現代の危機感が生んだ、支配と抵抗の人間ドラマ 「抗うか、従うか」舞台で問う人間の本質とは

 多くの舞台や映画に出演し、近年はアクティングコーチやグランドミュージカルから2.5次元作品まで、幅広い作品で演出助手として活躍している、たはらひろや。 
 たはら主宰の劇団±0(プラスマイナスゼロ)の最新作は、情報統制の近未来を舞台に、支配に抗う生の感情を描いていく。

 作品を代表して、作・演出のたはら氏と、主演・久保井研(劇団唐組)、ヒロイン・村田寛奈に話を聞いた。


≪環境が変わっていく時の人間としてのあらがい≫

———本読みを終えたと伺いました、変化した印象や手応えなどはいかがでしょうか?

久保井「(台本は)割と分量があったね(笑)。最近の傾向として言葉の数は少なくて、動きや、ゆったりした人のやり取りとかで見せる芝居が多くなっている中で、言葉や会話にかけてるのかなっていう印象でした。
 もちろんモノローグ(独白)もありますけど、ダイアローグ(対話・会話)が印象的な芝居になる気がしています」

村田「±0さんには初めての参加ですが、今まで触れたことのない作風で、本読みの時も、自分の中にはあまりない感性みたいなのをすごく感じました。まだ口が回らなくて(笑)」

———今作は近年の世界情勢や情報統制社会に目を向けた作品とのことですが、作品を書くきっかけなどお聞かせください。

たはら「世の中に対して言っていいこと、悪いこと、みたいなことをすごく考えたところからがスタートでした。近頃SNS等では誹謗中傷で人が亡くなってしまったり、AIが台頭してきたが故にいろんな問題も出てきています。大きく言えば昔の戦争だったり、近頃もきな臭いニュースが日々後を絶ちません。
 これは完全に自分の中の感覚的なものなんですけども、それこそSNSでちょっと戦争反対みたいなことを書いたらすぐ捕まってしまうような匂いもするし、プロパガンダ的な噂がある人物もいたりして、戦時中の日本の風潮と現代の雰囲気がどこか似通ってきているのではないかとか、情報統制や一個人の発言等、近しい未来に厳しく取り締まられていってしまう時代になっていくのではないだろうか?という危機感を持ってこの作品を書きました」

———発言を管理されている国があることは身近に感じます。そんな環境もこの作品に繋がっていったのですね。演出としてこだわっていきたいところは?

たはら「関係性はすごく見せていきたいです。環境が変わっていく時の人間としてのあらがい、そこははっきり作っていかないといけないと思っているところです」

≪”人間の本質”みたいなものが見えてくる芝居に≫

———稽古中にたはらさんから言われたことで印象に残っているものはありますか?

久保井「細かいことはまだこれからですが、若い演劇を志す人たちがいっぱいいて、今回の座組以外にもいろんな人たちがいると思いますけど、今自分たちの置かれている社会みたいなものと、目に見えないところでの変化みたいなものに敏感になっているのかなってすごく感じています。
 最近そういうことを話題にしたり題材にした芝居をよく見かけるので。でもありがちな近未来ものが、極端な支配体制の中で物事が進んでいくっていうだけで終わっちゃ面白くないと思うので、そこを今回いろんなキャラクターが出てくるから、そういう中で”人間の本質”みたいなものが見えてくる芝居になれば」

村田「私もまだこれからですが、たはらさんの演出がどういう雰囲気で進んでいくのか、どんなテンション感でいけばいいんやろうな、みたいなことを皆さんと本読みをして確認できました。私は姉妹で会話するシーンが多く、そこだけに見える”らしさ”みたいなものを作っていきたいと、相手役の方の声を聞いて思いました」

たはら「稽古でキャスト陣と話しましたが、平和と言われているこの時代の中で、自分たちが平和に生きていれば何も抵抗せず抗いもせず、事なかれ主義みたいなところにいると思うんです。でも、それが本気で変わっていきそうな瞬間に立ち会った時、抗いや反抗の気持ちが出てくるような気がしているんです。
 この作品では、人間たちが抗っていく姿と、抗わないで事なかれ主義でいこうっていう姿、この対比構造みたいなものを、はっきりと出していきたいと思っています」

———どっちも間違ってなくて、どちらも正しい、みたいな部分ですよね。本読みで感じた久保井さんと村田さんの魅力などお聞かせください。

たはら「久保井さんの本読みを聞いているだけで、とてもワクワクしました。もうどっしりと存在感がすごくて」

久保井「長いことやってるからね(笑)だんだんずる賢くなるの」

たはら「いやいやいや! 久保井さんは主人公である西条(にしじょう)役を演じますが、本には書かれていない部分で、抗ってきたが故に、抗わないっていう選択をした西条がもうそこに存在していたんです。西条の人生が、セリフの1言めからそこに行きついていて、すごく魅力的でした。実は顔合わせの数日前に台本をお渡ししたばかりで、それでもあの存在感が乗っかることに感動しました。
 そして村田さんは、出演されている舞台を拝見させていただいて、その時の役が関西弁の強い役でしたが、お会いした瞬間に、もしかすると村田さんの中には繊細な部分も大きいのではないかと感じました。それで本読みを聞いたら、すごく理恵役にマッチしていて。
 理恵はとても繊細だけど、それに蓋をしているという役どころ。これからもっといろいろ引き出していきたいと思いました」

≪観てくれた方が、どんな感想を持ち、これからどう生きようと思うのか興味深い≫

———まだ本格的な稽古はこれからとのことですが、挑戦だと思うところは?

