【公演レポート】ミュージカル『スクールオブロック』 パワーと希望に溢れたロックミュージカル日本初演がついに開幕

【公演レポート】ミュージカル『スクールオブロック』 パワーと希望に溢れたロックミュージカル日本初演がついに開幕

大ヒット映画を題材に、『キャッツ』や『オペラ座の怪人』等の音楽を手掛けるアンドリュー・ロイド=ウェバーが作曲・プロデュースを務めミュージカル化した、ミュージカル『スクールオブロック』がついに開幕した。(9月18日まで)

2020年に日本初上演を予定していた本作。その際は、新型コロナウイルスの影響を受け、全公演中止を余儀なくされたことから、出演者たちにとっても、そして観客にとっても待ち望んだ上演だ。

主人公のロックを心から愛する男デューイを西川貴教柿澤勇人、デューイの親友ネッドを梶裕貴太田基裕、ネッドの恋人のパティをはいだしょうこ宮澤佐江がそれぞれダブルキャストで演じる。また、ロザリー校長役は濱田めぐみが務める。

今回は、柿澤デューイ、梶ネッド、宮澤パティ、コードチームによるゲネプロのレポートをお送りする。

※コードチームの生徒役は以下。
ローレンス(キーボード):小川実之助
マーシー(コーラス):桑原広佳
ケイティ(ベース):飛田理彩子
メイソン(技術、ステージエンジニア):中込佑協
フレディ(ドラム):中嶋モモ
ジェイムズ(警備、セキュリティ):平岡幹基
ビリー(衣装、スタイリスト):前田武蔵
ソフィー(ローディー、楽器セッティング・運搬):真木奏音
トミカ(ボーカル):三上さくら
ザック(ギター):三宅音太朗
ショネル(コーラス):宮﨑南帆
サマー(マネージャー):山崎杏

【STORY】

アマチュアロックバンドのギタリストのデューイ(西川貴教/柿澤勇人)は心からロックを愛する男だったが、その熱すぎる情熱と勝手なパフォーマンスが原因でバンドをクビになってしまう。友人ネッド(梶 裕貴/太田基裕)のアパートに居候しているデューイだが、貧乏で家賃すら払えず、ネッドの恋人パティ(はいだしょうこ/宮澤佐江)と喧嘩し住む場所も無くなりそうな最悪な状況に。そんな時、ネッドに私立学校の臨時教師の話が舞い込み、仕事が欲しかったデューイはネッドになりすまして名門ホレス・グリーン学院へと向かう。

厳格なロザリー校長(濱田めぐみ)のもとエリート進学校として名高いホレス・グリーン学院だが、デューイは厳格な規律の多い学校で過ごす子供たちが無気力な事に気がつき、さらに担任したクラスの子供たちに音楽の才能があることも見つけ、子供たちとバンドを組んでバンドバトルに出場することを思いつく。そして、学校や親に気づかれぬよう、授業と称して子供たちにロックのあらゆることを教え始める。クラシックしか耳にしたことがないような生徒たちは、最初は困惑していたが、やがてデューイの陽気な人柄やロックの開放感、ありのままの自分を認めてくれるデューイに魅力を感じはじめ、一緒にバンドバトルを目指して猛練習を始める。ある日、デューイが偽物教師だということがバレてしまうが、デューイとのロックを通し変わり始める子ども達の変化は、周囲の大人たちをも変えていくことになる。

物語は、デューイが“熱すぎる”自分勝手なパフォーマンスをして、自分で作ったバンドを追い出されてしまうシーンからスタートする。冒頭からギターが鳴り響き、会場をロックな空気に包み込む。数々のミュージカルで美しい歌声を披露してきた柿澤が、ロックに歌い上げる姿に胸が熱くなった。

その後、舞台はデューイの部屋に。友人ネッドの家に居候を続け、スネをかじり続けているデューイは、同居するパティから「家賃を払わなければ家を出るように」とキツく言い渡される。バイトもクビになり、家賃を払える見込みもないデューイだったが、ある電話を受けたことから、ネッドになりすまして名門私立校の代理教師を務めることになる。…と、次々と出てくるデューイの“ダメ男”エピソード。現実にこんな人物がいたら、パティと一緒になって「働け」と説教をしたくなるだろうが、そんなキャラクターも柿澤が演じるとどこか憎めない。ダメダメではあってもロックには真摯で、夢に真っ直ぐな純粋さが感じられた。
(ちなみに、このシーンでデューイが着用しているTシャツは、「デューイのTシャツ」としてグッズ販売もされている。めちゃくちゃかわいいのでぜひそちらも注目!!)

