理論から脱却し“変な方向” へ突き進むナンセンス作品 所属劇団を超えた挑戦!新ユニット「PLAYIN」旗揚げ公演

理論から脱却し“変な方向” へ突き進むナンセンス作品 所属劇団を超えた挑戦!新ユニット「PLAYIN」旗揚げ公演

 劇団民藝の俳優・印南唯、文学座の演出家・西本由香らが「所属劇団の枠を超えた芝居を創ろう」というスローガンを掲げ、2020年から構想し始めたユニット「PLAYIN-be playful people IN-」(ぷれいん/遊び心のある人たち)が2026年に始動。8月に旗揚げ公演となる「十五番街のマリー」を上演。
 ヒッチハイクで逃げてきた男・蒼井は万引き衝動に悩む主婦・マリーと出会い、共鳴し合い共犯関係を結ぶようになる。地元の警察官や、彼を雇おうとするコンビニ店長を巻き込み、問題は徐々に膨らみ収拾がつかなくなって…そんなナンセンス不条理劇。
 印南唯、西本由香、劇作家の山崎元晴にユニット結成の経緯や本作の注目ポイントなどを聞いた。


———「十五番街のマリー」についてお聞きしたいところですが、今年立ち上げたユニットということで、まずはユニット名の由来から教えていただけますか。

西本「基本的には印南唯さんの『印(イン)』から来ています」

———なるほど。どういうきっかけでユニットが出来たのでしょうか。

西本「今回、照明で入っていただいている中島俊嗣さんが、印南さんと共通の知り合いでして、普段できないことや自分たちが所属する劇団だと挑戦しにくいものをやれるといいねということで、印南さんを中心にやることとなりました」

印南「せっかくだったら、ユニット名をつけたほうが盛り上がるんじゃないかなと思いPLAYINとつけました」

西本「ユニットでも劇団でも、1度作るとそれをいかに維持していくかという方が優先順位の上に来てしまうところもあって。そういう意味では、まずこのメンバーで、”何か面白いことやりたいよね”ということが先にあって、そこに人が集まってくる形を目指したいなと思っています。だから名前を付けたほうが盛り上がると思うけど、ただ続けることだけが目的にならないように、”こういうものをやりたい”とか、もし具体的なものがなくても”お祭り騒ぎみたいなことやりたい”とか、”普段やっていないちょっと遊びのようなことやりたい”とか、そういうモチベーションが先にあって動き出せるような場所を作りたいという思いが大きいですね」

印南「フットワークが軽くなるような、ラボっぽいというか、研究っぽいイメージですね。それぞれ劇団に所属があると、劇団のカラーのものをやらなきゃいけないみたいなのがどうしてもあるじゃないですか。せっかくなら試せる時に試すことをしておきたいというのがスタートしたきっかけで、この経験をそれぞれ持ち帰って活かせるものがあるんじゃないかなと思います」

———印南さんが中心メンバーということになるのでしょうか。

印南「はい。でも”代表”とかやりたくなくて(笑)。今、ことあるごとに入力フォームに”代表”と書かなきゃいけなくて、別に代表をしているつもりはないんだけど……。本当なら中島さんが言い出しっぺなので、中島さんが代表になるはずなんです。『唯ちゃん、西本さんといういい演出家がいるんだよ! これから絶対伸びるから!!』と言われて、『ぜひぜひ!』というところから始まったのに、ユニットが動き始めた途端、中島さんが全然動かなくて(苦笑)」

西本「『照明は任せろ!』と言って、他は丸投げ状態です(笑)」

———本作は山崎さんが脚本を担当されますが、依頼の話を聞いた時どう感じましたか?

