
2016年に田谷野亮によって旗揚げされ、2025年1月には「たやのりょう一座」から改名した「1ZA(いちざ)」による第15回公演『飛龍伝』が3月31日より紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて上演される。
全共闘を束ねる委員長・神林美智子を演じるのは、藤野涼子。初めてつかこうへい作品に挑む藤野に、本作への意気込みを聞いた。
―――出演が決まったときのお気持ちを教えてください。
「オーディションを経て出演させて頂く事が決まったのですが、今回は合格するのは難しいだろうなと思っていたときにマネージャーから合格の連絡を受け、めちゃくちゃ嬉しかったです。ちょっと小躍りしてしまいました(笑)」
―――難しいだろうと思ったというのは?
「好きになった山崎という男性と、自分が産んだ子ども、学生運動をしている人たちに向けて、神林美智子が思いを吐露するシーンがあるのですが、その3行のセリフを楽曲に合わせて話すというオーディションだったんですよ。美智子がそれまで背負ってきたものを涙で表現してしまうと安っぽく見えてしまうのではないかと思ったので、オーディションでは絶対に泣かずに伝えようと思っていたのですが、そのセリフと音楽とその場の空気に巻き込まれてしまって、2回演じて2回とも泣いてしまって。『泣かないで』という演出もいただいていたのですが、それでもどうしても涙が出てしまったので、一生懸命取り組みましたが、難しいなと落ち込んでいました。なので、出演できると聞いたときはとても嬉しかったです」
―――今回、どんな思いからオーディションを受けようと思ったのですか?
「私は映像作品からこの業界に入り、最初に舞台に出演させていただいたのは、永井愛さんの『私たちはなにも知らない』という作品でした。それから約6年経ちますが、少しずつ舞台に立つことも増えてきて、お客さんの前でお芝居をすることの楽しさや稽古場でスタッフや役者の皆さんと作り上げていく中での対話を楽しめるようになってきたので、新たな場所でもさらなるチャレンジをしたいと思い、オーディションに参加させていただきました」
―――なるほど。では、初めて本作の戯曲を読んだときの率直な感想を聞かせてください。
「つかさん独自のリズムがあって、とにかく物語の展開が早い。脚本を1回読んだだけでは何が起こっているのか分からないところもあって、つかさんワールドが広がっているなと思いました。オーディションを受けさせていただく前に、参考資料として、他の方が出演されていた『飛龍伝』や『蒲田行進曲』などの映像資料も拝見したのですが、皆さんの熱量や言葉の言い回し、そしてつかさんへのリスペクトを感じました。つかさんの作品を守って作り上げているという、伝統に近いものがあるように思います」
―――確かに独特な世界観がありますよね。
「そうですね。舞台装置も美術や小道具もない舞台の上で、音楽と役者自身の体で表現しなければならないので、役者としては恐ろしいなとも思います。それは、頼れる場所が少ないということなので怖さもありますが、だからこそ役者同士が正面からぶつかっていくっていうエネルギーがあり、それは他の舞台に比べてつかさんの作品に強く感じたところでした。言葉の持つエネルギーにも負けないくらい、若者らしい、爆発的なエネルギーを稽古場で共演者の皆さんと構築していけたらいいなと思います。今は膨大なセリフ量に緊張していますが(笑)、皆さんと稽古で作り上げることを楽しみにしています」
―――神林美智子という人物をどのように演じたいと考えていますか?
「まだ稽古前なので分からないところも多いですし、現時点ではまだ自分も勉強不足、準備不足で、全体像をしっかりととらえられていないと思いますが……。田谷野さんさんからは『とにかくセリフをつっかえることなく話すことが大事』だというお話を聞いています。『つっかえてしまうと、つかさんの持っている脚本のエネルギーがそこで止まってしまうから、まずは、流れを止めないことが大切だ』とおっしゃっていたので、それは意識していきたいと思います。
神林美智子も今は自分で決めつけずに、稽古場で皆さんとディスカッションをする中で探していき、どんどん自分と神林美智子を近づけていけたらと考えています。
神林美智子には、樺美智子というモデルになった方がいらっしゃるそうなので、今は彼女のことを深く調べています。調べていくと、生い立ちや学生運動に参加したきっかけなどが、物語の中で描かれている神林美智子とは真逆なんですよ。なので、そうしたバックボーンを参考にするというよりは、思想や考え方、神林美智子が委員長になってからの思いといったところに役立つのではないかと思います。
神林美智子はただ流されて運動に参加したわけではなく、そこには理由があって、委員長としての思想もきちんと持っていたと思うので、つかさんが脚本上では書かれていない彼女の学生運動への思いも自分の中で調べて構築していけたらと思っています」

