少しでも楽になったりできるような“ 波動”を出したい 人気脚本家・旺季志ずかが全キャストに当て書きした新作コメディ

 俳優でダンサーの西郷輝美が「エンタメで世界平和」をテーマに2009年立ち上げたArtshandの最新作『聖なる夜に、嘘が始まる』は、ドラマ『特命係長 只野仁』やミュージカル『The Star~悪魔と契約した男』などを手掛けた旺季志ずかのオリジナル作品。新作舞台の主演を務める人気女優・トワは、どこか影を纏いながらもまばゆい存在感を放つ新人俳優の響と稽古場で出会い惹かれてしまう。男性として舞台に立つ響だが実は女性。感情が絡まり合う中、響は人生を変える決断を下すこととなるミュージカルコメディで、トワ役の谷口めぐと響役の西郷輝美がW主演、共演には佐伯大地、中野郁海、弘中麻紀などが務める。

 西郷輝美、佐伯大地、中野郁海の3名に作品の注目ポイントや旺季志ずかとの微笑ましいエピソード、さらには「価値観とは」というテーマにちなんで「自分の中でこれだけは譲れないもの」などを聞いた。


―――まず、Artshand代表でもある西郷さんに本作の企画を立ち上げた経緯を教えていただければと思います。

西郷「2009年にダンサーのみでArtshandを立ち上げたんですけど、その間にお客様を全然呼べずに公演を打ったり、声優養成所に通ったり、コロナ禍など、といろいろと試行錯誤があった時期がありまして、『このままだと仕事が貰えないから、私が自分でキャリアを作らないと』ということで、2022年に初の単独公演を一人舞台という形で上演して、その後にミュージカルに出たいとオーディションを探してたら、旺季志ずか先生のオーディション情報を見つけて、出演することが出来たんです。
 その後Artshand主催で私とダンサーの生徒さんたちで『田園ユニバース』という昭和歌謡音楽劇を上演しまして、その作品でワンシーンだけ男性の格好して踊ったんですけど、公演を観劇してくださった旺季先生が、ふと「私だったらこの人を主役にして舞台を書くわ」と言っていただいたんです。それを私が鵜呑みして、昨年『書いていただけますか?』とオファーして今回の作品が実現したんです」

―――その一言をきっかけに大きく動いたんですね。

西郷「旺季先生とまさかとご一緒できるとは全く思っていなかったので、決まった瞬間は『わーい!!』という気持ちでしたが、旺季先生から『広い会場で上演するなら、キャリアがあって、そういったところに出演している役者さんに立っていただくほうがいいし、キャスティングするなら、ちゃんとプロデューサーに入っていただいたほうがいいよ』とアドバイスをいただいて、それから作曲のasanaさん、振付の大村(俊介)さん、編曲の永井(カイル)さん、プロデューサーの岩田(有弘)さんといった素晴らしい方々といろいろご縁が繋りまして、佐伯さんは岩田さんからの紹介だったんです。一度お会いしたいとDMで直接送らせていただいたんですけど、怪しいと思いませんでしたか?」

佐伯「いやいや、そんなことはないですよ(笑)。今ではDMでのやりとりも珍しくないですから」

―――佐伯さんは出演のお話が来た時、どのような心境でしたか。

佐伯「僕自身、仕事に対しての考え方がガラッと変わった時期で、西郷さんからお話をいただきました。舞台に立てることは決して当たり前ではなくて、お客様はお金を払うだけでなく、予定を合わせて時間を作って来るというというのは結構な労力ですし、感謝してやらなきゃいけないという舞台への思いが高まったタイミングでのお話だったので、凄く嬉しかったです」

西郷「嬉しい!!」

佐伯「今は『舞台メッチャ好き』という気持ちですし、僕“お買い得商品”ですよ」

(一同笑)

―――中野さんは面談オーディションを経ての出演だそうですね。

中野「はい、旺季先生に見せるために、西郷さんと一緒にお芝居をさせてもらったんですけど、『西郷さんともっとお芝居したい!』と思ったんです。それこそ母とよく電話するんですけど、オーディションの帰り道に母と電話をしながら、『今日、舞台のオーディションでお芝居する機会があったんだけど、その人(西郷さん)と芝居をするのがすごく楽しくて、この人と一緒にできたら嬉しいなって思っているんだよね』と話をしていました」

