さまざまな舞台映像を、前に出ない天才 板尾創路 の眼(フィルター)を通して語る「板尾のめ゙」。第七回は、福岡を拠点に活動する劇団 万能グローブ ガラパゴスダイナモスの『三途の川のクチコミ』。2024年3月に福岡と東京で上演された。
あの世にクチコミが登場したら?という設定で、鬼など様々なキャラクターが登場するドタバタコメディ……と思いきや、「むしろ啓発的なのかも」と言う板尾。作品の感想と共に、板尾にとってのツアー公演についても話を聞いた。
<作品紹介>
賽の河原(さいのかわら)で亡者達が、三途の川を渡りたがらない。
曰く「川の向こうのクチコミがないから、決められないの」。
渡し場担当の鬼は大弱り。
人間観察が趣味の鬼に助言を求め、あの世にクチコミの概念が導入された。
やがて新しい価値観は、彼岸の住人達の生活を、あっという間に彩り、飲み込み、彼らのありようは大きなカーブを描き、ぐぐんと変わっていく。
最初の印象と、観終わっての印象がまったく違った
──万能グローブ ガラパゴスダイナモスは、「ガラパ」と呼ばれて福岡で活動20年の人気劇団です。いかがでしたか?
最初のしばらくは、なんだか文化祭のような印象でしたね。衣装や小道具や、大きな幕にも、手作り感があったからだと思うんですが。
──キルティングのようなカラフルな幕は、過去の公演でも使われていたものですね。
そうなんですね。手作りなのは、あえてだとは思ったんです。肩に力をいれずに、お客さんの方を向いて演劇を作っている。全員でふざけているような感じを出しながら、でも、少しずつ地獄の世界についてや作品のテーマのようなものが分かっていくと面白くなっていく。
友情とか、クチコミに振り回される危機感とか、分かるなぁと思いましたね。昔はネットのクチコミなんて無かったけれど、突然そういうものが登場するとみんな影響されて変わっていく。文字面だけを見ていると感情が伝わらなくなっていくんですよね。
そういった危機感のある内容に反して、芝居は真剣にバカバカしい。屋台をやっている鬼なんてすごく面白かったね。どんどんクチコミに影響されて、普通の屋台がなんかすごいことになっていく(笑)
──賽の河原にクチコミが登場したら?という独特な世界観で、さらに予想外な展開でした(笑)
あの世界観は、劇場で観たら違和感がないのかもしれないですね。映像でアップで見ると手作り感が目立つんでしょう。最初はちょっととっつきにくかったんですが、しばらくすると見慣れてくるし物語もわかってきて、最終的には、深い所もちゃんと考えている良いお芝居だな、観て良かったなと思いました。
──劇場だとファンタジーの世界には入りやすいですしね。ガラパの公演は引き込む力が強くて、客席を含め一体感があって、とても盛り上がります。
お客さんが楽しんでいるのは映像でも感じました。俳優がお客さんに乗せられているようなところもあって、人気がある劇団なんだろうなと感じます。
ドタバタコメディだから、むしろ啓発的なのかな
──設定は独特ですよね。三途の川のクチコミという…
三途の川っていう設定にはちゃんと意味が持たせられていて良かったですね。本当にクチコミが存在するようになったらどうなっちゃうんだろう。
──劇団20周年なので、ちょうどスマホやSNSが主流になってクチコミの影響力が強くなっていく変化の過程を経験してきているんだと思います。
スマホ無しで待ち合わせとかを多分やっていた世代の人からすると、「今の時代、これでいいのか?」みたいな危機感もあるでしょうね。
ネットで買った商品がどんどん届くのもあたり前になったし。やっぱり使いこなしちゃうと、凄く便利だし楽だから、流されていく。きっと、翻弄されて、深刻な状況になってしまった人もいるでしょう。それをドタバタしたタッチで深刻に見えない感じが、逆に啓発的なのかなっていう気もします。
──逆に啓発的というのは?
