代表作を10年ぶりに男女逆転2パターンで再演! 複数の人と恋愛関係を築くポリアモリーをテーマに人と人の関係の形を見つめ直す物語

 第61回岸田國士戯曲賞の最終候補作として注目を集めた本作が10年の時を経て、新キャストを迎え再演する。ポリアモリーという関係性を手がかりに、人と人が対話を重ねながら複雑な関係を築いていく様を爽やかに描いていく。変化の大きい現代の中で、人と人の関係のかたちを見つめ直す作品とは? 
 劇団「趣向」主宰・オノマリコと、主演の豊田エリーに話を聞いた。

丁寧に関係性を積み上げ、相手との対話を諦めない作品に

―――稽古(取材は5月中旬)の手応えをお聞かせください。

豊田「日々出来上がってきています。今回はダブルキャストでAチームとBチームがありますが、私は共通で出演させてもらっていて、同じ役の同じセリフでも、役者さんによってこうも違う緊張が走ったり、逆に空気が緩んだり、違うところで笑いが生まれたりするのかと。A・Bで漂う空気感が全く違う作品になっていると思います」

―――この作品は2016年初演とのことですが、ポリアモリーをテーマに作品を書くきっかけなどお聞かせください。

オノマ「東京アートポイント計画の事業の1つに、翻訳家として活動されている長島確さんが中心となる『長島確のつくりかた研究所』という企画がありまして、そこで若手研究員同士として今回監修で入ってくださっている深海菊絵さんと知り合いました。
 深海さんがポリアモリーの研究をされていて、それまでは一夫一婦制の恋愛が普通のもの、それしかないと思っていたのですが、ポリアモリーという概念を知り、人によっては抵抗があるかもしれないと思いますが、私は固定観念が崩れることに喜びを見出すタイプなので、ポリアモリーについてもっと知りたいと思い、深海さんに教わったり、知っていくこと、知ってもらうためにどう表現ができるか、例えば『人生ゲーム』をつくるなど活動しまして。そこで、演劇にすると文章だけでは表せない情感が伝わるんじゃないかと考えて演劇を作ることにしました。例えば文章でAとBがキスをして、でもBとCもキスをする、みたいなことは、文章で書いてあるより、それがその現場で起こってる方が、受けるものは大きいと思うので。それが10年前です。当時はポリアモリーという概念を知ってもらいたいという想いも大きかったと思います」

―――そして取り巻く環境がここ数年で大きく変わり、今こそこのポリアモリーの概念が時代に追いついているように思います。今回はどのように変化しそうですか?

オノマ「初演を、演出家の稲葉賀恵さんが観てくれて面白いと言ってくれました。今回はその稲賀さんが演出を担います。今回はポリアモリーを知ってもらう演劇というよりは、丁寧に関係性を積み上げていくこと、相手との対話を諦めない、人と人が付き合って別れてそれっきりだと寂しすぎるから、一度関わった関係性を諦めない、関係性に対する貪欲さみたいなことを、この戯曲から描いていければと思っていますし、そのあたりがクローズアップされていると思います」

―――そこに今回の男女逆転A・Bパートを上演する意味に繋がるのですね。


オノマ「そうですね。すごく関わっています。あとこの性別設定だとこう見えるみたいなことがすごくあるので、お客さまには両方観てほしいですね」

仕事を始めた10代の頃にすごくやりたかった役

―――豊田さんは近作『回復する人間』も含め、とても難しい作品にトライするイメージがありますが、今作の魅力をお聞かせください。

豊田「たしかに、すごくトライすることが好きですね(笑)。ハン・ガン原作の『回復する人間』もオノマさんが脚本を手掛けられていて、あの小説を演劇的に組み立て直すところがすごく面白くて、2作品つづけてご一緒させてもらっているので、ご縁があるなと思っています。
ポリアモリーという言葉は今回初めて聞いたのですが、その言葉があってコミュニティもあることを深海さんの本などで知って、さっきおっしゃっていた人間関係を諦めない、手放さないというのもそうですし、私は誰かに所有されないっていう考え方にハッとさせられて。
 この作品にも、こういう関係性を築くことによって、どこかで救われた人たちが出てくるんです。
登場人物の背景を全部説明されるわけではないけど、今こういう生き方をしているということは、きっといろんな葛藤もありながら、ここだけは平和に生きようと空間を作り上げた人たちなんだなって、平和と愛の願いみたいなものをすごく感じています。
 ポリアモリーの成り立ちがヒッピーのムーブメントから来ているものと伺ったんですけど、それもLove & Peaceの概念ですよね。
稽古をしていても、この作品は演じる中でいろんなハードルを飛び越えるエネルギーが必要な作品だなって思っています。あともう1つすごく魅力に感じているのが、今回性別を入れ替えた形で上演しますが、男女3人での恋愛がまず描かれるので、いろんなセクシュアリティの登場人物が出てきます。
そういった作品の場合、そこがテーマになりがちで、その話がクローズアップされることが多いと思いますが、この作品は様々なセクシュアリティの人がいるのは当然で、そんなことで誰も騒がない。特殊と言われがちなことを日常の中に溶かして描いていて、人と人の関係に絞っていることが素敵ですし、だからこそ今回のような性別を入れ替えたキャスティングが成り立つんだろうなって。
 ポリアモリーに否定的な感情を抱く方もいるとは思いますが、それぞれの価値観でその人たちが納得しているなら何も問題がないっていう、そういった他人との距離感はこの時代特に大事なんじゃないかなっていうことも考えました。この作品ではそういった恋愛模様が目の前で繰り広げられます。私も演劇を観に行くとき、外では見せないようなお話とか場面を覗き見してしまったような感覚が好きなので、それは味わってもらえるんじゃないかと思います」


―――豊田さんが演じるエンジェル役はいかがですか?