西郷「めちゃくちゃ嬉しい!」

中野「私も西郷さんとご一緒することが出来て嬉しいです!」

―――本作では、西郷さん演じる俳優の響が実は女性という設定で、重いテーマになりがちのですが、ミュージカルコメディにしようという理由はあったりしますか。

西郷「一番最初に旺季先生とお話しして、この作品で何を伝えたいかとなった時に、私の性がどうとかいうことよりも、一番最初に出てきたテーマが『あなたが信じていることは思い込みか真実か』だったんですよね。
 それって自分自身でもあるんですけど、つい先日までAを信じてたのに、Bを見たらBのほうがいいんじゃないかと思うこともあれば、生きていく中でもまたAに戻ったりと、結構ぐるぐるすることがあるなと思っていて。でもそれはそれで人生だし。だからこの舞台を観て、お客様が何か考え方に囚われていることから、少しでも自由になったり楽になったりできるような“波動”を出したいなと思っています」

―――今回登場するキャラクターは、旺季さんが全キャストに当て書きして作られたそうですね。

西郷「旺季先生の当て書きって、どうやったらその方がもっと魅力的に舞台に立ってるかっていうことを考えてくださっていて、旺季先生の当て書きは改めて凄いと思いました。佐伯さんも中野さんも当初のキャラクターからかなり変わりましたし、あらすじ自体はあまり変化のないようにはしてくださいましたが、トワ役の谷口めぐさんがキャスティングされる前と後では、全く話の内容が変わったんですよ」

―――ということは、佐伯さん演じる響の幼なじみで俳優の晃平も、中野さん演じるダンサーのエレナも、旺季さんの当て書きで作られたキャラクターになりますが、ご自身と演じる役でここが似ているという部分はありますか。

中野「私は一切ありません!!」

(一同笑)

中野「エレナは、ぶりっ子でちょっと激しめの元キャバクラ嬢ですけど、私自身そんなことは一切なくて、『私は旺季先生にそう見られてるの!?』って思いました」

西郷「役者さんの多くが陰なところがあるんですけど、旺季先生は、中野さんに関して『あの方は陽だね』と仰っていて、根っからの陽なところを引き出してあげると魅力的だと思って役を書かれたんじゃないかなって」

中野「嬉しいです!  旺季先生に初めてお会いした時、最初はすごい緊張していたんですけど、『あなた“元AKB48”でしょ!  私“元吉本坂46”なのよ!!』と旺季先生に言われちゃって、思わず『えっ、後輩じゃないですか!』とすかさず返してしまって」

(一同笑)

西郷「私もその時は『えっ』と思ったけど、ためらわず言えるのが中野さんだなと思いました」

中野「未だ根に持たれているかもしれないです(笑)。これから稽古を通して、旺季先生が私に向けて書いてくださった役と通じるところを見つけていって、素敵に演じられたらなと思います」

佐伯「晃平は別に突飛なキャラクターではないですし、まだ稽古前の段階なので、やってみないとわからないですけど、これから旺季先生ことを“しずかちゃん”と呼んでおこうかなと思っています」

中野「私も“しずかちゃん”って呼びます!」

佐伯「しずかちゃんは最初にお会いした時に、鋭い目で僕のことを見てきて、観察するような感じで見てくる人って僕自身好きなので、すごい楽しみです。演出する人って、役者のことを見ない人が多いんですよ。音で聞いているというか、演技は声が大事で、リズムとかで大体わかるから、気持ちはわかるんですけど、僕は結構顔とかが気になっちゃうので、しずかちゃんは細部まで見ているなっていうのを感じてよかったなと思います」

西郷「晃平は響と同級生で包容力のある男性が最初の設定で、佐伯さんより10歳ぐらい年上の方をキャスティングしようと思って探していたんですけど、佐伯さんが晃平役に決まって、旺季先生が『チャーミングな感じを前面に出したい』とおっしゃって、結果的に年下の幼馴染ということに変わったんですよ」

佐伯「プロデューサー兼演出家の岩城と2人のシーンが多いんですけど、一癖あるキャラクターで、最初に台本を読んだ時、岩城を演じる役者さんがとの相性が良くなかったら、正直やりづらいなぁと思って。先日、本読みがあったんですけど、岩城役の大村さんが稽古場に来ていなくて。回避できない事情で遅れたみたいで、1時間ぐらい経ってペコペコ謝りながら稽古場に来て、大丈夫かなと思っていたんですけど、演技をしたら今までの不安が一気に吹き飛ぶほど面白い方でした」

西郷「あの時は、佐伯さんがまるで水を得た魚のような芝居をされていました(笑)。お2人の化学反応がすごい良かったですよ」

―――皆さんの話を聞いているだけで、素敵な座組だなと思いました。まだ稽古前の段階ではありますが、ここも観て欲しいという注目ポイントがあったら教えていただけますか。

