
能楽師・佐野登が毎年開催する『未来につながる伝統』は、能楽を“知る”きっかけを提供している。10回目となる今回選ばれたのは『綾鼓』。
「宝生流にとって大切な作品で、能の作品の中でも、奥伝とされる難しいものです。これからは徐々に挑戦していかなければならないと思って選びました」
庭掃きの老人が、高貴な身分の女御に一目惚れをする。その想いを知った女御は、「池のほとりの木に掛けた鼓を打ち、その音が皇居まで聞こえたら姿を見せる」と条件を出す。老人は必死に鼓を打つが音は出ない。その鼓は、皮ではなく綾織りの布を張ったものだった。絶望した老人は池に身を投げ、怨霊となって女御に鼓を打てと責め立てる――こうしてみると、女御への執心から怨霊になる老人は現代のつきまといのようであり、気のない相手に無理難題を出すというのもよく聞く話だ。
「他の物語もそうですが、能の物語は現代にも通じることが多くて。だからこそ何百年も続いているんでしょう。古典に出てくる一途すぎる恋心を持つ人は大概女性ですが、これは珍しく男性がその役になります。でも、鳴らない鼓を用意したのが、本当に女御なのかは物語の中でもはっきりしていません。鳴らない鼓を渡して「音が鳴ったら想いを叶える」と言うのは、ちょっと嫌な女性ですよね。私が女御を演じた時は、そのような人物には思えず、鼓を用意したのは女御ではないんじゃないかと思いました」
上演プログラムは『綾鼓』の他に、宝生流宗家による舞囃子『天鼓』と、野村萬斎氏による狂言『萩大名』が用意された。
「『天鼓』も鼓が鳴らなくなる話です。まぁ、鼓繋がりで。狂言はそこから離れて、わかりやすいものにしました」
恒例のトークショーには、俳優・別所哲也氏を招く。
「別所さんはショート・フィルムの活動やラジオのナビゲーターなどもされていて、経験も話題も豊富な方なので今から楽しみです。ゲスト選びは毎回苦労しますが、能楽界でない方の話を聞くのは非常に興味深いですね」
酒蔵による試飲付き販売会が行われるのもユニークだ。
「能にはお酒がたくさん出てきます。それも悪い扱いではなく、杯を交わすいい場面にお酒を活用して盛り込んでいるんですよ」
様々な切り口で能楽の世界へ誘うこの場が、伝統を未来へとつないでいる。
(取材・文:渡部晋也 撮影:敷地沙織(平賀スクエア))


友達とのカラオケで、必ず歌う曲は?(歌ってみたいでもOK)
「『天城越え』です。愛する人への執着や嫉妬のあまり、相手を追い詰める姿は、能の『道成寺』や『葵上』にも通じるものがあります。その元祖ストーカー的な存在は、古典の作品では現世と違い、大概が女性です。しかし今回上演する『綾鼓』では、能には珍しく男性が執心を持って現れます。そしてこの『天城越え』のドラマチックな楽曲も、能の謡や囃子の構成美に通じるものあり素晴らしいです」
プロフィール

佐野 登(さの・のぼる)
能楽師シテ方・宝生流。宝生流18代宗家 宝生英雄に師事。『翁』、『石橋』、『道成寺』、『乱』を披く。東京藝術大学卒、重要無形文化財総合指定(能楽)保持者。国内外での演能活動や謡曲・仕舞の指導。「芝宝会」主宰。伝統を通した「生きる力」をテーマに、学校・幼児教育における授業の実施や教員、教育関係者への講演、次世代育成に向けた伝統文化伝承の体験型プログラムも数多く行う。他ジャンルのアーティストとの交流も多く、中島みゆき『夜会』出演など、現代に活きる能楽を目指し活動中。
公演情報

第10回 未来につながる伝統 能公演
日:2026年10月25日(日)14:00開演(13:00開場)
場:宝生能楽堂
料:S席[正面]11,000円
A席[脇正面]8,800円
B席[中正面]7,700円(指定席・税込)
自由席[脇正面後方]5,500円
学生[脇正面後方]3,300円
※要学生証提示(自由席・税込)
HP:https://www.nohgaku.jp
問:一般社団法人未来につながる伝統 mail:shihoukai202@gmail.com
18名限定!S席11,000円 → 8,200円 +カンフェティポイント付き!
