【稽古場レポート】当時の熱気を今に伝えたい。女優・水野奈月が主宰する新しい時代のnatsuki produce vol.2『飛龍伝』

【稽古場レポート】当時の熱気を今に伝えたい。女優・水野奈月が主宰する新しい時代のnatsuki produce vol.2『飛龍伝』

膨大なセリフ量に圧倒的な熱量の演技、激しいアクションと突然繰り広げられるダンスや歌。怒涛の展開にも理解が追いついていかない内に、いつしかその世界に引き込まれ、最後にはなぜか涙している…。それが、私が観てきたつかこうへい戯曲の印象だ。

水野奈月と土田卓

水野奈月がクラファンで立ち上げた自主企画

今回、この作品に挑むのは女優の水野奈月。昨年、クラウドファンディングに成功しnatsuki produceを立ち上げた。企画公演第一弾の『売春捜査官』も、つか作品だ。前回に引き続き、脚色・演出は髙橋広大(ナイーブスカンパニー)が勤め、主要キャスト以外の役者をオーディションで選出。20代の役者が多くを占め、主演の水野以外は全て男性による舞台になる。

1970年代、苛烈な学生運動と激しい恋愛と

『飛龍伝』の舞台は1970年代。神林美智子は、全共闘の作戦参謀、桂木純一郎に魅入られ、全共闘40万人を束ねる新委員長に任命される。しかし、全共闘を弾圧する側の警視庁第四機動隊隊長の山崎一平も美智子に恋をしていた。愛と革命の間で翻弄される美智子。最終決戦の11月26日に向けて決断を迫られる。

と、これが、おおよそのあらすじだが『飛龍伝』は時代や劇団によって全く違った印象になる。

池袋からも近い、住宅街の1階にある稽古場に近づくと、セリフを叫ぶ声が漏れ聞こえてきた。

井上賢嗣

井上賢嗣と水野奈月

セリフから立ち上る濃厚な昭和の香り

最初のシーンは桂木と山崎が、お互いの因縁を明かし合う場面から始まった。畳みかけるような言葉の中に、父親の死の真相やお互いの家庭環境まで驚くような情報量が詰まっている。

土田卓と井上賢嗣

次は、美智子が山崎のアパートで目覚めるシーンから。根岸にある隅田川沿いの安アパート、おそらく畳の上に正座して話している。舞台セットはなくても、詳細なセリフと所作でその雰囲気が立ち上がってくる。山崎の「好きです」の一言の前後に、とてつもない量のセリフがある。

山崎一平は、つかこうへい劇団生え抜きの井上賢嗣

山崎一平を演じる井上賢嗣は、北区つかこうへい劇団(現・北区AKTSTAGE)出身。過去の『飛龍伝』には、学生や機動隊役として出演経験がある。今回は、つか作品特有の、強烈なコンプレックスを抱えながらも憎めない人間味あふれるキャラクターを演じている。その熱演を見ていると、いつしかセリフがキャラクターの言葉ではなくて、本人が心から発したような血の通った言葉になる瞬間がある。つかこうへい戯曲の醍醐味だが、その片鱗が見えた気がした。

土田卓

土田卓と井上賢嗣

あの時代の熱量をリアルに描きたい

クライマックス間近で、三人が対峙するシーンも圧巻だ。しかし、あまりに昭和の価値観で物語は進み、美智子にかけられる言葉もきつい。令和の現代では乖離があるが、演じる側も時代劇のような感覚なのだろうか?美智子を演じる水野奈月に聞いてみた。

「私も昭和生まれですし、正直そこまで昔の感覚はないです。あの当時の熱量は現代とは違い、時代ならではの情熱があるので、そこはリアルに描けたらと思っています」

水野奈月

虐待を受けて育った美智子の明るく強い部分を出す

目指す美智子像を聞くと
「(飛龍伝の)小説版を読みました。その時感じたことは、家族の愛に恵まれずに生きてきた何も知らない女の子が、地方から上京して、いつの間にか委員長になった。『弱い』という訳じゃないですけど、翻弄されながら生きてきた女の子というイメージがあったんです。でも、そんな過酷な環境の中でも、委員長として自分で決断したり、意志の強さを感じる乗り越えていける女の子だと思いました。

稽古しながら思ったことですが、乗り越えるためにあえて明るく振る舞ってるのかな、と。そんな美智子の茶目っ気だったり明るい部分も出したいと思っています」

強い言葉や激しいシーンの裏に愛がある

観客へのメッセージを聞くと
「激しいシーンもありますし、つかさんならではの言葉の勢いもあります。その裏に愛があって、その時生きてきた人の意思があります。時代が違っても求められているものだと思いますし、それを受け取っていただいて明日からの活力にしてもらえたらと思っています」

井上賢嗣
「メインキャストを演じるのは今回が初めてになります。自分が経験した知識や、その裏に託されたものを皆さんと共有できたらと思っています。飛龍伝は出演者の分だけ台本があるような作品。一つとして同じものはないんです」

桂木役の土田卓は今回が二度目のつか作品だ。
「つかさんは、ネームバリューのある方ですし『飛龍伝』も皆さんの中にイメージがある作品だと思います。でも、そこにこだわらずに演じたいと思っています。題材もエネルギッシュなので、気持ちを高いところに持っていかなくちゃならない。ちょっと語弊があるかも知れませんが、つかさんの作品って脈絡のないところもあるんですよ。気持ちを三段飛ばしくらいで持っていかないと、クライマックスに到達できない。俳優に負荷がかかる舞台だと思っています」

髙橋広大(ナイーブスカンパニー)※手前

橋広大(脚色・演出)メッセージ
「様々な経緯で集まった十五人が、これだけの座組になれること、一つになれることに、『飛龍伝』という作品の偉大さを改めて感じています。今から五十年前の若者たちが何を思い、何と戦っていたのか、熱量と誠意を持って表現していきたいです」

深寅芥(エクゼクティブプロデューサー)メッセージ
「つかこうへい先生が1973年に発表された『飛龍伝』から50年が経ちました。現在の世界情勢を踏まえると、本作品は『紛争や闘争』『人間の尊厳』について現代において改めて向き合う事ができる作品であると感じます。今こそより多くの方に見て頂きたいです」

開演まであと2週間(※取材時)。これからアクションが入り、ダンスや歌が加わりボルテージを上げていく期間に入る。初日は11月15日(水)。劇中の最終決戦11月26日と近い。ぜひ劇場で体験してほしい。22歳以下は3,000円で観劇できる。

(取材・文・写真/新井鏡子)

公演概要

natsuki produce vol.2 「飛龍伝」

<会場>シアターグリーン BOXinBOX THEATER

<期間>2023年11月15日 (水) ~2023年11月19日 (日)

<公演日・開演時間>

11月15日(水)19時
     16日(木)14時/19時
     17日(金)14時/19時
     18日(土)14時/19時★
     19日(日)14時

計8回公演
※★の回はライブ配信+アフタートークがあります。
※受付開始・開場は開演の30分前です
※上演時間は2時間を予定しております。

【指定席】特典付きS席(最前列):6,500円
【自由席】一般:4,800円 U-22:3,000円
(税込)
※特典付きS席は指定座席(選択可)となります。

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