京都を拠点に活動する劇団不労社が、新作『暗黒の喜劇』を上演する。ロームシアター京都が“京都の若手アーティストと世界を目指す”をテーマに掲げた〈レパートリーの創造 ホープス〉というプロジェクトの一環で、ワーク・イン・プログレス(制作途中の過程)として今年初めに公開したものをブラッシュアップして上演する本作は、陰謀論をはじめ人々の信念の分断が深まる現代の諸相を、パラレルワールドの交錯によってあぶりだしていく。
作・演出を手がける主宰の西田悠哉と、劇団員で俳優のむらたちあきに、不労社の成り立ちから新作のことなどについて話を聞いた。全国的にも注目度が高まる劇団の独自性が少しでも伝われば幸いだ。
俳優ありきでイメージを膨らませていく
―――劇団不労社は2015年にスタートしたそうですね。
西田「僕が大阪大学の演劇サークルに所属していた頃、学外で個人活動するときの名義として立ち上げたのが不労社の始まりです。今のメンバーはみんな大阪大学出身で、初期の頃から不労社の公演にも参加してもらっていましたが、劇団として一緒にやっていこうと正式に声をかけたのは卒業後のことです」
むらた「私は西田君より学年が上で、声をかけていただいたときは社会人になっていました。まだ全然軌道に乗っていませんでしたが、仕事と演劇の両立を考えているタイミングだったので、それに乗っかったみたいな形ではありますね」
西田「2018年、僕が社会人になって初めての公演(劇団不労社第4回公演『ユノワセイ? ー世界はお前を中心に回ってない!ー』)が、むらたと荷車ケンシロウ(当時の名義は宮前旅宇)の2人芝居だったんですけど、そのときに、自分の作品でこの2人を中心に据えて作っていくといいなと思ったんです。自分がやりたい作風の中に、この2人の顔があるといいなと」
―――西田さんは俳優の視覚的イメージから当て書きをするそうですが、劇団員として一緒にやっていきたいと思った決め手もそれだったのですね。
西田「自分の場合は、何か架空のキャラクターではなく、その人ありきでストーリーとか展開ができていくので、逆に言うと、基準となる俳優を定めないと書きにくいんです。書きたいと思える人かどうか、というのも大きいですね。いろいろイメージを膨らませやすい人というか」
―――むらたさんは、初めて西田さんの作品に参加されたときの印象を覚えていますか?
むらた「私が大学時代に入っていた演劇サークルは既成台本をたくさんやるところだったので、どちらかというとウェルメイドな作品ばかりに出ていて、不労社のようにちょっと不条理なお話はあまりやったことがなかったんです。叫んだり脅したりするような芝居もあまり経験がなかったんですけど、最初に出演した第3回公演『生きてんだか死んでんだか』(2017年)では、そういう芝居がメインの役どころをいただいて。そこはかなりチャレンジングだなと思いつつ、本番はすごく楽しくて、爽快感みたいなものがあったのを覚えています。それまで既成台本で与えられた役割とは違う、別の自分を再発見したような気持ちにもなりました」
―――しかも当て書きされた役ですから、確かに作品を通して自分を知るという面はありそうですね。
むらた「脚本を読んだ時点で、ここは自分自身にリンクしているなと思ったり、自分とは遠いなと思っていても演じていくうちに実生活にもリンクがあるなとだんだん気づく部分の両方があって、考えさせられることがたくさんあります」
ワーク・イン・プログレスから進化する可能性
―――『暗黒の喜劇』はどういうところから発想された作品ですか?
