9~10月にかけて、東京・岐阜・兵庫で上演されるナイロン100℃ 50th SESSION『管理人ご夫妻』。1970年代の東京、アパートの共有スペースを舞台に、「ごくあたり前の人物たちが、彼ら自身は極めて真っ当に生きているつもりの中、気づかぬうちに様々なタガが外れ、いつの間にか閾値を超えている。今のところそんな作品を目指してみる」とは、劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の弁。劇団員の、みのすけと峯村リエに、本公演に寄せる思いやKERA演出についてじっくり話を聞いた。
―――ナイロン100℃の50回目の本公演ということについて、どのような想いがありますか?
みのすけ「とくに『50回目だから』という意識はないのですが、久しぶりにナイロンでギミックのない会話劇をやるということで楽しみにしています。劇団の最初の頃は矢継ぎ早に公演をやっていましたが、最近は1~2年に1本というようなペースですし、本公演ではない公演もいろいろやっているので、そういうのも含めたら50回どころじゃないんですけど(笑)、でもこれだけの時間をかけてきましたから、劇団はやっぱり成長しているなと思います。劇団員も、20代だったのが50~60代になっていますしね」
峯村「ちょっと前に『えー、もう30回?』と言っていた気がするんですけど、そこから一気に飛んで『もう50回⁉』という感覚です。1回1回の公演に新しい気持ちで向かっているから、自分では『今回が〇回目だ!』というふうに意識したことがなくて。気が付いたら、周りから『50回目ですよ』と言われるところまで来ていたという感じですね。毎回面白いし、そして毎回大変だし(笑)。1回1回が新鮮で、あっという間の50回目です」
―――今回の公演は新作とのことで、公演に寄せたKERAさんのコメントからどのようなイメージを膨らませていますか?
みのすけ「作品の舞台となる時代が今ではなく、70年代というのが嬉しいですね。70年代の映画や音楽が好きだったりしますし、芝居を通じて昔の時代を俯瞰して見られるのがいいなと」
峯村「うん、その時代の衣装というのも嬉しいです。今とは全然違う雰囲気があって、KERAさんってそういうのが好きだったりもするじゃないですか」
みのすけ「それに、携帯電話がない時代というのもいいよね。携帯というものがこの世に登場したことで、芝居も変わった部分がありますから」
峯村「携帯がないことによって、ドラマが生まれたりしていたものね。前に“ロミジュリ”を観に行ったら携帯を使っていて、『ロミジュリの時代に携帯があったら、あんな悲劇は生まれなかったんだな』と思いました」
みのすけ「昔って管理人さんの家にしか電話がなくて、大家さんが『○〇さん、電話ですよ』って呼びに来たり、電話を借りに行ったりしていたじゃない? 今回の芝居に電話が出てくるのかはわからないけれど、そういう今はなくなってしまったシチュエーションを演じるのは楽しそうだなと思います」
峯村「みのちゃんって何年生まれ?」
みのすけ「65年。だから70年代というと子どもの頃なんだけど、大きくなってから観たアメリカン・ニューシネマや日本ATG(アート・シアター・ギルド)の映画だとか、その頃に生まれた演劇や、カウンターカルチャーなものに僕は影響を受けたので、その時代の物語というのは楽しみです」
峯村「私の中では60年代、80年代はきらびやかさや明るさがある時代で、70年代はそこに比べると地味だけどしっかりした面白さがあるというイメージです。今回はどんな物語になるのか、気になります!」
―――おふたりは長くKERAさんとのお仕事を重ねていますが、近年のKERAさんの作品や演出について、どのような変化を感じていますか?
みのすけ「とくに近年でいうと、KERAさんの中でどういうものを表現したいのかビジョンがあり、役者はKERAさんが求めているものを体現していく。その着地点が見えるのが早くなったなという印象があります。やっぱり長年一緒にやっているからということもあって、台本を読んだときに『KERAさんはこういうことを求めているんだな』という勘が、劇団員だからこそ働くようになった感覚です」
峯村「最近のKERAさんの作品から感じるのは、温かさや優しさといったものが増えてきたなということ。ナイロンではナンセンス的なものをやることが多かったので、そのKERAさんが、ケムリ研究室やKERA・MAPでは、すごく救われない話ではあっても優しさが根底に感じられる、胸に染みるような温かさのある作品を作っているのが印象的です」
―――おふたりは、外部公演にも多く出演されています。外の仕事も経験したからこそわかる、KERAさんとの仕事の醍醐味は?
