俳優・佐野瑞樹が独自の手法でワンシチュエーションコメディを昇華させるプロデュース企画「sitcomLab」の第11弾公演。かつて絶大な人気を誇っていたが、マンネリ化により連載打ち切りが決定した漫画家の東雲は最終回のネームを描いているときにアトリエに訪れた、ハウスクリーニングの新井に「少しの間だけ自分に成りすまして欲しい」と頼む。仕方なく引き受けた新井だったが、そこに現れた漫画の熱烈な女性ファンにより「自分の納得のいく最終回にして欲しい」と脅迫されてしまう……。東雲の漫画『限界ノンカノン』と交錯しながら進む、ノンストップアクションファンタジー ワンシチュエーションコメディ。果たして最終回の行方はいかに!?
作・演出の佐野に加え、新井を演じる神里優希、女性ファン役であり、作中漫画原案の天野麻菜に本作への意気込みを聞いた。
―――本作のストーリーについてお聞かせください。
佐野「漫画家の東雲には諸事情があって、アトリエに来て原稿を盗み見たハウスクリーニングの新井の弱みにつけ込んで、しばらく俺の替わりをしてくれと頼むことから事件が始まります。熱烈な女性ファンが人気作家に強要して納得のいく最終回を描かせるという時点で勘の良い方はお気づきかもしれませんが、ハリウッドのサスペンス洋画『ミザリー』をコメディにしたらどうだろう?という視点で書き始めたオマージュ作品です。『ミザリー』は、ほぼ2人で物語が展開しますが、本作は色々な人物が登場します。あの映画のような緊迫したシーンは出ませんのでご安心ください(笑)」
―――今回は劇中劇があるのが特徴ですね。
佐野「はい。劇中劇は初めての試みになります。現実の世界ではドタバタコメディで、漫画の世界は結構シリアスなバトルファンタジー。一見すると正反対の世界ですが、登場人物たちが様々な意見を出して物語が交錯することで、また違う面白さが出てくるという見どころがあります。日常を描く本編とは全く違う世界にしようと、漫画の世界は思い切りバトルファンタジーに振ってあります。立ち回りもあるので役者には大変でしょうね。漫画の最終回に色んなパターンが生まれて、最後はどんな風に着地するか。僕が手掛けた中では全く新しい作品になるはずで、ずっと観て来た方は衝撃を受けるでしょうね(笑)」
―――劇中劇の漫画のシナリオと配役は天野さんが考えたそうですね。
天野「脚本も書いたことがないどころか絵も描けない私が、漫画の原案を1から考えるなんて、かなり無謀な挑戦の始まりでした。それでも“やるしかない”という気持ちで進めましたが、ずっと『これほんとに伝わるのか?』と不安でした。漫画の世界観を絵で表現するわけではなく、いきなり実写化するわけですから(笑)。自分の頭の中で展開している漫画がどこまで表現できるのか、劇中劇として興味を持ってもらえるのか、今もまだ心配は拭い切れていません。でも早くキャストが実際に演じているところが見たいというワクワクが強いです。そしていつか本当に漫画になればいいなとちょっと思ってます」
―――人の死後の記憶がレコードとなって記録され音を奏でるという世界を舞台に巻き起こるバトルファンタジーですが、その世界観にたどり着いた理由や、苦労した点はありますか?
天野「何か音楽にまつわる設定にできないかと、いくつかプランを考えたんです。そのうちの1つがレコードでした。舞台上でも映えるし、デジタルな時代に逆にエモいかなと。その時にふと思ったのが人生って1つのレコードみたいだなって。曲を聴いたら当時の懐かしい記憶を思い出すことってあるじゃないですか。楽しいことも辛かったこともひっくるめて、アルバムみたいになったら、その人が亡くなったあともそれを聴いて、その人のことを思い出したり知ったりすることが出来て素敵だなと思ったのがきっかけでした。
シナリオを描くにあたり、瑞樹さんからは『バトルものにしてほしい』と言われていたのですが、私は単純なバトルものにはしたくなくて、自分が好きだった漫画や映画、今流行っているアニメなどを調べて、何かヒントになるものはないかと探しました。そこで思いついたのが“戦わない”という選択肢だったんです。もちろんバトルシーンはあるものの、大事なのは主人公が怪物の未練や後悔に真っ向から向き合って寄り添ってくれること。敵を倒して終わり!というわかりやすいものではなく、少し複雑でちょっぴりダークな世界観にしたいなと思いました。
そして一番大事なのは“皮肉さ”ですね。ただ倒すのではなく、毎回主人公が全てを背負っていく。そのせいでいつか精神が限界を迎えてしまう……みたいな。救われてほしいような、現実はそんな甘くないよなっていう皮肉な部分を織り交ぜたいなと思ったんです。
苦労した点は、本編の都合でどのキャストがどのキャラを演じるのかが変わったり、瑞樹さんが『俺のキャラ面白くして!』なんていう要望があったりしたこと(笑)。あとは先に最終回を考えなきゃいけなかったことですね。1話も思いついてないのにいきなり最終回って!?と最初は戸惑いましたが、逆に最終回を固めたことでいろんなアイデアや設定が浮かんだので、原案に深みが出てよかったです」
―――佐野さんはこのシナリオにどんな印象を持ちましたか?
