「親の面倒は誰がみる?」四兄弟の情けない確執を描く 名作『父よ!』 11年ぶりの上演に個性豊かなキャストが集結! 

 劇団「ONEOR8」の田村孝裕が手掛けた名作『父よ!』が7月に上演される。
 2013年の初演、2015年の再演以来、約11年ぶりの上演となる本作は、母が他界してから趣味も道楽もなくひとりで暮らす父を、誰が面倒みるか相談するため、四兄弟が実家に集まる物語。誰も面倒を見ようとせず結論が出ない中、ひとり暮らしの老人の世話をして回っている民生委員が実家に訪れ、父の意外な日常を知ることに。見栄と保身を抱える不器用な四兄弟のとある1日が描かれる。
 作・演出の田村孝裕、長男・下村元司役の升毅、民生委員・石野文役の瀬戸カトリーヌに、公演に向けての意気込みや見どころ、さらには本作のキーワード「見栄と保身」にまつわるエピソードなどを伺った。


———まず、田村さんに11年ぶりの上演が決まった時の心境を伺いたいと思います。

田村「この作品はいつかやりたいなとずっと思っていたので、プロデューサーさんからお話いただいた時は、嬉しかったですね。」

———この11年という期間は田村さんにとって長く感じましたか。

田村「時間がかかったということはあまり感じませんでしたね。ただ、この作品を書いた当時よりも、こういう社会になっていくのではというのは思っていましたし、普遍的な部分があるんだろうなと当時から感じてはいまして、例えば、今回のような機会がなかったとしても、うちの劇団員が60歳前後ぐらいになった時にやってみるとか、どんな形でもいいからもう1回この作品はやりたいというのは、何となく頭の片隅にずっとありました。しかも僕の中ではとてもワクワクするキャストの皆さんでしたので、シンプルにとてもいい形でやる機会をいただけたなと思っています」

———本当に今回のキャスト陣は錚々たる方たちが揃いましたね。わくわくするキャストと仰るのも頷けます。

田村「プロデューサーさんにも申し上げたんですけど、『小劇場オールスターズにしたい』と言ったことが、その枠を超えてきたというのが僕の中ではありますね」

———升さんと瀬戸さんに出演が決まった時の心境をお聞きしたいと思います。

升「2014年に『コルトガバメンツ』という作品で田村さんと一緒にやらせていただいて、また一緒に出来たらいいなという思いがそのまま12年続いてきて、ようやく届いたという心境です。『コルトガバメンツ』以降も田村さんの活躍は知っていましたし、年々ご一緒したい気持ちはどんどん強くなっていたので、お話いただいた時は、本当に嬉しかったです」

瀬戸「私にとって田村さんとご一緒出来るのは念願でした。実は20代の頃から劇団の舞台は観ていまして、会うたびに田村さんに『いつかご一緒したいです!』と言っていました。ただ、3年前の観劇を境に、アプローチやご挨拶を行くのをやめたら、面白いですね、執着が取れたのか?オファーを頂きました(笑)升さんより待った期間長いですよ(笑)その思いが50歳になった今叶ったことは非常に嬉しいですし、升さんとの舞台共演が20年ぶりぐらいになるので、きっと今まで積み上げてきた日頃の小さな行いが良くて50歳になり叶ったのかなと」

———お2人とも念願の田村さん作品出演になるんですね。

瀬戸「後々聞くと、私たちだけでなく近江谷太朗さん(次男・下村輝男役)も念願の出演だったそうです。そういえば田村さんに『50歳ぐらいまでにご一緒したいです』と言っていたと思っていて、もしかしたら田村さんが記憶の片隅に覚えていらっしゃったのか、たまたま偶然なのか……」

———ではご本人にお聞きしましょう。

田村「覚えてないです……」

(一同笑)

田村「でも、瀬戸さんがずっと言っていただいたことは常に頭の中にあったので、こういう機会でご一緒できてよかったなと思いますし、キャストの皆さんは、昔から本当にお付き合いがある方たちだったので、また一段とワクワクする感じですね」

———升さんと瀬戸さんは台本を読まれて、どのような感想を持たれましたか。

升「私自身、次男ということもあり、長男感というのが自分の中ではなくて、今まで自分が長男らしいことをしてきたことがないという思いが強かったんです。そんな私に長男が務まるのかということもあったんですけど、弟役の3人(近江谷太朗、おかやまはじめ、植本純米)を見ていると、なんとなく大丈夫だな。このメンバーなら私がめちゃめちゃ長男だなって」

