青年団の俳優、佐藤滋が立ち上げた「滋企画」。2023年3月に『K2』をこまばアゴラ劇場で、24年1月に『OTHELLO』を同劇場で、25年3月に『ガラスの動物園』をすみだパークシアター倉で上演し、特に第3回公演『ガラスの動物園』は読売演劇大賞にノミネートされるほど、今勢いがある。
そんな中迎える第4回公演は、糸井幸之介が作・演出・音楽を務める『ミッキーアイランド』。滋企画の立ち上げの経緯や、次回公演について、主宰の佐藤滋と、第1回公演から制作を担う河野遥に話を聞いた。
―――最初に、滋企画を立ち上げた経緯を教えてください。
佐藤「話すと長いんですが……もともと山の芝居をやってみたいなというところから、『K2』(パトリック・メイヤーズ作)という作品の台本をなんとか手に入れて、しかもこまばアゴラ劇場でどうしてもやりたいと思って、思い切ってアゴラに申請してみたら企画が通ったんですよ。それで団体名が必要となって、慌てて『滋企画』と名付けました。
僕は22歳で芝居を始めたんですが、最初は文学座の研究生だったんですね。そのときに配られた戯曲の1つに『ガラスの動物園』(テネシー・ウィリアムズ作)があって、それがずっと好きで、30年近く手元に置いてあったんです。それで、『K2』の申請が通ったときに『あ、もしかしたら『ガラスの動物園』もできるのかも』と思って。
自分が俳優として待っていても『ガラスの動物園』にキャスティングされることは一生ないかもしれない。なら、自分でやってみようと思ったんです。ただ、なかなか上演権が取れなくて、第2回公演には間に合わず。同い年のニシサトシという演出家に久々再会して、声をかけて、シェイクスピアの『OTHELLO』をやることになり、そうこうしているうちに『ガラスの動物園』の上演権が取れて、第3回公演で上演することになって……」
―――すごい。紆余曲折はありながらも、いろいろなことが同時並行で進んでいったんですね。
佐藤「はい。この話題だけで、僕、1時間ぐらいかけて喋れます(笑)」
―――「大好きな仲間と、やりたいことを、やりたいようにやる」というキャッチコピーを掲げられていますね。これが滋企画のコンセプトなのでしょうか?
佐藤「はい。僕は、参加してくれるキャストや演出家以外のスタッフ全員にもスポットが当たったらいいなと常々思っているんです。
大変なことをやるから、相当な負荷がかかるし、あまり大きな声では言えないけれど、そんなに潤沢なギャラをお支払いできるわけでもない。だからこそ、せめて一人ひとりに『挑戦しがいがある』とか『楽しい』とか思ってもらえたらと思っているんです。
余談ですけど、チラシの名前のフォントの大きさがみんな一緒なんですよ。大きな商業演劇だと、主演や演出の名前が大きく書かれてあって、主演以外のキャストやスタッフの名前などは小さかったり、書かれていなかったりするじゃないですか。僕としては、それぞれ役割はあっても、みんな同じ立場だと思うので、第1回公演から、同じフォントサイズを使っているんです」
―――佐藤さんと河野さんの出会いはいつなんですか?