よくあるじゃないですか。詐欺被害に遭わないようにお芝居仕立てにして、あえてドタバタとわざとらしくする事で、観てもらいやすくするっていう。交通事故の啓発ビデオもそうですよね。
今回の舞台は、携帯を使うのはいいけど、こういう危険性があります、だから人と向き合ってちゃんと話をしよう、とかいう感じかな。だから、娘がスマホデビューして悩んだりするのを、シリアスに家庭を描いた演劇でやるよりは「なんかバカバカしいな」と思っているうちにいつのまにか「確かにそうだな」と受け入れている気がします。
だから、スマホデビューしたぐらいの年代の子が見るといいかもしれないですね。親が注意するより「やばい」ってなるかもしれない。学校で上演されたりするといいのになって。
──確かに。学生たちも友だちと楽しめるし、「地元にこういう劇団があるのか!」って出会いになるかもしれないですね。
そうですね。スマホって今はもう慣れちゃってるから当たり前みたいに検索しますけど、気づかないうちに間違った情報が入ってくることも絶対にありますからね。特に飲食店はネットで調べるし、クチコミを見ている人も多いと思う。多分演劇でもクチコミを調べる人も多いと思いますが、でも、何が正しいかは分からないですからね。それでも調べたり頼ったりしてある程度の影響は受けますね。
──良いクチコミしか書きづらい、という声もよく耳にしますね。
そうですね。ただ、僕は昔の人間なのでどっぷりネットに左右されることはないです。本質がわかるというか、その情報が実際にはどうかということを無意識に考えるので。
喜んでくれる人のところで芝居をするのが一番のやりがい
──ガラパは九州を拠点に活動してる団体ですけど、 そういう地域に劇団があってファンがいるって凄い良いと思うんですけど、関西で演劇祭とかされてると、やっぱり関西の劇団とかもご覧になりますよね?
演劇祭以外ではあまり観られないので、演劇祭に出られる劇団さんを観て「こういう団体があるんだ」と知る機会になっています。関西演劇祭といっても関西色が強いということもない印象です。なかには笑いに貪欲な劇団さんもありますが。
──演劇公演やライブだと、関西以外にも行かれますよね。
ありがたいことに、機会をいただきますね。その時は、地域感というよりも客層での変化は感じます。曜日によっても違うし……なかなか一概には言えないですけどね。その時の気分にも左右されるのかなと思うんですよ。たとえば土曜日の夜のお客さんはよく笑うし、受けるし、楽しもうとするのは開放的な気分なのかな、とか。日曜日の昼のお客さんはテンションが高いのに、夜のお客さんがちょっと重い雰囲気なのは明日から仕事だからなのかな、とか、それは確かにあります。コメディは反応が特に分かりやすいですから。
──ツアーに行った先で、思い出深かったことはありますか?
そうですね…。かなり田舎の方へ行くと、普段とは雰囲気が違うので印象的ですね。何処かの公民館の買取公演とかで行くと、いつもは観てもらえないような人に観てもらえるのはいいなと思います。来る人の客層もバラバラだし、お芝居はほとんど観たことがないだろう人もいるし、そもそも人口が少なくてあまりお客さんもいなかったりするし、設備も劇場とは違うので、全然違う。
場所は何処か忘れたんですが、かなり田舎の多目的ホールのような場所で公演した事があったんです。その時は、出演者よりも観客が少なくて、もう、かなり不思議な雰囲気でしたね。その少ないお客さんの中にも楽しみにして観に来る人がいるだろうと思うと、ちゃんとしようという気持ちでやっています。
──演じる側からすると、同じ作品でも場所によってまったく違う空間になるという事を実感するだろうなと想像します。
そうですね。会社の貸し切り公演みたいな時も、また全然空気が違いますね。そうなると当然、会社のイベントだから仕方なく参加している人も客席にいるでしょうから…。
これがまた、お芝居だとやる事が決まっているのでお客さんに合わせて大きな変更は出来ないですよ。漫才とかやったらお客さんをいじったり、お客さんの反応で笑いをとったり、色んな対応が出来るんですけどね。
──そうやって場所や客層が変わる事や、反応がダイレクトに伝わる所は、映像とは全く違う点だなと改めて思います。配信では地域を問わずいろんな方に届けることが出来るという利点もありますが、板尾さんご自身が実際にまた行きたい地域や劇場はありますか?