(一同笑)

升「今まで長男だったことない人間が長男を演じることに新鮮味があると思いますし、はじめちゃんとは初共演になりますが、他の方とは共演経験がありますので、すごくいい作品になるであろうと思います。インタビュー時点では、稽古が始まるまで1ヶ月以上あるんですけど、既にキャスト全員で何度か集まって、親睦を深めています」

瀬戸「私自身50歳で、親も80代ですし、過去に介護的なことも経験があるので、本当に、ドンピシャな役だと思いました。田村さんの台本を読んで、思わずクスッと笑ってしまうところが多くて、日常のリアルを面白く掬い上げる田村さんの本は、やっぱり何回読んでも面白いなとは思っています。
 私が演じる石野は、夫を亡くして民生委員をやっていて、四兄弟も知らない父の部分を唯一共有しているという設定ですけど、四兄弟のお父さんもお母様を亡くされてお互いに失っている痛みみたいなものを持っていて、非常にやりがいがある役で楽しみだなと思うのと同時に、四兄弟それぞれに関わる4人の女性も演じるので、これは大変だなと(苦笑)」

———石野以外に4人の女性を演じるということは、1人5役ということですよね。

瀬戸「七変化的なものが必要ですけど、とりあえず今は石野の役作りを固めているので、本番まで間に合うかなという不安は若干あるんですけど、あとは皆さんの力でなんとか掬い上げていただこうかなと思っています。それと劇中でマジックを披露するんですけど、私自身マジックが下手なんですよね。
 以前『ウィズ~オズの魔法使い~』で魔女の役をやらせてもらった時、スティックを何かに変えるマジックで、本番中に4回ぐらいできなかったことがあって。(共演の)吉田メタルさんが付きっきりで教えてくださって、練習では出来るんですけどね……。今回力のある俳優さんがいるので、万が一失敗したとしても、いろいろ拾っていただけるだろうと思っています」

———瀬戸さんが5役を演じますが、回想シーンにて男性キャストが父親の役を交代で演じるとのことですけど、田村さんは4人にどのような父親を演じて欲しいというプランはございますか。

田村「いやもう、勝手にやってくださると思っています」

(一同笑)

田村「4人に一人の父親を演じる上で、似た人物像にするという方法論もありますし、それぞれのお父さんが見ている父親像みたいなことでも成立するような気もしていまして。皆さん頼りがいしかないメンバーなので、僕の方から用意するというよりは、皆さんの稽古を見ながら判断していく予定です」

———4人がどのような父を演じるか楽しみですね。ちなみに升さんと瀬戸さんは演じるキャラクターと似ている部分があったら教えてください。

升「実は、私と元司は本当に似てない気がしてるんですけどね。私の場合は両親共に亡くなりましたし、介護というのも実質的にはほぼしていなくて、年齢的にもイメージが実年齢より上なので、自分の中では、ちょっとモヤモヤはしてるんですけど。おそらく性格的に穏やかであろうあたりは近いのかな。もうちょっと年齢が若かったら、『僕、次男じゃないの?』と思ったりしたところはありますね」

瀬戸「写真を撮った時、締まりましたよね。升さんが”長男”って感じがします」

———メインビジュアルの写真を見ると、升さんが次男、三男、四男という風には全く見えません。

升「そこはもう長男のフリをしましたから」

(一同笑)

瀬戸「四兄弟それぞれに関わる4人に関してはまだわからないですけど、石野に関しては前を向いて進んでいく強さというかエネルギーみたいなものは私と近いんじゃないかなと思っています。もし私が30~40代の時のオファーだったら、出来なかったかもしれないですし、今だからこそやりがいのある役だなと感じています。痛みや強さ、それに優しさを持っていて、ちょっと掴み所のないところを持っているのが、石野だなと思います。それに演者で言うと女性1人だけなので、ラグジュアリーでチャーミングな部分を出せたらいいなとは思っています」