オノマ「本当に素敵です。エリーさんはすごく大人っぽいと前々から思っていたのですが、今回のエンジェルは無邪気な部分や感情に正直なところがありまして、そこをエリーさんが無邪気だし感情に正直で、正面からぶつかっていくところを表現されています。ふわっと見えるのにとってもタフなんです! 突き進んでいけるところがすごいなって思いますし、ダブルキャストの中でエリーさんはシングルキャストなので、稽古量が単純にみなさんの倍以上あるのに体力的にもすごくて驚きます」

豊田「これはもうありがたいんですよ、むしろみなさんの方が半分の時間だけで稽古しているので大変だと思います。達者な方ばかりですごい」

―――ではエンジェル役について、どういう演じようと思っていますか?


豊田「脚本を最初読んだ時に泣いちゃったんです! エンジェルのセリフがとても好きで(笑)。仕事を始めた10代の頃にすごくやりたかった役にイメージが近くて。それが今、20年近く経ってまわってきた。まだこういう役をやらせてもらえるんだと、そこにまず感動しました」

―――確かに10代の揺らぎの時代、様々な恋愛感情に突き動かされることがありますよね。

豊田「そうそう! 親友とかね。あとその揺らぎの時代特有の死生観というか、死を内在しながら生きているような感覚がエンジェルにもあるんです。お芝居の面でいうと、今回ガッツリ会話劇なのですが、日常が一番難しいと改めて感じています。長年の友人を家に招き入れるところから始まるんですけど、その何気ないところが本当に難しい。
でも稲葉さんがセリフを言う意図や、日常だけど何気なくやるんじゃなくて、どうここからここに持っていくか、始まりからそこの感情が動く起点に持っていくかをすごく大事に組み立ててもらっているところです。
 お客さまに人物像を説明するわけじゃないので、この会話を観てもらって、ちょっとずつ人間関係を驚きとともに観てもらう、この最初のシーンはすごく大事だねっていう話をしています。この作品に出てくる人たちはみんなポエティックな言葉も素直に口にするので、それがオノマさんの素敵な世界観であり、めちゃくちゃ難しいところ。でもそこが初見で読んでいて胸に刺さった部分でもあるので、言葉を大事にやりたいと思っています」

エンジェルという人物像はブレずに、硬さと柔らかさを鍛えていけたら

―――稽古で気になることは?

オノマ「稲葉さんは、対外的に見せてる面と、恋人同士3人だけになってプライベートなところで見せる面は違うっていうところを、すごく意識していると思います」

豊田「その言葉はどこに向かっているのか、をすごく大事に稽古しています。
稲葉さんから、外からどう見えるのか、内実は合ってるけど今こう見えてるのでもったいないとか、そういうつもりでやっていたけど、そう見えてないんだったら意味がないということを的確に伝えてくださりとても助かるんです。ものすごく信頼できる演出家さんです」


―――改めて挑戦だなと思うところは?

オノマ「趣向では、2023年に劇団化してから初めてのKAATなので、まずそこが挑戦です。そして10年ぶりにこの作品を世の中に発表できることはとても幸せです。さらに男性と女性が同じ役・同じ役割をできるということも、最近シェイクスピアの主役を女性が演じる動きもありますけれど、挑戦ですし新たな発見が観られると思います。
 そして今回は、ゆったり鑑賞会・日本語字幕ガイド・音声ガイドなど、色々な鑑賞サポートも行っていますので、ぜひご利用いただければと思います」

豊田「役柄自体もチャレンジングですが、今回このAチームとBチーム、それぞれの役者さんとの瞬間を大事にしたいです。このエンジェルっていう人物像はブレずに、硬さと柔らかさを同時にこれから鍛えていけたら」

(取材・文&撮影:谷中理音)

プロフィール

オノマ リコ
12月22日生まれ、神奈川県出身。劇作家・演劇ユニット「趣向」代表。東京女子大学文理学部哲学科卒。演劇とは無縁の学生生活を過ごしたのち、詩の出版社に入社。その後、戯曲を書き始める。瑞々しく色彩豊かなセリフ、言葉で時空間を飛び越えようとする作風を特徴とする。代表作に『解体されゆくアントニン・レーモンド建築 旧体育館の話』、『パンとバラで退屈を飾って、わたしが明日も生きることを耐える。』、『回復する人間』など。高校生との作品創作や、エスノグラフィーの演劇化、メンタル不調の人たちとの演劇作りなど「劇作家が世界でできること」を考えつつ活動している。

豊田エリー(とよた・えりー)
1月14日生まれ、東京都出身。モデルとしてデビュー後、ドラマ・CM・映画・舞台など、幅広く活躍中。マームとジプシー、イキウメ、劇団た組などの人気劇団や、シス・カンパニー主催作品、昨年は1年間『ハリー・ポッターと呪いの子』3年目の新キャストとして、ハーマイオニー・グレンジャー役を演じた。近作に、conSept2026:シーズンReBORN 『誰かひとり/回復する人間』、舞台『Downstate』、舞『近松心中物語』など。

公演情報

趣向『THE GAME OF POLYAMORY LIFE』

日:2026年5月30日(土)~6月7日(日) 
場:KAAT 神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
料:一般5,200円 U25[25歳以下]3,000円 U18[18歳以下]1,000円 障碍2,000円 ※各種割引は要身分証明書提示/他、前半割引あり。詳細は下記HPにて(全席指定・税込)
HP:https://shukou.org/tgpl2026/ 
問:趣向 制作部 mail:ticket.shukou@gmail.com

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