
カンフェティスタッフたちによる不定期連載企画
「カンフェティ エンタメ盛り上げ隊」
「少しハードルが高いけど、一度は観に行ってみたい……」
そんなふうに長年思い続けているジャンルはありませんか?
『◯◯の世界へようこそ!~はじめの一歩~』シリーズでは、あなたのそんな気持ちをカンフェティスタッフが後押し!
そのジャンルを長年愛するスタッフが、おすすめポイントを語ります。
一歩を踏み出すきっかけとなりますように!
今回のトピックス
1. 能楽との出会いは野村萬斎!
2. 推し能楽師&推し能面
3. 能楽を観に行きたい!どう選ぶ?
4. 忘れられない公演
5. 知識がなくても楽しめる!寝てても大丈夫?
6. 能楽ファン入門のススメ
カンフェティの能楽ファンスタッフC:30代女性 台湾出身。能楽鑑賞歴10年以上。音楽(バンド)も好き。
聞き手スタッフO:20代女性。小劇場より小さい会場の演劇をよく観る。
スタッフI:20代女性。音楽やプロレスが好き。海老も好き。
能楽との出会いは野村萬斎!
――OさんとIさんのお二人は、今まで能楽や狂言を観たことはありますか?
「狂言はあります。学校の芸術鑑賞教室みたいなやつですね。”型から感情がついてくる”みたいな考え方が興味深くて、当時も面白く観たんですが、やはりなんとなく、敷居が高いと感じるところもありました」
「 私は何回か観たことがあるんですけど、正直眠くなっちゃったりすることもあって。前情報があったら面白く観れるだろうなっていうのはあるんですけど、なかなか事前に調べる時間がなかったりして」
――なるほど。今日はCさんに能楽に関する様々な疑問をお伺いできたらと思います! まず、Cさんの能楽との出会いから聞かせてください。
「私のきっかけは野村萬斎さんなんです。台湾にいた20年くらい前、その頃は今のK-POPみたいにアジアでJ-POPや日本のカルチャーがすごく人気で、私も日本の雑誌を読んでいて市原隼人さんが好きだったんです。それで、市原隼人さん目当てで映画『陰陽師Ⅱ』を観に行ったら萬斎さんが出演していて。もちろん隼人さんはかっこいいんですけど、萬斎さんの存在感がものすごくて。人間じゃないような雰囲気で『何この人!』と思いました。
そこから日本語を本格的に頑張ろうと思って勉強して、色々あってやっと日本の大学院に入りました」
――じゃあ、萬斎さんがいなければCさんはここにいなかったんですね!
「そうですね(笑)。出会いから10年ぐらい経って、宝生能楽堂で萬斎さんを初めて見たときは感動でした。解説している姿だけでも涙が出て、今でもそのときの内容を覚えてます!」
推し能楽師&推し能面
――他にも好きな能楽師さんはいますか?
「萬斎さんは神なので置いておいて(笑)。最初は喜多流を一番観ていて、今は宝生流の高橋憲正さん、宗家の宝生和英さんが好きです。同じ演目でも流派によって動きや歌い方が微妙に違うんです。個人的な印象ですが……喜多流は綺麗でキレがよく、若い神様の役が似合う動きという印象。宝生流はより柔らかく、演劇的な感じがします」
――他の演劇やミュージカルでも、同じ役を違う人が演じると印象が変わりますもんね。
「まさにそうです。能も演劇といえば演劇なので、人によって役への解釈が違ったり。中には演じる側は感情を入れすぎず、どう感じるかは観客に任せる、という考え方もありますが、基本的には演者の個性が出ると思います」
「はい!質問です! 顔ファンみたいなのはありなんですか?」
「たぶんそういう人もいると思います! ただ能は面をかけるので、顔が見えない(笑)。でもやっぱり声とか動きで何となくその人だって分かるんです」
「歌舞伎は歴史的にもアイドルっぽい部分があると思うんですけど、能楽はちょっと違うのかな?って」
「確かに、神への捧げ物みたいなイメージがあったりしますね」
「最初は顔が好きでも、それは一つのきっかけなので。そこから観てみたら舞台全体が良かった!っていうこともあると思います。狂言はほぼ面をかけないので、特に顔が好きという人も多いのかも? 萬斎さんもかっこいいし、野村万之丞さんもかっこよくて声も良いし。高橋憲正さんも、もちろんそれだけじゃないけど、顔も好きですね(笑)」
「能楽師さんって姿勢もいいから、よりかっこよく見えますよね!」
「そう、能楽の稽古に行くと姿勢がよくなるのでおすすめです!」

――Cさんは好きな能楽師さんに加えて、好きな能面がある!というのを聞きましたが、詳しく教えてください。
「私は般若が一番好きです。よく女性の恨みを表現してると言われるのが般若の面です。自分でこの顔を作ってみたらわかるんですけど、これってすごく涙が出そうな表情なんですよ。現代では怒りの象徴として使われることが多いですが、本当は深い悲しみを表現してるのかなって。見ているとよしよししたくなります。可愛いです」
「この面を見てて思ったのが、悲しみのプロセスって最終的に怒りになると思うんですよ。怒る人って絶対悲しいんですよね。だから、ああ、確かに……って」
「そうなんですよ。あと、『能面みたいな顔』って言うと無表情を思い浮かべますが、同じ能面でもその時々で違って見えます! もちろん作られたものなので本当に変化するわけではないけど、角度とか影によって少しずつ違った表情に見えます。装束によっても見映えが変わります!」

