個の生きづらさと世の無関心を現代に問う 青年座池袋元年。幕開けを飾るのは旗揚げ公演作でもある『第三の証言』

個の生きづらさと世の無関心を現代に問う 青年座池袋元年。幕開けを飾るのは旗揚げ公演作でもある『第三の証言』

 72年の長い歴史の中で、その拠点を渋谷区富ヶ谷から豊島区西池袋へと移した青年座。今年は本格的な再スタートの年となるが、その先陣を切って上演されるのが『第三の証言』。1954年に青年座が産声を上げたときの、旗揚げ公演作だ。
 以来、時代の空気を反映させながら何度も上演されてきたこの作品を、演出・磯村純、看板俳優の横堀悦夫、そして製作・森正敏(劇団青年座代表取締役)というメンバーで、新たに描き出す。その意気込みを3人に伺った。


―――青年座池袋元年の第1作目に、青年座の旗揚げ公演作でもある『第三の証言』が再演されます。やはり意気込みは相当なものがあるのでは?

磯村「『第三の証言』が最初に上演されたのが、青年座が立ち上がった1954年。このとき創立メンバーたちが何を考え作家の椎名麟三氏に執筆をお願いしたのか、自分の中でそれを紐解く作業をおこなったんです。そうするとやはりその根幹は、混沌とした時代の中で新しい歩みを進めていこう、という意気込みだったと思うんですね。それって今、拠点を移して新しい心で新しいものを作っていこうとしている僕たちと、物理的にも熱量的にもシンクロするなと感じて。そこで、この作品を今やる意味がハッキリつかめたんです」

森「ストーリーを簡単に言うと、新三という少年が勤める製菓工場の中で、なぜかねずみが次々と死んでいく。新三は、『自分たちが作っているビスケットと関係があるのでは?』と思って、それを周囲の人たちに伝えるんだけど、皆、『どうでもいい』と関心を持とうとしないんです。新三だけが一生懸命訴えている。これって現代とすごく似ているな、と思う。誰かが何か言っても、無関心。中東で戦争が起こっていても、みな他人事。つまりこの作品て、昔から変わらない日本の縮図だと思うんですよ」

横堀「僕も同じことを思いました」

森「だから僕は、新三と同じ若い世代の中学生に、この公演を観てもらいたいと思っている。たぶん今の子たちも、何か問題意識を持って声をあげても誰も関心を持ってくれない、という現実の中で諦めの気持ちがあると思うんですよ。だからぜひこの作品を見てもらって、彼らの感想を聞きたいなと思ってます。今学校に働きかけているところなんです」

―――横堀さんは、その無関心な存在の筆頭でもある工場の社長・川又春吉を演じられます。どのようなキャラクターか詳しく教えていただけますか?

横堀「社長なんだけど、全然社長らしくなくて、いつも焼酎片手に工員の女の子と遊んでばかりいる。飄々として捉えどころのない人物ですが、実はある秘密を握っている……。これ以上はネタバレになるので言えませんが」

森「秘密を握っているようで握ってないような……。他の登場人物は皆、キャラクターがストレートで分かりやすいんだけど、春吉だけが『本音はどうなんだろう?』という人物。役者としては一番難しい役どころだと思うけど、物語の根幹にかかわる人物でもあるんですよ」

横堀「そんな難しく演じられませんよ!(笑)。ただ僕は、今まで見たことのない、ドキドキするようなものを作りたいだけ。だから過去の作品をそのまま踏襲するつもりは全くなくて。むしろこれまで演じた人たちとは違う春吉を見せたい。とにかく、自分が演じていてドキドキしたい、そう思っているだけです」

―――『第三の証言』は、1954年の旗揚げ公演だけでなく、その後1960年、1974年、2009年と何度も上演されてきました。今作は、鈴木完一郎氏が演出・脚本を手がけた1974年版を基にされているとのことですが、なぜ1974年版なのでしょう?