———本作の見どころや注目ポイントを挙げていただけますか。

田村「この作品は”男の話”だと思っていて、しかもある年齢を越えた、ちょっと後戻りしにくい年齢にたどり着いてしまった男の人たちが、ちょっと抱えている問題が出てきて、右往左往するお話になるんですけど、僕自身、四兄弟のダメな部分が大好きなんです。そのダメな部分が人間らしさだと思っていて、今はもう少し綺麗なものを世の中が求めているような気もするんですけど、ちょっと人間らしいダメな部分がチャーミングに映って、彼らの短所みたいなものが個性として、楽しく捉えられたらいいなという気持ちです。
 そこを女性である瀬戸さんに引き出していただきながら最終的にはまとめていただくんですけど、そういった部分が見どころでしょうか。それに僕自身のダメな部分が四兄弟に投影されているところもあるので、四兄弟を愛していただけたら人間というのが豊かなものとして表現できるんじゃないかなと思っています」

升「本当にこの4人が兄弟に見えて、父親がちゃんと見える関係さえ築ければいいのかなと思っていて、観るお客さんがそれぞれ自分を投影してみたり、女性のお客さんも『私はあの兄弟のタイプだわ』みたいなことがちゃんと投影されていることが大事なのかなと思うので、嘘偽りのないダメな兄弟が表現できればいいかなと。
 そこに紅一点の石野が入ってくれることで、かき回されていく図式がきちんと描かれれば良いのではないでしょうか。そういう意味では、経験を積み重ねてきた人間ばかりですから、それぞれのダメなところもいっぱい出てくるんで、そういう部分が集約されると面白いかと思いますし、そこが見どころにもなるのかなと思います」

瀬戸「みんなのダメな部分を引き出して、多分自分のダメなところもいっぱい出ているとは思いますが、母親のような愛おしさを観ていただけたらと思います」

———本作のキーワードが「見栄と保身」ということにちなんで、最近こんなことでちょっと見栄を張ってしまったエピソードがあったら教えてください。

田村「最近というよりも、しょっちゅう見栄を張っていますね。とにかく僕、学がないんですよ」

瀬戸「本を書いているから、学がないようには見えないけど」

田村「思い起こせば、見栄で脚本を始めてしまったんですよね。学生のノリを続けたくて、劇団を自分で作っちまえと思ってたら、人が集まってきちゃったというのが今の劇団ですけど、劇団を始めるにあたって、最初に『誰が脚本を書くの?』みたいな話になった時に、何故か手を挙げちゃったんですよね。俺が言い出しっぺだし、やったこともないのに『やるよ!』みたいな感じで。で、ここまで来てしまいました」

瀬戸「すごーい!」

田村「作劇や演出の勉強も全くしないまま、見栄で始めちゃいました。師匠や先生といった方もいないし、他の稽古場を見た経験もあまりなかったですし、風呂敷を広げちゃった分、その後で取り返そうと勉強したみたいなことなんだと思うんですけど、見栄をきっかけにここまで来ちゃったので奇跡みたいな感じですね。未だに風呂敷を広げちゃうところはあって、例えば仕事のオファーいただいて、『こういう芝居を考えています』と多分カッコつけて言っているんだけど、実は中身なんかペラッペラみたいな」

(一同笑)

田村「自分を大きく見せて、見栄を張ってみたいなのは、未だにダメですね」

升「私も、田村さんと似たようなところがありますね。大学生の時には既に役者の道に入っていたんですけど、3~4年生の時に普通に就活を始めた同級生たちに『升はいいよな。就活しなくていいから』と言われて。本当は『すごい不安なんだけど』と思いながらも、『そう、俺はね、就活をやらなくて済むんだよね、ごめんね! ごめんね!』みたいなことを平気で言っていました(笑)。
 自分が劇団を立ち上げる時も似たようなことを言っていたし、無理やり自分を納得させるために、風呂敷を広げることはあって、例えばある質問に対して、『この質問は本当に薄っぺらい答えしか持っていないぞ』となった時は、ちょっと雰囲気を出しておいて、質問した相手に考えさせるやり方をしたりと、見栄の張り方を覚えていくうちにスキルアップしているのを実感しています」

田村「見栄を張ることに関しては、女性より男性の方が強いと感じています。この作品、シチュエーションだけ考えて書き進めていくうちに、”見栄と保身”がこの作品のキーワードとして勝手になっちゃったんですよ」

升「なるほど」

田村「僕の実感としては、男性の方が大人になればなるほど、社会的地位が上がれば上がるほど、見栄と保身は強くなっていくんじゃないかなと思って書いたのは覚えています」

升「求められることがだんだん増えてくると、そうなってくるんですね。仕事も増えてくるし。それなら求められる人にならなきゃよかったと思っていますから」

(一同笑)

