーンは2011年に、代表のAzukiが当時のメンバーを招集してユニットとして結成。2016年に劇団化された。現在Azukiは、teamキーチェーンの本公演、全ての脚本と演出を担当している。

 手掛けた作品の多くに自閉症や、LGBT、冤罪被害者など社会の中で生きづらさを抱えている人物が登場する。彼らを取り巻く家族や社会を描くことによって、問題を浮き彫りにしていく。今回の『ゆらりゆられ』は、筋萎縮性側策硬化症(通称ALS)の患者が登場する。

突然、母親が筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹ったら

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、筋力が徐々に低下していく難病。指先の動かしにくさや、手足のしびれなどから始まり、全身の筋力低下により最終的には自発呼吸も難しくなる。呼吸器を使用しなければ寿命3年〜5年と言われているが、10年を超えるケースもある未知の病気だ。

 ストーリーは、そんな難病に突然みまわれた女性、優香子が主人公。優香子には夫と離婚後、ひとりで育ててきた2人の娘と長男の3人の子供がいた。長女の美優は高校を卒業、次女の香奈は中学卒業を迎える年だった。働きに出る長男の圭吾、大学進学を諦める美優、母の病状を受け入れない香奈。自分中心に人生を歩めると思っていた子供たちは、突然人生の岐路に立たされる。

関西弁で演技指導・笑いあふれる稽古場

 この日の稽古には、出演する俳優全てが集まった。取材に合わせてスケジュール調整していただいたそうで恐縮する。

 最初のシーンは障害を持つ車椅子の青年が、コンビニで買い物をする場面から始まった。発声の機械を使って会話する男性「香奈の彼氏です」「俺何歳に見える?」など冗談や軽口も叩く様子は、普通の青年となんら変わりない。

 どうやら香奈がこのコンビニでアルバイトしており、青年は香奈が目当てらしい。このシーンでは出演者から笑いが起こった。それを関西弁でダメ出ししていくAzuki。日常のシーンでも丁寧に違和感をなくしていく、その積み重ねがリアリティのあるシーンに繋がっていくのを感じた。

社会の中で疎外感を感じている障害者

 次もコンビニでのシーン。そういえば劇中では、車椅子の男性と冗談を言い合うコンビニ店員という場面も違和感なく観られるが、実際の社会ではどうだろうか?「障害のあるお客様」として一線を引かれるのが現状だ。

 最後に店長が粋な計らいを見せる。「誰かのための悪意のないルール違反は、場合によってはありかもな」というセリフが印象的だ。小さな「ルール違反」が、細かな心使いが、人を救うかもしれないと感じた。

難病患者ある前に母であり、ロックを愛する一人の女性

 そして優香子の家で行われたラストライブのシーン。この日のためにセットした派手な髪型を笑われる優香子。優香子の元夫も出席する。父親と何か確執があるような長男。優香子の声はすでに発声が難しくなったALS患者特有のものだった。そのリアルさに驚いた。「本当はもっと子供たちの人生を見ていたかった」「あなた達はお互いに思い合う力がある」「私たちは最強の家族だよ!」とそこでワン・ツー・スリーのカウント。ここから演奏と歌に入るのだろうか。

 難病患者である前に母であり、かつて妻であり、ロックを愛する一人の女性であった。人物造形も魅力的だ。「最強の家族だよ!」の力強い言葉の中に、この境地に達するまでの葛藤も垣間見える。

難病患者に接する他人を通じて社会を描く

 この後は、優香子と相馬という男性の二人きりで、手紙を録音機器に吹き込むシーンが行われた。子ども達それぞれに誕生日、就職、結婚「おめでとう」と贈りたかった言葉が続く。心なしか、声が出づらいようだ。

 「続けていて大丈夫ですか」と優香子を気遣う相馬。録音を専門とする業者だろうか。優香子との間に距離感がある。「はい、お願いします」と返され、無言で録音を続ける相馬。それをすかさずAzukiは「そこは仕事として割り切っていると言うこと?」と指摘を入れる。セリフのタイミングで人物の心の揺れを微調整していく、なんて繊細な演出なのだろうか。

 正直、このシーンに一番共感して泣きそうになった。実は筆者もカメラマンとして同じような場面に遭遇した覚えがある。余命が迫ったガン患者である花嫁の撮影だった。明るく振る舞っていても、辛さが垣間見える瞬間がある。仕事に徹しようとも、こちらにも感情がある。

 ここで難病患者を取り巻く家族と同時に、その周りの他人の心の変化まで描こうとしている事に気づく。そしてそれは社会に繋がっている。

 母親に介護が必要になったことで家族の会話が増え、お互いに知らなかったことが明かされていくシーンもリアルだ。介護生活は辛いが、介護が終わるということは母親の死を意味している。その時、この家族と周囲の人々はどう向き合うのだろうか。ゆらりゆれる感情の行き着く先を見てみたい。

(取材・文・撮影/新井鏡子)

公演情報

teamキーチェーン第19回本公演『ゆらりゆられ』

公演日:【東京】2023年11月8日(水)〜12日(日)
    【大阪】2023年11月17日 (金)~2023年11月19日(日)
会場:吉祥寺シアター
料金:4,900円(全席指定・税込)
HP:https://www.teamkey-chain.net/
お問い合わせ:teamキーチェーン
    mail:teamkeychain1221@gmail.com

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