特定の場所というより、演劇を楽しみにしてくれて、喜んでもらえる場所で出来るのは嬉しいですね。凄く待ってくれている人の場所に行くのは、やっぱりやりがいがありますよ。モチベーションは変わりますね。
(インタビュアー・文&撮影:河野桃子)
万能グローブ ガラパゴスダイナモス『三途の川のクチコミ』配信中!
カンフェティストリーミングシアターにて配信中!
万能グローブ ガラパゴスダイナモス
第32回公演春の2都市ツアー
『三途の川のクチコミ』
作・演出: 川口大樹
出演:椎木樹人・石井実可子・西山明宏
澤栁省吾・つじむらかほ・千代田佑李・青野大輔
富永真由・樅山幸音(以上、万能グローブガラパゴスダイナモス) / 杉山英美
[視聴券販売期間]
2024年11月15日(金)0:00~2025年11月14日(金)23:59
[配信期間]
2024年11月15日(金)0:00~2025年11月28日(金) 23:59
※レンタル視聴可能時間 14日間(336時間)
[視聴券]2,000円(税込)
板尾創路プロフィール
1963年生まれ。大阪府出身。NSC大阪校4期生。相方のほんこんとお笑いコンビ=130Rを組み数々の番組で活躍。2010年には『板尾創路の脱獄王』で長編映画監督デビューを果たし、『月光ノ仮面』(2012年)『火花』(2017年)を監督。映画・TVドラマのみならず舞台作品にも多く出演し、2019年の初回から『関西演劇祭』のフェスティバルディレクターを務めている。
フェスティバル・ディレクターを務める『関西演劇祭2024』まもなく開幕!
関西演劇祭2024
日程:2024年11月16日(土)~24日(日)
※11月19日、20日は休演日
※11月16日(土)オープニングセレモニー(セレモニー後に公演あり)
※11月24日(日)表彰式のみ
場所:COOL JAPAN PARK OSAKA SSホール(大阪市中央区大阪城3-6)
参加劇団:暁月 -AKATSUKI-、 EVKK/エレベーター企画、エンニュイ、劇団☆kocho
劇団さいおうば、The Stone Ageヘンドリックス、teamキーチェーン、つぼみ大革命
fukui劇、WAO!エンターテイメント
アンバサダー:伊原六花(女優)
フェスティバル・ディレクター:板尾創路(お笑いコンビ130R・俳優・映画監督)
スペシャルサポーター:野上祥子(ネルケプランニング代表取締役社長)/三島有紀子(映画監督)
笠浦友愛(NHKエンタープライズ ドラマ部エグゼクティブ・ディレクター)
スーパーバイザー:西田シャトナー(劇作家・演出家・折紙作家)
賞:MVO(most valuable opus)脚本賞演出賞アクター賞審査員特別賞観客賞
受賞特典:2025年3月開催「関西演劇祭inTokyo」@新宿シアタートップスへの出演他
企画・製作:吉本興業株式会社/関西演劇祭実行委員会
HP : https://kansai-engekisai.com/
X(旧Twitter) : @kansaiengekisai
Instagram : kansai_engekisai
Threads : @kansai_engekisai
TikTok: kansaiengekisaitsunagirl
【取材会レポート】「なんてときめくお祭りなんだ!」伊原六花がアンバサダーに就任!『関西演劇祭2024』記事はこちら
今年6年目を迎える『関西演劇祭2024』の合同取材会が10月18日吉本興業新宿本社で行われた。アンバサダーを女優の伊原六花が、フェスティバル・ディレクターを2019年から引き続き板尾創路が務める。今年初参加となる伊原は、オファーを受けた際「素直に嬉しかった」と喜びを口にした。…続きを読む
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舞台映像を、前に出ない天才“板尾創路”の眼(フィルター)を通して語る「板尾のめ゙」。
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【第七回】劇団スポーツ#10『略式:ハワイ』
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※第六回以前はリンク先にて公開中!
(第1回~第6回)
【第一回】□字ック『剥愛』
【第二回】Hauptbahnhof(ハウプトバンホフ)『回復』
【第三回】画餅(えもち)『サムバディ』
【第四回】いいへんじ『友達じゃない』
【第五回】南極ゴジラ『(あたらしい)ジュラシックパーク』
【第六回】ウンゲツィーファ『動く物』『旅の支度』