
吉本興業とオフィスPSCが「餅は餅屋」を合言葉に、それぞれの得意分野を活かして俳優を育成する「モチモチプロジェクト」を立ち上げた。今回、第1弾公演として『PROPS!』が、オフィスPSCの劇作家 保坂萌の脚本・演出で上演される。保坂と、キャストの九条ジョー・高野渚に、本作への思いを聞いた。
―――まずは保坂さんに伺います。舞台『PROPS!』は、吉本興業×オフィスPSCによる「モチモチプロジェクト」の初公演となりますが、あらためて「モチモチプロジェクト」のコンセプトと、本作立ち上げのきっかけを教えてください。
保坂「『モチモチプロジェクト』は、吉本の俳優部のみなさんと、PSCの演出家や劇作家が一緒に成長していこうというのがコンセプトです。プロジェクト名に関しては、『餅は餅屋』ということわざから当社の会長が付けました。
これまで、吉本の俳優部のみなさんと何回かワークショップをおこなっていたのですが、1度、この面子で作品をやりましょうということで立ち上げたのが本作です。ただ、内々になりすぎないように外部の方にも参加していただき、外に向けての大きな公演にしようと。ストーリーに関しては、3年前に芸人さんのお話は書いたことがあったんです。じゃあ今度は、彼らを支えているマネージャーのみなさんを描いてみたいなと」
―――九条さんと高野さんは、ご自身の役どころを教えてください。
高野「私が演じる綾羅木は、人気芸人を担当していて、自分自身も表に出ていくような“出る系”のマネージャー役です。マネージャーさんて、自分が芸能活動をするうえで一番近い存在なのに、実は何も知らないことに気づいて。しかも、私は吉本の俳優班所属で、芸人さんのマネージャーさんにお会いする機会がないので、どんな生活をしているのかとか、何組の芸人さんを担当していらっしゃるのかとか、未知の世界なんですよ。何から役を作っていけばいいのかわからず、最初は不安でした」
九条「僕は神山というチーフマネージャーの役なんですが、現場マネージャーと違って、基本的には僕らがチーフマネージャーに会うことはないんですよ。ホントに裏ボスみたいな存在で。だから、倣っていくのが難しいんですけど。(吉本の)本社をいっぱい歩いて、偉そうな人を見つけたら尾行してみようかなと思っています」
―――保坂さんが、おふたりにそのような役を任せることになった経緯を教えてください。
保坂「神山さんのモデルになったチーフマネージャーというのが、ホントに主人公感のある方なんです。お話を伺ったときに、『芸人さん同士の間柄は、僕たちには絶対にわからないし、そこは踏み込んではいけない部分だから。もちろん話し合いはしますが、それでも辞めたいということであれば尊重します』とおっしゃっていて。芸人さんとの距離感がすごくつかめている方だなという印象を受けました。
あとは、いろいろな大御所の方を担当したことで、とても鍛えられたと。そういう芯の強さや主人公感というのは、出そうと思って出るものではないんですよね。そういう意味で、九条さんはピッタリですから。神山さんと、モデルとなったマネージャーさんを、いい感じに折衷できるんじゃないかなと思います」

九条「(ピースしながら)ありがとうございます」
保坂「渚ちゃんは、ムシラセの公演に出てもらったことがあるんですけど。そのときに感じたのが、ちょっとだけひどいこと言っても、あんまりひどく聞こえない人だなと。それって、才能だと思うんですよ」
九条「わかる、わかる! 同じことを僕が言ったら、紫色をした毒がそのままドカーン! と出てくるんですけど、渚ちゃんはポップに言えるタイプというか。毒づいていいタイプだと思います」
高野「えーっ、ホンマですか!?」
保坂「それでもきっと嫌われないし、逆に愛されるかもしれない。且つ、芯の食ったことをセリフとして書いても、ちゃんと言える人なんです。“出る系”ってリスクがあるし、賛否両論あるじゃないですか。それをちゃんと書いたうえで、信念を持って仕事をしているというところまで描ければいいなと思っているんですけど。そこはもう、渚ちゃんなら大丈夫だろうと」
―――また、保坂さんは本作の脚本執筆にあたり、九条さんにも取材をされて。ご自身のXに「芸人さんとしての生き方に、ただただ唸りました」とポストされていました。
保坂「私、知り合いのライターさんとかと、『お笑いって、言語的に日本で一番速いものだよね』という話をよくするんです。演劇も、コンテンツとしては速いと思うんですが、お笑い芸人さんたちがやっているのって、どれだけソリッドにするか、みたいなところですよね。削ぎながら速く出すって相反するものだし、ストレス値が高すぎて私にはできないなって。そういう意味で、九条さんとお話ししたときに、やっぱり求道者なんだなとすごく感じました」
九条「求道者!」
保坂「それと、芸人さんとしての九条さんは昔から認識していたんですけど、どういう方なのかわからなかったので、取材に伺うときにドキドキしていたんですよ。でも、人間的な部分をすごく見せてくださって」
九条「お話ししていたら、ちょっと脇腹を見せてもいい人かなと思ったんで」
保坂「やったー(笑)!」
九条「僕は閉塞的な人間なんですけど。自分のなかで審問をして、『この人は信頼しても大丈夫だ』となった方には、ちょっとずつ見せているという感じかもしれません。人から何か思われるのが怖いんですよね」