瀬戸「私の最大の見栄は、オシャレな芸名じゃないですか。どこの現場に行っても『英語とフランス語を喋れるんでしょ』と言われるんですけど、この間のドラマ撮影の時も『あんたフランス語は喋れるのかい?』と言われ私が話せるのは江戸弁と関西弁の2言語ですと流暢にお答えしました(笑)
 3ヶ月カナダ留学した事もありますが、英語を覚える根性と目的が自分の中でなかったんでしょうね。『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターで様々な国に行き現地のコーディネーターさんに頼る、レポーターに徹する、1回芸名を和名(瀬戸たかの)に変えてみたりと、そういう情けないところもあったりとかもして。でもそんな自分が、今はちょっと好きです(笑)」

———ありがとうございます。では最後に公演を楽しみにされている方々に向けてのメッセージを瀬戸さんからお願いします。

瀬戸「四兄弟のダメなところを引き出して、人を愛おしく思う気持ちみたいなものは持って演じたいと思いますし、介護や子育てで大変な方や人間関係に疲れている方が作品を観ていただいて、ちょっとでも笑顔に楽になっていただければ幸いです。」

升「チラシが出来て、いろいろ方に見てもらっているんですけど、『なんでこんなメンバーが揃ったんですか。これはもう観ない手はないよね』と言ってくれて、すごいメンバーが集まっているという自信と同時に、そんなに思われてちょっとハードル上がってるプレッシャーも感じています。なかなか劇場に足を運べない方たちも多いとは思うんですけども、無理をしてでも頑張って来てくださった方が『本当に観に来てよかった』と言っていただけるような作品になればいいなと思っています。そういう意味でも、演劇ファンの方が、あまり観劇経験のない方や一度も観劇経験のない方を騙くらかしてでも連れて来て、『よかった騙されて』と思っていただけるような作品作りをしたいです。そして稽古開始まであと2回ぐらいはみんなで集まろう!!」

田村「僕が客観的に見ても、この公演を観たいなと思えるメンバーです。いつも”自分の作・演出の色を消すことを理想”として持っているんですけど。今回はそれが叶えられそうなメンバーじゃないかという手応えがあります。最近のエンターテインメントは、観る側と観客の距離が遠くなっている気がしているんですけど、今回はその距離が、すごく近いものになるんじゃないかなと思うし、もしかしたら時代と逆行しているかもしれませんが、切実さや苦々しさとか綺麗なものばかりじゃないんだというところで言うと、身につまされる何かみたいなことをプラスして、可笑しみとして表現がなされるんじゃないかなという期待をしています。
 華やかな世界の演劇ばかりじゃなくて、こういう芝居を観ていただきたいと思ってずっと作っているので、距離感の遠いお芝居や華やかなお芝居しか観たことない方たちに刺さればいいなと思いながら作品を作りたいと思います」

(取材・文&撮影:冨岡弘行)

プロフィール

田村孝裕(たむら・たかひろ)
1976年4月8日生まれ、東京都出身。脚本家・演出家。舞台芸術学院演劇部本科を卒業後、同期9人で劇団「ONEOR8」を旗揚げ。劇団全作品の作・演出を務めるかたわら、『世襲戦隊カゾクマン』『サザエさん』『また本日も休診〜山医者のうた〜』などの外部公演を数多く手掛ける。

升 毅(ます・たけし)
1955年12月9日生まれ、東京都出身。『ショムニ』シリーズ、『仮面ライダーアギト』、NHK 連続テレビ小説『あさが来た』、映画『八重子のハミング』など代表作多数。今年4月放送開始のドラマ『スモークブルーの雨のち晴れ』(読売テレビ)にてレギュラ―出演中。

瀬戸カトリーヌ(せと・かとりーぬ)
1976年1月5日生まれ、フランス パリ出身。主な出演作に、『オケピ!』『ウィズ~オズの魔法使い~』『吉良ですが、なにか?』『レオポルトシュタット』など。またテレビのバラエティ番組に多数出演し、『世界ふしぎ発見!』ではミステリーハンターを17年務めた。

公演情報

プリエールプロデュース『父よ!』

日:2026年7月3日(金)~12日(日)
場:吉祥寺シアター
料:一般7,000円 22歳以下5,000円
  ※要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://priere.jp
問:プリエール
  tel.03-5942-9025(平日11:00~18:00)

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