山崎「『どんなのをやりましょうね』という話をこのお2人としていて、僕から何個かプロットみたいなのを出した中で、1番風変わりなものを選んで『これをやってみようか』みたいなことで話が広がり、西本さんからも”ナンセンスみたいな感じのを作ってみたい”という話をいただきました。共通して僕も西本さんもわりと理論的なものを作りがちになってしまう傾向があって、それをどう脱却しようかということで、今回ちょっと試してみたいという話から始まったものの、徐々に変な方向へ向かってしまい、挙句の果てに自分でもわけがわからなくなってきて(苦笑)」

西本「冒頭を読ませていただいただけで、本当に何回か吹き出しました」

———ナンセンス作品ということで、あらすじを見る限り、衝動的万引きをするマリーと共鳴し共犯関係を結ぶ蒼井が中心のお話ということで、レジ袋が有料化になってから万引きが増えたということで、社会的な風刺があるのかなと思っていたのですが。

山崎「そういうのは全然ないです」

(一同笑)

山崎「どちらかというと、”衝動的な人”を書こうという意志が僕の中にあって、自分でも説明できないけどやっちゃうっていう人をいろいろと出したかったんです。ナンセンス・コメディと言ってもいいかもしれないですけど、ナンセンスの作品になりますね」

西本「私も論理的にものを作っていきたくなるタイプなので、物語に対して腑に落ちる結末や意味がよくわかるものを求めたくなるところはあるんですけど、世の中そんなにわかるようには出来ていないし、わからない部分を拾っていきたい。そこに面白味があると思いますし、論理にとらわれず、収まらない部分を作れたらなということで、今回山崎さんとお話ししています」

———山崎さんはナンセンス的な脚本を作った経験はありましたか?

山崎「経験はなかったですね。いざ踏み込んでみると、すごく奥の広い世界で。ただめちゃくちゃやればいいと思っていたんですけど、めちゃくちゃなことをすると、観ている人も何がめちゃくちゃかがわからなくなるんですよ。壊される世界をまず構築しなきゃいけなくて、秩序だった世界がめちゃくちゃになっていくという断面を描かなきゃいけない。そうしてみると『わからないけど、もしかしてこれって現実にあるかも』と思えてくるんですよね。そこにナンセンスの面白味があるし、今小劇場界でもナンセンスの名手がたくさんいらっしゃいますが、皆さん共通してめちゃくちゃな中にもある種のリアリティがあるんだなということを感じながら、台本作りに悪戦苦闘しています」

———ナンセンスの作品って緻密なんですね。

山崎「『なんでだよ!』とお客さんが思わないといけないから、その『なんでだよ!』のタイミングを計っておかないと、息が合わなくなっちゃうんです。しかも語尾まで気を張っておかないといけない瞬間があって、さっき『〜だよ』に直したつもりが、いつの間にか『〜だね』になっていたりして。『俺、今何を考えてるんだろう?』みたいな(笑)」

印南「待って待って! 語尾までしっかり覚えなきゃいけないのか。これはまずい(笑)」

———先ほど、西本さんが何回か吹き出すぐらい面白かったとおっしゃっていましたが、具体的にどの部分が面白かったですか。

西本「『え、どうしてそういうことになるの?』という行動が起こると、単に異常なことをしているだけだと信じられなくなるけど、『何で?』というようなことが、会話のやり取りとしてある意味リアルというか、生活感のあるやり取りで構築されていて、その呼吸が面白いんですよね。これを役者がしゃべっている構図が思い浮かぶというか、やればやるほど面白いシーンになるなと思いました」

———インタビュー時点ではまだ稽古前という状態ではありますが、本作の見どころや注目ポイントを挙げていただけますか。

印南「やっぱり違うバックボーンを持っている人たちが集まっているというところは、見どころとしてあっていいのかなと思っていて、チラシを置かせてもらった時に『文学座』『劇団民藝』とクレジットが載っているだけで、ものすごく持っていってくれたんですよ。先輩方だとどこかのプロデュース公演でご一緒されていたりするんですけど、私たちの世代はまだまだ他の劇団さんとガッツリやる機会が少ないので、そういうところを観てもらえればと感じています。
 それと今回、母(樋川人美)と初めて共演します。父(演出家・印南貞人)とは1度だけ一緒にやったことがありまして、その時は職種が違ったこともあり、なんとなく親子の関係であってもリスペクトが立ち上がりやすかったので、不具合はないんですけど、役者同士となると並列になる感じがあるので。現在母と同居しているんですけど、家に帰ったら親子喧嘩が勃発するんじゃないかという気は若干しています(笑)」

———樋川さんは共演が決まった時、何かおっしゃっていましたか?