能楽を観に行きたい! どう選ぶ?
――観に行く公演の情報収集はどんなふうにされていますか?
「国立能楽堂など、能楽堂から発信されている情報も多いんですけど、個人の能楽師のSNSでの情報発信をチェックすることも多いかも。『能楽タイムズ』という能楽報道紙を出版している「能楽書林」のXもよく見ています。いつか能楽公演情報のまとめサイトを作りたいです!」
――どんな基準で観に行く公演を選んでいますか?
「能とか狂言も、他の演劇やミュージカルを観るのと同じ感覚だと思います。私は好きな出演者が出ていると観に行ったり、あと主役だけじゃなくて、その横に6人8人ぐらい座っている”地謡”や、後ろに座っている”後見”として出ている時も観に行ったり」
――後見は、能舞台の後ろに座っている人ですね! どんな役割なんですか?
「道具を出したり、主役の人が倒れたらすぐに続けてやれるように常にその舞台を見てる人たちで、実はすごく重要な役割なんです。地謡と後見に好きな能楽師が出るんだったら、もう絶対行きます!」
――確かに、ずっと舞台に出ているからずっと見ていられますよね!?(笑)
「そう! だからチラシにメインの出演者だけでなく、全員書いてくれる公演が大好き! カンフェティのサイトに自分が公演情報を書くときも、絶対に全員書きたい!」
「ミュージカルで言うスウィングの役割ってことですか?」
「確かに、その演目を知っている人じゃないとできないし、同じかも!」
「日本の商業ミュージカルでスウィングがキャスティングされるようになったのって最近な気がしますけど、日本にも元々スウィングの文化があったってことなんですね……!」
「好きな能楽師が地謡で出ているときは、席は脇正面から観たいです!」

「確かに! めちゃくちゃ見やすいですね!」
「でも脇正面だと橋掛かりが後方になるので、幕が開くのが見にくいので、やっぱり正面から観たいという人もいますね。全体が観たいなら正面だと思いますが、私は脇正面が結構好きです」
――そう考えると能舞台の独特な形って、好きな見方を選ぶことができて、すごく良い形をしてますね……!
「初めての人に『どこから観ればいいの?』と訊かれたこともありますが、正解はないかも。どこでも全部一回座ってみて、自分の好みの席を探すのもいいと思います!」
忘れられない公演
――Cさんの中で、これは忘れられない!という公演はありますか?
「まずは、2014年の「第四十五回 東西合同研究発表会」で観た、喜多流の塩津圭介さんの『小鍛冶』。稲荷明神っていう神様と一緒に刀を打つお話なんですけど、稲荷明神が登場した時に、本当に神様がいる!って思ったんですよ。後ろからなんだか光みたいなのが見えて、もう本当にそこに神様がいるみたいで鳥肌が立ちました。よく、『能舞台の幕の向こうはあの世、こちら側に来ると現世』って言われるんですけど、まさにそれだなって思いました。本当にこの役に合っていて、かっこよかったです。
もう一つは、「能楽公演2020 ~新型コロナウイルス終息祈願~」で観た、宝生流宗家の宝生和英さんの『道成寺』。大きい鐘の作り物を天井に吊り上げる演目で、主役の白拍子がその鐘が落ちてくるタイミングに合わせて、鐘の中に飛んで入る場面が有名です。その後、白拍子が蛇になって、鐘から出てくるんですけど、出てきたときの表現が本当に蛇! 能面の力もあると思うんですけど、その悲しみとか怒りとか、その感情が全身から、目から全部出てきて伝わってきたのが忘れられなくて……! もう一瞬で虜になりました。終わってすぐ、またもう一回観たいと思いました!」
――すごい、お話しを聞いてるとどんどん気になってきました!
「『道成寺』はすごく重要な曲なのでそんなに頻繁には上演できなくて。一人の能楽師さんが人生で演じるのは1、2回くらいというのが一般的なんですけど、宗家は11回やってます! だからきっとまた観れる……かも?(笑)
去年、夜能『道成寺』を配信で観て、その後「第3回 伝統芸能をつなぐ 能を感じる」の公演でやっとまた生で観ることができました! 終演後、ご本人のXで「『サイレントヒル』をイメージして演じていた」というのも見て、まさにそういう怖い感じが出ていたなって。宗家の『道成寺』は本当に一回観てほしい!」