みのすけ「やっぱりKERAさんの作・演出作品に携わっている回数が一番多いので、台本から一字一句変えずにセリフを言うことや、KERAさんから求められる声のトーンなどが自分の中に根付いている感覚があります。たとえば、もしセリフを変えたいのであれば、KERAさんに一度伝えてからやって見せる。稽古場ではそんなふうにKERAさんの意向を確認しながら細かいところを整えていく作業をする、僕はそれが当たり前だと思ってずっとやってきていますが、初めてKERAさんとやった人からは『(KERAさんの演出は)細かいですね』という反応が多く、『そうなのか』と思います。僕は逆に、そういうことを言われないと『何も言われないな……』という気持ちになるので(笑)」
峯村「私もKERAさんの演出を受けている期間がとても長くてKERAさんの演出が一番身についているからか、他所の現場も経験させていただいていますが、KERAさんとの現場が一番居心地がいいな、と思うようになりました」
みのすけ「そうだね。本番が始まったら役者に任せるタイプの演出家もいるけど、KERAさんは本番が始まってから楽日まで舞台を観続けて、少しでもブレてきたら直して、最後まで“変わらない”舞台を届けることを基本にしています。僕にとってはそれが普通で、あるべき姿だと思っているから」
峯村「KERAさんは『千秋楽もほかと同じ公演だから、特別なことは何もしないで』っていう人じゃない?」
みのすけ「KERAさんの作品、ナイロンの作品では、千秋楽もいつも通りやることが重要」
―――ナイロンでKERAさんの新作をやることに関して、どのような楽しみがありますか?
峯村「ナイロンでの新作は、台本が上がってくるのが遅くても(笑)、『ナイロンのメンバーとだったら、大丈夫』と思えます。メンバーに信頼感があって、『セリフが覚えられないよね』とこっそり言い合ったり、みんなでドギマギしながら本番初日を迎えたり、大変なことも共有して楽しめるというのは大きいです」
みのすけ「今回の客演メンバーも、KERAさんの作品や演出をある程度わかっている顔ぶれなので頼もしいです。いろいろなタイプの役者さんがいて、だから確実に面白くなる気がしています!」
―――KERAさんとのお仕事の中で、気づかされたことや学んだことというと?
みのすけ「台本が本当にギリギリのタイミングで上がり、もらったものをとにかくこなすことに終始して開幕した作品があって。僕は『これ、本当に面白いかな……?』と思いながら初日を迎えたんですが、お客さんから『すごく面白かった!』という感想をもらったときに、『わからなくても、KERAさんの作品を信じたほうがいいんだな』、『信じてやれば、絶対に面白くなるんだ』と思いました。舞台でやって初めて『あ、ここが笑いどころなんだ』とわかることもあるし、逆に稽古場で『笑いどころだ』と思ってやっていたら、本番ではあまりウケないということもある。そういうのを全部、KERAさんは一番冷静なお客さんの目線で見てくれているので、それは安心してやれるところです」
峯村「10数年前の舞台で、KERAさんに書いていただいたセリフを一生懸命言っていたら、KERAさんも面白がってくれていたんですけど、そのセリフを読み込んで『この子はこういうことを言っていて、ここが大切で、聞かせたいポイントなんだな』といろいろ考えてセリフを言っていたら、ある日『なんかさ、ちょっと変わってきちゃったね』、『意味を理解しちゃってる感じがするんだよ』って言われて、『意味を理解したらいけないんだ!』とびっくりしたことがあります(笑)。役柄的に、ちょっと飲み込みが遅い人の役だったというのもあるんですけど、『意味を理解しないまま、セリフを言うこともある』、『理解することが100%正しいわけではない』ということをそのときに学びました」
みのすけ「自分で理解してないことを言っちゃったりすることって、実際にあるもんね。『どういうこと?』って聞き返されて、『うーん、わかんない』って返事しちゃうような。KERAさんって『あのとき、こういうふうに言ったよね』ってよく覚えているんです。人の話を聞いて、その言葉や言い方も含めて記憶しているから、KERAさんの記憶に留まっているものが台本に表れたりすることも多い。
たとえば僕は、喋ろうとする前に口の中に食べ物を入れて、それから喋り出してしまうクセがあるんですけど、あるとき、それがそのまま役の言動として当て書きされたことがありました(笑)。それと僕、人の話を聞いていないことが多くて……。相手役がものすごく長く喋って、僕が『ごめんなさい。違うこと考えていました』と言う、みたいなやりとりも当て書きされたな」
