読売演劇大賞 最優秀作品賞受賞後、第1弾 バブルの時代に奮闘したプロデューサー達の姿を描く新機軸

読売演劇大賞 最優秀作品賞受賞後、第1弾 バブルの時代に奮闘したプロデューサー達の姿を描く新機軸

 この数作品は大正期以降、日本国家が起こしてきた事実を検証する作品が続いた劇団チョコレートケーキ。昨年はそういった戦争にまつわる6作品を連続上演するという意欲的な活動に挑戦し、その姿勢が評価され、第30回読売演劇大賞 最優秀作品賞を受賞した。
 これからさらに注目されそうな彼らが打ちだす新作は、バブル期に特撮ドラマを作るプロデューサー達の奮闘を通して、差別について採り上げるという。これまでとはだいぶ方向転換をした内容になりそうだが、今回はさらにテレビで活躍する橋本マナミや昨今注目されている足立英が客演することも興味深い。新たな挑戦を前にした劇団チョコレートケーキ。主宰で演出の日澤雄介、脚本の古川健、俳優の岡本篤から話を聞く。

―――まずは読売演劇大賞 最優秀作品賞おめでとうございます。昨年の戦争にまつわるシリーズ、一挙上演が評価されたようですが。

古川「有り難いことです」

日澤「6作品まとめての評価になりますね」

―――そして受賞後第1弾となる新作ですが、ここしばらくの作品から見ると、時代がバブル期と新しくなっています。

古川「個人的なことでいうと、日本の戦争というテーマに若干飽きてきた部分はあります。劇団としてその時代を集中的に取り上げてきたのですが、その結果、外から来る仕事もそういったものが多くなってきまして。そこでそろそろ他のこともしたいと思うようになりました。
 そこで自分の好きなものと考えて、ぼく実は昔の特撮ヒーローものが好きで、その観点から話が作れたら……それが出発点でした」

―――いつもの古川さんだと、特撮の中でも社会派として知られる脚本家の金城哲夫さんとかの話になりそうですが、違いますね。

古川「金城さんや上原正三さんについては、もう舞台でもドラマでもきっちりと取り上げられてきてますから。彼らに影響を受けた世代が大人になったとき、そして自分たちの姿を投影したときに、少し時代を下った方が良いと思いまして」

―――脚本の完成はこれからだと思いますが、演出の日澤さんは、古川さんの脚本がどんなものであれ、舞台作品に立ち上げるのが仕事だと、前々からおっしゃっていますね。

日澤「脚本家が提示したものを舞台に立ち上げるのは、今まで通りです。昨年『生き残った子孫たちへ 戦争六篇』をやって以降、今度は劇団として新しい側面をお客さまに見せたいとも思っていましたので、古川君のこういった飛躍には抵抗はありませんでした。
 でもテーマに“差別”という非常に取り扱いが難しいものを掲げているので、史実を粛々と表現するのとはだいぶ違います」

岡本「まだ脚本がないのでなんともいえない部分はありますが、彼は学生の頃から特撮好きで、金城さん達の話も良くしていたので、題材として遂にこの時が来たか、という気持ちですね」

―――そして今回は客演として、女優やグラビアで活躍される橋本マナミさんが加わります。

日澤「以前『帰還不能点』を観に来てくれて、我々の作品は他にもよく観ていらっしゃるとのことでした。それで今回、古川君から、この役柄で是非出演していただきたいという提案がありまして、お願いしました。
 この前終わったNHKの連続テレビ小説『舞いあがれ!』に出演した足立英君も参加しますが、足立君は以前にも何本か出演して頂いていて、今回久々にオファーしようという話になりまして」

―――客演を役柄に合わせて探すこともあるんですか?

日澤「皆で誰とやりたいかを考えるので、役を想定して呼ぶことはありません。だから橋本さんのケースは実にレアです。これまでは実年齢と合ってない役も無理やり自分たちでやってきましたから(笑)」

―――役者側からの要望はあるものですか?

岡本「話し合いの中で各々出すようにはしています」

―――いずれにせよ、これからはもっと注目されますね。

日澤「どうですかねえ、そうなったらいいんですけどね。そんなこともないんじゃ無いかと思うし(笑)」

―――でもNHKのドキュメンタリー調ドラマでの古川さん(の脚本)や、(ミュージカル)『蜘蛛女のキス』での日澤さんによる演出など、外部で皆さんのお名前を見ることが増えている気がします。

日澤「その機会は増えてきました。有り難いことです」

―――そんな新作で、古川さんは“差別”についてかかれるそうですね。

古川「差別は良くない、悪であるという通念があるにもかかわらず、社会から差別は無くならないのかという問いを立てないといけないはずだし、誰もがおそらく欠けている、差別の当事者であるという認識を持たないといけないと思います。未だに男女差別ですら撤廃できないのですから。障がい者や外国人に対する気持ちはどこから来るのかを問いたい。それでこのテーマとなりました」

