オペラ界の世界的スター歌手には、想像を絶するスケールの逸話をいくつも抱える人がいる。その点で日本には、10月にデビュー40周年リサイタルを開催する中丸三千繪(ソプラノ)を超える人はいない。
「超多忙だったので、シチリア島のパレルモで《スタバト・マーテル》を歌い、続いてボローニャでレコーディングという時、プライベートジェットをチャーターしました。ナポリからボローニャまでF1ドライバーを雇って移動したこともあります」
それほどのスターだった。小澤征爾のオーディションを勝ち抜いて《エレクトラ》の題名役を歌ったのを皮切りに、パヴァロッティ・コンクール、マリア・カラス・コンクールなどの超難関を軒並み制覇。
「パヴァロッティ・コンクール優勝の2カ月後にフランスで《ラ・ボエーム》に主演。翌年、パヴァロッティとの《愛の妙薬》でアメリカにデビューし、帰ってきたらミラノ・スカラ座への出演が決まっていました」
キャリア初期から一流歌劇場でビッグネームと共演を重ねたが、その陰には苦労もあった。
「某著名指揮者から『パヴァロッティを教えた先生がいる』と聞き、教わりたいと思いましたが、メールもない時代。その指揮者を欧米の各都市に追いかけ回し、半年かけてやっと電話番号を教えてもらいました」
中丸が羽ばたき始めたころは、錚々たる大歌手や大指揮者が溢れていた最後の時代。「最後の大物」たちから直接、薫陶を受けた彼女は恵まれていた。
「伝統的なことも様式感についても、しっかり教えを受けることができました」
最盛期は年間100回もステージに立った中丸だが、心残りもあるという。
「カラヤンに会えなかったことです。亡くなる10日ぐらい後にザルツブルクで会う予定でしたが、間に合いませんでした」
そんなスターの40周年だから重みも厚みも違う。オペラ・アリアをたっぷり聴かせてくれそうで、現在、検討中の曲にシャルパンティエ《ルイーズ》のアリアがあるという。
「カラス・コンクール本選の最後に歌った曲で、ドミンゴが家に遊びにきた時、《ルイーズ》の歌手を探していたという話になり、私に歌ってもらえばよかった、といってくれました」
ピアノは「どう歌っても合わせてくれる」と、中丸が絶大な信頼を寄せる安達朋博。分厚い40年がホールに充満しそうだ。
(取材・文:香原斗志 撮影:平賀正明)
プロフィール
中丸三千繪(なかまる・みちえ)
茨城県出身。桐朋学園大学声楽科卒業。在学中よりニューヨーク・ザルツブルクに留学。1986年、小澤征爾指揮『エレクトラ』で日本デビュー。1988年、第3回ルチアーノ・パヴァロッティ・コンクール優勝。翌年、『愛の妙薬』でルチアーノ・パヴァロッティと共演し、アメリカデビュー。1990年、マリア・カラス・コンクールにて、イタリア人以外で初優勝。
公演情報
デビュー40周年記念 中丸三千繪 ソプラノ・リサイタル
日:2026年10月17日(土)19:00開演(18:30開場)
場:サントリーホール 大ホール
料:SS席15,000円 S席10,000円 A席7,000円 B席5,000円 P席[舞台後方席]4,000円(全席指定・税込)
HP:https://nakamaru-michie.jp
問:アートウィングス tel.03-6869-5641(平日11:00~17:00)