「5454」と書いて読み方は「ランドリー」。
『青空の下になびいている真っ白いTシャツのように、日々当たり前に見えている風景をリフレッシュさせたい。日常の汚れた気分を“ゴシゴシ(5454)と洗い流したい”』というコンセプトの基、様々な作品を発信し続けている「劇団5454」の2022年秋公演『ビギナー♀』が、11月9日~13日池袋のあうるすぽっとで上演される。
今回掘り下げられるテーマはズバリ「青春」。
バドミントンサークルに所属する女子大学生の青春と、かつてバトミントン愛好会で活動していた大人たちの青春、そして高校の演劇部で情熱を燃やす少女たちの青春が混然一体となって描かれる、総勢21名の登場人物たちによる群像劇だ。
そんな舞台の初日を約10日後に控えた10月末、「劇団5454」主宰・脚本・演出の春陽漁介以下、スタッフ、キャストが躍動する稽古場を訪ねた。
都内の広い稽古場に一歩足を踏み入れると、全員から発せられるパワーにまず目を奪われる。キャストは大学生チーム、大人チーム、高校生チームに分かれていて、それぞれに台本や動きを確認している様がなんとも賑やか。一方で、演出の春陽はセットの模型を見ながら細かいチェックに余念がないし、この日は音楽のShinichiro Ozawaもキーボードの前で作業をしていて、なんだかもう既にこの空気が青春だなぁ……と辺りを見回しているうちに、いよいよ稽古がはじまった。
スタートは全員出演のオープニングシーンから。放課後カラオケにやってきた大学のバトミントンサークル「ビギナー♀」(と書いて「ビギナー」と読む)の代表、小栗はなが歌い出す。
小栗役の神田莉緒香がシンガーソングライターであることを、上手く使った導入かにみせて、「ビギナー♀」のメンバーが次々に歌い継ぎ、わちゃわちゃと表現したいような、6人が本物のサークル仲間に見えるのが面白い。サークルのメンバーではないが、同じ大学ではなの幼馴染の楠健役の高品雄基、その妹でブラザーコンプレックス気味の楠志保役の井澤佳奈の登場の仕方もさりげなく凝っている。
そんな大学生チームがセンター奥でステップを踏む前を横切るように、橋口杏奈役の榊木並が登場。
学生たちにではなく、いつの間にか大人になっていた自分に対して、現状を肯定できないながらも美しい過去にだけは負けられない!と思いを語り、下手手前の大人グループへ合流。
一方、学則をはじめ様々なものに縛られる高校生活の窮屈さに閉じ込められたくない!と高校生の村岡萌役の山本愛友が言い、上手前で高校生トリオが弾ける。大変情報量が多く、また動きも多いオープニングを、角度を変えて2度見せてもらったが、それぞれが違う次元にいる3つのグループの関係性が一気に見えてくる、心躍る幕開けだ。
演出の春陽からは「ワイワイしている雰囲気はとても良いから、その賑やかさで台詞がつぶれないように!」という指示があり、確かにやりとりがあまりにもナチュラルで、良い意味で台詞らしさがない分、大事な台詞も相当言っているから、その内容を立てて伝えることの両立が必要になるのだろうなと、納得させられる。
そこから学生チームの場面稽古へ。
バトミントンサークルの「ビギナー♀」の活動日のようだが、6人は恋愛話に熱中している。2年生で男を切らさない森ももか役の鈴木千菜実のあっけらかんとした恋愛観を、呆れつつも結局興味津々に聞き入る彼女たち。
はなと同じ3年生の塩本菜津子役の森島縁の軽やかな動きと厚い友情。やはり3年生でお嬢様タイプの藤原麻未役の山下聖良の清楚さ。2年生でバイト掛け持ち三昧の杉内佳苗役の竹森まりあのエネルギッシュ。最下級生の楢原芽衣役の及川詩乃のとぼけっぷりと、全員キャラが立っていつつ、結局バトミントンの練習には至らないままだらだらと喋っている様がとてもリアルだ。
はなにぞっこんの幼馴染・健の高品が何かとちょっかいをかけてきて、ブラコン傾向の妹・志保の井澤がむくれるという流れも自然だった。
春陽からは「テンションはすごくいい。このままでいいし、台詞の出し方は完璧だから、台詞を待つ間を工夫して」という、まず褒める春陽の演出姿勢がよく伝わる指摘が。特に兄が「ビギナー♀」に出入りするのが気に入らない、真面目にバトミントンに取り組んでいる別サークルの志保が、いらだちの表明にラケットを振っていく、その振り方を数回繰り返す稽古で、みるみる見え方が変わる様に稽古の大切さを改めて感じた。
続いて大人チームの稽古。東京の広告代理店に勤めていて、有給消化で地元に帰ってきた橋口杏奈の榊木並と、スナックを経営している桑井橙子役の岡元あつこがバッタリ出会い、橙子が仲間内に杏奈が帰っている!と集合をかけてのスナックでの帰省パーティへ。
杏奈の仕事に憧れを抱く荻沼カズキ役の真辺幸星、その恋人の柴梢役の大塚由祈子二人が、長年付き合っているからこそ結婚に踏み切れずにいる関係。家業のネギ農家を継いだ横田理枝役の谷田奈生と、パチンコ通いを続ける菊池美穂の西野優希は、高校時代のバトミントン愛好会の仲間。
スナックで働くシングルマザーの松木明実役の樋口みどりこと、貸し切り状態の店内で一人部外者でありながら、決して居心地が悪そうではない小林茂雄役の大竹散歩道と、賑々しいことこの上ないのに誰もが個性的。
その空気のなか「相変わらずうるせぇな」と入ってきたのが高校教師の梶栄二役の窪田道聡。杏奈とは高校時代に付き合いがあったらしいが、差し入れだけを残してあまりにもあっけなく去っていく。