西田「まず作品の中身として、もともと自分の関心の中心にある陰謀論を軸に据えて作品を作りたいという、ぼんやりとしたイメージがありました。また、これまで劇団の本公演では、集団暴力シリーズという、閉鎖的なコミュニティを舞台にしたワンシチュエーションものの作品群と、先日上演した『サイキック・サイファー』のように空間も時間も飛びまくる〈FLOW series〉という2つの系統があって、これらをスタイルとして合流させたいという考えもありました。
僕はいつもタイトルから作品を考えるんですけど、この“暗黒の喜劇”という言葉は、自分たちのジャンルを示すキャッチコピーとして数年前からチラシに書いてきたものなんです。それを今回、改めてタイトルに据えてみて、この10年ほどの活動でやってきたことの決算と、今後の新しい可能性を探るような作品にしたいという願いに近いものがありました。実際に作っていく中では紆余曲折ありつつ、いまだかつてないくらい自分の経験や境遇といった要素が投影された作品ではないかと思っています」
―――ワーク・イン・プログレス上演の手ごたえはどうでしたか?
西田「ワーク・イン・プログレスって、そもそも途中過程を見せるようなものだと思うんですけど、今話したようにいろいろ気合いの入った作品でもあるので、美術やテクニカルも含めて“もう作品1個できてるやん”というところまで仕上げました。もちろん、本公演に向けて取捨選択の余地はあると思っていて、一旦広げて乗せてみようという感じで上演したんですけど、同じところに対して、ここが良かったという人もいればここが良くなかったという人もいたり、もっとわかりやすくしてほしいという声もあれば、わかりやすすぎるという声もあったりして……結局、1つのものを見ても人が思うことは全然違うから、自分の信じたことをやるしかないんだなと。でも、リアクションをもらって気付くことは多いので、良い機会になったなと思います」
―――そこで完成形に近いものを見せたのは、ちゃんと形にしたものを見せたいという気持ちが基本的にあるからでしょうか?
西田「美術や照明、衣裳など視覚的なものも含めた全部があるのが演劇の面白いところだと思うので、作品を作る上ではトータルで設計するというのが僕の作品作りのベースにあります。途中のものを見せてもあまり意味がわからないかなという気持ちもあったので、せっかくこういう場があるなら、そこまで詰めたものを見せたいと思いました。自分が今持っているイメージを全部乗せてみたというか」
―――むらたさんは『暗黒の喜劇』の脚本にどんな印象を持ちましたか?
むらた「陰謀論というか、人が何を信じるか?みたいなことには私自身もすごく興味があるので、それをどう具体的に俳優として乗せていくかみたいなことをずっと考えながら作品を作っていました。あとは、架空の街とか架空のスポーツとか、要素がとても多い作品なので、いろんな人が好きなものを楽しめる脚本になっているのかなと思って、そこは私も楽しんで演じました」
―――演者としてワーク・イン・プログレス上演を経験していかがでしたか?
むらた「もともと不労社は演劇と仕事を両立しながらやっているので、いつも割とタイトな時間で全部仕上げるスタイルなんです。土日に稽古して、4〜5週間くらいで仕上げていくみたいな。ですから、こういったワーク・イン・プログレスを経て、また本番があるというのは俳優としても考え甲斐があるというか、1回作ったものを壊して、また挑めるというのはすごくありがたいです。きっと本番の頃には、ワーク・イン・プログレスのときとはまた違う自分がいるわけで、それが新たな『暗黒の喜劇』に反映されるのを自分でも見たいと思うし、とても興味があります」
―――先ほど自分の再発見という話が出ましたが、『暗黒の喜劇』でもそういうところはありましたか?
むらた「今までは割とイノセントな存在としての役どころが多かったんですけど、今回はちょっと嫌な女というか、女の人の持ついろんな感情が見える脚本になっていて。もちろんそういう自分もいるんですけど、実生活でも舞台上でも、そういうところはあまりうまく出せてこなかったということに気づき始めているので、そこを本番では掘り下げていけたらなと思っています」
―――舞台で演じた役が、現実の自分に影響を与えることもありますか?