佐藤「こまばアゴラ演出家コンクールという、若手演出家のコンクールに、ヌトミックの額田大志さんが出られていて、僕は俳優として参加していて、1日半一緒にいただけだったんですけど、もう本当に大好きになってしまって。『ガラスの動物園』の演出を誰かにお願いするなら、額田さんがいいな、なんて思っていたんです。それが河野さんが所属するヌトミックとの出会いですが……河野さんとの出会いはそれから3年後のやしゃごの公演で、僕が俳優、河野さんが制作でご一緒したのが初めてだったと思います。そのときに本当に信用できる制作さんだと思ったので、滋企画の立ち上げのときに声をかけさせてもらったんですが、よく引き受けていただけたなと思っています(笑)」
河野「とんでもないです。滋企画の第1回公演では、そのやしゃごの伊藤毅さんに海外戯曲を演出してもらうと聞いてまず驚きました。『K2』は個人的な印象として、男性的な表現の多い“マッチョ”な作品というイメージだったので、伊藤さんのやしゃごでの表現とは対極のものだと思い、どうなるか未知すぎて。スタッフも、青年団の数ある名作に携わってきた方々の名前が挙がっていたので、そこに混ぜてもらう畏れ多さもありながら、作品へ参加したい気持ちが勝って、二つ返事で引き受けました」
―――そうなんですね。ここまでの公演で滋企画の制作を続けてやられていますが、何か思い出や印象があれば教えてください。
河野「いろいろ思い出はありますが、思い返してみると、滋企画の現場はスタッフも俳優も活き活きしている姿が印象的です。演出家や滋さんのイメージを具現化していくなかで、みんなで頭を抱えてディスカッションする時間も、なんだか楽しそうなんですよね。あるスタッフさんが初めて稽古を見に来てくださった日に、その日はほとんど話し合いだったにも関わらず、『これは面白くなる』と言い残して帰っていかれたエピソードなんかもあったりして。
座組も毎回変わるので、そのとき1回限りの座組ではあるんですけど、作品を良くしようという思いをみんなが持って進んでいく。どの作品も全力を尽くすのはプロとして当たり前ですが、文字通り“一丸”となって創作に励む滋企画に参加していると、演劇の原点に戻される感じがするんです。滋さんの熱い想いに引き寄せられる部分は多いにあると思います」
佐藤「嬉しいなぁ。第1回公演の『K2』は、山の男の2人芝居で、今まで日本で上演されてきた劇場はサンシャイン劇場、本多劇場、世田谷パブリックシアターの3つだけなんです。山の傾斜をリアルに作りこんでいくので、大きな劇場でしかできないんですけど、劇場が大きいと、客席との距離が遠いじゃないですか。だからね、もっと近くでやりたいと思って。
僕自身に方法は思い浮かばなかったんですが、僕の周りには素晴らしいスタッフの人がいっぱいいて、その人たちの力を借りたら、何かできるんじゃないかなと思って、動き出したんです。そうしたら、『どうする?』『やってみようか!』と言ってくれる人たちが集まってくれて。特に舞台美術は何度も何度も話し合って、ずっと頭を抱え続けていたんです。
本当に大変だったんですけど、みんなのお陰で公演ができましたし、舞台美術の鈴木健介さんが本番後のバラシ作業のときに『大変だったけど、楽しい旅だったよ』と言ってくれたのが、本当に嬉しくて。ああ、これが僕がプロデューサーとしてやりたかったことなのかなと思ったんですよね。
つまり『滋企画のために仕事をしてくれている』と思うことは、僕はすごくおこがましいと思っていて。それぞれのスタッフの皆さんが、自分の演劇のために全力を尽くしているだけなんですよ。僕は旗を立てて集合場所は決めるけれど、そこに集まってくれた皆さんがそれぞれ自分の演劇のために、全力を尽くしている。そんな人たちが身近にいてくれて、僕は幸せだなとつくづく思います。
―――そういったリスペクトがあって、ここまで走ってこられたのだと思います。さて、第4回公演についても教えてください。『ミッキーアイランド』(糸井幸之介作)を選んだのは?
