【「板尾のめ゙」第三回】画餅(えもち)『サムバディ』/「違う作品も見たくなりました。」

【「板尾のめ゙」第三回】画餅(えもち)『サムバディ』/「違う作品も見たくなりました。」

さまざまな舞台映像を、前に出ない天才 板尾創路 の眼(フィルター)を通して語る「板尾のめ゙」
第三回は、2022年4月に上演された画餅(えもち)『サムバディ』。コントグループ「テニスコート」のメンバーである神谷圭介が立ち上げたソロプロジェクトの旗揚げ公演だ。画餅とは「絵に描いた餅」を漢字2文字にした言葉のこと。

<作品紹介>

画餅『サムバディ』は3本の短編作品を上演します。3本とも「誰か」の話です。そうです。ほとんどの物語はどこかの誰かの話です。少しの偶然や些細なすれ違いで思ってたのとは違う事になってしまう。そんなコントのような出来事は現実にもよくあるかと思います。
そんな誰かしらのコントのようになってしまった日常のスケッチを3本の作品にしました。(「画餅」神谷圭介)

短編3本だけど短編集じゃないというか

──画餅は配信に力を入れているのが特徴です。カット割りも作り込まれていますし、カメラに向かって話すシーンや、お客さんの笑い声もありますね。

これは完全に配信を想定して、決めている感じの映像でしたね。本当に本当に面白かったです。上質なコメディーであり、3本の短編が違う話だけれど繋がっているように伏線が生きていました。そのための見せ方がきちんと考えて作られている作品でしたね。

──まったく関係ない3つのエピソードなので、「いったいこれはなんの話なんだろう?」と思いながら見ていたら……まさかそうなるとは!と。

そうですよね。実は繋がっていたりするので、そういう展開って、きっとみんな大好きですよね(笑)。3つが繋がっていく爽快感があって、最後には「なるほどぉ!」と得した気分になりました。そういう見せ方って王道ではありますけど、それがちゃんとできていますよね。
エピソードや言葉選びの発想がとても面白いので、ひとつの長編ではなく短編であるのは見やすかったです。だらだらと引っ張らず、その発想が一番いい状態でポンポンポンと見せてくれる。

王道のなかに光る、散りばめられたセンス

──発想が面白いとのことですが、どういうところに感じましたか?

たとえば元夫婦の会話のなかで「トランポリン留学」という言葉の違和感に引っかかって話が進まなくなる感じは、僕はすごく好きですね。そういうことってありがちですからね。性別も違うし、価値観も違うので、噛み合わなくなる。遠慮がある関係のうえで、片方は一生懸命さとそうとしてるけど、相手は「トランポリン留学」という言葉のほうに引っかかっちゃって全然響かない(笑)。あと、他人のお葬式に勝手にご飯を食べに来るとか……シンプルだけど、着想が面白い。

──本人たちが真剣なほど、観ている方はニヤけてしまうという……。王道があるからこそ、そこにあるセンスが個性的に感じられるのでしょうね。

そうですね。脚本に、もののとらえ方や、ここが引っかかるなというセンスがすごくあると思います。3本目の話も、葬式が粛々と行われるなかでの意外な展開もいいですね。緊張感のあるシチュエーションをうまく使っている。
どういうところから着想して脚本にしたのかわかりませんけれど、うまく膨らませて繋げていっていて。トランポリンが突然オリンピック種目になった……と話をしているうちにその「トランポリン」って単語が面白くなってくるという(笑)。書いているご本人が面白がっていることをお客さんに伝わるようにちゃんと脚本にされてる。だから面白い。

──ちょっと笑っちゃうようなエピソードや会話がありながらも、背景はそんなに軽くなかったりと、どこかリアリティがありますね。

笑いに振り切っているわけでもないし、なんかどこかに居そうなリアリティある感じがちょうどいいんですよね。
でもそこで笑えるのは、やっぱり俳優さんが達者なんですよ。だから面白い。みなさん普通にやってはりますけど、難しいことをされていると思います。ちゃんと役を演じられているので、その瞬間に笑わせるのではなく、ストーリーの中で笑いが増幅されていく。さすがやなと。「ここはどうしたら一番面白く伝わるか」を、ちゃんとみんなが理解してやっているんじゃないでしょうか。丁寧に作られているなという印象を受けました。芸人さんだったらここで笑いがほしくて我慢できなくなっちゃうだろうなって(笑)

──笑いの増幅、というのはそうですね。ニヤニヤしながら見てしまいました(笑)

「面白いもん見たいな~」とか「疲れたな〜」って時にいいですよね。笑いたいって時に見たい。違う作品も見たくなりました。

舞台と、映像配信

──5月にあった最新作もすぐ6月に配信されます。

いいですね。最近は舞台の映像を観ることも増えましたけれど、技術があがっていますね。その役のリアクションが必要なときにその俳優を映したりと、スイッチングやカット割りもうまいですよね。おそらく俳優さんたちも、配信ありきで立ち位置を決めているんでしょう。
あと、カメラもコンパクトになったし、映像もクリアになって、暗くてもちゃんと映りますし。逆にこの『サムバディ』のように、セットがない方が映像としていいのかもしれない。会話の面白さが際立ちますし、変に舞台セットが映り込むと気持ち悪さが感じられるかもしれないです。テレビドラマではないので、どうしても限られた空間にしかセットを立てられないし、客席の場所も決まっていますしね。

──とくにコロナ禍で、配信を意識して創作をしたり、撮影をする公演が増えました。画餅もまさにコロナ禍2022年にできた団体です。

そうでしょうね。配信しかできないような時期もありましたしね。やっぱりちょっと変わってきたなと思います。劇場に行かなくても、どこにいても楽しめるようにと。

──特定の俳優さんにフォーカスしたパターンの映像を公開されるカンパニーもありますね。

パターンがまた違うと「この人は面白いな」と発見することもあるでしょうし、もちろん「推しをよく見たい」という人もおられるでしょうね。

──おそらく、映像に観客の笑い声が入るのも、あえてだろうと思うんです。

そうですね。その方が演劇感もでるし。無観客よりは、生のお客さんの声がある方が、やっぱりリアルですよ。映像を見ている人が、現場で起きていることをちゃんと共有できるのは、いいなと思います。動画で、十分この作品の面白さは伝わると思いますよ。

 

(インタビュアー・文&撮影:河野桃子)
 

画餅『サムバディ』配信中!

カンフェティストリーミングシアターにて配信中!

 
画餅『サムバディ』
企画・作・構成: 神谷圭介
出演:
浅野千鶴 / 生実慧 / 神谷圭介
つかさ / 名古屋愛 / 八木光太郎

[視聴券販売期間]
2024年6月15日(土)10:00 ~ 7月15日(月)23:59
[配信期間]
2024年6月15日(土)10:00 ~ 7月22日(月)23:59
※レンタル視聴可能時間 7日間(168時間)
[視聴券]2,000円(税込)
 

最新作「画餅」 第四回公演 『ウィークエンド』 / 特別公演『天才少年』
6/30(日)10時~ カンフェティストリーミングシアターにて配信開始予定!

板尾創路プロフィール

1963年生まれ。大阪府出身。NSC大阪校4期生。相方のほんこんとお笑いコンビ=130Rを組み数々の番組で活躍。2010年には『板尾創路の脱獄王』で長編映画監督デビューを果たし、『月光ノ仮面』(2012年)『火花』(2017年)を監督。映画・TVドラマのみならず舞台作品にも多く出演し、2019年の初回から『関西演劇祭』のフェスティバルディレクターを務めている。

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