【稽古場レポート】舞台「プロパガンダゲーム」正しいことが多数決で勝るとは限らない!?

【稽古場レポート】舞台「プロパガンダゲーム」正しいことが多数決で勝るとは限らない!?

2022年8月11日(木・祝)~28日 (日)、新宿のサンモールスタジオにて舞台『プロパガンダゲーム』が上演される。

「プロバガンダゲーム」は2016年電子書籍として出版され、初登場で Kindle ランキングに2位に躍り出た根本総一郎の小説。

大手広告代理店〈電央堂〉の就職試験を勝ち上がった大学生8人に課せられた最終選考課題は、宣伝によって仮想国家の国民を「戦争」に導けるかどうかを競う〈プロパガンダゲーム〉だった。
就活生たちはそれぞれ【政府チーム】と【レジスタンスチーム】に分かれて、2時間後に行われる国民投票に向けて、情報戦を繰り広げていく、という現代にいつ起きても不思議ではないリアルな物語だ。

その後作品は、全面改稿を経て2017に双葉文庫から出版。Kindle 版では選考を見ている人物の俯瞰視点で展開していた物語が、選考参加者の視点から描かれ、当事者たちの揺れ動く感情も描かれるより緊迫した作品になった。

この小説を原作に「劇団5454」を主宰する春陽漁介が脚本・演出を手掛ける舞台版がいよいよ登場。
本番まで10日あまりの7月末、都内の稽古場では演出の春陽を中心に、キャストたちによる熱い稽古が展開されていた。

理想主義と現状認識で緊迫するside:Resistance

舞台は国民を戦争賛成に導く政府チーム=side:Governmentと、戦争反対に導くレジスタンスチーム=side:Resistanceの、2バージョンが回替わりで上演される。
この日は、国民に戦争可否を問う中間投票に続く場面の稽古が行われた。

稽古場は台詞や動きを確認したり、着替えの準備をするキャストたちそれぞれが活発に動くなか、まずside:Resistanceの場面稽古がはじまる。


両チームはSNSによる投稿と、動画による”扇動”を利用し、ゲームの国民として選ばれた一般人を相手にプロパガンダを行っていて、今井貴也役の白又敦、国友幹夫役の白柏寿大、越智小夜香役の出口亜梨沙、樫本成美役の高嶋菜七が、春陽の演出席に近い舞台前面で、パソコンやスマホを駆使しながら、戦略を立てていく。

ここでまず驚いたのが、side:Governmentのメンバーも、舞台奥に位置して、互いの広報タイムなどの演技を続けていること。原作が両方のチーム視点で描かれることから、自然に2バージョンの上演形態になったということだったが、レジスタンスチーム視点の時には、政府チームの面々はポイント出演なのかな?と思いきや、全員がほぼ出ずっぱりの作りに目を見張った。

「レジスタンスチーム」の「戦争に賛成という投票はそもそもしにくいよ」という観測は、それは確かにそうだなぁと感じさせるものがある。ただこの余裕が、それぞれのキャラクターが自我を通していくことにつながっていく。

特に高嶋菜七演じる樫本成美が「戦争がいけないのは当たり前、どんな理由があってもやってはいけないこと」と、非常に正しい信念を貫くのに、「いけないとわかっているのになぜ戦争は繰り返されるのか?」という、これもまた直球の疑問を投げかける白又敦演じる今井貴也が「正論の危険」を説き、二人が衝突していく過程がとてもリアルだ。
高嶋が生真面目で融通の利かない樫本を真っ直ぐに表現し、その真っ直ぐさに苛立っていく今井を、白又が大きなアクションで演じるのに見応えがある。

そんな二人の衝突を、絶妙に止める出口亜梨沙演じる越智小夜香役のクールさが、関西弁のリズムと相まって面白い効果をあげていて、データ収集を冷静に分析していく白柏寿大演じる国友幹夫の存在がチームを支えている。政府チームのアイドルユニット的広報に、レジスタンスチームが憤ったり、対応に追われたりと、感情の起伏もたっぷり。

国民たちが自由に意見を書き込みできるチャット欄も、映像を使わず「こう来たか!」というアイディア満載で、セットに見立てた低い仕切りしかない稽古場でも面白さが伝わってくる。これが模型を見せてもらった舞台セットで展開されたらどれほど効果的だろう、と想像が膨らむところでside:Resistanceバージョンの場面稽古が終了。

「正論では多数決に勝てない、正義を貫いて戦争になって満足か?」という言葉が耳に残った。

演出の春陽から、物語のピークはちゃんと表現できているから、キャラクター同士の意見の食い違いが積み上がって、キレる過程が見えてくるともっとよくなる。台詞をしゃべっているように見えてしまうともったいない、などの指摘があり、キャストたちも真剣に耳を傾けている。