―――役作りのための準備もすでに始めているのですね。
「私自身が勉強不足ということもあると多いますが、学生時代の授業では、あまり学生運動を深く取り扱っていなかったように記憶しています。なんとなく『学生たちが過激なデモを行なっていた』という認識だったので、私にとっては初めての情報も多かったんです。いろいろと調べていくと、社会に出る前の、まだまだ未知なことが多い学生だからこそ、『この国、日本を、世界を良くしたい』というエネルギーがあって、未来への希望を持っていたり、変化させていきたいという思いが強かったのかなと感じました。彼らの選択が正しかったのかどうかは分かりませんが、学生たちがそうやって日本の問題や世界の戦争について熱く抗議したことは私と同じ世代の人たちにも知って欲しいです」
―――こうして上演を続けることで、これまで『飛龍伝』に触れたことがない人や若い人たちも目にするきっかけになると思いますが、この作品を通してどんなことを伝えたいと考えていますか?
「この作品では、闘争だけでなく恋愛も描かれています。神林美智子たちが恋をしながらも暴力を選択してしまったことについて何かを感じてもらえたらと思います。ただ、自分たちも、学生時代には自分の夢や変えていきたいことを熱く語り合うことがあったと思うんです。闘争という過激なことはしなくても、その心境には似たような熱量があったと思うので、この作品をご覧になって、その時の状況や感情を思い出していただけたらいいなと思います」
―――学生運動が良いか悪いかは置いておいて、彼らの持つ若者たちの熱量という点では共感できるということですね。
「そうです、共感できます。だからこそ、脚本を読んだときの文字から伝わる熱さや、爆発的なエネルギーを、同世代や私よりも若い世代の人たちにも感じてもらえたらいいなと思います」
―――こぐれさんの演出を受けるのは今回が初めてだそうですね。
「演出を受けるのは初めてなのですが、実は以前にこぐれさんからボイトレのレッスンを受けたことがあるんです。私にとっては先生でもあるので、そういう意味でも安心感があります」
―――そうだったんですね。お稽古が楽しみですね。
「大変になるだろうと思いますし、追い込まれることも多いのではないかと思いますが、私は『つらい、つらい』と言いながら楽しんでできるタイプなので(笑)、楽しんで稽古に向かいたいと思います」

―――ところで、昨年末の『スイートホーム ビターホーム』から始まり、本作、そして7月の『成瀬は天下を取りにいく』と舞台出演が続いています。改めて今、舞台でのお芝居の魅力、舞台に立つことの楽しさはどんなところに感じていますか?
「いろいろな方がすでにおっしゃっていると思いますが、お客さんがいて、その場で生で、ダイレクトにリアクションをいただけるというのは、映像ではできない経験ですし、舞台ならではで、そこが好きなところです。稽古でトライアンドエラーできる時間も好きなので、自分にとってはしっかりと稽古時間が取れるということも魅力です。
『スイートホーム ビターホーム』は、お仕事コメディでしたが、実は私にとって初めてのコメディ作品だったんですよ。コメディってやっぱり難しいですね。人を笑わせるというのは、一番技術がいることだと思うので、正直なところ、幕が開くのが怖いという思いもあったのですが、大阪松竹座で初日を迎えたら、お客さんがたくさん笑ってくださったので、すごく楽しかったです。それに、会場によって笑う場面が違うというのも面白かったです。大阪では『ここが笑いどころです』という分かりやすい場面やツッコミで笑ってくださる方が多いのですが、東京ではボケで笑ってくださる方が多くて。地域によってお客さんのリアクションに差があって面白いなと思いました」
―――最後に、本作に向けての意気込みと読者にメッセージをお願いします。
「『飛龍伝』で神林美智子を演じるということが発表されたときに、本当にたくさんの方から応援のメッセージをいただきました。改めてつかさんの作品、そして『飛龍伝』という作品が多くの方に愛されているのだということを肌で感じました。私もこの作品を愛していきたいですし、1ZAの皆さんと一緒に多くの方に愛される作品を作り上げていきたいと思います。ぜひ劇場にいらしてください」
(取材・文&撮影:嶋田真己)

プロフィール

藤野涼子(ふじの・りょうこ)
2000年2月2日生まれ、神奈川県出身。映画『ソロモンの偽証』にてデビュー。主な出演作にNHK 連続テレビ小説『ひよっこ』、NHK 大河ドラマ『青天を衝け』、2026年5月8日公開映画『幕末ヒポクラテスたち』、舞台『ロミオとジュリエット』、2026年7月上演『成瀬は天下を取りに行く』など。
公演情報
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1ZA 第15回公演『飛龍伝』
日:2026年3月31日(火)~4月5日(日)
場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
料:S席[最前列]10,000円 一般8,000円
U-25[25歳以下]5,000円
※要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://ichiza.jp
問:1ZA
mail:tayanoryo1za@gmail.com