佐藤「3回やったら何か見えるかなと思ったので、もともと滋企画は3回は絶対にやろうと決めていたんです。そんな中で念願の『ガラスの動物園』の上演が決まったときに、間を空けたら、もう僕は何もやらなくなってしまうと思って、次の企画を考え始めて……。
そんな時に、第2回公演に出演してくれた永井茉梨奈さんのことを思い出したんです。僕は彼女のことを俳優としてとても尊敬していて……ぜひまた一緒にやりたい、と思っていたのです。
それで、『まだなんにも決まっていないけど、滋企画第4回に出てください』とお願いしました。そして、戯曲は思いつかないけれど、一緒にやりたい人はいる、と思いました。
僕は、ずっと糸井さんの作品のファンでした。FUKAIPRODUCE羽衣(2024年に解散)、ぐうたららばい、木下歌舞伎。糸井作品に、僕はずっと憧れ続けていて、出演することが目標でした。永井茉梨奈さんも過去に糸井さんの作品に出演していたこともあって……ぜひ糸井さんにお願いできたら、と思って、思い切ってお声がけしました。だから、引き受けていただいた時は、めちゃくちゃうれしかったです。夢が叶いました。今でもずっと、稽古場で、夢が叶っています。
集まってくださったキャストの皆さん、岡本陽介さんは元羽衣の劇団員ですし、木村友哉さんは糸井さんの教え子ですし、青年団の井上みなみさんは10代の時に糸井さんと2人芝居をやっています。蓋を開けたら、僕だけが初めましてでした(笑)」
―――そうなんですね。どんな作品が作られていくのか、期待感が高まります。今後、滋企画として目指すところなどを最後に教えてください。
佐藤「第1回からずっと参加してくださっているのは、制作の河野さん、そして宣伝美術の西泰宏さんなのですが、企画の度に毎回毎回皆さんにお声がけさせていただいています。まずは、参加してくださった方々がまた参加したいなと思える団体でありたいですね。
今回は第4回公演ですが、第5回、第6回と企画が動き出している状態です。僕が何をやりたいかということに、いつまでも正直にいるべきだなと思っていて。それがやらなくちゃいけないからやるとなったら、そっと辞めようかなと思っているぐらい。この先自分があと何本お芝居できるか分からないですけど、きっとこの先も演劇はしぶとく残っていくと思うので、少しでも歩きやすい道を作る、ほんのちょっとだけでも何か残していけたらなと思っています。
面白い芝居を作って、いっぱい見てもらって、それを見た人が『お芝居いいな』『やってみたいな』と思ったりすれば、演劇は続いていくので。そんな風になったらいいですよね」
河野「滋さんは長い演劇のキャリアをお持ちなのに、とても腰が低いんです。これだけのキャリアの方が、当時まだ制作を始めて3、4年ほどの私に声をかけてくださったことが嬉しかったですし、プロフェッショナルの方々とご一緒できる機会をいただけて、この数年間で私自身も成長させていただいたなと思っています。
制作って、プロデュースや企画といった“ゼロイチ”が得意な方もいますが、私自身は誰かのやりたいことやすでにあるアイデアを公演の形にしていく、誰かの“イチ”を何倍にもしていく仕事にやりがいを感じてきたので、こうして1、2年先が楽しみになるような企画をいただける限りは、ぜひ一緒にやっていけたら嬉しいなと思っています。
そしてお客様からも、『滋さんがまた何か面白そうなことをやっているぞ』と。毎回異なることをやっているけど、まだ見ぬ面白い演劇に出会える場所として、滋企画は期待され続けていってほしいなと思います」
(取材・文&撮影:五月女菜穂)
プロフィール
佐藤 滋(さとう・しげる)
1974年生まれ、新潟県出身。文学座附属演劇研究所卒業後、劇団KAKUTAに11年在籍。退団後、こまばアゴラ演劇学校無隣館第一期を経て、現在は青年団に所属。2023年、自身の企画である「滋企画」を立ち上げる。
河野 遥(かわの・はるか)
1996年生まれ、埼玉県出身。国立音楽大学音楽文化教育学科音楽情報専修卒業。在学時より演劇カンパニー ヌトミックに加入し、劇団運営と公演制作を務める。またフリーランスの制作者として、小・中劇場規模の公演や演劇祭の制作、団体運営などを担う。
公演情報
第4回滋企画 『ミッキーアイランド』
日:2026年3月9日(月)~22日(日)
場:アトリエ春風舎
料:一般4,000円
前半割引[3/9~11]3,000円
U-30[30歳以下]2,000円
U-18[18歳以下]1,000円
※U-30・U-18は要身分証明書提示
(全席自由・税込)
HP:https://shigeru-kikaku.com
問:滋企画
mail:shigerukikaku@gmial.com