
歴史を学べる「祭シリーズ」を上演してきた、る・ひまわりが新たに誕生させた歴史シリーズ「時をかけ・る」。待望の第2弾が10月30日から上演される。このシリーズは、歴史のヒーローたちの裏で消えていった“敗者”たちの物語を、オムニバス形式で上演。今回は「幕末維新」をテーマに、ストレートプレイやグランドミュージカル、2.5次元ミュージカル風、コメディなど、全演目ジャンル違いで贈る。
前作に引き続き出演する松田岳と、出演だけでなく演出も務める平野良に、初演の思い出やシリーズへの思いなどを聞いた。
―――第2弾となる今回の公演が決まったときのお気持ちを教えてください。
松田「もう一度やらせていただいていいんですか!?という思いでした。もちろん皆さまの声があってこその第2弾だと思いますので、ぜひまた立たせてくださいという感じでした」
平野「昨今ではオリジナル作品を上演することも大変なのに、シリーズで上演させていただけるということは本当にありがたいです。だからこそブラッシュアップしていかなければいけないなと思います。
『このシリーズって変わらずいいよね』と言っていただくためには、変わり続けていかないといけない。変わり続けているから『変わらずいい』と言っていただける。なので、『変わらずいい』を引き出すためにも、もっと先に進んでいかなければいけないなと思います」
―――初演を作り上げる上では苦労も多かったかと思いますが、具体的にはどんなところに難しさ、大変さがあったのでしょうか?
平野「僕は本編に出ておらず、演出をメインとしていたこともあり、稽古が始まる前の打ち合わせや方向性を決めるというところが大変でした。
稽古に入ってからは、キャスト5人が大変だったと思います。トライアスロンのように、全てやっていたので(笑)。それはもう凄まじかったと思います」

―――その凄まじい稽古を駆け抜けた松田さんは、初演での苦労、楽しさはどんなところにありましたか?
松田「苦労というよりは贅沢だなと思いながら、目の前の壁にぶち当たっていました。体力が足りない、脳みその糖分が足りないということはありましたが、そうした経験もこの『時をかけ・る』だからこそ、良さんの演出だからこそだと実感していたので、取りこぼさないようにしようと必死でした。
良さんが『諦めないで前に進んで』と稽古でおっしゃっていたんですが、良さんにも諦めるという思いをして欲しくないと僕たちキャスト全員が思っていたと思います。面白い試みで素敵な役割を与えていただいて、それに応えたいという思いが全員にあった稽古場でした。それがすごく居心地が良かったです」
―――ストレートプレイやミュージカルなど、初演もさまざまなジャンルの作品がオムニバス形式で綴られていましたが、松田さんはどのジャンルの物語が印象に残っていますか?
松田「どれも好きなのですが、真田信之のミュージカル『NOBUYUKI!!』は布を使った演出をしたのですごく印象に残っています。その演出がすごく美しかったのですが、とにかく難しかった。暗転中にスタンバイして、カウントして照明がついた瞬間にいい位置に布をあげないといけないんですよ。『この形じゃない』とか『あと何秒早ければもっとよかった』。みんなで『あの空調に邪魔されたかもしれない』とか、トライアンドエラーを何度も繰り返していくうちに気づくことがあって、みんなでどうしたらより良くなるのかを話すのも楽しかったです」

―――平野さんが演出面で特に力を入れたことや印象に残っているシーンは?
平野「作品の差別化をしようと音や照明、役者の演じ分けで作ろうと考えていましたが、きっと演出以外の面でそれを表現できることが多くて、僕はただ指針を表していただけたんだなということを痛感しました。照明も音響もプレーヤーで、みんなで作り上げた作品だと思っています」
―――今回は「幕末維新」をテーマにしているということですが、平野さんから今回の公演についてどのような作品になるのかご説明いただけますか?
平野「LOSER、つまり“敗者”と言われる6人の主人公にスポットを当てた、6本のオムニバスで明治の時代の始まりを描いていきます。ミュージカルがあったり、ストレートプレイがあったり、アクションがあったり、6本とも違う形態の演劇でお届けする、言ってしまえば“おせち”のような作品です」
―――今回、平野さんは演出だけでなく、本編にも出演されるそうですね。
平野「そうなんですよ。ほかのキャストたちと変わらないくらい出るんです……。今回ほどの量ではないですが、初演の後に上演したスピンオフ作品『羽州の狐』も僕は演出と出演をしたのですが、実は大変すぎてやめた演出もあったんです。演出家としていいと思う演出をしても、いざやってみたら演者としては『こんなものはできません』と(笑)。役者・平野が演出家・平野にキレるということがありました(笑)。今回は出演が多い分、そういうことが増えてみんな(ほかのキャストたち)からしたら、楽になるかもしれない(笑)」