久保井「演じることに関してはそんなにないと思うんですけど、近未来や荒廃した社会だったり、そういうものが大事なモチーフになってくるから、それぞれが勝手に思い描いているのでは説得力がないので、それをやってる人間同士で見てるものが何なのか、統一させることは必要かな。今回1つは家庭が舞台で、もう1つは収容所。
 じゃあ、その家庭がどういう家庭なのか、どういう収容所なのかっていうこと。
俺はそこで石を運ばされるんですけど(笑)それがどういう質感だったり、近未来に置き換えた時にどう荒れてるのか。人の心も街もビビッドなものとして感じられると、説得力が出てくるのかな」

———脚本を少し拝見しましたが、漫画に出てくるような殺伐とした世界を想像してしまいました。

久保井「小説家の井上光晴さんを知ってるかな? 彼が書いた『他国の死』という朝鮮戦争に関係した収容所の話なんだけど、それを思い出しちゃってね。
 それは労働させながら収容所の中でスパイを探す話なんですが、俺も作中で労働させられるんだよね(一同笑)」

村田「作品自体が挑戦だと思っています。たはらさんがおっしゃった、”あらがい”を、舞台でどう伝えるんだろうと。すごく繊細なものやし、でも声を大にして言いたいことでもあるし、それを演劇で伝えることに意味があると思っています。
 会話の中で直接的な瞬間もありますが、それよりはお客さまの想像やそれぞれの感性に委ねているみたいな瞬間も多いと思ったので、この作品を観てくれた方が、どんな感想を持って、これからどう生きようと思うんやろうとか、すごく興味深いです。
 変わっていくものに対して、変化を嫌う人もいるし、それを好む人もいる。自分の固定観念を覆されるような、自分もいろいろ変わりそうだと思うところがあったので、みんなでたくさんディスカッションしたいと思いました」

———年代によって想いも変わりそうですね。今思うチェックポイントや、観てほしいところについてお聞かせください。

村田「どこまで言っていいのか難しいですけど(笑)、私が最初に台本を読んで、1番ゾワッとしたところに、ある本が出てきます。その本を読み終わった後に鳥肌が立ったので、その部分をぜひチェックしてください」

たはら「その本の内容が人間の本質の核心をつくようなね。もう1つのチームにも繋がっていきます。
僕は今31歳で、久保井さんをはじめ先輩方、同年代から20代もいる座組ですが、観ている人によって、観点とか見方、生きてきた人生、背負っているものによって感じ方が変わるのではないかと思っていまして。
普遍的な部分ははっきり見せていきたいと思いますし、近い未来、遠い未来にこうなってしまう世界線にならないように演劇を通して伝えていけたら。
 演劇は映像の媒体とはちょっと違って、ダイレクトに感情がぶつけられるからこそ届くものもあると思うし、感じていただける部分もたくさんあると思っています。
 生身の人間たちを見せていきたいという想いが、±0を旗揚げしてから続くテーマ。
借り物のキャラクターを演じるのではなく、そこに描かれる人間模様をしっかり俳優陣の身体と言葉のエネルギーをお借りして見せていきたいです」

久保井「いろんなジャンルから人が集まっています。どうこの物語を膨らましていくか。みんなお互いの様子を見ながら探り探りいろいろ考えていくんでしょうけど、それはたはら君が交通整理してくれると思うので楽しみにしています。いろんな人と出会えて、いろんな人の芝居を見られる面白みを味わってみようと思っています」

(取材・文&撮影:谷中理音)

プロフィール

久保井 研(くぼい・けん)
6月22日生まれ、福岡県出身。1989年に劇団唐組入団、2019年まで全公演に出演。移動式テント劇場、通称『紅テント』で公演を行う「劇団唐組」唐十郎の意思をつぎ、2012年より座長代行として唐組全作品の演出を務め、俳優として主演も務めるなど劇団を支えている。主な出演作として、映画『パラレルワールド・ラブストーリー』、Metro舞台『少女仮面』、ティーファクトリー+雑遊舞台『路上5 東京自粛』など。

村田寛奈(むらた・ひろな)
12月29日生まれ、兵庫県出身。2010年ガールズグループ「9nine」としてデビュー。活動休止後は本格的に女優としてドラマ・映画・舞台で活躍中。近作に、NHK-FM『天涯の砦』、ドラマ『婚活1000本ノック』、『ちむどんどん』、映画『秒速5センチメートル』、舞台『バックヤード』、ミュージカル『ブルーサンタクロース2025』、舞台『エヴァンゲリオン・ビヨンド』など。

たはらひろや
1月21日生まれ、東京都出身。±0主宰。青年座文芸演出部準劇団員。高校二年時から芸能活動を始め、海外で扱われているリアリズム演劇という方法論を17歳の時に触れて以来それらをべースに CM、再現VTR、映画出演を果たし、大学時代に学生劇団を旗揚げ。その後、2016年に±0を旗揚げ。多数のオリジナル短編劇、長編劇、古典作品を演出している。演出助手として近作に、「MANKAI STAGE『A3!』ACT3! 2025」、ミュージカル「ポーの一族」他。芸能事務所や、大学、子供劇団でのアクティングコーチとしても活動中。演出助手の後進育成にも力をいれている。2025年に初ミュージカル演出作品「命日オプション」(@あうるすぽっと)では池袋演劇祭にて、豊島新聞社賞を受賞。

公演情報

劇団±0 『いつかの、どこかの、だれか、』

日:2026年7月23日(木)~26日(日)
場:萬劇場
料:SS席[特典付]9,500円
  S席[特典付]8,500円
  A席6,500円
※他、各席種あり。詳細は下記HPにて
  (全席指定・税込)
HP:https://x.com/PluPlumimi0
問:±0
mail:plusminus0seisaku0712@gmail.com

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