むらた「私はどちらかというと、リアルの世界で思ったことを舞台上で発揮するみたいな流れがあったんですけど、『暗黒の喜劇』のように自分とはちょっと離れていると思える気持ちや状態が、リアルでは表に出していないだけで、実はずっと心の中で持っていたんだと、そういうリンクはすごくあります。今度はその部分を抽出して、また舞台で出すというのは、循環しているというか繋がりがあるなと、今お話ししていてちょっと思いました」
不労社にしかできないことの総決算
―――ワーク・イン・プログレスを経て、本作をどのようにブラッシュアップしていこうと考えていますか?
西田「さっき言った視覚的な部分に関してはかなりクリアに見えたので、一番大きく手を加えるのは台本の構成ですね。とにかく情報量が多いので、見る人が何に関心を持っているかによって印象がかなり変わる作品だったなと思うんです。なるべく要素を取捨選択しながら、ストーリーの語り方みたいなところに手を加えることで、いろんな要素を共存させたまま作れるんじゃないかなと思っています」
―――客演の皆さんについても一言ずつお願いできますか?
西田「どの公演でもそうですが、客演していただく方に関しても、基本的に自分が当て書きしたいと思う人というのが大前提です。 森岡拓磨さん(冷凍うさぎ)は、不労社の準劇団員と言っていいくらいたくさんの作品に出てもらっていて、作品への理解がすごく深いんです。森岡さん自身も作・演出家としてやっているということもあるし、映画の趣味がすごく近かったりもして、独自の視点と表現方法も含めて、他に代えが利かないユニークな人だなと思っています。
吉田凪詐君は、第7回公演『BLOW & JOB』(2022年)以来の出演で、すごく器用というか、演劇的なセンスがめちゃくちゃいいんです。脚本の読解だけでなく、舞台上での佇まいも含めて、演劇の基礎体力が高い。その一方で、今回は長期間のプロジェクトでもあるので、演劇に対する真剣さという部分でもまた一緒にやってみたいなと思った人です。
唯一初めて出てもらう森脇康貴君は僕と同い年で、彼が所属する「安住の地」は関西発の同世代でやってきた劇団でもあるんですけど、本人のパーソナリティはあまり深くは知りませんでした。ただ、舞台で見るたびに、顔立ちとか演技のスタイルも含めて自分の作風にすごく合うだろうなと思っていました。彼の凄さはまだうまく分析しきれていないんですけど、自分は動物的な感覚を持っている人を好むところがあって、彼はまさにそういうタイプです。何回も練習して同じことをやれるスキルがあると同時に、何かすごく危うさを感じるんです。舞台上での色気とか危険さを持っている俳優ですね」
―――不労社の作品を見た人たちからは、俳優の存在感が強く印象に残ったという声が多く聞かれます。不労社の俳優さんたちについて、西田さんが感じていることを教えてください。
西田「不労社では、2022年の『悪態』から始まって、むらたちあき/荷車ケンシロウ/永淵大河という劇団員3人の舞台を〈FLOW series〉として毎年上演してきました。もともとみんな不労社を始める前からの付き合いなので、何を面白いと感じるかはわざわざ定式化しなくてもわかるようになってきていて、それが積み重ねの強さとしてあると思う一方で、他の人たちに伝えていくにはどうしたらいいかというのが課題だと思っています。でも結局、やっぱり伝わらないものは伝わらない。これがまさにさっき言ったような動物的な感覚に近い、現場で肌で感じながら培ってきたもので、特に〈FLOW series〉は、あまり舞台を立て込まずに作るスタイルなので、身一つでお客さんや舞台空間と向き合わなきゃいけない。そういう中で、学生時代からいろいろな現場で磨かれてきたものが絶対あるので、自分たちも井の中の蛙かなとは思いつつ、面白みを感じるところだったりします。そもそも誰も正式に演技を学んだことがない僕らが、かなり野良でやってきた中で、共通の血として磨かれたものがどこまで通用するか。それを作品を通じて確かめたいし、まだまだ可能性はあるのかなと思っています」
―――それを伝えたい、形にしたいという気持ちが、作品を作ることの源にあるのでしょうか。
西田「それは絶対そうですね。 やりたい作品があって、後から人を決めるのとは全く順番が逆で、この人たちとやりたいから演劇をやっている、みたいなところがあります。演劇は人と一緒にやらないとできないものだし、その中でもやっぱり劇団員の人たちは、自分が演劇を続ける上での大きな理由です」
―――むらたさんは、西田さんの言う劇団内での共通感覚をどう感じていますか?