印南「西本さんと出会って5〜6年ほど経ちまして、『いいから観においでよ、すごく面白いから』と母を連れて、西本さんが演出する作品を観るようになったんですけど、PLAYINが始動することになって、母に『ついにやることになったよ』と言ったら、『え、ママも出してくれんでしょ?』って(笑)。で、実際に母の出演が決まったら『西本ちゃんの演出は絶対1回受けてみたかった!』とノリノリでした」

西本「私の注目ポイントは、今回私が声をかけた文学座メンバーのうちの1人の河野顕斗くん。文学座ではまだ新人ですけど、とにかく体のサイズと空気が”デカい”! 雑遊という小さい空間で、河野くんを溢れさせるというのが、今回の裏テーマです。あの存在感はナンセンスを実現するための稀有な存在になるんじゃないかと期待しています。新人ということもあって河野くんを皆様にお披露目したいので、ぜひチェックしてください」

山崎「冒頭から河野さんがその大きさを遺憾なく発揮する導入となっているので、楽しみにしていてください(笑)。僕の注目ポイントは、文学座と劇団民藝という演技の基礎がしっかりされている方々がカオスに飛び込んでいくというか、観る側からしたら期待外れかもしれませんが、期待外れを繰り返して、ある世界を1つ構築できないかという試みなので、そんな未知の世界を劇場に観に来ていただけたらなと思っています」

———今回が旗揚げ公演で、これから第2回公演、第3回公演と続くわけですけど、今後PLAYINでこんなことをやってみたいというビジョンなどございますか。

印南「西本さんにはやりたいことがあるんですよね」

西本「PLAYINでやりたい翻訳劇が何本かあります。ジョエル・ポムラというフランスの劇作家がいるんですけど、こうしたフットワークの軽い座組なら彼の作品の魅力を発揮できるんじゃないかなと思っています。他にもいろいろ候補があってどれがいいかなと勝手に考えています」

印南「まだ1本目が終わってないのに!!」

(一同笑)

山崎「僕はカッチリ作るのも好きですし、そうじゃないのにもすごく意味を感じていたりするので、いろんなものがあっていいと思っていて。不条理演劇の第一人者で僕も影響を受けた劇作家の別役実さんも『ナンセンスが最も高尚な笑いだ』と言っていたり、同じく宮沢章夫さんも『これでは風刺になってしまう』と言って、風刺であることがダメなことかのように、どうにかしてナンセンスの方に筆を進めようとされていたんですよね。そういうものを作っていた人への憧れもあるので、自分にもそういう1つの指針として、やりたいことがPLAYINで出来たらと思いますし、各々のスキルアップのためにも大事な場所になれたらと思っています」

西本「”ちょっと違ったものが見れる場所”ですね。まるでキャッチコピーみたい」

(一同笑)

山崎「多分明日にはすっかり忘れていると思います(笑)」

———ちなみに皆さん違う劇団に所属ですけど、ご自身の劇団では当たり前だと思っていたけど、実は全然違うみたいなことはありますか?

西本「文学座は結構風通しが良い方なんですよ。他の劇団はどうだろう……」

印南「民藝は、多分1番クラシックな劇団だと思うんですよ。歴史的なありがたみはすごく感じるんですけど、新しいことをやっていく時の腰の上がり方が、ちょっと時間が掛かってしまいがちで。それに比べるとPLAYINの方は『これやりましょうか』『あれどうですか』というのがポンポン進んでいく感じです。ま、言い出しっぺとして私がどんどん進めていかなきゃいけない感じですけど(笑)」