日澤「自分はしていないと思っても、傍から見ると差別につながることは多々ありますから。
 でも物語の舞台はバブルの時期。なぜ90年代なのか。そして今とは異なる当時の差別感覚もあります。あの頃は今ほど敏感ではないですから、今の問題意識を30年前に持って行っても通用しないかもしれません」

―――コンプライアンスといった部分は、バブル期当時では考えられなかったですね。

日澤「でも今ダメなことは、当時もダメだったはずなんです。それに気がつかなかっただけで。だから今と当時を比べて窮屈に感じるのは違うんだろうと思います」

岡本「普段暮らしていて、差別を我がこととして考える人は僅かだと思います。善良な市民の本質はそこにあるわけですね。今やコンプライアンスだと叫ばれて、ものを作る上でも繊細な、いわば窮屈な状態になっているけれど、なんでもキレイに塗り固めようとして、却って汚くなっているのが現代のような気がします」

―――岡本さんが独自に挑んでいる落語の演目も、差別表現はよく出てきますからね。

岡本「そうですね。表現をする上で“差別”とは何なのか、もっと深く考える必要はあると思います」

―――まあテーマには重みがありますが、それでもいつもの劇団チョコレートケーキとはだいぶ色合いは変わりそうですね。

日澤「古川君の脚本がだいぶ違ってきていますから、自ずと舞台美術も替わってくると思います。今のところ、重厚で土臭い感じはしていないので」

―――軍服姿で無く、軽さのある岡本さんが観られるかもしれませんか?

岡本「軽いのやりたいんですよ、私も(笑)。でもまあ古川君が書くものですからね」

日澤「いずれにしても極限状態の話では無いですね(笑)」

岡本「チョコレートケーキというと戦争を扱うお堅い劇団だと思われる方もいらっしゃるでしょうが、今回は視点を変えて、しかも橋本マナミさんという華をお迎えしてより観やすく楽しんでいただきたいなと思っています。根っこは変わりませんから。皆さんになにか気づきがあれば良いなと思います」

古川「僕にとっても今回は自分の得意では無いところにチャレンジしているので、どんな舞台になるかは未知数です。だから新機軸の作品となれば嬉しいです。そしていつものように、考えるきっかけを持ち帰っていただければいいですね」

日澤「コロナも完全終息では無いですが、色々な活動がしやすくなりました。このタイミングに周りの見え方、モラルのようなものを見直してもいいのではないかと思います。考え方のメンテナンスですかね。それと橋本マナミさんが凄く素敵なので、この新たなコラボレーションを楽しんで頂けたらと思います。さらに、愛知・長野にも伺いますから、その地域の方々も是非ご覧頂ければと思います」

―――ありがとうございました。

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

日澤雄介(ひさわ・ゆうすけ)
東京都出身。劇団チョコレートケーキ主宰、演出家・俳優。駒澤大学演劇研究部を経て、2000年に劇団チョコレートケーキを旗揚げ。劇団作品に出演する傍ら、2010年の第17回公演『サウイフモノニ…』から演出も手がけるようになる。劇団作品の他、ミュージカル『蜘蛛女のキス』、『M.バタフライ』、『アルキメデスの大戦』など外部での演出も手がけている。

古川 健(ふるかわ・たけし)
東京都出身。劇作家。駒澤大学演劇研究部を経て、劇団チョコレートケーキに参加。俳優として劇団作品に出演する傍ら、第16回公演『a day』からは脚本も手がけるようになり、以降全ての劇団作品を手がけている。さらに外部への作品書き下ろしも多数行っている。昨年はNHKドラマ『しかたなかったと言うてはいかんのです』、『倫敦ノ山本五十六』で脚本を担当した。

岡本 篤(おかもと・あつし)
栃木県出身。古川健や演出の日澤雄介と共に劇団チョコレートケーキ初期からのメンバー。第2回公演以降全作品に出演。外部公演への客演も多く、さらにCMやドラマにも活動を広げている。また役者による落語一門「夏葉亭」では、夏葉亭夕顔として高座に上がっている。

公演情報

劇団チョコレートケーキ
『ブラウン管より愛をこめてー宇宙人と異邦人ー』

日:2023年6月29日(木)~7月16日(日)
  ※他、地方公演あり
場:シアタートラム
料:5,000円 前半割[6/29~7/2]4,500円
  U-25[25歳以下]3,800円
  ※要証明書提示(全席指定・税込)
HP:http://www.geki-choco.com
問:劇団チョコレートケーキ
  mail:info@geki-choco.com

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