峯村「みのちゃん、それあるよね~。私に質問しておいて、一生懸命答えると全然聞いていないの! 失礼なんですけど、面白くて笑っちゃう(笑)。私が当て書きされているなと感じたのは、この口調です。私は理路整然と話すのがあまり得意じゃなくて、感情でワーッと喋りがちなんですけど、そんなふうに勢いで喋るような話し方や、主語や目的語が最後に来たりするようなセリフが出てくると、『KERAさん、私の口調で書いてくれているんだな』と感じます」
―――とても興味深いお話です! 最後に、公演に向けての想いをお聞かせください。
峯村「私も、この9月の公演を待ちに待っておりました! 本当に久しぶりにご一緒できる人もいるので、この公演を最後までみんなと一緒に、体に気をつけてやっていくのが、私の今年の目標です」
みのすけ「“今年の”なんだ(笑)」
峯村「そう(笑)。暑い盛りの稽古になると思うし、みんな歳を重ねて、いろいろ体にくるようになってきているけれど。そして大変なこともきっとたくさんあると思うけれど、楽しく稽古をして、絶対面白いものにしたいと心から思います。また今回、東京のほかに岐阜や兵庫でも公演をします。ナイロン公演で岐阜に行くのは初めてなので、それも楽しみです!」
みのすけ「劇団員がみんなまぁまぁの歳になっていて、悪い意味ではなく、本当にいつまで続けられるかというのはあると思っています。このメンバーでやれる機会も限られてくるでしょうから、一作一作を楽しみたいですし、最後までみんな揃ってやりきりたいです。個人的な話になりますが、岐阜の可児市で公演をやれるのがとても嬉しいんです。僕は今、東京と名古屋の二拠点生活を送っているのですが、名古屋と可児市はわりと近いので、自分の身近な場所でナイロンの公演ができるのを、今からとても楽しみにしています。9月に東京公演、10月に岐阜と兵庫で公演ということで、リエちゃんも言っていたけれど、僕にとっても本当に今年の大事業、思い入れのある仕事になるので、若い方々やナイロンをまだ観たことのない方に、ぜひ観に来てもらいたいです」
(取材・文:木下千寿 撮影:平賀正明)
みのすけ さん
「梅干しとソーセージたまに納豆。
お弁当はバランスだ。ちなみに、たまに自分で作る弁当はゆでたまご、野菜炒めを入れる。見た目より、とにかく早く出来て、栄養バランスさえ良けりゃみたいに思っている。肉、魚は、ごくたまに冷凍のを。それに味噌汁さえ持っていけばそれで十分。そこらの外食、お弁当には負けない。無添加素材にこだわっているから!
しかし何故か、梅干しとソーセージはあまり入れたことがない。だから入ってたら嬉しい。納豆が好きなので、納豆も入れたいところだがお弁当には向かない。
なので、稽古の時とかは、たまにパックのまま納豆を持っていく。
変わってるねと言われるが、気にしない。
あと……妻の弁当なら何が入ってても嬉しい(笑)」
峯村リエ さん
「薄焼き卵を何枚にも重ねてミルフィーユ状にした物をフライにして、ソースをヒタヒタに付けてご飯の上に乗っけると、お昼にはご飯にソースが染みて、フライの衣もペチャペチャになっている、と言うものが入ってると物凄く嬉しいです。昔、母がよく作ってくれました」
プロフィール
みのすけ
1965年4月25日生まれ、東京都出身。俳優・ミュージシャン。「劇団健康」、「ナイロン100℃」ともに旗揚げから参加する。近年の主な出演に、舞台『赤坂檜町テキサスハウス』、『悪の花』、名取事務所『燃える花嫁』、ドラマ『新年早々 不適切にもほどがある!』(TBS)などがある。
峯村リエ(みねむら・りえ)
1964 年3月24日生まれ、東京都出身。「劇団健康」を経て、1993年「ナイロン100℃」結成に参加、以後主要メンバーとして活躍するほか、舞台・映画やドラマに多数出演。多彩なキャラクターを演じ、存在感を放つ。
公演情報
ナイロン100℃ 50th SESSION『管理人ご夫妻』
日:2026年9月5日(土)~27日(日)
※他、岐阜・兵庫公演あり
場:下北沢 本多劇場
料:土日祝9,800円 平日8,800円 ※他、各種割引あり。詳細は下記HPにて(全席指定・税込)
HP:https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/nylon50th
問:キューブ tel.03-5485-2252(平日12:00~17:00)
28名限定!
土日祝9,800円 → 7,800円
平 日8,800円 → 7,000円
+カンフェティポイント付き!