磯村「原作者である椎名麟三は、戦後派作家として個人の生きづらさに焦点を当てた人でした。中身は違えど、個々が生きづらさを抱えているというのは今も同じだと思って。そこをちゃんとシンクロさせて描けば、現代の人たちの心にもしっかり届くと思った。そういう意味で僕は、再演というより“リブート”だと考えているんですけど」

横堀「また新しい言葉を使っちゃって!(笑)」

磯村「いやいや、だからこそ1974年版を選んだんですよ。というのもこの作品は、最初は四幕構成で上演されたのが、次の1960年版では3幕構成にカットされている。ところがその次の1974年版では、演出の鈴木さんは再び4幕構成の台本を底本に戻しているんです。これはきっと、個をしっかり描くにはやはり4幕という長さが必要だったんじゃないかと思って。今回、1974年版の4幕構成で描くことで、当時描きたかったことがより現代につながるんじゃないかと思った次第なんです」

森「当時はいらないと思った描写も、時が経つと『必要だった』となることもある。芝居って、そういう時間経過の中で見ていくのも面白いよね。今回の2026年版も、きっとまた新たな視点が生まれることでしょう。そこは一重に、春吉にかかっているんだけど……」

横堀「また無茶ぶりして! やめてくださいよ!(笑)」 

―――青年座は旗揚げから70年以上の時を経て再スタートを切りました。今はテレビに映画、ネットや配信サービスなど、物語を届ける場は多様化しています。その中で舞台の魅力とはどこにあるのか、ぜひそこについてもお聞きしたいのですが……。

森「ナマの同時性ですね。同じ作品でも10回やれば10回とも違う。その違いを、自分の目で確かめられるのが演劇。一番、リアルで間違いのない情報ですよね。ある意味、SNSの対極。不確かなものが多すぎる時代の中で、原点みたいな存在だと思っています」

磯村「僕は、世の中の表現に関わる仕事の大部分は、将来AIにとって代わられる可能性があるのではと思っているんですね。だけど舞台役者だけは代えられない。だって生の人間がその場に出てきて演じるものですから。その生身の人間だからこそ生み出せるものを大事にしたいと思うし、だからこそ伝えられるものがあると信じてやっていきたいですね」

森「役者は演じるたびに違うけど、AIはいつも一緒。ミスもまた面白かったりするけど、たとえば精巧なアンドロイドじゃそういう醍醐味もないよね」

横堀「僕はミスしたことないですけどね(笑)。僕自身は演劇の役割どうこうは分かりませんけど、続けていく以上はずっと何かを壊していかないと。と思っています。これが正解、と思わずに、面白いものを探し続けないと。僕はその基準は、自分がドキドキするか、にしかないと思っているんですけど」

森「その通りだね!」

(取材・文:山本奈緒子 撮影:敷地沙織(平賀スクエア))

プロフィール

磯村 純(いそむら・じゅん)
1972年7月11日生まれ。愛知県出身。
桐朋学園短期大学専攻科演劇専攻修了後、1996年に劇団青年座文芸部に入団。演出家 宮田慶子に師事。『こもれびの中で』で演出家デビュー以降、劇団内外で多くの作品を演出。

横堀悦夫(よこぼり・えつお)
1963年9月29日生まれ、群馬県出身。
劇団青年座所属。1984年の入団以来、舞台を中心に活動し、ドラマや映画、吹き替えなど幅広く活躍する。近年の主な出演作に『水の間の子供たち』(サルメカンパニー)、『ゴドーを待ちながら』(アイオーン)、『コラボレーターズ』(青年座)など。

森 正敏(もり・まさとし)
1952年大阪府出身。
青年座研究所で演劇を学び、1983年劇団青年座製作部に。
劇団青年座代表取締役。

公演情報

青年座 第265回公演『第三の証言』

日:2026年5月21日(木)~31日(日)
場:シアターグリーン BOX in BOX THEATER
料:一般6,000円(全席指定・税込)
HP:https://www.seinenza.com
問:劇団青年座 tel.03-5904-9482

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