松田「スピンオフ、やっておいてよかった(笑)」
―――今回の公演では、松田さんはエンタメ活劇『壬生の天狗』にメインキャストとして出演します。脚本を読んでどのように感じていますか?
松田「壬生浪士組(のちの新選組)局長の芹沢鴨を描いているので、暗殺のシーンは避けては通れないだろうなと思っていましたし、新選組の影の部分を描いているのではないかと思っていたのですが、すごく爽やかで、ドロドロしていなくて、暗殺された側も暗殺した側も何か美学的な、筋の通った気持ちよさを脚本から感じました。稽古はこれからなので、良さんの思い描いている物語の色合いはまだ分かりませんが、いただいたものを体現したいと今は思っています」
―――“敗者”を描いているからこそ切なさや虚しさなどが湧き上がってきて、楽しいだけでなくさまざまな感情になる作品ばかりだなと初演を観て感じたのですが、役者としては“敗者”を演じることの面白さはありますか?
平野「確かにお客さまのエモーショナルな感情は引き出しやすいですよね。ただ、“敗者”と言われていても、その結末は決してバッドエンドとは言えないと思います。人の人生の良し悪しを誰かが決められるものではなく、その人の人生はその人だけのものです。物語に出てくる人たちも、きっと『自分は不幸だ』と思って死んではいないと思うので」
松田「もちろん、演じる上でその人のことを教科書の内容程度には勉強しますが、僕も役を深めていく上では『敗者だからこうだ』という決めつけはしないようにしていますし、その人の行動や行動心理を探っていけたらと考えています。なので、結果をあまり気にすることなく、その時々の行動を意識して僕は演じているように思います」
―――なるほど、ありがとうございます。この『時をかけ・る』シリーズも年末に行われている「祭シリーズ」も歴史を学ぶとても良い機会になっていると思います。おふたりはそうしたシリーズに出演することで、歴史についての考えや楽しみ方が変わったところはありますか?
平野「元々は『戦国鍋TV』という緩く歴史が学べるバラエティから僕はスタートしたのですが、とっかかりとしてすごく面白いなと思っていました。その後、『祭シリーズ』が始まって、歴史を学ぶということも少しずつ浸透してきているように思います。
実は僕は明智光秀を演じる機会がすごく多いんですよ。いろいろな作品で5~6回くらい演じていますが、毎回、違った角度から見た人物像になっていました。明智光秀というと裏切り者というイメージが強いですが、本当にそうだったのだろうか。実はそうは言えなかったのかもしれない。色々知るほどに、誰から見た物語なのか、ということでも変わっていくなと思いますし、勝った側の人間が歴史として残る物語を作っているということなんだろうなと思います。
あと僕は、歴史を学ぶことで、今をよりよく生きるためのヒントにもなるといいなぁと思います。このシリーズや祭シリーズもそうですが、娯楽として面白い作品にする要素として、時代劇といいつつ現代っぽいセリフや現代に置き換えたことが出てくるから、どこかで、現代(いま)に勝手に反映させてみれてしまうこともあって。それで、お客様が、例えば今の政治に興味を持ったり、自分の人生と向き合うきっかけになったりしたら、それは役者をやっている意義だと思うしいいなと考えています。だからゆくゆくはこの時代劇を通して選挙の投票率を上げられたら嬉しいです(笑)」
松田「僕も学生時代は社会とか歴史はちんぷんかんぷんでしたが、演劇を通して歴史の面白さを理解できましたし、なんで先生があれほど熱意を持って伝えようとしていたのかが分かるようになりました。過去の人たちの人生と地続きの中に自分の命が芽生えることの奇跡を、明確に感じることができるのが歴史だと思います。星を見たり、宇宙を感じたりするのと同様に、歴史には壮大さを感じます。
なので、自分が歴史上の人物を演じるときは、歴史の中にお邪魔させていただくような心持ちでいるので、少し背筋が伸びるんですよ。歴史の中には、きっとお客さまが共感できるものもたくさんあるので、同じ空間で一緒に感じていただけたら嬉しいです」

