2023年5月13日 (土) ~2023年5月21日 (日)に上演される、KAAT神奈川芸術劇場主催・企画制作、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『虹む街の果て』(作・演出:タニノクロウ)の、稽古場レポートをお届けします。
KAAT神奈川芸術劇場が芸術監督を務める長塚圭史の旗振りの下で、この二年間実に個性的な作品を送りだしてきた。そして3年目となる2023シーズンは「貌」をシーズンタイトルに据えて9月からスタートすることとなっている。そのプレシーズン企画としてタニノクロウ作演出による『虹む街の果て』が上演される。
この作品は2021年に上演した『虹む街』のリメイク(もしくはリクリエーション)作品で、「街」の未来の姿が描かれるというもの。プロの役者以外に県民から集る参加者がいるのは前作と一緒だが、今作ではパーカッションを担当する渡辺庸介と俳優の赤星満以外は全て県民参加者となり、プロの俳優が多数いた前作とはだいぶ違った様子を見せている。
そんな作品を紡ぎ上げる稽古場を訪問した。スタジオには『虹む街』で用意された横浜・野毛をモデルにした飲食店街のセットが組まれている。ただし今回はそこから10年、20年、もしかすると100年先の「街」だ。コインランドリーやスナックはホコリにまみれ、存在がニジんでいるように見える。そのせいで「街」は既に機能を失っているかのように見えるが、もし人々が集まることを「街」の機能とするなら、『虹む街』は辛うじて生きているのだといえるだろう。そこには同じ緑のつなぎを着た人々が、まるで肩を寄せ合うようにして暮らしているのだから。
作品は物語全体を貫くストーリーがある訳ではなく、いくつもの「○○の果て」をつなぎ合わせたり重ね合わせたりされながら進行していく。本格的な役者は赤星一人。やはり他の市民参加者とは発する雰囲気が違うのだが、本人もまだ他の出演者との呼吸が合わないという。徐々にチューニングしている最中といったところだろう。そんな市民参加者にタニノは積極的に演技をつけるわけではなく、物語が上手く流れていくように、段取りをつけいるといった印象。それもまた物語の周辺をニジませて繋げていくような作業に見える。劇中で渡辺が奏でる“音”もユニークだ。便宜上パーカッションとされているが。鍋や網、金属製の洗面器に石など、ともかく音が出るものを次々に並べては奏でていく。時にはリズミカルに、そして時には調子外れに。それでも“音”が上手い具合に芝居と同調するから不思議なものだ。
タニノに話を聞くと、21年の初演時に続編が出来たらいいなと言う希望はあったものの、具体的なプランは無く、今作に取りかかってから「もっと先の、暇になった世界」を描こうと思ったという。キャストを集めるにあたっては神奈川県民であり、かつ多国籍のメンバーであることが条件だったので、ここに居るのは中国、インド、コロンビアなど様々なルーツをもつ人々。中にはハーフの方もいる。だから聞こえてくると言葉も日本語、英語、タガログ語、中国語……そして訛った日本語。言葉の存在も、そしてお互いのアイデンティティですらもニジんでいるかのようだ。
休憩時間を使って市民参加者に話を聞いてみた。話の途中でギターも披露するアリソン・オパオンはフィリピン出身。普段は仕事の傍らシンガーソングライターとしても活躍している。暮らしているのは鶴見だというが、横浜以上にカオスな街だ。前作に引き続いての出演で「今回もタニノさんが参加者を探していると聞いたもので」参加を決めたという。今回は自作の曲を歌うチャンスもあると嬉しそうに話してくれた。
もう一人、笑顔が印象的な馬(マー)双喜は、中華街にある「馬さんの店 龍仙」の経営者で、やはり2回目の参加。「出演者を探しているという話はまず発展会(横浜中華街発展会協同組合)に持ち込まれました。会の理事でもある私にも話が来たのですが、なかなか参加者が見つからなくて、自分が参加することになりました。とても楽しく参加しています。もともと芸能は好きで、この劇場(KAAT)にもお客さんとして良く観に来るんです」と話す。エンタメに強い上海で生まれ育った“上海っ子”らしい話だ。
もう一人、あるシーンでは小さなトランポリンの上で踊るビルラ・スニルはインド出身。普通の演劇作品とはだいぶ趣が違うこの作品に取り組んだ感想を「最初は普通のお芝居だと思っていたのだけれど、やってみるとだいぶ違っていて。最初はよくわからなかったのが、最近はだんだん面白くなってきた」とのこと。
初演の『虹む街』から時を経た「果て」の街と、そこに現れては消えるいくつものエピソード。それは色々な人々や文化がやってきては消える横浜や鶴見。更には相模原や川崎など、カオスな街の姿を体現し象徴しているようだが、俳優でも無く、かといってもはやただの一県民でも無くなった彼らがそこでどんな世界を組み立てるのか。それが楽しみになってきた。
(取材・文・撮影:渡部晋也)
公演概要
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『虹む街の果て』
公演期間:2023年5月13日 (土) ~2023年5月21日 (日)
会場:KAAT神奈川芸術劇場<中スタジオ>(神奈川県横浜市中区山下町281)
■出演者
渡辺庸介(パーカッショニスト) 赤星満
神奈川県民を中心とした街の人たち
アウラ・イデタ 阿字一郎 アリソン・オパオン 小澤りか
川口麻美 木村志穂 児安俊重 ジェセフィン森 ソウラブ・シング
ビルラ・スニル ファティマ悠 ポポ・ジャンゴ 馬双喜
■スタッフ
作・演出:タニノクロウ
音楽・音響:佐藤こうじ
美術:稲田美智子
照明:大石真一郎
衣裳:富永美夏
演出助手:福丸敦子
舞台監督:瀬戸元哲
■公演スケジュール
5月13日(土) 17:00◎
5月14日(日) 13:00◎ / 17:00◎
5月20日(土) 13:00◎ / 17:00◎
5月21日(日) 13:00◎
◎=託児サービスあり 公演1週間前までに要予約・有料(マザーズ0120-788-222)
・開場は開演の30分前
■チケット料金
一般:4,000円
神奈川県民割引(在住・在勤):3,600円
U24チケット(24歳以下) :2,000円
高校生以下割引:1,000円
シルバー割引(満65歳以上):3,500円
(入場整理番号付 自由席・税込)
※神奈川県民割引はチケットかながわの電話・窓口にて3月11日より取扱い(前売りのみ、枚数限定、要住所確認)
※U24、高校生以下、シルバー割引はチケットかながわの電話・窓口・WEBにて3月18日より取扱い(前売のみ、枚数限定、要証明書)
<カンフェティ限定>
先着限定!入場整理番号付 自由席 一般:4,000円
→ カンフェティ特別価格!(チケット購入ページにて公開!)
(税込)