この展開がきっとのちにつながっていくんだなと思わせ、さらに「バトミントンやろうよ!」という絶妙な流れで杏奈の妹・橋口楓の岸田百波も登場。メンバーを紹介しながら、物語が広がっていくことを感じさせる流れに引き込まれた。
開口一番春陽から「大学生より元気」のひと言があって、思わず笑ってしまう。
大学生たちも元気なのだが、元気の質が違う感覚はおおいにわかる気がする。
「イメージはそのまま維持して、台詞の緩急を様々につけて欲しい」という指摘にもなるほどと感じ、特に梶役の窪田には「もっと空気の読めない男になる為に、うんざり感を前面に出さないとこのパワーに勝てない」との要望が出され、確かにこのパワーに勝つって大変だな、でも窪田ならきっときっちりやってのけるだろうという予感がする。
その期待が確信に変わったのが、高校生チームの場面。
演劇部の高校3年生トリオ村岡萌役の山本愛友、槙野桐乃役の佐々木光、都築栞役の中心愛が、休憩込み3時間の大作の上演許可を顧問の梶の窪田に求めにくる。
自分が演劇部の顧問だったことも忘れているという有様の梶が、3人組の芝居に次々とダメ出しをして、主張を却下していく様は、高校生役の3人のカリカチュアしきった大芝居と共に、梶のバッサリぶりが爆笑を呼ぶ。
「美しい大人」を夢見る3人が揃って非常に美少女で、「美しい大人なんていねぇよ」という先生に「まぁそうだけど、でもそう決めつけなくても…」とついつい口を出したくなったほど、示唆に富みながら楽しい場面が続いた。
春陽からは生徒たちがダメ出しを聞こうとダッシュする勢いや、位置の取り方などが細かく指示され、はじめはそれだと動きにくいかも…という表情だった高校生トリオが、反復して納得していく様子が伝わって、芝居が丁寧に組みあがっていく過程を見た思いだった。
他にも、いくつかの場面がスピーディに続き、ストーリー的には飛んでいるものの、あーこうして別次元の人たちそれぞれの「青春」がかかわっていくんだなとワクワクした。「バトミントンシーンをひとつ見てもらった方がいいかな、時間大丈夫ですか?」と訊かれてはじめて、当初予定時間が過ぎていたことに気づいたほど、どの場面も面白くあっという間に感じられる稽古場だった。
特に感心したのは、この大人数の舞台で誰一人世にいう「アンサンブル」のメンバーがいない、全員が大きな役割りを持った、作品を生きる人々として脚本が書かれていることで、各場面がどうつながってストーリーが組みあがっていくのかに、ますます興味がわいた。まだキャストの多くが台本を持っている段階で既に、意見の対立もあれば喧嘩もたくさんして、だからこそキラキラした様々な「青春」が見えてきているカンパニーが、どんな舞台を見せてくれるのか、開幕が待たれる時間だった。
(取材・文・撮影/橘涼香)
劇団5454 2022年秋公演『ビギナー♀』
舞台『ビギナー♀』は、バドミントンサークルに所属する女子大学生と、スナックに集まった大人たち、そして演劇部に所属する高校生たちを描く青春群像劇です。
青春とは何かを考えたとき、「仲間」「居場所」「時間」の三つの要素が大きいと感じています。
他人から見たらなんでもない、無駄のように思える出来事も、一緒にいるだけで楽しい友人や、安心出来る(もしくは新鮮な)場所、制限時間があることで、当人にとっては重要なドラマが広がります。
三方向から掘り下げる「青春」は、きっと誰にとっても、懐かしくて、眩しくて、切なくて、暖かくて……
たくさんの感情を、たくさんのキャストと共にお届けします。
脚本・演出 春陽漁介
公演期間:2022年11月9日 (水) ~2022年11月13日 (日)
会場:あうるすぽっと
チケット:SS席 7,000円、S席 6,500円、A席 6,000円(全席指定・税込)
配信チケット:3,500円
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◇CAST
神田莉緒香(ストロボミュージック)
森島縁(劇団5454)
山下聖良
鈴木千菜実
竹森まりあ(アミティープロモーション)
及川詩乃(劇団5454)
井澤佳奈
高品雄基(TEAM-ODAC)
岡元あつこ(浅井企画)
榊木並(劇団5454)
大塚由祈子(アマヤドリ)
西野優希(東京マハロ)
窪田道聡(劇団5454)
谷田奈生
樋口みどりこ(つぼみ大革命)
真辺幸星
大竹散歩道(ACALINO TOKYO)
中心愛(アローズエンタテインメント)
岸田百波
佐々木光
山本愛友(walnutbox musical)
◆STAFF
作・演出:春陽漁介(劇団 5454)
音楽:Shinichiro Ozawa
舞台監督:北島康伸
舞台美術:愛知康子
照明:安永瞬
照明操作:鈴木麻友
音響:大谷健太郎 (S.H.Sound)
増田郁子( (株)スタッフステーション )
演出助手:柴田ありす
宣伝美術・デザイナー:横山真理乃(劇団5454)
マネージャー:堀萌々子(劇団5454)
スチール撮影:滝沢たきお
映像撮影・配信:TWO-FACE
票券:米田基(株式会社 style office)
森島縁(劇団5454)
制作補佐:小泉沙百合、三ツ井夕貴羽
バドミントン指導:小林知佳、松海ひかり
協力:株式会社ローソンエンタテイメント
ロングランプランニング株式会社
ぴあ株式会社
株式会社 style office
住知三郎
企画・制作:劇団 5454
主催:株式会社 L. Loves R.(劇団 5454 事業部)