―――ところで、これまでも数々共演されてきて、お互いによく知った間柄だと思いますが、初対面の時と印象が変わったところはありますか?
平野「初対面っていつだっけ? 『麒麟』(2019年末に上演した『明治座の変 麒麟にの・る』)かな?」
松田「そうですね。良さんがリンゴを齧っていて、それを若手たちも真似して写真撮ったりしていましたね(笑)」
平野「そうだったっけ(笑)? 『麒麟』は久々にシリーズに戻ってきた1発目で、初めて安西慎太郎と共演して、2人で主演をしたので、余裕がなくてあまり覚えてないんです」
松田「良さんは怖いくらいカッコ良かったです(笑)」
―――その時と印象は変わりましたか?
松田「お芝居もそうですし、お歌もそうですし、存在感もそうですが、自分よりも大きく、偉大な存在として常にいるのは今も変わらないですが、(本作の)初演で演出をつけていただいて、良さんが考えていることや思考の一部に触れたことで、改めて良さんのすごさを感じました」
―――平野さんから見た松田さんはいかがですか?
平野「『祭シリーズ』は第2部でどれだけはっちゃけられるかというところがあるのですが、その部分で(松田は)突き抜けていて。最初はそこにフォーカスが当たっていましたが、いろいろな作品で共演していくと、お芝居を作る第1部でも岳しか持っていないものを強く感じるようになりました。ほかの人が言うと浮世離れしてしまうようなセリフも、岳が言うとそうならないんですよ。それはきっと岳の今までの人生があるからこそなのだと思います。
あと、人に対しての距離感やどう接するかも含めて、思慮深く、怖がりでもあるという印象が今はあります。車の運転が穏やかそうですよね。ウインカーを出して、3回はカチカチしないと移動を始めない(笑)。そんなイメージです」
―――最後に本作の公演を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
松田「タイムスリップを楽しめる演劇体験になると思います。この芝居の時間が永遠に続くと感じていただけたら嬉しいですし、そうなるように頑張りますので、ぜひ楽しみにしていてください」
平野「フードコートのような演劇となっておりますので、いろいろな味を選ぶことができます。登場するキャラクターと自分を重ね合わせて思うこともきっとあると思いますし、シンプルに楽しいだけで終わる作品にもなります。光の当て方によって変わる多面的な演劇だと思うので、気軽に遊びに来ていただけたら嬉しいです」
(取材・文:嶋田真己 撮影:平賀正明)


平野 良さん
「私の推しは『焼き魚』です。年々、好んで食べるものが変化していくと言いますが、肉より魚になる日が私にも訪れるとは思っていませんでした。もちろんお肉も食べますが、お弁当などでハンバーグか魚かの2択の時、脊髄反射でハンバーグを選択していたはずなのに、ここ最近は気づけば魚を手に取っている。健康的という情報も手伝ってなのか体が魚を求める頻度が上がっている気がする。自宅でもめんどくさくて避けていたはずなのに、焼き魚を作って食べています」
松田 岳さん
「霜降り明星のせいやさんが推しです。朝の支度やおやすみ前などでよく『霜降り明星のオールナイトニッポン』や『霜降りチューブ』、『霜降り明星せいやのイニミニチャンネル』を聞いています。特にお気に入りの回などは何度も繰り返し聞いて、何度聞いても笑ってしまいます。せいやさんが単独でのラジオの放送回で話されていた、新幹線の座席の下にiPhone落としてしまった話はお腹ちぎれるかと思うくらい笑わせて頂きました。いつかお仕事でご一緒出来ないか夢みている松田岳です」
プロフィール

平野 良(ひらの・りょう)
1984年5月20日生まれ、神奈川県出身。中学生の頃から芸能事務所に入り、活動をスタート。ドラマ『3年B組金八先生』第5シリーズにて、映像作品デビュー。近年は脚本・演出も手掛けている。主な出演作に、ミュージカル『テニスの王子様』1stシーズン、『ハンサム落語』シリーズ、舞台『文豪とアルケミスト』シリーズ、ミュージカル『憂国のモリアーティ』シリーズなど。

松田 岳(まつだ・がく)
1992年11月20日生まれ、兵庫県出身。2012年、ミュージカル『忍たま乱太郎』潮江文次郎役で本格的に俳優デビュー。主な出演作に、『仮面ライダー鎧武/ ガイム』、ミュージカル『薄桜鬼』シリーズ、『あんさんぶるスターズ!THE STAGE』シリーズ、舞台『Collar×Malice』シリーズ、『文豪ストレイドッグス 共喰い』、『転生したらスライムだった件』、『地獄楽ー終の章ー』、『刀剣乱舞』心伝 つけたり奇譚の走馬灯など。
公演情報
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『時をかけ・る ~LOSER~2』
日:2025年10月30日(木)~11月4日(火)
場:品川プリンスホテル Club eX
料:11,000円(全席指定・税込)
※他、2階バルコニー席あり。詳細は下記HPにて
HP:https://toki-wo-kakeru.com
問:る・ひまわり
mail:tokiru_info@le-himawari.co.jp