むらた「例えば脚本をもらって読み合わせの段階で、こうセリフを言えばこう繋がっていくよね、というリズム感とかセリフ運びみたいなものは、西田君に演出をつけられる前からなんとなく感じています。それはここ3、4年で気づいたことですね」
ーーー『暗黒の喜劇』で不労社を初めて見る人に、どんなところを注目してもらいたいですか?
むらた「不労社の舞台は、身体的な、いわゆる発散するような演技と、静かな会話劇の両方でできていると思います。クスッと笑うようなところとか、すごく気まずい瞬間みたいなものがあったりする面白さと、ワーッと人を圧倒するような演技が1つの作品に詰まっているんです。そういうのは結構珍しいんじゃないかなと個人的には思いますし、そのコントラストを楽しんでもらえたらいいですね。『暗黒の喜劇』も、その両方の要素が詰まったものになると思いますので、ぜひ見ていただきたいです」
西田「良くも悪くも、不労社でしか見られないものがきっとあるんです。悪いと言っても別に悪くはないんですけど、いわゆるセオリーというか演劇の作法、マナーにどれだけ準じているかわからないという意味では、意外と変だねというか、逆に意外とまともだねというか、いろんなリアクションはあるにせよ、僕らにしかできないものはあると思います。特に今回の『暗黒の喜劇』は、不労社でしかできないもの、見られないものの1つの総決算だと思っていて、初めて見る人には一番お勧めの作品かもしれません。自分たちの現在地が非常に色濃く出る作品になると思いますので、そこを期待していただきたいですね」
(取材・文:西本 勲)
プロフィール
西田悠哉(にしだ・ゆうや)
1993年東京生まれ、富山育ち。大阪大学在学中に劇団不労社の名で活動を開始。2022年よりKAIKAアソシエイトカンパニーとして京都を拠点に活動する。団体の主な受賞歴に、第2回関西えんげき大賞優秀作品賞・観客投票ベストワン賞、第1回日本みどりのゆび舞台芸術賞HOPE賞などがあるほか、『サイキック・サイファー』で第15回せんがわ劇場演劇コンクールオーディエンス賞を受賞。個人としても、関西演劇祭2021ベスト演出賞、若手演出家コンクール2022優秀賞、演劇人コンクール2024最優秀演出家賞および観客賞を受賞している。
むらたちあき
1992年生まれ、山口県出身。大阪大学の劇団六風館を経て、2017年に不労社第3回公演に出演。以降すべての作品に参加する。第5回公演『忘れちまった生きものが、』では應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2018俳優賞を受賞。近年の外部出演に、ウイングフィールド30周年記念事業DIVEプロデュース『青木さん家の奥さん』(2022年/演出:西田悠哉)、ニュートラル『オズオズ』(2022年)、うさぎの喘ギ『いつだって、はじまれる。』(2023年)、Micro to Macro『真夜中を飛ぶ』(2023年)、トレモロ『Port -見えない町の話をしよう-』(2024年)などがある。
公演情報
レパートリーの創造 ホープス
西田悠哉 / 劇団不労社新作公演『暗黒の喜劇』
日:2026年10月9日(金)~12日(月・祝)
場:ロームシアター京都 ノースホール
※他、地方公演あり
料:3,800円 ユース[29歳以下]2,500円
※他、各種割引あり。詳細は下記HPにて(全席自由・税込)
問:ロームシアター京都チケットカウンター tel.075-746-3201
HP:
【京都公演】https://rohmtheatrekyoto.jp
【豊岡公演】https://toyooka-theaterfestival.jp/program/17153/
42名限定!3,800円 → 2,900円 +カンフェティポイント付き!