3月30日。東京・新宿区のBIZ新宿において、劇場都市TOKYO演劇祭の審査発表及び表彰式が行われた。
この演劇祭は、サンモールスタジオを運営する佐山泰三氏を中心に結成された実行委員会がコロナ禍でダメージを受けた演劇を復興させようと企画されたもの。
作品が上演された劇場はどこも客席数100前後のいわゆる小劇場だが、単なる貸し劇場ではなく演劇を育てるプロジェクトに積極的に取り組んでいる場所。限られた空間の中でどれだけの劇的世界を拡げることができるかが大きな課題となるが、開催概要の『反権力の呪縛に囚われない』という文言が『では権力に阿るのか?』という誤解を受け一部での炎上騒動もあったが、参加した5作品の様々な工夫は、観客の脳裏に様々で拡がりのある風景を見せたはずだ。
審査員はより一般的な評価に近づけるため従来の演劇評論家ではない6名。佐山氏の他は映画監督の金子修介氏、キャスティングプロデューサーの吉川威史氏、漫画家の山田貴敏氏、スタイリストでミュージシャンの神波憲人氏、企業家の内田雅章氏など多種多様、バラエティあふれる面々となった。
各賞の最優秀は、作品全体を評価するグランプリにあたる「演劇賞」に稲村梓プロデュース『アルプススタンドのはしの方』。主演俳優賞にACTOR’S TRIBE ZIPANG『ナビゲーション』の鳳恵弥。助演俳優賞に同じく『ナビゲーション』の松本梨香。新人俳優賞に株式会社T-gene『トワイライトの涙』に出演の吉田知央、また音楽賞には『ナビゲーション』のパッパラー河合と『トワイライトの涙』の宇川祐太朗が輝いた。
作品賞となった稲村梓プロデュースの『アルプススタンドのはしの方』は、劇作家であり現役の高校教諭でもある籔博晶氏による戯曲で、後に映画化もされた作品。劇場の大きさなどいろいろ考えてこの作品に決めたという稲村だが、演出部門としても村上大樹が最優秀賞を受賞し、審査員からは小さな舞台のはずなのに広い球場のアルプススタンドが見えるようだったという好評を得ていた。
最優秀の主演俳優賞と助演俳優賞を出すことになったACTOR’S TRIBE ZIPANGの『ナビゲーション』は、『こと~築地寿司物語~』など数々の人気舞台でコンビを組む脚本家江頭美智留と主演・鳳恵弥の作品。鳳が子供のころからの憧れの女優、松本梨香を江頭に引き合わせて実現をした物語。急逝した先輩の遺体を、その故郷まで車で運ぶことになった主人公を巡る不思議な出来事を描いた作品で鳳、松本の演技が評価されただけでなく、本物の車両を舞台に持ち込んだ舞台美術も高く評価された。またパッパラー河合が初の舞台出演を果たし、贅沢なことに彼の生演奏で鳳と松本が披露した劇中歌も話題となった。
また、数々の名作映画のキャスティングプロデューサーも務める吉川威史審査員から『嫉妬する』とまで言わせる高評価を得た、アマヤドリの広田淳一が最優秀脚本賞を受賞した。アマヤドリは広田が東京大学在学中に俳優の成河らと立ち上げた「ひょっとこ乱舞」を前身としている人気劇団。
実行委員長の佐山は「もともと自分の劇場だけでも演劇祭をやるつもりでいたが、アーツカウンシル東京の助成をはじめ沢山の皆さんからの協力を得てこういう形になった。来年以降も是非継続していきたい」と強い意欲を見せた。感染症の影響が少なくなるであろう来年以降には、さらに多くの劇場、劇団が参加して開催されることを期待したい。
(取材・文&撮影:渡部晋也)
劇場都市TOKYO演劇祭 開催概要
▼参加作品
ACTOR’S TRIBE ZIPANG『ナビゲーション』
株式会社T-gene『トワイライトの涙』
稲村梓プロデュース『アルプススタンドのはしの方』
アマヤドリ『純愛、不倫、あるいは単一性の中にあるダイバーシティについて』
K-FARCE『弾倉に薔薇を込めて』
▼参加劇場
Sun-mall studio
シアター風姿花伝
▼期間
令和4年1月10日(月・祝)~3月31日(木)
▼審査員
佐山泰三(サンモールスタジオ オーナー)
金子修介(映画監督)
吉川威史(キャスティングプロデューサー)
山田貴敏(漫画家)
神波憲人(スタイリスト)
内田雅章(学生新聞社 代表)
▼結果一覧
※各項は上演期間順、敬称略。
※★は最優秀賞受賞者。
【演劇賞】
ACTOR’S TRIBE ZIPANG『ナビゲーション』
★稲村梓プロデュース『アルプススタンドのはしの方』
アマヤドリ『純愛、不倫、あるいは単一性の中にあるダイバーシティについて』
【主演俳優賞】
★鳳恵弥『ナビゲーション』
榊菜津美『純愛、不倫、あるいは単一性の中にあるダイバーシティについて』
堀有里『弾倉に薔薇を込めて』
【助演俳優賞】
★松本梨香『ナビゲーション』
稲村梓『アルプススタンドのはしの方』
瀬名葉月『弾倉に薔薇を込めて』
【新人俳優賞】
小林れい『トワイライトの涙』
★吉田知央『トワイライトの涙』
野口真緒『アルプススタンドのはしの方』
【脚本賞】
★広田淳一『純愛、不倫、あるいは単一性の中にあるダイバーシティについて』
他、該当なし
【演出賞】
★村上大樹『アルプススタンドのはしの方』
広田淳一『純愛、不倫、あるいは単一性の中にあるダイバーシティについて』
テラモトタカシ『弾倉に薔薇を込めて』
【美術賞】
木之枝棒太郎『ナビゲーション』
古謝里沙『アルプススタンドのはしの方』
中村友美『純愛、不倫、あるいは単一性の中にあるダイバーシティについて』
【照明賞】
大野桃子『トワイライトの涙』
萩原賢一郎『アルプススタンドのはしの方』
岡田潤之『弾倉に薔薇を込めて』
【音響賞】
斉藤裕喜『ナビゲーション』
奥村典洋『アルプススタンドのはしの方』
角張正雄『純愛、不倫、あるいは単一性の中にあるダイバーシティについて』
【衣装賞】
ACTOR’S TRIBE ZIPANG『ナビゲーション』
かよう愛子『トワイライトの涙』
KFARCE 『弾倉に薔薇を込めて』
【音楽賞】
パッパラー河合『ナビゲーション』
宇川祐太朗『トワイライトの涙』