佐野「まさかここまで細かく洗練されたストーリーを考えて来るとは思ってませんでした。僕が予想した2段くらい斜め上をいっててびっくりしましたね。自分で考えなくて正解だったと心底思いました(笑)」
―――神里さんは多くの2.5次元作品に出演されていますが、ワンシチュエーションコメディの中にバトルファンタジー漫画を入れた本作はまた異色な感じでしょうか?
神里「そうなんです! もう、ビジュアル撮影の段階から今まで経験したことがない撮影の仕方で驚きました。2.5次元作品のような、まるで漫画の世界を作っているような感覚で、すごい気合が入ってました(笑)。今回、自分はずっと舞台上から捌けない役なので台詞量も含めて大変だと思いますが、瑞樹さんの作品は面白くて魅力的なキャラクターがたくさん出てくるので、とても楽しみです。お客さんも90分という時間があっという間に感じると思いますよ。
僕は熱烈なファンの女性に、本物の作者の東雲先生と思われて漫画の最終回を描かされるハウスクリーニングの新井を演じますが、そもそも漫画自体を描いたことがないので、超絶へたくそなわけです。ファンの女性に『こんなんじゃない!』と詰められるのですが、そういうギャップがもう笑えますよね」
―――お2人はこれまでもsitcomLabさんの作品に出演されています。
神里「僕はもう瑞樹さんに芝居を教えていただいてると言っても過言じゃないと思っています。瑞樹さんと出会ってお芝居って楽しいなと思うようになりましたね。改めて表現の可能性は無限大なんだと。稽古でも『何でも好きなようにやってみな!』と言ってくれるので、知らなかった自分をどんどん引き出してくれる感覚がありますね」
天野「私も10年近く、佐野さんの作品に出させてもらって、改めて舞台っていいなという気持ちにさせてくれます。90分でサクッと終わるし、観終わったあとに『あー面白かった!』と元気にさせてくれて、明日への活力になると言いましょうか。劇場に何度も足を運ぶのは簡単なことではないですが、それがしたくなるのは佐野さんの作品に魅力があるからこそだと思います」
―――今回の挑戦が、ワンシチュエーションコメディにどのような相乗効果を期待しますか?
佐野「劇中劇を含めるのが今回初めということもあって、どういう効果が生まれてくるのか僕自身楽しみにしているところがあります。劇中劇が本編のコメディとは全く違うダークファンタジーなので、お互いがお互いを引き立て合う良いコントラストになったらいいなと期待してます。また劇中劇を利用した笑いも狙っているので、そこがウケるといいなって思ってます(笑)」
―――最後に読者へメッセージをお願いします。
天野「まさか自分が漫画のシナリオを書くことになるとは思いませんでしたが、書いていくうちに意外と面白くなるんじゃないかなという手応えを感じています。私自身が漫画の世界に没頭できることで、本編の方を佐野さんがしっかり面白くしてくれると思うので、今までとはまた違うsitcomLabを楽しめると思うので、是非観に来てください!」
神里「瑞樹さんと出会って長いですが、今回は新しい挑戦だと思っています。まだどういう風になるか想像がつかないですが、間違いなく楽しい作品になると思います。sitcomLabさんは舞台の前後も楽しい時間を設けてくれるのが特徴で、本編が終わったあとのポストクレジットショーも見どころです。お祭りみたいな時間になることを保証します。ご来場お待ちしています!」
佐野「ワンシチュエーションコメディはその名の通り“設定の笑い”です。設定は個人では作れません。全員で設定を理解して、それぞれがそれぞれの役割を寸分の狂いもなく演じて初めて笑いが生まれます。要は高い技術力が必要になるわけです。“きっちり計算された笑い”それがワンシチュエーションコメディの魅力だと思ってます。
新作の反応は僕も全然予想できないですし、狙った演出をしていても、いざ出してみるとこちらが全く予想しなかった反応が返ってくる。その意味でワクワクとドキドキが止まりません! 評判が良ければ再演があるかもですが、オリジナルはこの1回だけです。是非楽しみに観にきてくれたら嬉しいです」
(取材・文&撮影:小笠原大介)
プロフィール
神里優希(かみさと・ゆうき)
1994年10月29日生まれ、兵庫県出身。近年の主な出演舞台に、ミュージカル『町田くんの世界』、『DURIAN DURIAN -ドリアン・ドリアン-』、Groovy Stage『ブレイクマイケース』、sitcomLab『幻のイントルーダー』など。
天野麻菜(あまの・まな)
1991年10月14日生まれ、大阪府出身。主な出演舞台に、sitcomLab『いえないアメイジングファミリー』、『幻のイントルーダー』、タクラボ特別公演『THE お年玉』など。
佐野瑞樹(さの・みずき)
1973年9月26日生まれ、静岡県出身。sitcomLab主宰。1993年にミュージカル『美少女戦士セーラームーン』で初舞台。その後、数々の話題の舞台・ミュージカル・ドラマに出演し、高い評価を得る。2011年、弟の大樹と兄弟プロデュースユニット「WBB」を結成。2013年、舞台『川崎ガリバー』で初演出。その後も、多くの公演で執筆や演出を手掛ける。sitcomLabでは、脚本・演出・出演・主宰を務めている。
公演情報
sitcomLab 第11弾『おしとおせ!限界ノンカノン』
日:2026年8月27日(木)~31日(月)
場:吉祥寺シアター
料:S席[特典付]5,000円
A席[後方3列]3,000円(全席指定・税込)
HP:https://lit.link/sitcomLab
問:sitcomLab mail:info.hanipro@gmail.com
28名限定! S席5,000円 → 4,000円+カンフェティポイント付き!