西郷「W主演の谷口めぐさんは、本格的なミュージカルが初めてだそうで、中野さんもダンスがすごい素敵ですし、お2人の魅力を引き出して、ファンの皆さんが見たことないようなところもお見せできるようにしたいなと思いますし、オーディションを受けてくださった方たちもファンが出来るくらい魅力的なキャラクターに旺季先生が書いてくださったので、お客様が『1回観ただけじゃ物足りない』と思ってくださるところを目指しています」

佐伯「歌に注目して欲しいです。まだ完成したものではありませんが、気取っていなくて普通にいい歌でとても聞きやすいんですよ。ミュージカルだから構えて聞くっていうよりは、とても今風で、あまりミュージカルに詳しくない方でも楽しく聴けるような感じですし、歌が聞きやすいとお芝居も観やすいと思います」

中野「本読みをさせていただいた時に、旺季せんせ……いや、しずかちゃんの言葉のパンチ力がすごくて、読んでいるだけでもモロに喰らいましたし、実際に生でみんなに言葉のパンチ力を喰らって欲しいなというのはすごいあります。これにプラスアルファで歌とダンスがついてきて、ミュージカルになるというのが挑戦だなとも思うし、うまい具合に掛け算出来たらとてもすごいものができると思うので、ぜひ皆さん楽しみに待っていてほしいです」

―――「価値観とは」という今回のテーマにちなんで、『自分の中でこれだけは譲れない』というものがありましたら教えていただけますか。

西郷「自分自身がワクワクするものに対しては、どうしても譲れませんね。ただ今回の作品に対しては、何1つ譲らないで進んでいる感じがしています。スタッフ、キャスティング、衣装に対しても、妥協なく本当にこの人にお願いしたいと思った方々にお願い出来ているいうことが、そもそもすごいなと思っていて、これからもこの気持ちは信じ続けていきたいです」

中野「私は何かに執着しないという価値観をすごく大事にしていて、お芝居はこうあるべきだとか、ミュージカルはこうあるべきだみたいなものにこだわらない。それこそ今回のお話に出てくる“性別とは”“男性像とは”“女性像とは”みたいなものに執着したらどんどん視界は狭まっていくということをこの芸能人生を通して感じてきたので、なるべくフラットな気持ちでいようということは心がけていて、そこは譲れないものかもしれないです。それと、人の話を聞く時はちゃんと目を見るというのも譲れないです」

佐伯「日本人は譲り合いの民族ということもあって、譲れない価値観を持つ人は少ないと思うんです。自分自身は譲ってしまうタイプですし、西郷さんのような自分をちゃんと持たれて突き進んでいく力を持っている方はとても尊敬しています。なので今回は、自分というものは何かというものをきちんと見定めながら、今回の座組では皆さんの心のオアシスになれるように、お芝居だけでなく、コミュニケーションの面でも頑張ろうかなって思います」

―――ありがとうございます。では最後に3人を代表して西郷さんに公演を楽しみにされている方へのメッセージをお願いします。

西郷「劇場にお時間を割いてお金を払って来ていただいて、帰りにはいろいろなものが……とまでは言わないので、何か1つでも『あれ、ちょっと楽になったかも』とか『あれ、もしかして私が思い込んでただけか』とか、少しでも楽になったり自由になるきっかけにしていただけたら嬉しいです」

(取材・文&撮影:冨岡弘行)

プロフィール

西郷輝美(さいごう・えみ)
東京都出身。ダンサー・アーティスト・Artshand(アーツハンド)代表。主な出演作に、『For You』シリーズ、『カスーと七人の○○』『田園ユニバース1・2』『明日の扉』『The Star~悪魔と契約した男』など。

佐伯大地(さえき・だいち)
1990年7月19日生まれ、東京都出身。主な出演作に、ミュージカル『刀剣乱舞』、ドラマ『初恋不倫~この恋を初恋と呼んでいいですか~』、『聖ラブサバイバーズ』、舞台『BLACK10-2025-』など。

中野郁海(なかの・いくみ)
2000年8月20日生まれ、鳥取県出身。主な出演作に、ミュージカル 『ヴィンチェンツォ』、舞台『けものフレンズ』シリーズ、『NIKKE THE STAGE』、『シンデレラと3人の御曹司』など。

公演情報

ムーンライトコメディ『聖なる夜に、嘘が始まる』

日:2026年5月8日(金)・9日(土)
  ※他、兵庫公演あり
場:きゅりあん 小ホール
料:SS席[特典付]13,000円 S席9,500円
  A席8,500円
※他、立ち見席あり。詳細は下記HPにて
(全席指定・税込)
HP:
https://artshand.wixsite.com/moon-light-comedy
問:Artshand
  mail:artshand.4u@gmail.com

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