山崎「劇壇ガルバは、山崎一が主宰の劇団ということもあって、俳優も全部含めて話し合って決めていく劇団なんです。だから作品を作る過程も全部共有するので、『こういうことをやりたい』と考えたら、みんなが”面白いね”と思えるように説明をする必要があるんです。自分の中でも論理だって説得できる材料がないと出来ないんですけど、PLAYINではお2人ともまだ勝算が立っていない提案に乗ってくださるので、今までやったことない世界に感じます」

西本「”見えない方向に踏み出す”。これもキャッチコピーとしていかがでしょうか」

(一同笑)

———インタビュー中に”ちょっと違ったものが見れる場所”と”見えない方向に踏み出す”というPLAYINのキャッチフレーズが2つ誕生しました(笑)。では最後にPRも兼ねてこのインタビューをご覧になられている方に向けてメッセージをお願いします。

山崎「いろいろ新しいことに挑戦します。それぞれファンの方がついてくださっていると思うんですけど、きっとどこでも観られないような形になっていると思うので、ぜひ観ていただけたらなと思います」

西本「生活していく上で、いろいろな理屈や理由を探して、自分自身を納得させるということが自分自身もあるし、生きているうちはそういうことに囚われてしまうと思うんですけど、この作品を観て、そもそも理由というのはむしろ後付けで、よくわからない衝動の方がむしろそれぞれに先にあって、そこに後から言葉で理由をつけてるのかもしれない。根本的な衝動というのが、そもそもこの世界を動かしてるのかもしれないということを感じるような作品になるんじゃないかなと予想しています」

印南「今回同じ劇団から先輩の飯野遠(※be playful people INの部分は飯野さんが付けてくれました)が出演して、十数年お互い劇団にいますが、共演は今回が2度目で、しかも1度目は同じシーンに出ていないんですよ。だからセリフを交わしたことがなかったので、今回楽しみですし、西本さんとの”やろうよ”が、ようやく叶います。違うホームグラウンドを持っているメンバーが集まって、どういう化学反応が起こるのか注目してほしいです。公演が8月と暑い盛りなので、皆さん体調には気をつけて、劇場に涼みにぜひいらしていただければと思います」

(取材・文&撮影:冨岡弘行)

プロフィール

印南 唯(いんなみ・ゆい)
1988年8月17日生まれ、新潟県出身。2009年劇団民藝入団、 2011年『喜劇 ファッションショー』にて舞台デビュー。2013年劇団民藝劇団員に昇格。主な出演作に、『蝋燭の灯、太陽の光』、『大正の肖像画』、『ある八重子物語』、『忘れてもろうてよかとです』、『聴衆0の講演会』、『風紋』など

西本由香(にしもと・ゆか)
1982年10月11日生まれ、東京都出身。2006年文学座附属演劇研究所入所(46期)。2012年座員に昇格。2018年12月『ジョー・エッグ』で文学座アトリエ初演出。2024年『アンドーラ 十二場からなる戯曲』の上演成果に対して、第17回「小田島雄志・翻訳戯曲賞」を受賞。主な演出作品に、『ミネムラさん』、『肝っ玉おっ母とその子供たち』、『ゴドーを待ちながら』『ゴドーを待ちながらを待ちながら』など

山崎元晴(やまざき・もとはる)
1996年生まれ、東京都出身。劇作家。日本大学藝術学部演劇学科劇作コース卒。2017年、劇団「人生旅行」を旗揚げ主宰。劇壇ガルバには、2018年の旗揚げ公演より演出部として参加。主な脚本作品に、『何もなかった』。『ミネムラさん』『リセット』、『いつものオーロラが割った夜』、『錆色の木馬』など

公演情報

PLAYIN-be playful people IN- 『十五番街のマリー』

日:2026年8月26日(水)~9月1日(火)
場:雑遊
料:一般4,900円
  U-25[25歳以下]・学生3,500円
  (全席自由・税込)
HP:https://www.instagram.com/playin_beplayfulpeoplein_/
問:PLAYIN-be playful people IN-
  mail:sh.innami.ys@gmail.com

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