知識がなくても楽しめる! 寝てても大丈夫?
――冒頭にIさんが言っていたように、能楽は前情報がないと難しいかも、と思っている方も多いと思います。
「結局能だけじゃなくてミュージカルとか演劇とか、どのジャンルでも共通かもしれないですけど、すごく知識がある人、演目や歴史の背景といったところまで楽しむ人もいれば、ただただ観に行って、ただただ楽しむという人もいます。私もそうです! 絶対知識がないとダメとか、そんなことはありません! おおまかに言えば、能も狂言も、普通の演劇とやってることはそんなに変わらないんですよね」
――能を観るときは、ストーリーを楽しむのとは違う感覚ですか?
「うーん。ストーリー以外にも能面や能装束を見たり、演目によっては作り物(舞台セット)を楽しんだり、そんな楽しみ方もできますね。あとはその人の動きや型、所作がきれいだなというところを観ています。おおまかなあらすじやどういう場面、というのは大体チラシに書いてあるので、それを読んでいれば充分だと思います」
「ダンスを見ている感覚にもちょっと近いんですかね?」
「そうですね。ダンス、確かに近いのかも」
「狂言に関してはどうですか?」
「狂言は台詞劇というか、ストレートプレイの演劇も会話で進むと思うんですけど、そういった形に近いので。狂言は能と比べると、何をやってるか多少は分かった方がいいかも。コメディなのでやってることを理解していないと、どこが笑いどころなのかわからなかったり。でも、基本的には能と同じく、チラシを見ておく程度で大丈夫だと思います!」
――狂言も客席で笑いが起こったりするんですか?
「結構起こります! 『二人袴』という演目なんかは面白くて笑っちゃう! 一枚しかない袴をバレないように二人で交代で履いて出ていくっていう。途中で『一緒に出てきて』って言われて一枚の袴でどうにか頑張るとか。中にはそういう台詞だけではなくて動きで楽しめるものもありますね」
「私も高校生のときに学校の芸術鑑賞会で狂言を見て、『附子』っていう演目が大ウケしてました(笑)」
「はい!(挙手) 能楽を見に行く時の服装って、和服の人がいらっしゃるイメージがあるんですが、ジーパンで行くと浮いちゃうとかありますか?」
「いや、なんでもありです! たとえば後ろの席の人が見づらくなっちゃうような髪型とか、すごく露出が多い服装などは寒いのでおすすめしませんが(笑)、世間的に一般の常識内の服装だったら全然大丈夫。私も普段は私服で、着物を着たい時は着物で行ったりします。心配だったらユ◯クロで服を買って行けば大丈夫!(笑)」
「(Cさん持参の能の本を読みながら)観ながら寝ててもいいって本に書いてありますね!」
「確かに、能のリズムって心臓の音に近かったり、脳からα波が出ると言われているリズムだから、一種の瞑想状態に近いとも言えるっていうのは聞いたことがあります」
「そうですね、そんなに気にしなくてもいいと思います。どうしても気になる場合は、『よし!今日は装束/能面/謡いに集中しよう』など、一個の目的を作るのも良いかも!」
――そう言ってもらえると観に行くハードルも下がるかもしれませんね!
「面をかけている能楽師さんからはたぶん見えてません。でも地謡や後見の人には見られてます(笑)」

『宝生宗家展』のあらゆる種類の能面を皆で見ながら、「これは好みのタイプの塩顔」「これは顔は怖いけど実は優しいおじさん」など大盛り上がりでした。「身の回りにこんな顔の人、いるな~」という視点で能面を見るのも楽しいかも!?
能楽ファン入門のススメ
――最後に、能楽に興味を持った人へのアドバイスをお願いします!
「最近、国立能楽堂のオープンデイっていう、月一回で無料で楽屋や舞台を見学ことができる体験があったりするので、そういった会にまずは参加したりとか。いきなり本格的な能楽公演を観に行かなくても、先に周辺から好感を持っていった方が入りやすいかもと思います。
いきなり観に行って『結局ずっと寝ちゃった、能って分かんない』になっちゃうと、多分続かない。少しずつ親しんでいけば、段々と『あ、なんか知ってる』というものが増えていくと思うので。人間関係と同じです(笑)!」
――能がテーマの漫画もありますね。
「宝生流宗家 宝生和英さん監修の『シテの花』(著:壱原ちぐさ)はおすすめです! 漫画は難しいことは言ってないし、豆知識みたいなのもいっぱいあるので。主人公と一緒にお稽古してる感じで、一緒に能を勉強していくという感じでとっつきやすいと思います!」
後編では、実際にCさんと一緒に能楽初心者のスタッフたちが能楽体験に参加した様子をレポートします!
次回の更新をお楽しみに!
これから開催のおすすめ能楽イベント

能楽師解体新書vol.3「三島由紀夫と能楽師の身体」
日時:2025年8月2日(土)13:30開場/14:00開演(15:30終演予定)
会場:宝生能楽堂(東京都文京区/水道橋駅 徒歩3分)
参加費:税込3,300円(全席自由席)
公式サイト:https://www.hosho.or.jp/34091/

【大人のための能楽体験】 舞い、謡い、物語と出会う(黒塚)
日時:2025年8月30日(土)14:00開始(15:30終了予定)
会場:宝生能楽堂(東京都文京区/水道橋駅 徒歩3分)
参加費:税込3,300円
公式X:https://x.com/hoshokai159/status/1949016844125569421