―――何か思われるというのは?
九条「ガッカリされるのも嫌だし、いいなと思われるのも、なんか嫌だし。九条ジョーというものを常に演じて生活しているので、本当の自分をなるべく悟られたくない、みたいな。保坂さんは、話しているときの波長が……ホントにフィーリングなんですけど、職業こそ違えど、作るものや考えていることに対して共感できる部分が多かったんですよね」
―――保坂さんから見て、このお2人の役者としての魅力は?
保坂「渚は、芝居が正直なんですよ。気分が乗らなかったら、乗らないままできる。もちろん最低限のラインは切るけど、無理にギアを入れなくてもいいと私は思っているので。たとえば劇場のサイズが大きくなると、芝居のアプローチも変わると思うんですけど、正直にやってほしいんです。舞台は嘘モノの世界ではあるけど、リアルなものじゃないとつまらないなって。(作品を)作っていて、つまらないなって思いたくないんです」
九条「すっごくいいこと言うてるよ。ぜひ、今の発言を赤字にしてください」
保坂「赤字だと、訂正されてるみたい(笑)」
―――太字のほうがいいですかね(笑)。
九条「太字でゴシック体がいいですね(笑)」
保坂「九条さんは、まだお芝居を一緒に作ったことがないので、これは予想なんですけど、芝居でなら意外に弱いところを見せてくれるんじゃないかなと。さっき九条さんがおっしゃったように、私も似ているなとめちゃくちゃ思ったんです。だから、私が本を書いて九条さんが演ってくださったら、『それは、こうじゃないと思う』という話し合いを、ケンカにならずにめっちゃできる気がしていて。今から楽しみです」
―――九条さんと高野さんは昨年、舞台『ハザカイキ』で共演されていますが、お互いの第一印象を教えてください。
九条「実は、大阪の『ミキBASE~』という番組で、渚ちゃんがアシスタントをしている頃から知っていて……あのとき、高校生やんな?」
高野「そうです。吉本に入ってすぐの頃で。芸人さんのなかに、いきなりポンと入ることになって、なかなか馴染めなかったので、九条さんがいっぱい絡んでくださってうれしかったです」
九条「芸人って、“この人は、イジって面白くなるかならないか”に敏感なんですよ。渚ちゃんはイジっていい人だったので」
高野「へー! ありがとうございます。あの番組での九条さんは、ホントに嵐のような。『ボケ何個持ってるんですか!?』というくらい面白いことをバンバンバンバン言って、めちゃめちゃ笑わせてもらったんですけど。去年、『ハザカイキ』でひさしぶりにお会いしたら、違う九条さんが見られたというか。たぶん、役者の九条さんと芸人の九条さんは違う人だと思うんですよね。実際はどうなんですか? たとえば、ネタを作っているときの九条さんと、役者の九条さんは一緒なんですか?」