感情が高まると動きは決めても変わっていくものだし、そこは任せているからお互いのコミュニケーションを積み重ねて。と、キャストに信頼を置いている演出が感じられ、窪田道聡榊木並森島縁の「劇団5454」の面々が、春陽に駆け寄り、ごく自然に意見を交わしているのが、劇団が支えるこの公演の強みを自然に醸し出していく。台本が精査されたり、チャットの会話が削られたりと、より効果的に場面が構築されていった。

結束の固いメンバーで「戦争賛成」に誘導するside:Government

そこからside:Governmentの同じ場面の稽古がスタート。後藤正志役の松島勇之介、椎名瑞樹役の松田昇大、香坂優花役の宮崎理奈、織笠藍役の及川詩乃が、今度は舞台の前面に位置しての芝居がはじまる。

宮崎理奈演じる香坂優花がムードメーカー的な溌剌さを出していて、いまひとつ自分に自信が持てない織笠藍を引っ込み過ぎずに演じる及川詩乃とのコントラストがよくかみ合っている。レジスタンスチーム視点から見た時にはびっくりした二人が行う広報活動も、こういうことからはじまったのかと、答え合わせができるようで、両チームの視点で描いていく効果がよくわかる。

そこから、レジスタンスチームが投げてきた広報に、的確に反撃していく後藤正志の戦略を、頭がいい!とチームメンバーが褒め称えることが、松島勇之介の聞き取りやすく明晰な台詞によって説得力を増していく。

その戦略を国民たちに訴えていく広報官の椎名瑞樹を演じる松田昇大の、如何にも人心を捉えるのに相応しい爽やかさとも揃い、既に4人のキャラクターがくっきりと立って感じられる。

一方レジスタンスチームの、政府チーム視点から見ると「反撃」になる広報や、扇動がこのタイミングで出てくるのか!の鏡合わせの動きが面白く、あくまでもこの場面だけの印象とは言え、戦争反対を唱える側のチームが緊迫して険悪になり、戦争賛成に市民を誘導する側のチームが和気藹々としているのも、この作品のテーマにつながるのかも…と、うっすら怖いような気持ちになったところで場面は終了。

よくよく聞いてみると、この時点で両チームが有力な情報を得たり、扇動タイムを設定するのに必要な保有ポイントに差があることも、続きはどうなるんだ?という興味を掻き立てられた。

春陽からはレジスタンスチームへのアドバイスでも出た、自由に動いていいという話と同時に、その動きに意味を持って欲しい。次にパソコンの前にいないといけないから、という段取りで移動してしまうと成立しなくなるという指摘が。

特に、この台詞はこのテンション、としなくていい。芝居全体でどこまでいけるかが定まってさえいればいいので、前日の稽古の記憶に捉われて無理をしないこと。違う状態になったらその感情に任せていい。舞台にいったら毎日変わるから!という、あぁ、だからこそライブは一回、一回が一期一会なんだな、という観客としても腑に落ちる指示がなんとも印象的。まず褒めてくれる演出でありつつ、キャストたちが本役以外に、早替わりで演じる役どころを「すごくいい、なんなら本役よりいい!」と、言うべきことはビシッと言っていて、キャストも「あ、それはまずい!」と笑いながらちゃんと受け止める引き締まったやりとりが続いた。

こうした稽古を経て細かく積み上げられた芝居と、セット、衣装、照明が揃うとどんな舞台ができあがるのかに期待が膨らむ稽古場見学で、両バージョン出ずっぱりで全く違う動きをするキャストたちの負担は相当なものだと思うが、その分観る側の楽しみは倍増間違いなし。

誰のファンであっても、双方の回を観るべきだ!という作りの面白さと、マスクをしたままの、表情が目だけしか見えないはずなのに、キャストが演じる役柄の喜怒哀楽がちゃんと伝わることにも改めて感動する時間だった。

(文・撮影/橘涼香)

舞台「プロパガンダゲーム」

公演期間:2022年8月11日 (木・祝) ~2022年8月28日 (日)
会場:サンモールスタジオ
原作: 根本聡一郎(『プロパガンダゲーム』(双葉文庫))
脚本・演出: 春陽漁介(劇団5454)
side:Government: 松島勇之介 、松田昇大、宮崎理奈、及川詩乃
side:Resistance: 白又敦 、白柏寿大、出口亜梨沙 、高嶋菜七
窪田道聡 / 榊木並 / 森島縁

STORY
君たちには、この戦争を正しいと思わせてほしい
そのための手段は問わない
広告代理店の最終入社試験に訪れた8人の大学生。
最終課題は、国民を戦争に導けるかどうかを競うゲームだった。
【政府チーム】と【レジスタンスチーム】に分かれた学生たちは
国民に対して宣伝を使った情報戦を繰り広げていく。

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