加えて、梶ネッドのキュートさも目を引く。パティに見つからないように隠れてゲームをしたり、怒られるとシュンとする姿は情けなくもかわいらしい。デューイに振り回され、パティとの板挟みになり、右往左往する姿が印象的だった。

一方で、女性陣はそんな男性たちと対峙しているからか、強さが際立つ。現実を見て、正しいことを正しいとキッパリ言い切れるパティ。そして、生真面目で“校長はこうあるべき”というイメージを崩さないように生きるロザリー。それぞれが信念と悩みを抱えながらも、自立し、しっかりと自分の足で立っていることを感じさせた。

そうした大人キャストたちのしっかりとしたキャラクター造形は、翻訳・演出を務めた鴻上尚史の力によるところも大きいことだろう。鴻上は、ゲネプロに先立って8月16日に開催された初日前の質疑応答で、「日本で、日本語で、日本人キャストでやるのですから、日本人の心がより動く作品にしたいと思って作りました」と思いを明かしていた。その言葉通り、この作品に登場する人物たちは、会ったらすぐにハグをしたり、キスをしたりしない。海外作品によくある「日本人はこんなことしないけどね」という違和感はほとんどない。なので、ストンと心に入ってくる。どのキャラクターも心の動きが理解しやすく、共感できるところが多いのだ。きっと観客の多くが、いずれかのキャラクターに親近感や共感を感じられるのではないだろうか。

さて、そんな本作だが、何と言っても見どころは生徒役の子どもたちだ。大人キャストはそれぞれダブルキャストの組み合わせが変わり、さまざまなパターンを楽しめるが、子どもたちは2チーム制。「ビートチーム」と「コードチーム」に分かれ、長い稽古を積んできた彼らの息のあった生演奏は、心を揺さぶる。歌って、踊って、お芝居をして、さらに生演奏までする彼らの姿には素直に拍手を贈りたい。その姿は、私たち大人にも勇気を与えてくれることだろう。

また、そんな生徒たちと稽古を通して交流を深めてきたであろう柿澤がアドリブを入れながらやりとりするのも微笑ましい。柿澤がおどけながら生徒たちと対面するシーンでは、会場のあちこちから笑い声も聞こえていた。

コメディ要素が強く、全体を通してポップで明るく楽しい作品だが、劇中では生徒たちの悩みや寂しさもしっかりと描かれていた本作。だからこそ、デューイの存在や言葉に生徒たちが心を動かされ、生き生きと輝いてくる姿が際立って見える。そうした生徒たちの姿を見ることで、私たちもパワーや希望をもらえるのだ。

今回のゲネプロを観劇し、ダブルキャストの西川、太田、はいだ、そしてビートチームが出演する回を観たくなったのは言うまでもない。柿澤の演じるデューイは、ロックな愛すべきダメ男ではあるものの、同時に “ミュージカルスター”である柿澤らしさも持っていた。うまさが際立っていたとでもいうべきか。では、現役のロックシンガーである西川が演じるデューイはどうなのだろうか。きっと全く違うものを見せてくれるはずだ。キャストの組み合わせを変えて、何度でも観たくなる公演だった。

(文・撮影/嶋田真己)

ミュージカル『スクールオブロック』

■会場:東京建物 Brillia HALL (豊島区立芸術文化劇場)
■日程:2023年8月17日 (木) ~2023年9月18日 (月・祝)
■音楽:アンドリュー・ロイド=ウェバー
■脚本:ジュリアン・フェロウズ
■訳詞:高橋亜子
■日本版演出・上演台本:鴻上尚史
■出演:
デューイ・フィン役:西川貴教/柿澤勇人(Wキャスト)
ロザリー・マリンズ役:濱田めぐみ
ネッド・シュニーブリー役:梶 裕貴/太田基裕(Wキャスト)
パティ・ディ・マルコ役:はいだしょうこ/宮澤佐江(Wキャスト)
阿部 裕、神田恭兵、栗山絵美、多岐川装子、俵 和也、丹宗立峰、ダンドイ舞莉花、中西勝之、西野 誠、湊 陽奈、安福 毅 (五十音順)
スウィング:AYAKA、森内翔大 他

《チーム・コード》
小川実之助:ローレンス(キーボード)
桑原広佳:マーシー(コーラス)
飛田理彩子:ケイティ(ベース)
中込佑協:メイソン(技術:ステージエンジニア)
中嶋モモ:フレディ(ドラム)
平岡幹基:ジェイムズ(警備:セキュリティ)
前田武蔵:ビリー(衣裳:スタイリスト)
真木奏音:ソフィー(ローディー:楽器セッティング・運搬)
三上さくら:トミカ(ボーカル)
三宅音太朗:ザック(ギター)
宮﨑南帆:ショネル(コーラス)
山崎 杏:サマー(マネージャー)


《チーム・ビート》
大久保実生:トミカ(ボーカル)
加藤悠愛:ソフィー(ローディー:楽器セッティング・運搬)
木村律花:ショネル(コーラス)
熊田たまき:ローレンス(キーボード)
後藤日向:ザック(ギター)
佐藤 凌:ビリー(衣裳:スタイリスト)
シーセンきあら:マーシー(コーラス)
中川陽葵:サマー(マネージャー)
三宅音寧:ケイティ(ベース)
宮島伊智:ジェイムズ(警備:セキュリティ)
村井道奏:フレディ(ドラム)
屋鋪琥三郎:メイソン(技術:ステージエンジニア)

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