九条「違うかも。僕、マトリョーシカみたいになっていて。パカパカパカって開けていって、お笑いのときの僕を出す、みたいな感じなので。そういう意味では、渚ちゃんは一番、僕の二面性を知っているかもですね」
―――最後に、『PROPS!』の上演を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
九条「じゃあ、“プロップス”のプ~!」
高野「おー!」
九条「全部いけるか!? 1回やってみるわ。え~、プリウスに乗ったような爽快感で! プロップスの……」
一同「ロ~!」
九条「ロマンスを追い求めているメンバーと!」
保坂「“ッ”は飛ばしましょうか(笑)」
九条「じゃあ、プロップスのプ~! また“プ”がきたー! え~、プリンを食べながら! プロップスのス~! 進んでいく!」
高野「おー!」
九条「そのくらい、みんなで楽しんでやっていきたいなということですね」
高野「なるほど! この作品は、芸人さんとマネージャーの奮闘の物語ですが、芸人さんに詳しくない方でも楽しめるお話を、保坂さんが書いてくださると思いますし。上演されるのは12月で、M-1(グランプリ)という大きな賞レースの直前なので。ぜひ、この作品を観ていただいて、その後の年末や年始のお笑いも楽しんでいただければと」
保坂「素晴らしい!」
(一同、拍手)
保坂「「“PROPS”には『支える』という意味があるのですが、『Props to you』になると『よくやった!』『おめでとー!』という称賛のスラングになるんです。観劇後に『Props to you!』と言ってもらえるようなお芝居にしますので、楽しみにしていてください」
(取材・文:林桃 撮影:友澤綾乃)


九条ジョーさん
「『ピンネタが面白い芸人ランキング』。
長年纏い続けていた漫才師というヴェールを破り捨て、今年1年間はピンネタを制作する事だけに照準を合わせてみた。
枯渇していく初期衝動に苦汁を塗して、本来やりたかった事を捻じ曲げながらも更に強くなっていくのを実感した。
暗闇を突き進めば突き進むほど、この先自分が何処へ向かっていくのか不安になっていたが、その道中でさえも不気味に笑いながら邁進していく自分が逞しく思えて少しだけ好きになれた。
『変わる事を恐れないで。明日の自分見失うだけ。』
そうAAAが歌っていました。(滝汗夢涙嬉笑)
来年の初春。答え合わせをしよう。きっと今までの自分では見れなかった景色が待っているはずだ。
ズィーヤ★」
高野 渚さん
「『寝顔ホラー選手権』ランキング100位。
どこでも寝られるのが特技。ただし、目が開いてるのでホラー寄り。みんなに『寝てる? 起きてる?』って何度も確認されるのが日常茶飯。起きたら喉より目がカラカラです!」
保坂 萌さん
「『劇作家スポーツ写真部門』なら上位ランカー狙えます。
現在も写真業を並行してやっているのですが、20代のころはスポーツカメラマンとして下積みをしていました。夏はインターハイでバスケ撮ったり、年始は春高バレー撮影したり……。演劇界で同じキャリアの方にはお会いしたことはまだないので、もしいらっしゃればランク争いとあるある話をしたいですね。『東京体育館の床座りで8時間、腰爆発しますよねー』とか!」
プロフィール

保坂 萌(ほさか・めぐみ)
兵庫県出身。2008年、演劇プロデュースユニット「ムシラセ」を旗揚げし、主宰として作・演出を手掛ける。近年の主な作・演出作品に、『つやつやのやつとファンファンファンファーレ』、『瞬きと閃光』、『眩く眩む』、『ナイトーシンジュク・トラップホール』など。『なんかの味』で「CoRich舞台芸術まつり!2025春」最多口コミ賞・演技賞を受賞。KADOKAWAグループ”GeeXPlus”製作アニメ第1弾 『baan-大人の彊界-』で初アニメ脚本も手掛け、活躍の場を広げている。

九条ジョー(くじょう・じょー)
お笑い芸人としての活動と並行して、ドラマ『ムショぼけ』、映画『ゾッキ』、舞台『ハザカイキ』などに出演。俳優としても高い評価を受けている。

高野 渚(たかの・なぎさ)
2019年、吉本興業主催「美笑女グランプリ」グランプリ受賞。俳優業を中心にバラエティにも出演するなど、活動の幅を広げている。主な出演作に、ドラマ『異世界居酒屋 のぶ』、『女子高生の無駄づかい』、『真夏の少年』、『正直不動産』シリーズ、舞台『幕が上がる』、『ハザカイキ』、『ナイトーシンジュク・トラップホール』など。
公演情報
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吉本興業×オフィスPSC 舞台『PROPS!』
日:2025年12月4日(木)~8日(月)
※他、大阪公演あり
場:吉祥寺シアター
料:推し応援チケット[特典付]10,000円
前売7,500円 当日7,800円(全席指定・税込)
HP:https://live.yoshimoto.co.jp
問:FANYチケット問合せダイヤル
tel.0570-550-100(10:00~19:00)
